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「なんの用だ」

「おに、い、さま?」

「せっかくいい雰囲気のところをぶち壊されて迷惑だ。サーラがかわいく溶けてきたのに…」

そう言うと、夫は私の胸元に口づけジュッ、と吸い上げた。その刺激にカラダが揺れる私をギュ、と抱き締める。

「サーラ、ごめん。怒らないでくれ、頼むから。…していいだろ?いいって言ってくれ、サーラ、愛してるよ」

耳元で囁かれ、背中がゾクゾクする。初めて感じる感覚に戸惑う私の胸元に、また夫は唇を落とした。

「…急用か?」

いきなり声が冷たくなり、驚いて顔を見上げると、夫の目は鋭く細められていた。

「う、うん、あの、」

ブリジットの声が途切れると、

「ここはもう、おまえの家じゃないんだ。おまえはカールに嫁いだ。俺は、サーラに嫉妬させたくておまえを優先してきたが、まったく嫉妬してもらえないどころか、距離感がおかしいと呆れられ捨てられるところだった。俺はおまえを女だと思ってない。常識のない小猿くらいにしか見えないからな。まったくなんの感情もないから利用できたんだが、こんなにも意味のないことだったとは…。
サーラに許しを乞うて、ようやくようやくこうなれたのになんの権利があって邪魔するんだ」

と、吐き捨てるように言った。

「でも、私のこと可愛い、って、」

「可愛いだろう。小猿なんだから」

「キレイだ、って、」

「キレイだろう。昔とは比べようもないくらい、いい服を着てるんだから」

「…服?」

「カールのところに戻れ」

ドアを閉めようとした夫の手を、ブリジットが慌てたように掴んだ。

「触るな!俺はさっき言っただろう、サーラの前で俺に触れるな!」

ビリビリ響くような大声に呆気に取られる。そんなにいきなり怒鳴らなくてもいいのでは。

「カールに、私と結婚できて羨ましい、って言ったんでしょ!?私、知ってるんだから!」

「羨ましいだろう、簡単に手に入る女なんだから」

「…は?」

「俺のサーラも簡単に俺に堕ちてきてくれればいいのに、まったく意図が通じなくて落ち込んでいたからだ。カールも知ってるはずだぞ、俺がどうやったらサーラともっと仲良くなれるか相談した上での言葉だからな」

チラリと視線を向けると、ブリジットは呆然と立ち尽くしていた。

「おまえは俺とカールと二人に言い寄られているように思っていたんだろうが、俺はまったく小猿には興味はないし、カールは我が家との繋がりのために、あとは俺との友情のために、おまえを娶ったんだ。それでも愛情を育ててくれてきたんだから感謝するべきだ。

あんな噂をたてられた原因を作ったのは俺だから、これから先はもう二度と誤解を招くような行動はしない。おまえも、カールの妻であると自覚を持って行動しろ。この前のようにカールが来れなければ夜会に来るな。浮気したい、引っかけて、と他の男にアピールしてるようなもんだ。だからあの日もああやってカールの代わりに牽制したのに、サーラは具合が悪くなるし、おまえの軽率な行動がみんなに影響するんだ。自覚しろ」

その時、「ブリジット!」とカールの声がすると、夫は扉を閉めてカギをかけた。

「カールにサーラは見せられない。もう邪魔するなよ。父上たちには、夕飯はご一緒すると伝えてくれ」

それだけ言うと、夫はそのまましばらくそこで立っていた。扉の前で話し声がしたあと、歩き去る足音が聞こえた。
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