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王家~ハルストーン家
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「い、や、その、…明日、改めて皆で卒業を祝いたいとミーナが言うから」
「結構です。ぜひ皆様で…僕は、4月に仕事が始まるまでは一日中ヴァイオレットと過ごしたいので遠慮いたします。…もうよろしいでしょうか?」
ヴァイオレット嬢を気遣いながら立ち上がらせると、クリスフォードは「先に部屋に行っておいで」と彼女の額に口づけた。顔を真っ赤に染めたヴァイオレット嬢が出て行くと、オブライアン公爵が入ってきた。
「殿下、御挨拶が遅れました。明日より仕事に復帰いたします。それより、お早くお帰りになったほうがよろしいかと…陛下がお待ちと伺っております」
言葉は慇懃だが有無を言わせないオブライアン公爵の迫力に、なぜか背中がゾワリとする。
「あ、ああ、わかった、…突然来てすまなかった」
そのまま見送ると、流れるように玄関まで誘導され、扉を出たところで、後ろからオブライアン公爵の声がした。
「殿下、お陰さまでレインハルトに良き婚約者が決まりました。御礼申し上げます」
なんのことかわからず振り返ると、頭を下げるオブライアン公爵の姿が見え、扉が閉まった。
馬車の中で公爵家でのやり取りを振り返る。クリスフォードは、ミーナにまったく恋情がなかった…?ならばどうして、ヴァイオレット嬢を犯すような真似をした?しかも結婚したなんて…でもヴァイオレット嬢もクリスフォードも、心から幸せそうな顔をしていた。そして、レインハルト…クリスフォードの弟の婚約者が決まったことが、俺に何の関係がある?父から薦められたから、俺に礼を言ったのだろうか。
よくわからないまま王宮に着くと、
「陛下、王妃陛下がお待ちです」
と引き立てるように連れて行かれる。報告する気でいるのに、急かされているようでイライラしながら部屋に入ると、父、母、そして弟のギルバートがいた。卒業を祝うような温かな雰囲気はまったくなく、むしろ3人の視線は冷たさを感じさせるものだった。
「…ただいま戻りました」
思わずゴクリと喉が鳴る。…いったい、なんなんだ…?
しばらくの沈黙の後、父が徐に口を開いた。
「ルーサー、おまえは今日王太子から外す。ギルバートがこれからは王太子だ。おまえはギルバートの補佐官として励むように」
「…は?」
王太子を、外す…?
「そんな横暴な、俺に一言もなく、」
「おまえも俺に一言もなく、俺が決めた婚約を破棄した上に婚約者をあろうことか娼婦にしようとしたではないか。おまえは横暴ではないのか?外道が。貴様は人ではない」
淡々と告げているが、父のカラダからは言い知れぬ怒りのオーラが立ち昇っている。
「し、しかし、父上、あの毒婦は…っ」
「毒婦とは、件の男爵令嬢のことを言っているの?」
母の声が酷く冷たいことが気になるが、ミーナが毒婦、と言われたことに我慢ならず、
「毒婦はアデレイドです!アデレイドは権力を嵩にきて、」
「おまえは権力を嵩にきて、アデレイドに暴力を振るっていたわね。躾をするなら見えないところを狙えなどという女が、毒婦ではないと言うの?」
「そ、それは、アデレイドがミーナを苛めていたせいです!ミーナは何も悪くない!」
母はバカにしたような目でこちらを見ると、
「苛めていたとは、具体的に何をしたのかしら」
と嗤った。
「あの毒婦どもは、」
「兄上」
突然ギルバートに呼ばれビクリとカラダが揺れる。
「まさかその毒婦ども、とは、僕の大事なクローディアも入っているのですか」
…僕の大事なクローディア?
「おまえが言うクローディアとは、まさか、クローディア・リード伯爵令嬢ではないよな?」
「そのクローディアです。彼女は今日から僕の正式な婚約者だ。気安く名前で呼んだりするな」
「…はっ、バカらしい。あの女は流浪の剣舞踊団に売られたんだ。今頃凌辱の真っ最中だろうよ」
俺の言葉に、父がドンッと机を叩いた。
「貴様はそういう集団だと知りながら、王太子という民を守るべき立場にありながら、その罪人どもを見逃すつもりだったのだな。女性を誘拐し、無理矢理犯し、金を取って客をとらせる集団だと知っていたのだな?」
「そ、そんなの、みんなが、」
「ああ。何食わぬ顔で我が国にまで入り込んで来やがったから、しっかり内偵した上で全員捕縛した。斬首済みだ」
「…は?」
じゃあ、あの時クローディアを連れて行ったのは誰だと言うんだ、間違いなく袋に詰められたじゃないか!
「クローディアを連れ出したのは僕とマクレガーだよ。ちなみに、捕縛にも参加した。兄上たちがあの女と仲良くしている間にね。クローディアをあんな目に遭わせようとしたなんて…これからは僕がクローディアを守る。絶対に傷つけさせない」
怒りでだろうか、拳を震わせるギルバートの肩を、母がそっと慰めるように触れた。
「貴方はずっと、剣の姉弟子だったクローディアを慕っていたからねぇ…。思慕は封印するはずだったのに、メイナードに暴力を受けているクローディアを見ていたら我慢する必要性を感じられなくなったのよね。好きな女を守るために、ギルバートは王太子の座につくことを決めたのよ」
「結構です。ぜひ皆様で…僕は、4月に仕事が始まるまでは一日中ヴァイオレットと過ごしたいので遠慮いたします。…もうよろしいでしょうか?」
ヴァイオレット嬢を気遣いながら立ち上がらせると、クリスフォードは「先に部屋に行っておいで」と彼女の額に口づけた。顔を真っ赤に染めたヴァイオレット嬢が出て行くと、オブライアン公爵が入ってきた。
「殿下、御挨拶が遅れました。明日より仕事に復帰いたします。それより、お早くお帰りになったほうがよろしいかと…陛下がお待ちと伺っております」
言葉は慇懃だが有無を言わせないオブライアン公爵の迫力に、なぜか背中がゾワリとする。
「あ、ああ、わかった、…突然来てすまなかった」
そのまま見送ると、流れるように玄関まで誘導され、扉を出たところで、後ろからオブライアン公爵の声がした。
「殿下、お陰さまでレインハルトに良き婚約者が決まりました。御礼申し上げます」
なんのことかわからず振り返ると、頭を下げるオブライアン公爵の姿が見え、扉が閉まった。
馬車の中で公爵家でのやり取りを振り返る。クリスフォードは、ミーナにまったく恋情がなかった…?ならばどうして、ヴァイオレット嬢を犯すような真似をした?しかも結婚したなんて…でもヴァイオレット嬢もクリスフォードも、心から幸せそうな顔をしていた。そして、レインハルト…クリスフォードの弟の婚約者が決まったことが、俺に何の関係がある?父から薦められたから、俺に礼を言ったのだろうか。
よくわからないまま王宮に着くと、
「陛下、王妃陛下がお待ちです」
と引き立てるように連れて行かれる。報告する気でいるのに、急かされているようでイライラしながら部屋に入ると、父、母、そして弟のギルバートがいた。卒業を祝うような温かな雰囲気はまったくなく、むしろ3人の視線は冷たさを感じさせるものだった。
「…ただいま戻りました」
思わずゴクリと喉が鳴る。…いったい、なんなんだ…?
しばらくの沈黙の後、父が徐に口を開いた。
「ルーサー、おまえは今日王太子から外す。ギルバートがこれからは王太子だ。おまえはギルバートの補佐官として励むように」
「…は?」
王太子を、外す…?
「そんな横暴な、俺に一言もなく、」
「おまえも俺に一言もなく、俺が決めた婚約を破棄した上に婚約者をあろうことか娼婦にしようとしたではないか。おまえは横暴ではないのか?外道が。貴様は人ではない」
淡々と告げているが、父のカラダからは言い知れぬ怒りのオーラが立ち昇っている。
「し、しかし、父上、あの毒婦は…っ」
「毒婦とは、件の男爵令嬢のことを言っているの?」
母の声が酷く冷たいことが気になるが、ミーナが毒婦、と言われたことに我慢ならず、
「毒婦はアデレイドです!アデレイドは権力を嵩にきて、」
「おまえは権力を嵩にきて、アデレイドに暴力を振るっていたわね。躾をするなら見えないところを狙えなどという女が、毒婦ではないと言うの?」
「そ、それは、アデレイドがミーナを苛めていたせいです!ミーナは何も悪くない!」
母はバカにしたような目でこちらを見ると、
「苛めていたとは、具体的に何をしたのかしら」
と嗤った。
「あの毒婦どもは、」
「兄上」
突然ギルバートに呼ばれビクリとカラダが揺れる。
「まさかその毒婦ども、とは、僕の大事なクローディアも入っているのですか」
…僕の大事なクローディア?
「おまえが言うクローディアとは、まさか、クローディア・リード伯爵令嬢ではないよな?」
「そのクローディアです。彼女は今日から僕の正式な婚約者だ。気安く名前で呼んだりするな」
「…はっ、バカらしい。あの女は流浪の剣舞踊団に売られたんだ。今頃凌辱の真っ最中だろうよ」
俺の言葉に、父がドンッと机を叩いた。
「貴様はそういう集団だと知りながら、王太子という民を守るべき立場にありながら、その罪人どもを見逃すつもりだったのだな。女性を誘拐し、無理矢理犯し、金を取って客をとらせる集団だと知っていたのだな?」
「そ、そんなの、みんなが、」
「ああ。何食わぬ顔で我が国にまで入り込んで来やがったから、しっかり内偵した上で全員捕縛した。斬首済みだ」
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じゃあ、あの時クローディアを連れて行ったのは誰だと言うんだ、間違いなく袋に詰められたじゃないか!
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怒りでだろうか、拳を震わせるギルバートの肩を、母がそっと慰めるように触れた。
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