6 / 14
6
しおりを挟む
次の日早々にやって来たフェルナンドは、「本日よりオパール様には部屋を移っていただきます」と言って、後ろに控えている大人数の侍従たちに「かかれ」と短く告げた。
「ちょ、ちょっと、どういうこと!?」
訳もわからず立ち尽くすしかない私を見ると、フェルナンドは、ふ、と嬉しそうに微笑み私を何かで包み込んだ上で抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこだ。なんなのよこれぇ!!
「なんで部屋を移らないといけないの!?私、昨日言ったよね、部屋に不満はないって!」
「オパール様、わたくしも昨日申し上げましたよ。ユージーン陛下の存在などなくとも幸せなのだというオパール様をユージーン陛下に見せつけ、自分の愚行を思い知らせてやりたいのだと。しかしこんな離れた場所にいらしてはユージーン陛下の目には入らないではありませんか。そもそも、貴女は王妃という立場。こんな城の端にいるべき人間ではないのです」
そんなこと知らねえよ!だいたいオパールは二年もこの部屋にいたんでしょ、なんにも不満はなかったからでしょ!
「オパール様が結婚初日に陛下の部屋の前に立ち続けていたりするから、こんな離れた部屋に入れられたんですよ。でも、もう陛下に対して興味も関心もないんですから近くにいても問題ないでしょう。それとも…」
ピタリ、と足を止めたフェルナンドは、私を見下ろしニヤ、と嗤った。
「あんなことを言いながら、やっぱりユージーン陛下に未練タラタラなのですか?リリア様を愛している、リリア様と仲睦まじくされているユージーン陛下を見るのはおツラいと?それならば元の部屋に戻りますか、」
…なんっだとぉ!?
「なんっにも感じないしツラくないわよ、むしろ見せつけられたいくらいよ、あの二人の幸せな様を!祝福したいわ、是非とも!心の底から幸せになることを祈って祈って祈りまくってやるわよ!おめでとう、良かったわね、末永くお幸せに!」
布にスッポリ包まれて顔しか出ていないため何も攻撃できないが、もしできたならフェルナンドの頬をつねりあげてやりたい。この野郎…!
ギリギリと睨み付けると、フェルナンドはまた嬉しそうに微笑み、私の額に唇を落とした。ちょっとぉ!!
「なにしてんのよ昨日から!」
「そんな顔をするからですよ、せっかくの可愛い顔が台無しじゃないですか。眉間に皺を寄せるなんてしちゃいけません」
め、とこちらをおどけた顔で見るフェルナンド。なんなんだよこいつは!
「自分で歩けるからおろしてよ!」
「ダメですよ、寝巻きじゃないですか。新しい部屋についたら着替えさせて差し上げますからね」
「自分でできるから!」
「残念ながら、わたくしが用意したドレスは後ろにボタンのついたドレスしかないんです。オパール様の美しく丸みのある素晴らしいおっぱいを」
「セクハラ親父!いい加減にしてよ!」
そんなキレイな顔でおっぱいとか言うな!っていうか親父って言っちゃったけど、この人いくつなんだろ?
「あなた、」
「フェルナンドです。フェルと呼んでください」
「イヤです」
「わたくしはパルと呼びますね!」
人の話聞けよ!
「パルは軽いですねぇ。こんなにおっぱいもお尻も柔らかに美味しそうなお肉がついているのに。ウエストが細いからかな。食事の内容を見直しますね、もう少しお肉がついていたほうがより抱き心地がいいので」
「ねえ…ほんとやめて…」
「なぜです?恥ずかしいのですか?でも本当のことでしょう、こんなにおっぱいが大きいんですよ。最高だ!」
何が最高なのかまったくわからない。
「パル、先ほど何か言いかけましたよね。なんですか?」
「…あなたは何歳ですか」
なぜいきなり敬語になるんです?おかしな人だ、と爽やかに笑ったフェルナンドは、「わたくしは38歳です」と微笑んだ。
「パルの18歳上です。体力というか瞬発力というか回数は勝てませんが、持久力とテクニックは負けませんから安心してください」
ニッコリ笑うフェルナンド。いったいなんの話をしているのか。
そんなことを話しているうちに、抱き上げられたまま新しい部屋に通されてしまった。壁一面、天井までの本棚があり、執務に使う広い机と応接用のソファが置かれている。白を基調にした余計な飾りのない美しく整えられた部屋。鉢植えと、机には花が飾られている。
「この扉の向こうがプライベートスペースです。入りますね」
よ、と声を出してフェルナンドが開けた先には更に広いスペースが広がっていた。
「浴室、トイレも付いています。ベッドはクイーンサイズにしましたから二人でもゆったり眠れますよ。でもなるべくくっついて寝たいです。後ろから抱っこして、パルの首筋の匂いをかぎながら寝たい」
ニコニコしながら、…いま、なんて言った?
「抱っこして寝る…?」
「ええ。今夜から毎晩一緒に寝ます」
「誰と誰が?」
「…話聞いてましたか?わたくしとパルが寝るんですよ、決まってるじゃないですか」
やっぱり不義密通で処罰させようとしてんの!?冗談じゃないんだけど!
「絶対にイヤ!」
「でもわたくしはパルの侍従兼護衛ですから一緒に寝ます」
さも当然だ、みたいにキリッとした顔で言うな!理由になってない!だいたい一緒に寝るって、夫婦でもないのに…!一言文句を言ってやろうとしたとき、別な男の声が聞こえてきた。
「ここで何をしている」
振り向いたフェルナンドと共に視界が動き、目の前の男と視線がかち合う。
「…オパールか?」
そういうおまえはユージーンだな。なんで疑問文なんだよ、くそったれ。自分の妻に関心がなくたって、普通顔くらいわかるだろうが!ほんとクズだわ。目ぇ真ん丸くしやがって。そのユージーンの瞳がさらに大きく見開かれる。…なに?
「…父上!?」
…父上?
ユージーンの視線の先にいるのは間違いなく一人だけだ。まさか。
「え」
見上げると、フェルナンドはユージーンを睨み付けていた。威圧がすごい。
「…勝手に入ってきた上に種明かしするなよ」
ええ…まさか…本当に…。
「…前陛下、ってことなの…?」
掠れた声にゴクリ、と喉が鳴る私を見たフェルナンドは、ヘニャリと眉を下げた。
「実はそうなんだよね…」
へへっ、と照れくさそうに笑うフェルナンドに私の理性は持たず、そのまま視界が暗転した。
「ちょ、ちょっと、どういうこと!?」
訳もわからず立ち尽くすしかない私を見ると、フェルナンドは、ふ、と嬉しそうに微笑み私を何かで包み込んだ上で抱き上げた。いわゆるお姫様抱っこだ。なんなのよこれぇ!!
「なんで部屋を移らないといけないの!?私、昨日言ったよね、部屋に不満はないって!」
「オパール様、わたくしも昨日申し上げましたよ。ユージーン陛下の存在などなくとも幸せなのだというオパール様をユージーン陛下に見せつけ、自分の愚行を思い知らせてやりたいのだと。しかしこんな離れた場所にいらしてはユージーン陛下の目には入らないではありませんか。そもそも、貴女は王妃という立場。こんな城の端にいるべき人間ではないのです」
そんなこと知らねえよ!だいたいオパールは二年もこの部屋にいたんでしょ、なんにも不満はなかったからでしょ!
「オパール様が結婚初日に陛下の部屋の前に立ち続けていたりするから、こんな離れた部屋に入れられたんですよ。でも、もう陛下に対して興味も関心もないんですから近くにいても問題ないでしょう。それとも…」
ピタリ、と足を止めたフェルナンドは、私を見下ろしニヤ、と嗤った。
「あんなことを言いながら、やっぱりユージーン陛下に未練タラタラなのですか?リリア様を愛している、リリア様と仲睦まじくされているユージーン陛下を見るのはおツラいと?それならば元の部屋に戻りますか、」
…なんっだとぉ!?
「なんっにも感じないしツラくないわよ、むしろ見せつけられたいくらいよ、あの二人の幸せな様を!祝福したいわ、是非とも!心の底から幸せになることを祈って祈って祈りまくってやるわよ!おめでとう、良かったわね、末永くお幸せに!」
布にスッポリ包まれて顔しか出ていないため何も攻撃できないが、もしできたならフェルナンドの頬をつねりあげてやりたい。この野郎…!
ギリギリと睨み付けると、フェルナンドはまた嬉しそうに微笑み、私の額に唇を落とした。ちょっとぉ!!
「なにしてんのよ昨日から!」
「そんな顔をするからですよ、せっかくの可愛い顔が台無しじゃないですか。眉間に皺を寄せるなんてしちゃいけません」
め、とこちらをおどけた顔で見るフェルナンド。なんなんだよこいつは!
「自分で歩けるからおろしてよ!」
「ダメですよ、寝巻きじゃないですか。新しい部屋についたら着替えさせて差し上げますからね」
「自分でできるから!」
「残念ながら、わたくしが用意したドレスは後ろにボタンのついたドレスしかないんです。オパール様の美しく丸みのある素晴らしいおっぱいを」
「セクハラ親父!いい加減にしてよ!」
そんなキレイな顔でおっぱいとか言うな!っていうか親父って言っちゃったけど、この人いくつなんだろ?
「あなた、」
「フェルナンドです。フェルと呼んでください」
「イヤです」
「わたくしはパルと呼びますね!」
人の話聞けよ!
「パルは軽いですねぇ。こんなにおっぱいもお尻も柔らかに美味しそうなお肉がついているのに。ウエストが細いからかな。食事の内容を見直しますね、もう少しお肉がついていたほうがより抱き心地がいいので」
「ねえ…ほんとやめて…」
「なぜです?恥ずかしいのですか?でも本当のことでしょう、こんなにおっぱいが大きいんですよ。最高だ!」
何が最高なのかまったくわからない。
「パル、先ほど何か言いかけましたよね。なんですか?」
「…あなたは何歳ですか」
なぜいきなり敬語になるんです?おかしな人だ、と爽やかに笑ったフェルナンドは、「わたくしは38歳です」と微笑んだ。
「パルの18歳上です。体力というか瞬発力というか回数は勝てませんが、持久力とテクニックは負けませんから安心してください」
ニッコリ笑うフェルナンド。いったいなんの話をしているのか。
そんなことを話しているうちに、抱き上げられたまま新しい部屋に通されてしまった。壁一面、天井までの本棚があり、執務に使う広い机と応接用のソファが置かれている。白を基調にした余計な飾りのない美しく整えられた部屋。鉢植えと、机には花が飾られている。
「この扉の向こうがプライベートスペースです。入りますね」
よ、と声を出してフェルナンドが開けた先には更に広いスペースが広がっていた。
「浴室、トイレも付いています。ベッドはクイーンサイズにしましたから二人でもゆったり眠れますよ。でもなるべくくっついて寝たいです。後ろから抱っこして、パルの首筋の匂いをかぎながら寝たい」
ニコニコしながら、…いま、なんて言った?
「抱っこして寝る…?」
「ええ。今夜から毎晩一緒に寝ます」
「誰と誰が?」
「…話聞いてましたか?わたくしとパルが寝るんですよ、決まってるじゃないですか」
やっぱり不義密通で処罰させようとしてんの!?冗談じゃないんだけど!
「絶対にイヤ!」
「でもわたくしはパルの侍従兼護衛ですから一緒に寝ます」
さも当然だ、みたいにキリッとした顔で言うな!理由になってない!だいたい一緒に寝るって、夫婦でもないのに…!一言文句を言ってやろうとしたとき、別な男の声が聞こえてきた。
「ここで何をしている」
振り向いたフェルナンドと共に視界が動き、目の前の男と視線がかち合う。
「…オパールか?」
そういうおまえはユージーンだな。なんで疑問文なんだよ、くそったれ。自分の妻に関心がなくたって、普通顔くらいわかるだろうが!ほんとクズだわ。目ぇ真ん丸くしやがって。そのユージーンの瞳がさらに大きく見開かれる。…なに?
「…父上!?」
…父上?
ユージーンの視線の先にいるのは間違いなく一人だけだ。まさか。
「え」
見上げると、フェルナンドはユージーンを睨み付けていた。威圧がすごい。
「…勝手に入ってきた上に種明かしするなよ」
ええ…まさか…本当に…。
「…前陛下、ってことなの…?」
掠れた声にゴクリ、と喉が鳴る私を見たフェルナンドは、ヘニャリと眉を下げた。
「実はそうなんだよね…」
へへっ、と照れくさそうに笑うフェルナンドに私の理性は持たず、そのまま視界が暗転した。
116
お気に入りに追加
5,261
あなたにおすすめの小説
最後の夜
ざっく
恋愛
明日、離縁される。
もう、一年前から決まっていたこと。
最後に一人で酒盛りしていたシルヴィーは、夫が隣に部屋に戻ってきていることに気が付いた。最後なのに、顔も見せない夫に腹が立って、シルヴィーは文句を言うために、初めて夫の部屋のドアをノックした。
最悪なお見合いと、執念の再会
当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。
しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。
それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。
相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。
最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。
どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。
無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。
彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。
ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。
居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。
こんな旦那様、いりません!
誰か、私の旦那様を貰って下さい……。
ワケあってこっそり歩いていた王宮で愛妾にされました。
しゃーりん
恋愛
ルーチェは夫を亡くして実家に戻り、気持ち的に肩身の狭い思いをしていた。
そこに、王宮から仕事を依頼したいと言われ、実家から出られるのであればと安易に引き受けてしまった。
王宮を訪れたルーチェに指示された仕事とは、第二王子殿下の閨教育だった。
断りきれず、ルーチェは一度限りという条件で了承することになった。
閨教育の夜、第二王子殿下のもとへ向かう途中のルーチェを連れ去ったのは王太子殿下で……
ルーチェを逃がさないように愛妾にした王太子殿下のお話です。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる