目が覚めたらあと一年で離縁される王妃になっていた件。

蜜柑マル

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その時、扉がノックされた。

「フェルナンド様」

落ち着いた渋味のある男性の声に、私ははまった二次元を思い出し胸が高鳴った。…この声…!似てる…!

「イーグルか、入れ」

フェルナンドの返事を受けて入ってきた男性は、熊かと見間違うほどの巨体であった。着ている服はけして小さくはないだろうに、ここかしこで筋肉が自己主張している…素晴らしい…!!しかも眼鏡かけてるぅ…!!私、眼鏡男子に弱いんだよ…理想が服を着て現れた、って、本当にあるのね…。幸せ…。二次元の推しが突如目の前に現れ、微笑んでくれたくらいの幸福感に包まれ、私はイーグルさんから目が離せなかった。

「失礼いたします。ユージーン陛下がお目通りを、とのことですが」

ギャー、低っくいのに、なにこの上品さを醸し出す声ぇぇぇ…!耳が、耳が…!腰砕けにされるぅ…!!

興奮しすぎて思わずふるり、とカラダが揺れた私を見下ろしたフェルナンドは、いきなり不機嫌そうに眉をしかめた。…なに?

「…なんの用だって?」

声まで不機嫌そうだな、おっさんよ。しかしイーグルさん、おいくつなんだろう…。個人情報が知りたい…オタクだけになんでも相手のことを知りたくなるのよね、私。とにかく仕入れられる限りの情報を手に入れて、自己満足の陶酔に浸るのが幸せなのよ。ひとりでね、うん…。

「…パル、あんまりイーグルのことばっかり見ないで。目隠しするけどいい?」

…なんで目隠し?

「イヤです…」

「じゃあ見るのやめて。…愚息はそこに来てんのかな、もしかして」

「はい。どうしてもお会いしたいと」

ふん、と鼻を鳴らしたフェルナンドは、

「わかった。…入れろ」

と吐き捨てるように言った。あー、出て行ってしまう…イーグルさんが…見たかった、もっと…。

「パル、今の態度なに?イーグルが気に入ったの?」

…なんで不機嫌マックスみたいに睨み付けられなきゃならないんだろう。

「気に入ったって言うか、…カッコいいですよね、すべてが、…キャア!?」

とたんに支えていた手でお尻をつねられる。ちょっと、なんなのよ!

「…浮気はダメじゃない?俺はパルみたいに心が広くないから、他の男に目をくれる、なんて許さないよ」

ニッコリ笑っているが視線がものすごく冷たい。浮気?

「浮気って、」

「父上、失礼いたします…、なぜオパールを膝の上に、…オパール、降りろ、こちらに来い」

…ゲー。来やがったよ、真実の愛という名札を掲げた浮気野郎が。オパールにとってはツラくて仕方ないだろうけど、浮気するような男に心を残す方が地獄を見る(と二次元では言っていた、残念ながら私は恋愛未経験)。しかもさ、なんか気のある素振りとかされてさ、期待して結局裏切られて二重に苦しむとかよくある話だったじゃん。こいつは正式に別な妻を娶ったんだし、私はオパールの気持ちには引きずられないし、心残りなどない、こいつに。むしろ大っきらいだったし、漫画読んでる時から!

ユージーンの偉そうな物言いに文句を言おうとしたところ、フェルナンドの大きな手に口を塞がれた。…なにしとんじゃおっさん。

私の抗議の視線などどこ吹く風で、フェルナンドは口を開いた。

「ユージーン、正式にリリアを娶った時点でオパールは未だ書類上おまえの妻ではあるが、実質的には離縁したも同然だ。おまえ自身が望み、画策し、叶えたことだろう。なぜ今さらオパールに関わろうとしている?彼女と今まで関わりを持たなかったのだから、離縁待ちの今、さらに関わるべきではない。オパールが懐妊しても国王の種ではないなどとバカげた内容を議会で承認させたくせに、自らが疑惑を持たれるような行動は慎むべきでは?…それに、」

そう言ってフェルナンドは、私を巻いていた布をそっとはだけた。…え?

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「見ての通りパルは全裸だ。おまえの隣になど行かせるか、バカが」

けっ、みたいに言ってるけどバカはおまえだぁ!!

「なんで裸なのよ!」

「さっき倒れただろ?苦しくないか心配で全部脱がせたんだ。大丈夫、俺しか見てないから」

…ウインクするな!おかしいだろ、なんで全裸にする必要があるんだよ!…くそー、ごめんねオパール!まだうら若き乙女なのに…!こんなおっさんに見られてしまうとは…!

ギリギリ歯噛みして睨み付けると、ふ、と微笑んだフェルナンドにいきなり口づけられた。…え?

「んー、んんーっ!!」

「ち、父上っ」

叩いてやりたいのにまたすっぽりくるまれてしまって抵抗もできず、私は好き勝手にフェルナンドに口内を蹂躙されてしまった…なんなの、このおっさんは!おまえ、ユージーンの父親なんだからオパールの義理の父だろ!『背徳の関係』なんてタイトルついてるような義父モノAVみたいな展開望んでないんだよ!!

フェルナンドがようやく唇を離してくれた時、経験値のない私はもう瀕死状態だった。呼吸もままならない。

「父上、なんてことを、」

「さっきも言ったが、おまえがリリアを娶ったことでオパールとおまえの縁は切れたんだ。一夫一妻制の我が国で、側妃などとバカげたことを言い出したおまえのために大臣たちや法務関係者がどれだけ迷惑を被ったかわからないのか?この痴れ者が」

…え?

「…一夫一妻?」

言葉が思わず漏れた私を、フェルナンドは不思議そうに見下ろした。

「そうだよ。つい一昨日、ユージーンとリリアは入籍した。その前日にパル、君はユージーンの妻から外れているんだよ、戸籍上。重婚なんてもってのほかだからね」

「…へ?」

「…リリアを娶ったとわかったからユージーンに愛想をつかしてパルは変わったんじゃなかったのかい?ようやく現実を見れるようになったんだと思ってたんだけど?」

「…え」

だってさ、漫画ではリリアは側妃だったし(ゆくゆくは王妃になるけど)一夫一妻制なんて描いてなかったよ?

「え、じゃあ、私は、いま、」

「戸籍上は、元に戻ってる」

離縁が成立してる!?

「じゃあもう出て行っていいってこと!?」

やったー!出て行くから先立つモノを…!息子の不始末でおっさんが払ってくれ!

期待に満ちた目でフェルナンドを見つめたのに、フェルナンドは「いや、ダメだよ。書類上は、って言ったじゃない」と呆れたように言う。…はぁ?

「だって、」

「こいつがリリアと入籍したにも関わらず未だに初夜を迎えられないのは、国民に自国の国王がこんなバカな人間だと教えられないからなんだよ、パル。それはまあ、大臣たちの意見であって、こいつは何にも考えてないからすぐにもキミを追い出すつもりだったんだが、三年、これは譲れない線だ。懐妊しない、だから、王妃を替える。冷たいようだが血を繋ぐことが第一だから、それなら国民もある程度納得してくれるだろう、って苦肉の策でね。…おい、まさか」

そこまで言ったフェルナンドは、ギロリとユージーンを睨み付けた。

「リリアを抱けない代わりにオパールで性処理しようと思い立ったのか?」

視線を向けると、ユージーンはアワアワしながら、「いえ、あの、…」なんて言ってる…本当にそんなこと考えてんの?本気で?…どこまでクズなの、こいつ。
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