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時は少しだけ遡り②
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一学年の夏休みが終わると、王太子殿下は人目も憚らず男爵令嬢と共に過ごすようになった。学園内だというのに、平民のように指を絡めて手を繋ぎ、ぴったりとカラダを寄り添わせ微笑み合う様は、異様な光景としか言い様がなかった。そして何より、人前でそのようなはしたない真似をする二人を、口に出さずとも周囲は蔑みの対象として見ていた。なるべく目に入れたくないために、どんどん周囲から人が離れていくのを王太子はまったく気づくことができなかった…側近候補の3人が常に側にいたから。
男爵令嬢は自分の恋人だ、と王太子は理解していたが、
「ルーサーのことは好きだよ?でも、クリスもメイナードもスチュアートも好きなの。みんなで仲良くしよ?あたしは、みんなのモノだよー」
とニコニコされるとそれ以上何も言えず、ただ、彼女を自分の恋人だと感じたくて、「君を俺のモノにしたい」と伝えると、彼女は快く受け入れてくれた。他の3人とは関係が違うのだと、王太子は取り巻きの彼らを見下すように蔑んだ。ほどなく騎士団長子息、魔術師団団長子息も彼女と関係を持ったことなどまったく気づかずに。
純粋培養の世間知らずな彼らは、自分たちの権利はどこまでも行使するくせに、家同士の繋がりのために結ばれた義務と言う名の婚約者のことはまったく顧みることはなかった。親が何も言わないことも、彼らの愚行に拍車をかけた。
周囲がまったく彼らを相手にしなくなり、婚約者たちも彼らに構わなくなっても、彼らは自分たちの立ち位置を疑うことはなかった。婚約者たちが口うるさく言わなくなったのを、自分たちの躾の賜物だなどと声高に叫び哄笑するさまは、場末の酒場でグダを巻くならず者たちと変わらなかった。
ところが、せっかく大人しくなった彼らをわざわざ呼び覚ます愚か者がいた。男爵令嬢は、事あるごとに「教科書を破られた」「水をかけられた」「すれ違い様に罵られた」などと告げ口し、彼らに婚約者を貶めさせた。それをさも嬉しそうに見る男爵令嬢の顔は、見るに耐えない醜さだったという。
「だいたい、すれ違い様に、なんて、ご自分たちが朝から帰宅するまで…いいえ、帰宅後までずっと隣を離れないくせに、そんなことにも気づかないのかしら?」
「あの男爵令嬢が嘘をついているなんて、みんなが知ってることなのに」
「あんなに見る目のない方たちがこの国の上に立つなんて…我が国はどうなってしまうの?」
そんな不安が渦巻く中、一学年が終わり、二学年が終わり、三学年に入った夏休みの直前。
男爵令嬢が、ならず者たちに乱暴されたと保護された。男爵家の者たちを押し退けるように彼女の元に集まった4人は、顔が赤く腫れ、服が破かれ、その隙間から流れる白濁に激昂した。
「ミーナ、誰にやられた!」
「殿下、とにかくミーナを連れて行きましょう、ここでは一目がありすぎます」
「くそっ、俺が絶対に殺してやる!」
「ミーナ、魔法でキレイにしてあげるからね」
4人は、俯き肩を震わせる彼女を守るように、しかしながら互いに牽制しあっていたため、口を歪めて笑うミーナの顔は目に入らなかった。
その後、落ち着いたミーナが、
「みんなのぉ、婚約者がぁ、…ヒック、あたしのこと、…ううっ、面白くないから、って、乱暴するよう、…ヒック、頼まれた、って、…ウワーン」
とあからさまな嘘泣きで訴えると、公爵子息が、
「このことは僕に一任してください」
と立ち上がった。
「クリスフォード、どうするつもりだ」
「ヴァイオレットを同じ目に遭わせます。純潔を奪った上で、傷物にして婚約を破棄します」
純潔、という言葉に公爵子息以外の3人は動揺したが、
「嬉しい!クリス、あたしのために復讐してくれるんだね!」
とクリスフォードに抱き付くミーナを見て、自分たちもやる、と意気込んだ。
「殿下、皆で同じことをしたら目立って仕方ありません。今回は僕のたてた策です。真似はやめてください。それよりも、皆で卒業式の後のダンスパーティーで、これ以上ない祝いの席で、あいつらを絶望に叩き落としては?これから半年もあれば、さぞいい復讐ができるでしょう」
クリスフォードの言葉になるほど、と納得した彼らは、ミーナとともにどんな復讐をするか考えた。ミーナに誘導されていることには微塵も気付かない彼らは、もはや、権力だけは持っているミーナの操り人形も同じだった。
クリスフォードは宣言通り、婚約者のヴァイオレットを夏休み明けに凌辱した。その頃、ならず者に乱暴されたミーナの妊娠がわかると、クリスフォードは
「ヴァイオレットとはこのまま結婚して、ミーナの産んだ誰の種かわからない子どもを育てさせる。最高の復讐になる」
と嗤った。
…そして、卒業式の日。
断罪の幕が上がる。
男爵令嬢は自分の恋人だ、と王太子は理解していたが、
「ルーサーのことは好きだよ?でも、クリスもメイナードもスチュアートも好きなの。みんなで仲良くしよ?あたしは、みんなのモノだよー」
とニコニコされるとそれ以上何も言えず、ただ、彼女を自分の恋人だと感じたくて、「君を俺のモノにしたい」と伝えると、彼女は快く受け入れてくれた。他の3人とは関係が違うのだと、王太子は取り巻きの彼らを見下すように蔑んだ。ほどなく騎士団長子息、魔術師団団長子息も彼女と関係を持ったことなどまったく気づかずに。
純粋培養の世間知らずな彼らは、自分たちの権利はどこまでも行使するくせに、家同士の繋がりのために結ばれた義務と言う名の婚約者のことはまったく顧みることはなかった。親が何も言わないことも、彼らの愚行に拍車をかけた。
周囲がまったく彼らを相手にしなくなり、婚約者たちも彼らに構わなくなっても、彼らは自分たちの立ち位置を疑うことはなかった。婚約者たちが口うるさく言わなくなったのを、自分たちの躾の賜物だなどと声高に叫び哄笑するさまは、場末の酒場でグダを巻くならず者たちと変わらなかった。
ところが、せっかく大人しくなった彼らをわざわざ呼び覚ます愚か者がいた。男爵令嬢は、事あるごとに「教科書を破られた」「水をかけられた」「すれ違い様に罵られた」などと告げ口し、彼らに婚約者を貶めさせた。それをさも嬉しそうに見る男爵令嬢の顔は、見るに耐えない醜さだったという。
「だいたい、すれ違い様に、なんて、ご自分たちが朝から帰宅するまで…いいえ、帰宅後までずっと隣を離れないくせに、そんなことにも気づかないのかしら?」
「あの男爵令嬢が嘘をついているなんて、みんなが知ってることなのに」
「あんなに見る目のない方たちがこの国の上に立つなんて…我が国はどうなってしまうの?」
そんな不安が渦巻く中、一学年が終わり、二学年が終わり、三学年に入った夏休みの直前。
男爵令嬢が、ならず者たちに乱暴されたと保護された。男爵家の者たちを押し退けるように彼女の元に集まった4人は、顔が赤く腫れ、服が破かれ、その隙間から流れる白濁に激昂した。
「ミーナ、誰にやられた!」
「殿下、とにかくミーナを連れて行きましょう、ここでは一目がありすぎます」
「くそっ、俺が絶対に殺してやる!」
「ミーナ、魔法でキレイにしてあげるからね」
4人は、俯き肩を震わせる彼女を守るように、しかしながら互いに牽制しあっていたため、口を歪めて笑うミーナの顔は目に入らなかった。
その後、落ち着いたミーナが、
「みんなのぉ、婚約者がぁ、…ヒック、あたしのこと、…ううっ、面白くないから、って、乱暴するよう、…ヒック、頼まれた、って、…ウワーン」
とあからさまな嘘泣きで訴えると、公爵子息が、
「このことは僕に一任してください」
と立ち上がった。
「クリスフォード、どうするつもりだ」
「ヴァイオレットを同じ目に遭わせます。純潔を奪った上で、傷物にして婚約を破棄します」
純潔、という言葉に公爵子息以外の3人は動揺したが、
「嬉しい!クリス、あたしのために復讐してくれるんだね!」
とクリスフォードに抱き付くミーナを見て、自分たちもやる、と意気込んだ。
「殿下、皆で同じことをしたら目立って仕方ありません。今回は僕のたてた策です。真似はやめてください。それよりも、皆で卒業式の後のダンスパーティーで、これ以上ない祝いの席で、あいつらを絶望に叩き落としては?これから半年もあれば、さぞいい復讐ができるでしょう」
クリスフォードの言葉になるほど、と納得した彼らは、ミーナとともにどんな復讐をするか考えた。ミーナに誘導されていることには微塵も気付かない彼らは、もはや、権力だけは持っているミーナの操り人形も同じだった。
クリスフォードは宣言通り、婚約者のヴァイオレットを夏休み明けに凌辱した。その頃、ならず者に乱暴されたミーナの妊娠がわかると、クリスフォードは
「ヴァイオレットとはこのまま結婚して、ミーナの産んだ誰の種かわからない子どもを育てさせる。最高の復讐になる」
と嗤った。
…そして、卒業式の日。
断罪の幕が上がる。
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