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ベールの下のその顔は、
「…ローラ?」
「兄上、申し訳ありませんが彼女はもう僕の妻…この国の王子妃です。兄上は王族を除籍された身。ローラ妃、とお呼びください」
アレックスは彼女の細い腰を優しく引き寄せ、頬にキスを落とした。ローラはくすぐったそうに、そして、この上なく幸せそうに笑い、「アレク様」と控えめに呼んだ。
「ど、どういうことなんだ、彼女は死んだと、」
「ええ。ローラが命を絶とうとしたのは本当です。兄上、貴方とリンダ様のために、自らを犠牲にしようとしたのです。危ういところでしたが、なんとか間に合ったのですよ、彼女を救うのが。あなた方ふたりを添い遂げさせるため、彼女は死んだことにして身を引いたのです。リンダ様を正妃にするはずでしたが、兄上があまりに愚かな対応しかしないので父上が除籍に踏み切ったのです」
アレックスの言葉に呆然とする。
「僕は、僕はリンダを望んでなど…っ」
しかしローラは、ユアンを出産したあの日のように、言葉の通じない異国人と対しているように不思議そうにクビを傾げた。
「でも、リンダを愛していると仰いましたわ。婚約者はキミが良かったと」
その後、ホウッと頬を赤らめると、
「でも、わたくしもアレク…アレックス様に求めていただけて…。愛し、愛される存在と生涯を共にできるのがこんなにも幸せなことなのだと毎日感謝しております」
彼女の、あの愛情に満ち溢れた瞳が、アレックスを見つめる。雄を駆り立て、自尊心を満たすあの柔らかな瞳で。
「…ローラ?」
「兄上、申し訳ありませんが彼女はもう僕の妻…この国の王子妃です。兄上は王族を除籍された身。ローラ妃、とお呼びください」
アレックスは彼女の細い腰を優しく引き寄せ、頬にキスを落とした。ローラはくすぐったそうに、そして、この上なく幸せそうに笑い、「アレク様」と控えめに呼んだ。
「ど、どういうことなんだ、彼女は死んだと、」
「ええ。ローラが命を絶とうとしたのは本当です。兄上、貴方とリンダ様のために、自らを犠牲にしようとしたのです。危ういところでしたが、なんとか間に合ったのですよ、彼女を救うのが。あなた方ふたりを添い遂げさせるため、彼女は死んだことにして身を引いたのです。リンダ様を正妃にするはずでしたが、兄上があまりに愚かな対応しかしないので父上が除籍に踏み切ったのです」
アレックスの言葉に呆然とする。
「僕は、僕はリンダを望んでなど…っ」
しかしローラは、ユアンを出産したあの日のように、言葉の通じない異国人と対しているように不思議そうにクビを傾げた。
「でも、リンダを愛していると仰いましたわ。婚約者はキミが良かったと」
その後、ホウッと頬を赤らめると、
「でも、わたくしもアレク…アレックス様に求めていただけて…。愛し、愛される存在と生涯を共にできるのがこんなにも幸せなことなのだと毎日感謝しております」
彼女の、あの愛情に満ち溢れた瞳が、アレックスを見つめる。雄を駆り立て、自尊心を満たすあの柔らかな瞳で。
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