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第六章
幕間 ジークハルト殿下(同級生視点)
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今年から新しくなった高等学校。入学式は、かなりの騒ぎになった。
まず、新入生代表で、『炎の貴公子』ジークハルト・エイベル殿下が出てきたとき。会場からの歓声がすごかった。普通科はもちろんだけど、魔術科は殿下の魔力の高さにうっとりしてるし、騎士科は騎士科で野郎どもが「殿下とご一緒したかった…!」と泣き叫んでるし。殿下は、騎士としての腕前も超一流なのだそうだ。
そんな歓声にまったく動じることもなく、さりとて甘いマスクがほころぶこともなく、ただ無表情に挨拶を始めた。
この人、生きてんのかな、と思うくらいの熱のなさに、こんなに女性に騒がれてるのに興味がないんだろうか、もしかして男性が好きなのか、だったら騎士科もワンチャンあり?なんて考えていたら。
「父上」
壇上の殿下が、殿下の父であるサヴィオン海軍総督に視線を向けた。すべてを凍り付かせるような切れ長の赤い瞳にあんな視線を向けられたら、間違いなくそのへんの男は恐怖で失禁するだろう。そのくらい、自分の父親に向けるとは思えないくらい、冷酷な瞳だった。
「約束は守りました。いいですね」
サヴィオン海軍総督は、チラリと新入生に目を向けると、こちらに向けてニカッと屈託なく笑った。そして、殿下に向けて「好きにやれ。褒美だ」と告げた。
その瞬間、殿下が、ものすごい妖艶な笑顔を見せた。たぶん女子学生の何人かは失神したと思う。ダダ洩れる色気の凄さと言ったら…この人、本当に同級生なの?
殿下は、壇上からスッと消えると、僕の目の前に座っていた女の子をそっと抱き上げお姫様抱っこした。すげえ。こんな絵になる人いる?その子を見る殿下の瞳の甘やかさよ。愛しくて愛しくて、堪らないって顔だ。
そのまま殿下は壇上に戻ると、ビリビリと空気を震わせる威圧を持って告げた。
「彼女は俺の婚約者、ルヴィア・サムソンだ。男でも女でも彼女に何かした場合には、このジークハルト・エイベルの名において相応の罰を与える、もしくは燃やす。では、失礼する」
ポカンとした表情の腕の中の彼女とともに殿下は消えた。まだ入学式終わってなくない?
会場内は騒然とし、そのままお開きになった。
翌週、学校生活が始まった。
僕は普通科の1組。30人ずつ3クラス、成績順にクラス分けされている。自分の成績が何位なのかは不明だが、一応一番成績の良いクラスでホッとした。
教室に入ると。ジークハルト殿下が、婚約者の彼女の髪の毛に、口づけているところだった。
「おはよう、ルヴィ、寂しかったよ。今朝、一緒に登校したかったのに…」
「申し訳ありません、ハルト様、でも、」
「殿下。朝から婚約者とは言え女性にみだりに触れるのはどうかと思いますけれど、殿下はいかがお考えなのですか?」
「サフィア嬢、キミが俺のルヴィと一緒に登校してしまったために、俺とルヴィの触れあう時間が潰されてしまったんだ。反省してもらいたい」
「貴方、相変わらず縛りが強いわね。本当にサヴィオン様の息子なの?サヴィオン様は、あんなにおおらかで、格好よくて、素晴らしくて、素敵な方なのに」
「父上の名前をルヴィの前で出さないでくれ。ルヴィ、おいで」
「あの、ハルト様、教室ですから」
「ちょっとだけ、ね、お願い、ルヴィ。昨日の夜ルヴィが帰っちゃってから、11時間も会えなかったんだよ。今朝も一緒に来れなくて寂しかったんだよ?ね、ルヴィ、ちょっとだけ。すぐ戻るから。ちょっとだけ。ね、」
そう言うと殿下は婚約者の彼女をそっと抱き上げ、傍らのサフィア嬢と呼ばれていた女性に「ふっ」と勝ち誇ったような顔を向け消えた。
ちょっとだけ、と何回も言っていただけあって殿下と彼女は5分で戻ってきた。満足そうな顔の殿下にお姫様抱っこされた彼女は顔が赤かった。
「ルヴィ、お昼は一緒に食べようね。庭園の薔薇が美しく咲いてるから、食べたらルヴィ、膝枕して。ルヴィの香りに包まれて寝たい」
「殿下、お昼はわたしと食べるんです、ヴィーは。入学する前から約束してましたから、殿下とはご一緒できません。そもそも膝枕なんて、」
「ルヴィの膝は俺だけのものであり、誰にも文句を言われる筋合いはないんだよ、サフィア嬢。それと、入学前からの約束なんて無効だ。俺がまだルヴィに再会できていなかったんだから」
「あの、ハルト様、とりあえずみんなで食べましょう?」
「やだ!ルヴィと二人がいい!」
「ハルト様、せっかく入学したのですから皆さんと交流したほうがよろしいかと」
「…じゃあ、今日も俺の部屋に来てくれる?それならいい」
「朝からふしだらなこと言わないでください、殿下!」
「ふしだら?何もふしだらなことは言っていない。俺とルヴィは婚約者であり、卒業と同時にけっこ」
「入学したばかりで卒業って、貴方何しに入学したの!?」
「そんなの、ルヴィとずっと一緒に過ごすために決まっているじゃないか。ルヴィが学校に通うのに、俺が通わないという選択肢はない。ルヴィが何をしているかわからずに過ごすなんてあり得ない。もうルヴィと俺を引き離すものは存在しないんだ」
この初日の会話で、ジークハルト殿下は、ちょっと頭が残念な人なのだとクラスで認識されるようになった。
まず、新入生代表で、『炎の貴公子』ジークハルト・エイベル殿下が出てきたとき。会場からの歓声がすごかった。普通科はもちろんだけど、魔術科は殿下の魔力の高さにうっとりしてるし、騎士科は騎士科で野郎どもが「殿下とご一緒したかった…!」と泣き叫んでるし。殿下は、騎士としての腕前も超一流なのだそうだ。
そんな歓声にまったく動じることもなく、さりとて甘いマスクがほころぶこともなく、ただ無表情に挨拶を始めた。
この人、生きてんのかな、と思うくらいの熱のなさに、こんなに女性に騒がれてるのに興味がないんだろうか、もしかして男性が好きなのか、だったら騎士科もワンチャンあり?なんて考えていたら。
「父上」
壇上の殿下が、殿下の父であるサヴィオン海軍総督に視線を向けた。すべてを凍り付かせるような切れ長の赤い瞳にあんな視線を向けられたら、間違いなくそのへんの男は恐怖で失禁するだろう。そのくらい、自分の父親に向けるとは思えないくらい、冷酷な瞳だった。
「約束は守りました。いいですね」
サヴィオン海軍総督は、チラリと新入生に目を向けると、こちらに向けてニカッと屈託なく笑った。そして、殿下に向けて「好きにやれ。褒美だ」と告げた。
その瞬間、殿下が、ものすごい妖艶な笑顔を見せた。たぶん女子学生の何人かは失神したと思う。ダダ洩れる色気の凄さと言ったら…この人、本当に同級生なの?
殿下は、壇上からスッと消えると、僕の目の前に座っていた女の子をそっと抱き上げお姫様抱っこした。すげえ。こんな絵になる人いる?その子を見る殿下の瞳の甘やかさよ。愛しくて愛しくて、堪らないって顔だ。
そのまま殿下は壇上に戻ると、ビリビリと空気を震わせる威圧を持って告げた。
「彼女は俺の婚約者、ルヴィア・サムソンだ。男でも女でも彼女に何かした場合には、このジークハルト・エイベルの名において相応の罰を与える、もしくは燃やす。では、失礼する」
ポカンとした表情の腕の中の彼女とともに殿下は消えた。まだ入学式終わってなくない?
会場内は騒然とし、そのままお開きになった。
翌週、学校生活が始まった。
僕は普通科の1組。30人ずつ3クラス、成績順にクラス分けされている。自分の成績が何位なのかは不明だが、一応一番成績の良いクラスでホッとした。
教室に入ると。ジークハルト殿下が、婚約者の彼女の髪の毛に、口づけているところだった。
「おはよう、ルヴィ、寂しかったよ。今朝、一緒に登校したかったのに…」
「申し訳ありません、ハルト様、でも、」
「殿下。朝から婚約者とは言え女性にみだりに触れるのはどうかと思いますけれど、殿下はいかがお考えなのですか?」
「サフィア嬢、キミが俺のルヴィと一緒に登校してしまったために、俺とルヴィの触れあう時間が潰されてしまったんだ。反省してもらいたい」
「貴方、相変わらず縛りが強いわね。本当にサヴィオン様の息子なの?サヴィオン様は、あんなにおおらかで、格好よくて、素晴らしくて、素敵な方なのに」
「父上の名前をルヴィの前で出さないでくれ。ルヴィ、おいで」
「あの、ハルト様、教室ですから」
「ちょっとだけ、ね、お願い、ルヴィ。昨日の夜ルヴィが帰っちゃってから、11時間も会えなかったんだよ。今朝も一緒に来れなくて寂しかったんだよ?ね、ルヴィ、ちょっとだけ。すぐ戻るから。ちょっとだけ。ね、」
そう言うと殿下は婚約者の彼女をそっと抱き上げ、傍らのサフィア嬢と呼ばれていた女性に「ふっ」と勝ち誇ったような顔を向け消えた。
ちょっとだけ、と何回も言っていただけあって殿下と彼女は5分で戻ってきた。満足そうな顔の殿下にお姫様抱っこされた彼女は顔が赤かった。
「ルヴィ、お昼は一緒に食べようね。庭園の薔薇が美しく咲いてるから、食べたらルヴィ、膝枕して。ルヴィの香りに包まれて寝たい」
「殿下、お昼はわたしと食べるんです、ヴィーは。入学する前から約束してましたから、殿下とはご一緒できません。そもそも膝枕なんて、」
「ルヴィの膝は俺だけのものであり、誰にも文句を言われる筋合いはないんだよ、サフィア嬢。それと、入学前からの約束なんて無効だ。俺がまだルヴィに再会できていなかったんだから」
「あの、ハルト様、とりあえずみんなで食べましょう?」
「やだ!ルヴィと二人がいい!」
「ハルト様、せっかく入学したのですから皆さんと交流したほうがよろしいかと」
「…じゃあ、今日も俺の部屋に来てくれる?それならいい」
「朝からふしだらなこと言わないでください、殿下!」
「ふしだら?何もふしだらなことは言っていない。俺とルヴィは婚約者であり、卒業と同時にけっこ」
「入学したばかりで卒業って、貴方何しに入学したの!?」
「そんなの、ルヴィとずっと一緒に過ごすために決まっているじゃないか。ルヴィが学校に通うのに、俺が通わないという選択肢はない。ルヴィが何をしているかわからずに過ごすなんてあり得ない。もうルヴィと俺を引き離すものは存在しないんだ」
この初日の会話で、ジークハルト殿下は、ちょっと頭が残念な人なのだとクラスで認識されるようになった。
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