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第六章

再会①

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ハルト様が飛んだ先は、ハルト様の自室だった。あの時は、シングロリア国から帰ってきたばかりで私物もほとんどなかったが、今は小物なども飾られ、ふわり、といい薫りがする。セグレタリー国の特産品である、お香が焚かれているのが見えた。

テーブルの上には赤い薔薇。きちんと整理され、清潔感あふれるお部屋だった。うちの双子ちゃんとは大違いだ。

ハルト様を見上げると、蕩けるような笑顔で私を見ていた。

「ルヴィ。会いたかった。元気だった?…キレイになったね、すごく」

俺のためなら嬉しいな、と耳元で囁かれカラダがビクンとする。「ふふ。可愛い」

ハルト様は私をソファに座らせると、紅茶を準備してくださった。それをぼんやりと眺めながら、ハッとする。

「あ、あの、ハルト様」

「なぁに、ルヴィ。はい、どうぞ」

そう言って私の前にカップを置くと、「あ、そうだ、ルヴィ。ちょっと来て」と私の手を引き歩き出す。指をからませられ、親指で手の甲をスリスリされる。ビクッとしたのが伝わったのか、振り返って「ルヴィの手、気持ちいい」と微笑んだ。硬さのある大きな手で私の手を引くハルト様は、そのまま寝室のドアを開けた。

「中に着替えを準備してあるから、制服脱いで。しわになっちゃうから。ハンガーも使ってね」

そう言って私を残しドアを閉めた。

展開についていけず茫然としていると、カチャリとドアが開き、顔を覗かせたハルト様が「手伝おうか?」と言う。その艶やかな笑顔にブンブンと首を横に振り、私は着替えることにした。

入学式はどうなったのだろう。

というか、私はなぜここで着替えているんだろう。

ハンガーにかかっていたのは、前をボタンで留めるピンク色のワンピースだった。私の好きなピンク色のガーベラの花弁に似た色。

ブレザーとブラウスを脱ぎ、ワンピースを着てスカートを脱いだ。ぴったりの大きさで驚く。膝丈が少し短く、太ももが見えるのが恥ずかしかった。

コンコン、とノックの音がして、外から「ルヴィ、できたら出てきて」とハルト様の声がする。ワンピースの下に準備してあった部屋履きに替えて寝室を出た。

ハルト様も制服から着替えて、白いブラウスと黒のズボン姿で立っていた。

「可愛い。大きさ大丈夫?」

コクリと頷く私を見て、ハルト様は私を抱き上げた。横抱きにしてソファに座り、私の髪に顔を埋める。

「ルヴィ、会いたかった。いい匂い」

そう言って、顔を上げると、私をじっと見つめた。

「あの、ハルト様」

「なぁに、ルヴィ」

「入学式は、」

「大丈夫だよ、事前に伝えてあるから。今日は、あのまま解散だし。ルヴィのことも、団長に伝えてある。週末で休みだから、今日と明日は泊まっていって」

「え?」

「着替えもすべて準備してあるから、安心して」

「あ、あの、ハルト様?」

「なぁに、ルヴィ」

「お泊まり、ですか?」

「うん。団長に許可とってあるから」

おばあ様、今朝私を見てニヤニヤしてたのはこれだったの!?

「あの、」

「大丈夫だよ、ルヴィ。ルヴィの純潔は守るから。卒業までは守るって約束したからね、アンジェ様と」

何だか話がよくわからない。

私を見てニコニコするハルト様。

「紅茶、どうぞ。飲みごろかな?」

そう言ってカップを口につけ、口に含んだハルト様はそのまま私に口づけた。

「!?」

ゆっくりとぬるい液体が口に流される。こぼさないように慌てて飲み込むと、ハルト様の舌が入ってきた。私の舌を優しく吸い上げる。

ビクッとする私をギュッと抱きしめ、髪の毛を優しく撫でたハルト様は、くちびるを離し、「ルヴィのキス、4年ぶりだね。甘い」と蕩けるような笑顔を見せる。

「あ、あの、ハルト様」

「なぁに、ルヴィ」

「先ほど、婚約者と…」

「そうだよ。ルヴィは俺の婚約者だから」

「でも、あの時、」

「あれは、俺がかけた誓約魔法による婚約を解消したの。あの後、ルヴィ、指輪を受け入れてくれたでしょ?俺以外、要らないって言ったよね」

「はい、…え?」

「父上と、約束したんだよ。騎士養成学校を出て魔術団に入り、国の利益になることを成し遂げたらルヴィと会っていいって。それまでは我慢しろって。ルヴィも頑張ってるって聞いたから、俺も頑張った」

「魔術団でのご活躍、お聞きしました。あのお香は、セグレタリー国のものですよね?」

「うん。さすがルヴィはよく勉強してるね。魔物の討伐をしながら、貿易の交渉もしてきたの。あの国は、大陸に囲まれてるから船で回るのが大変なんだけど、ダイヤモンドも取れるし他にもおもしろいものがたくさんあるからね。ルヴィ、これ」

ハルト様は先ほどはなかった箱をテーブルから取り、「プレゼントだよ。開けてみて」と言った。

開けると、中には赤い装飾品のついた細長い棒のようなものが入っていた。

「これは、簪っていって、この赤いのは珊瑚なんだ」

「珊瑚」

「うん。海の中の生き物。キレイでしょ?」

「はい、とても。ハルト様の瞳の色ですね」

「こうやって使うんだよ」

ハルト様は私を一度おろしソファに座らせると、自分は立ち上がって後ろに立った。

私の髪の毛をくるりとまとめる。

「あとでゆっくり教えるからね」

そう言ってまた手を繋ぎ、姿見の前に連れて言った。「見えるかな?」

「はい、キレイですね。髪を留めるものなんですね」

「そうなの。カーディナルにはない装飾でしょ。この珊瑚は、指輪とかネックレスにも加工されてるんだ。色も何種類かあるんだよ」

ハルト様は簪をスッと抜くと、またソファに私を横抱きに座った。

「ルヴィ、いい匂い。4年前にはあんまり感じなかった匂いがする」

「え、」

なにか匂うんだろうか、と慌てて自分を見ると、「ルヴィの雌の匂いだよ」と言って首筋に噛みついた。

はむはむと甘噛みされ、痺れるような快感がカラダを突き抜ける。

「ルヴィのエッチな匂い…たまらない」

「え、エッチ、」

「うん。エッチな匂いするよ」

「しません!」

「するよ」

そう言うとハルト様は、ワンピースのボタンを外し始めた。

「ハ、ハルト様!」

「大丈夫、全部外したりしないから。ルヴィ…」

そう言って私の左側の鎖骨の下を撫でる。

「シルシが出てる。俺だけに反応するシルシ」

ハルト様の指がスリスリと私の肌を撫で、その感触にきゅうっと胸が締め付けられる。

「キレイ。俺の色。俺のルヴィ」

そう言うとハルト様は、また私に口づけた。チュッ、チュッ、という音が響いて恥ずかしくなる。そのままハルト様はしばらくの間私のくちびるを離さなかった。
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