92 / 110
第六章
再会②
しおりを挟む
ようやくくちびるを離された私は、たぶん顔が真っ赤になっていたと思う。私を甘い瞳で見つめるハルト様を見て、涙がこぼれた。
「ルヴィ!?」
慌てて私を抱き締めると、「ごめん、イヤだった?」と背中を優しく撫でる。私はハルト様の肩に顔をつけたままフルフルと首を振った。
「ずっと…ずっと、お会いしたかったです、ハルト様。入学式でハルト様と会えることを励みに頑張れました。本当に嬉しいです」
次から次にこぼれる涙で、ハルト様の肩がじんわり湿ってしまう。ハルト様は「ルヴィ…俺も会いたかった」と優しく背中を撫でてくれた。
「あの時、ルヴィが、俺がいいって言ってくれてすごく嬉しかった。俺が子どもだったから。ごめんね」
「そんなこと…ないです…私も、ひどいこと言ってすみませんでした」
「ううん、いいんだよ。ルヴィが言ったことは当たり前なんだから。あの時、ルヴィに言われたこととか、アキラさん、アンジェ様に言われたことをずっと考えてた。
ルヴィを心配だけど、だからって閉じ込めるのはルヴィの自由を奪って俺の欲求を満たして満足してるだけなんだなって。ルヴィがこんなに努力して、自分の足でしっかり立ってる。俺もそうする。共に、歩いて欲しい」
「ハルト様…」
「俺のこと、ハルト様って呼んでいいのはルヴィだけだからね。他の誰にも赦さない」
「ごめんなさい、ブラウス、濡れてしまいましたね」
「いいんだよ、可愛いルヴィ」
私の顔を覗き込むと、チュッと瞼に口づけ、ハンカチで顔を拭いてくれた。
「本当に嬉しい、会えて。ルヴィ、これからはずっと一緒だよ。クラスも成績順だから一緒だし。本当はここで暮らして欲しいけど、まだ学生だからそれは我慢する」
「ハルト様、魔術団のお仕事は続けられるのですか?」
「うん…ルヴィとの時間が取れなくなるからイヤなんだけど、カーディナルのためだから。いい?ルヴィ」
「もちろんです」
そう言うと、ハルト様はプゥッとふくれた。
「ハルト様?」
「そこは、寂しいですって言ってよ」
そんなふうに言うハルト様が可愛らしく、思わず笑ってしまった。
「そういえばおばあ様から、ハルト様は魔術団で女性の団員の方々にものすごい人気だとお聞きしました」
それを聞いたハルト様は途端にイヤそうな顔になり、
「すごいんだよ、気持ち悪くて。最悪だよ」
と言う。
「気持ち悪い、ですか?」
「だって仕事に来てるのにさ、香水はプンプンだし化粧はすごいし。その臭いで魔物を誘き寄せる気なのかな。囮になろうとしてんのかな、って考えないとやってられないくらいひどい。もちろん、女性みんながじゃないけど。一部がひどくてね。俺にベタベタ触ろうとしてくるし。魔物に喰わせたかったよ」
「え、」
「冗談だよ、ルヴィ」
というハルト様の目は笑っていなかった。
「でも、指一本触れさせてないからね。俺はルヴィのものだから。夜も絶対入れないシールド張って寝たし。父上の苦労がわかったよ」
「サヴィオン様の?」
「うん。父上もモテるからね。未だにすごいんじゃない?王兄で独身、こぶつきだけど俺はもう大きいし。足枷にはならないだろ」
「サヴィオン様、そんなにおモテになるのですね」
サフィ…ライバルが多いみたいよ。
するとハルト様は、ムッとした顔になり、「ルヴィも父上が好きなの?」と言う。
「え?」
「だって。俺が会えない間、父上と過ごす時間多かったみたいじゃん」
「あ、語学の勉強ですか?語学と合わせて、サウスサイドにある国々のことも教えていただいて。先ほどのお香もサヴィオン様に教えていただいたんです。サヴィオン様がご自身で体験されてきたこともお聞きできて、とても楽しく学ばせていただきました」
「…人に魔物討伐押しつけてさ。自分はルヴィと過ごすなんてズルいよ。わざわざ自慢気に、ルヴィの話とかしてくるんだよ、今日はこんなだったとか。ニヤニヤしてさ。頭にくるから、たまに夜寝てる間に魔物の巣に転送してやったんだ」
親子げんかが壮絶すぎる。
「ねぇ。ルヴィも父上が好きなの?」
「ち、ちがいます」
「ち、ちがいます、ってなに。なんで焦ってるの?」
「好きですけど、」
「ルヴィ!?」
「サヴィオン様はハルト様のお父様なんですよ。私のお義父様にもなる方なのに」
「…それでも、好きとか言わないでよ。嫉妬するでしょ」
「ハルト様?」
「アンジェ様が、『ルヴィちゃんを美しく咲かせられるのはサヴィオン』って言ってた」
「ハルト様、私は自分で咲きます。咲かせてもらう必要はありません。ハルト様がいるから、ハルト様が好きだから、もし私が美しく見えるとしたら、それはハルト様のおかげです」
するとハルト様は真っ赤な顔になり、「ルヴィはそういうとこが…」とボソボソ言った。
「ねぇ、ルヴィ」
「なんですか?」
ハルト様は私をじっと見ると、「お願いがあるんだけど」と言った。
「なんでしょう」
「さっきも言ったけど、アンジェ様から『ルヴィちゃんは必ず学校を卒業させなさい、それができないならまた引き離すわよ、今度は物理的に!』ってしつこく言われて約束させられて、父上にも、『もし学生期間中にルヴィア嬢の純潔を奪ったらおまえに従属魔法をかける。燃やすぞ』って言われたから我慢するけど、その手前まではしてもいい?」
「…え?」
「挿入は我慢するから、その前まではしてもいい?」
「ハ、ハルト様!?」
「ルヴィとお風呂も入りたい。今夜さっそく入ろうね。また、髪の毛洗って、ルヴィ」
そういうと、私の耳に口を近づけ「あの時みたいに触って」と囁いた。
ビクッとする私をギュッと抱き締めると、「もう離さない。もう離れないよ、ルヴィ」と呟いた。
「ルヴィ!?」
慌てて私を抱き締めると、「ごめん、イヤだった?」と背中を優しく撫でる。私はハルト様の肩に顔をつけたままフルフルと首を振った。
「ずっと…ずっと、お会いしたかったです、ハルト様。入学式でハルト様と会えることを励みに頑張れました。本当に嬉しいです」
次から次にこぼれる涙で、ハルト様の肩がじんわり湿ってしまう。ハルト様は「ルヴィ…俺も会いたかった」と優しく背中を撫でてくれた。
「あの時、ルヴィが、俺がいいって言ってくれてすごく嬉しかった。俺が子どもだったから。ごめんね」
「そんなこと…ないです…私も、ひどいこと言ってすみませんでした」
「ううん、いいんだよ。ルヴィが言ったことは当たり前なんだから。あの時、ルヴィに言われたこととか、アキラさん、アンジェ様に言われたことをずっと考えてた。
ルヴィを心配だけど、だからって閉じ込めるのはルヴィの自由を奪って俺の欲求を満たして満足してるだけなんだなって。ルヴィがこんなに努力して、自分の足でしっかり立ってる。俺もそうする。共に、歩いて欲しい」
「ハルト様…」
「俺のこと、ハルト様って呼んでいいのはルヴィだけだからね。他の誰にも赦さない」
「ごめんなさい、ブラウス、濡れてしまいましたね」
「いいんだよ、可愛いルヴィ」
私の顔を覗き込むと、チュッと瞼に口づけ、ハンカチで顔を拭いてくれた。
「本当に嬉しい、会えて。ルヴィ、これからはずっと一緒だよ。クラスも成績順だから一緒だし。本当はここで暮らして欲しいけど、まだ学生だからそれは我慢する」
「ハルト様、魔術団のお仕事は続けられるのですか?」
「うん…ルヴィとの時間が取れなくなるからイヤなんだけど、カーディナルのためだから。いい?ルヴィ」
「もちろんです」
そう言うと、ハルト様はプゥッとふくれた。
「ハルト様?」
「そこは、寂しいですって言ってよ」
そんなふうに言うハルト様が可愛らしく、思わず笑ってしまった。
「そういえばおばあ様から、ハルト様は魔術団で女性の団員の方々にものすごい人気だとお聞きしました」
それを聞いたハルト様は途端にイヤそうな顔になり、
「すごいんだよ、気持ち悪くて。最悪だよ」
と言う。
「気持ち悪い、ですか?」
「だって仕事に来てるのにさ、香水はプンプンだし化粧はすごいし。その臭いで魔物を誘き寄せる気なのかな。囮になろうとしてんのかな、って考えないとやってられないくらいひどい。もちろん、女性みんながじゃないけど。一部がひどくてね。俺にベタベタ触ろうとしてくるし。魔物に喰わせたかったよ」
「え、」
「冗談だよ、ルヴィ」
というハルト様の目は笑っていなかった。
「でも、指一本触れさせてないからね。俺はルヴィのものだから。夜も絶対入れないシールド張って寝たし。父上の苦労がわかったよ」
「サヴィオン様の?」
「うん。父上もモテるからね。未だにすごいんじゃない?王兄で独身、こぶつきだけど俺はもう大きいし。足枷にはならないだろ」
「サヴィオン様、そんなにおモテになるのですね」
サフィ…ライバルが多いみたいよ。
するとハルト様は、ムッとした顔になり、「ルヴィも父上が好きなの?」と言う。
「え?」
「だって。俺が会えない間、父上と過ごす時間多かったみたいじゃん」
「あ、語学の勉強ですか?語学と合わせて、サウスサイドにある国々のことも教えていただいて。先ほどのお香もサヴィオン様に教えていただいたんです。サヴィオン様がご自身で体験されてきたこともお聞きできて、とても楽しく学ばせていただきました」
「…人に魔物討伐押しつけてさ。自分はルヴィと過ごすなんてズルいよ。わざわざ自慢気に、ルヴィの話とかしてくるんだよ、今日はこんなだったとか。ニヤニヤしてさ。頭にくるから、たまに夜寝てる間に魔物の巣に転送してやったんだ」
親子げんかが壮絶すぎる。
「ねぇ。ルヴィも父上が好きなの?」
「ち、ちがいます」
「ち、ちがいます、ってなに。なんで焦ってるの?」
「好きですけど、」
「ルヴィ!?」
「サヴィオン様はハルト様のお父様なんですよ。私のお義父様にもなる方なのに」
「…それでも、好きとか言わないでよ。嫉妬するでしょ」
「ハルト様?」
「アンジェ様が、『ルヴィちゃんを美しく咲かせられるのはサヴィオン』って言ってた」
「ハルト様、私は自分で咲きます。咲かせてもらう必要はありません。ハルト様がいるから、ハルト様が好きだから、もし私が美しく見えるとしたら、それはハルト様のおかげです」
するとハルト様は真っ赤な顔になり、「ルヴィはそういうとこが…」とボソボソ言った。
「ねぇ、ルヴィ」
「なんですか?」
ハルト様は私をじっと見ると、「お願いがあるんだけど」と言った。
「なんでしょう」
「さっきも言ったけど、アンジェ様から『ルヴィちゃんは必ず学校を卒業させなさい、それができないならまた引き離すわよ、今度は物理的に!』ってしつこく言われて約束させられて、父上にも、『もし学生期間中にルヴィア嬢の純潔を奪ったらおまえに従属魔法をかける。燃やすぞ』って言われたから我慢するけど、その手前まではしてもいい?」
「…え?」
「挿入は我慢するから、その前まではしてもいい?」
「ハ、ハルト様!?」
「ルヴィとお風呂も入りたい。今夜さっそく入ろうね。また、髪の毛洗って、ルヴィ」
そういうと、私の耳に口を近づけ「あの時みたいに触って」と囁いた。
ビクッとする私をギュッと抱き締めると、「もう離さない。もう離れないよ、ルヴィ」と呟いた。
71
お気に入りに追加
8,310
あなたにおすすめの小説

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。


今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。
ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます
沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

ワケあってこっそり歩いていた王宮で愛妾にされました。
しゃーりん
恋愛
ルーチェは夫を亡くして実家に戻り、気持ち的に肩身の狭い思いをしていた。
そこに、王宮から仕事を依頼したいと言われ、実家から出られるのであればと安易に引き受けてしまった。
王宮を訪れたルーチェに指示された仕事とは、第二王子殿下の閨教育だった。
断りきれず、ルーチェは一度限りという条件で了承することになった。
閨教育の夜、第二王子殿下のもとへ向かう途中のルーチェを連れ去ったのは王太子殿下で……
ルーチェを逃がさないように愛妾にした王太子殿下のお話です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる