74 / 110
第五章
それぞれの再出発④(エカテリーナ視点)
しおりを挟む
「オーウェン…」
いきなり現れた弟にため息をつく。
「姉さん、いま植物魔法使ったの誰?」
「よぉ、オーウェン、久々だなぁ」
「あれ、サヴィオン兄さん。アンジェリーナ姉さんまで。どうしたの?なんでいるの?それより、今の誰?ケビンさんとおんなじ魔力の発現法だった…!」
部屋の中を見渡して、「キミ、」とルヴィア嬢を見たかと思うと、次の瞬間ルヴィア嬢の前に立っていた。
「僕があんなにお願いしても教えてもらえなかったのに!キミ、ケビンさんとどういう関係なのさ!」
「オーウェン、やめろ!」
いきなりのことに呆気にとられるルヴィア嬢の肩に、オーウェンが触れた…と思ったら、ガクリと膝をついた。
「…オーウェン?」
「ジークの呪いはすげぇなぁ…」
兄上を見ると、自分の左手薬指をさして「これだ」と言う。
「…誓約魔法」
「腐っても王族のオーウェンにこれだけダメージ与えるんだ。魔力が低いヤツがルヴィア嬢に触れたら下手したら昇天かもな」
ルヴィア嬢は何が起きたのかわからずに呆然として、目の前にへたりこむオーウェンを見る。
「ルヴィア嬢、愚弟が突然すまなかった」
「愚弟…」
「ああ、こいつは、私のふたつ下の弟で、オーウェン・エイベルという。キミの、というか、サムソン伯爵家の王都の執事、ケビン・レドモンドを、その…」
我が家は変質者が生まれやすい家系なのだろうか。
父上、母上はまともだったはずなのに。
「愛してやまない、変質者なんだ」
「カティ、言い方…」
「でも、それしか言い様がねぇよな。しばらく会わないから忘れてたが、こいつはジークと同じ匂いがする」
「とりあえず、起こしましょ」
というと姉様はオーウェンを水泡に入れた。
「姉様…」
「こうすればイヤでも目が覚めるでしょ」
少しすると、オーウェンが中からドンドン叩き出した。
水泡がパッと消える。
「ゲェッホ、ゲホッ、ちょっと!もう少し優しく起こしてよ!」
「だって変質者に触りたくないんだもの」
「僕は変質者じゃないから!」
「自覚がないって恐ろしいわねぇ」
「それより、」
オーウェンはキッとルヴィア嬢を睨むと、「キミ、なんてことするんだ!」と叫んだ。
兄上がすかさずオーウェンを拘束する。
「やったのはルヴィア嬢じゃねぇ、彼女から魔力発動してなかっただろ」
「…そういえば…」
オーウェンは拘束されたままルヴィア嬢をマジマジと見た。姉様がルヴィア嬢をかばうように立つ。
「オーウェン、貴方、自分より幼い子になんて態度なの」
睨み付けられ、とたんにシュンとする。
「ごめん、」
「私じゃないでしょ」
「…キミ、ごめんね」
「いえ、大丈夫です」
「キミ、誰なの」
「おまえが先に名乗れ!変質者め!」
「変質者じゃないから!…僕は、オーウェン・エイベルだ。キミは?」
「はじめまして、ルヴィア・サムソンでございます」
「サムソン?ケイトリンの?…あ、キミ、よく見たら見たことある!ケビンさんと、魔法の訓練してる子じゃん!」
「…オーウェン」
「なに、姉さん」
「見たことある、ってどこで見たんだ」
「サムソン伯爵家だよ」
「なんで見たことがあるんだ?」
「決まってるじゃない!ケビンさんを見てるからだよ、サムソン伯爵家で!隠れてるのに見つかっちゃうんだよね、ケビンさんには」
オーウェンはうっとりした顔になると、「見つかって、おしおきされるのが堪んないんだよね☆」と言った。
「オーウェン、おまえ、一昨日からいなかったのか?」
「うん、なんで?」
「一昨日、兄上が帰ってきたのに知らなかったんだろ」
「そうなの!実はさ、」
オーウェンは、顔を赤くすると嬉しそうに笑った。
「3日前から、ケビンさんに拘束されてたんだよ~☆また見つかっちゃってさぁ~☆
『貴方はほんとに何をしてるんですか、王族としての自覚をどこに置いてきたのですか、恥を知りなさい。陛下に申し訳ないと思わないのですか』って罵られた☆」
はぁ、ケビンさん、めっちゃカッコよかった!もっと罵ってほしい!3日間もケビンさんの部屋に閉じ込められて最高だったよ!たまらない匂いだった!けど手も足も拘束されてるから、自分で触れなくてさぁ、放置プレイ!最高!と次から次へ変態発言をするため、とりあえず姉上にルヴィア嬢を隔離してもらうことにした。ルヴィア嬢は、赤い顔でふらついていた。大丈夫だろうか…。
「…カティの言わんとすることはわかった」
「なになに?なんの話?」
動揺という言葉と一番縁遠いはずの兄上をここまで驚愕させるとは。そう言う意味ではオーウェンは大物かもしれない。
「継承権の話だ」
「カティ姉さん、早く結婚して」
「なぜそうなるんだ、どいつもこいつも!」
「僕は無理だよぉ。ケビンさんについていくんだから」
「…ついていく?」
「うん。あ、そうだ、姉さん!僕、お願いがあって。ケビンさんのとこにもう少しいたかったんだけど、早い方がいいからさ」
「なんだ」
「同性でも結婚できる法律を作って!」
「おまえは何を言い出すんだ!」
「ねぇ、サヴィオン兄さん」
「なんだ」
「他の国、同性婚認めてる国ないの?」
「興味がねぇからわからん」
「ちぇっ、筋肉バカめ」
サラリと暴言を吐いたオーウェンは、「でも、アキラの国があったとこでは、同性婚認めてる国があるって言ってた」と私を見て言った。
「なんで結婚したいんだ」
「そんなの決まってるでしょ、好きだからだよ」
「…ケビンの気持ちもあるだろう」
「好きになってもらえるように努力するから大丈夫だよ!」
さっき消えた変質者とまるっきり同じ種類の匂いがする。話がどんどん逸れていくので、無理矢理戻す。
「ケビンがいなくなるとはどういうことなんだ?」
「昨日、ケビンさんのところにジョージが来たんだよ」
せっかくの僕たちの逢瀬を邪魔してさぁ、とブチブチ言うが、いろいろおかしい。
「ジョージはケビンの兄だろ、ケビンさん、なら、ジョージさん、と呼ぶべきだ」
「あ、そうか。義兄さんって呼べばいいんだ」
兄上はオーウェンを放置することにしたらしく、座ってケーキを食べている。いつの間に出してもらったんだ、しかもあんなに大量に。
「カティ、ケイトリンと、サムソン辺境伯がお目通りしたいそうよ」
と姉上が戻ってきた。
「ふたり一緒ですか?」
「そう。一緒に来たみたい。辺境伯の顔が緩みっぱなしで怖くて見れなかったわ」
ルヴィちゃんのことは、一応ケイトリンにしらせたわよ。私の部屋にいてもらってるから、と言うと、「あ、サヴィオンずるい!私にも!」とケーキを奪って食べ始めた。
「たぶん、ケビンさんの話だよ」
そんなわけがない。
「とりあえず、入ってもらおう」
私は取り次ぎの者に合図をした。すぐにふたりが現れる。イヤそうな顔のケイトリンと、…その手を繋ぐサムソン辺境伯だ。
「…貴方。陛下の御前ですよ」
「わかった、我慢する」
どいつもこいつもなんなんだ、うちの男どもは…。
ケイトリンは片膝をつくと「陛下、お忙しいところありがとうございます」と言った。
「いい、楽にしてくれ。サムソン辺境伯、久しぶりだな。相変わらず素晴らしい仕事ぶりで、我が国の平和が守られていること、深く感謝する」
「もったいなきお言葉です」
「ふたりとも、座ってくれ。オーウェン、おまえも座れ」
お茶の準備をしてもらい、自分も席につく。さっきのジークのように辺境伯はケイトリンの椅子に自分の椅子をぴったりくっつけて座る。なぜだ。
「陛下、昨夜はヴィーをお預かりいただいて、ありがとうございました。ご迷惑はかけませんでしたか?」
「迷惑をかけたのはジークだ。申し訳ない」
「ねぇ、ケイトリン!ケビンさんの話でしょ?」
「オーウェン様、おはようございます。いろんなことの順番が、まだおわかりにならないのですか?もういくつにおなりでしたか?オーウェン様」
「おはよう、ケイトリン!辺境伯も!で、ケビンさんの話でしょ?」
ケイトリンはため息をつくと、「陛下」と私を見た。
「なんだ」
「昨夜、我が家で話し合いをしまして。ヴィーがいいならそれでいい、ということで落ち着きました」
「おっ、そうか!ありがとよ、ケイトリン!変質者を押し付けて申し訳ねぇなぁ。こっちから、きちんとした形で婚約の申し込みをする」
「サヴィオン様、ありがとうございます。ただ、」
ケイトリンは兄上を見ると心配そうな顔になった。
「サヴィオン様の息子であるジークフリート様は、やはりカーディナル魔法国の王族になるのですよね?」
「ああ、ケイトリン、あいつは昨夜からジークハルトになったんだ。名前、変えたんだよ」
「あんまり変わった気がしませんが、承りました」
「まぁ一応王族だが、なんか問題あるか?」
「いえ、その、ヴィーは将来王家に嫁ぐことになるのかとロレックスさんが」
溺愛モンスターにとっては死活問題なのだろう。
「いま、その継承権の話をしてたんだけどよ、オーウェンの野郎が煩くてなぁ。俺としては、俺自身が継承権を放棄するし、ジークもここに縛り付ける気はねぇから。むしろあの変質者は喜んで臣籍降下するんじゃねぇかな」
「そうですか」
ケイトリンはホッとしたように言うと、「オーウェン様、ケビンの話とはなんですか?」とオーウェンを見た。
「ケビンさん、辺境に行くんでしょ、って話だよ
」
「…なぜご存知なのですか」
「さっきまでケビンさんに拘束されてたから☆」
フヘヘ、と緩みきった顔になったオーウェンを諦めて私はケイトリンに尋ねた。
「ケビンが辺境に行くというのは…彼は、こちらの執事だろ?」
「ええ、そうなんですが、ジョージがどうしても王都に来たいと」
「ジョージは、辺境伯爵家の部隊の長だろう?そこはどうするんだ?」
「実力からすれば変わりませんので、ケビンを新たな長にするつもりです。幸い、行ったり来たりはありますし、ケビンもあちらで戦ってますから。部隊側としても受け入れないことはないかと」
「そうか。前からそんな話が出てたのか?」
「いえ、昨夜…急展開がありまして。私は知らなかったのですが、その…」
「なんだ」
「ジョージが、ヴィーの専属侍女を娶りたいと。ヴィーが王都にいるなら侍女も王都にいるわけだから、自分も王都に来たいと。今まで自分のことなんて二の次三の次だったジョージの口からそんな申し出があって驚きまして」
「ジョージが、こちらに来てたのは知らなかったな。彼ほどの魔力の移動があれば私も気づいたはずだが」
「いえ、来たのは昨夜遅くです」
「では、ルヴィア嬢の専属侍女があちらに移動してたのか?」
「いえ、マーサは…マーサというんですが、彼女はモンタリアーノ国からヴィーとともに来たので魔力はありません。移動もできませんし」
「ケイトリン…」
「はい」
「そのふたりは、どうやって、その…愛を育んだんだ?」
「育んではいないんです。ジョージがマーサに会ったのはヴィーとシーラが我が家に来た夜、ほんの何時間か。次の日、陛下とのお話が終わったあと、私がマーサを連れて王都の屋敷に移ってしまいましたので、その日ももし接触があったとしても数時間のはずです」
「しかし、先ほど娶りたいと言っていなかったか?」
「…ジョージが、一方的に、そうしたいと。ケビンはちょくちょく辺境に行ってジョージから話を聞いていたそうなんですが、」
「いや、わからない、わからないんだが、そもそもなぜいきなり結婚に結びつくんだ!」
我が国の行く末を思って、私は頭が痛くなった。
いきなり現れた弟にため息をつく。
「姉さん、いま植物魔法使ったの誰?」
「よぉ、オーウェン、久々だなぁ」
「あれ、サヴィオン兄さん。アンジェリーナ姉さんまで。どうしたの?なんでいるの?それより、今の誰?ケビンさんとおんなじ魔力の発現法だった…!」
部屋の中を見渡して、「キミ、」とルヴィア嬢を見たかと思うと、次の瞬間ルヴィア嬢の前に立っていた。
「僕があんなにお願いしても教えてもらえなかったのに!キミ、ケビンさんとどういう関係なのさ!」
「オーウェン、やめろ!」
いきなりのことに呆気にとられるルヴィア嬢の肩に、オーウェンが触れた…と思ったら、ガクリと膝をついた。
「…オーウェン?」
「ジークの呪いはすげぇなぁ…」
兄上を見ると、自分の左手薬指をさして「これだ」と言う。
「…誓約魔法」
「腐っても王族のオーウェンにこれだけダメージ与えるんだ。魔力が低いヤツがルヴィア嬢に触れたら下手したら昇天かもな」
ルヴィア嬢は何が起きたのかわからずに呆然として、目の前にへたりこむオーウェンを見る。
「ルヴィア嬢、愚弟が突然すまなかった」
「愚弟…」
「ああ、こいつは、私のふたつ下の弟で、オーウェン・エイベルという。キミの、というか、サムソン伯爵家の王都の執事、ケビン・レドモンドを、その…」
我が家は変質者が生まれやすい家系なのだろうか。
父上、母上はまともだったはずなのに。
「愛してやまない、変質者なんだ」
「カティ、言い方…」
「でも、それしか言い様がねぇよな。しばらく会わないから忘れてたが、こいつはジークと同じ匂いがする」
「とりあえず、起こしましょ」
というと姉様はオーウェンを水泡に入れた。
「姉様…」
「こうすればイヤでも目が覚めるでしょ」
少しすると、オーウェンが中からドンドン叩き出した。
水泡がパッと消える。
「ゲェッホ、ゲホッ、ちょっと!もう少し優しく起こしてよ!」
「だって変質者に触りたくないんだもの」
「僕は変質者じゃないから!」
「自覚がないって恐ろしいわねぇ」
「それより、」
オーウェンはキッとルヴィア嬢を睨むと、「キミ、なんてことするんだ!」と叫んだ。
兄上がすかさずオーウェンを拘束する。
「やったのはルヴィア嬢じゃねぇ、彼女から魔力発動してなかっただろ」
「…そういえば…」
オーウェンは拘束されたままルヴィア嬢をマジマジと見た。姉様がルヴィア嬢をかばうように立つ。
「オーウェン、貴方、自分より幼い子になんて態度なの」
睨み付けられ、とたんにシュンとする。
「ごめん、」
「私じゃないでしょ」
「…キミ、ごめんね」
「いえ、大丈夫です」
「キミ、誰なの」
「おまえが先に名乗れ!変質者め!」
「変質者じゃないから!…僕は、オーウェン・エイベルだ。キミは?」
「はじめまして、ルヴィア・サムソンでございます」
「サムソン?ケイトリンの?…あ、キミ、よく見たら見たことある!ケビンさんと、魔法の訓練してる子じゃん!」
「…オーウェン」
「なに、姉さん」
「見たことある、ってどこで見たんだ」
「サムソン伯爵家だよ」
「なんで見たことがあるんだ?」
「決まってるじゃない!ケビンさんを見てるからだよ、サムソン伯爵家で!隠れてるのに見つかっちゃうんだよね、ケビンさんには」
オーウェンはうっとりした顔になると、「見つかって、おしおきされるのが堪んないんだよね☆」と言った。
「オーウェン、おまえ、一昨日からいなかったのか?」
「うん、なんで?」
「一昨日、兄上が帰ってきたのに知らなかったんだろ」
「そうなの!実はさ、」
オーウェンは、顔を赤くすると嬉しそうに笑った。
「3日前から、ケビンさんに拘束されてたんだよ~☆また見つかっちゃってさぁ~☆
『貴方はほんとに何をしてるんですか、王族としての自覚をどこに置いてきたのですか、恥を知りなさい。陛下に申し訳ないと思わないのですか』って罵られた☆」
はぁ、ケビンさん、めっちゃカッコよかった!もっと罵ってほしい!3日間もケビンさんの部屋に閉じ込められて最高だったよ!たまらない匂いだった!けど手も足も拘束されてるから、自分で触れなくてさぁ、放置プレイ!最高!と次から次へ変態発言をするため、とりあえず姉上にルヴィア嬢を隔離してもらうことにした。ルヴィア嬢は、赤い顔でふらついていた。大丈夫だろうか…。
「…カティの言わんとすることはわかった」
「なになに?なんの話?」
動揺という言葉と一番縁遠いはずの兄上をここまで驚愕させるとは。そう言う意味ではオーウェンは大物かもしれない。
「継承権の話だ」
「カティ姉さん、早く結婚して」
「なぜそうなるんだ、どいつもこいつも!」
「僕は無理だよぉ。ケビンさんについていくんだから」
「…ついていく?」
「うん。あ、そうだ、姉さん!僕、お願いがあって。ケビンさんのとこにもう少しいたかったんだけど、早い方がいいからさ」
「なんだ」
「同性でも結婚できる法律を作って!」
「おまえは何を言い出すんだ!」
「ねぇ、サヴィオン兄さん」
「なんだ」
「他の国、同性婚認めてる国ないの?」
「興味がねぇからわからん」
「ちぇっ、筋肉バカめ」
サラリと暴言を吐いたオーウェンは、「でも、アキラの国があったとこでは、同性婚認めてる国があるって言ってた」と私を見て言った。
「なんで結婚したいんだ」
「そんなの決まってるでしょ、好きだからだよ」
「…ケビンの気持ちもあるだろう」
「好きになってもらえるように努力するから大丈夫だよ!」
さっき消えた変質者とまるっきり同じ種類の匂いがする。話がどんどん逸れていくので、無理矢理戻す。
「ケビンがいなくなるとはどういうことなんだ?」
「昨日、ケビンさんのところにジョージが来たんだよ」
せっかくの僕たちの逢瀬を邪魔してさぁ、とブチブチ言うが、いろいろおかしい。
「ジョージはケビンの兄だろ、ケビンさん、なら、ジョージさん、と呼ぶべきだ」
「あ、そうか。義兄さんって呼べばいいんだ」
兄上はオーウェンを放置することにしたらしく、座ってケーキを食べている。いつの間に出してもらったんだ、しかもあんなに大量に。
「カティ、ケイトリンと、サムソン辺境伯がお目通りしたいそうよ」
と姉上が戻ってきた。
「ふたり一緒ですか?」
「そう。一緒に来たみたい。辺境伯の顔が緩みっぱなしで怖くて見れなかったわ」
ルヴィちゃんのことは、一応ケイトリンにしらせたわよ。私の部屋にいてもらってるから、と言うと、「あ、サヴィオンずるい!私にも!」とケーキを奪って食べ始めた。
「たぶん、ケビンさんの話だよ」
そんなわけがない。
「とりあえず、入ってもらおう」
私は取り次ぎの者に合図をした。すぐにふたりが現れる。イヤそうな顔のケイトリンと、…その手を繋ぐサムソン辺境伯だ。
「…貴方。陛下の御前ですよ」
「わかった、我慢する」
どいつもこいつもなんなんだ、うちの男どもは…。
ケイトリンは片膝をつくと「陛下、お忙しいところありがとうございます」と言った。
「いい、楽にしてくれ。サムソン辺境伯、久しぶりだな。相変わらず素晴らしい仕事ぶりで、我が国の平和が守られていること、深く感謝する」
「もったいなきお言葉です」
「ふたりとも、座ってくれ。オーウェン、おまえも座れ」
お茶の準備をしてもらい、自分も席につく。さっきのジークのように辺境伯はケイトリンの椅子に自分の椅子をぴったりくっつけて座る。なぜだ。
「陛下、昨夜はヴィーをお預かりいただいて、ありがとうございました。ご迷惑はかけませんでしたか?」
「迷惑をかけたのはジークだ。申し訳ない」
「ねぇ、ケイトリン!ケビンさんの話でしょ?」
「オーウェン様、おはようございます。いろんなことの順番が、まだおわかりにならないのですか?もういくつにおなりでしたか?オーウェン様」
「おはよう、ケイトリン!辺境伯も!で、ケビンさんの話でしょ?」
ケイトリンはため息をつくと、「陛下」と私を見た。
「なんだ」
「昨夜、我が家で話し合いをしまして。ヴィーがいいならそれでいい、ということで落ち着きました」
「おっ、そうか!ありがとよ、ケイトリン!変質者を押し付けて申し訳ねぇなぁ。こっちから、きちんとした形で婚約の申し込みをする」
「サヴィオン様、ありがとうございます。ただ、」
ケイトリンは兄上を見ると心配そうな顔になった。
「サヴィオン様の息子であるジークフリート様は、やはりカーディナル魔法国の王族になるのですよね?」
「ああ、ケイトリン、あいつは昨夜からジークハルトになったんだ。名前、変えたんだよ」
「あんまり変わった気がしませんが、承りました」
「まぁ一応王族だが、なんか問題あるか?」
「いえ、その、ヴィーは将来王家に嫁ぐことになるのかとロレックスさんが」
溺愛モンスターにとっては死活問題なのだろう。
「いま、その継承権の話をしてたんだけどよ、オーウェンの野郎が煩くてなぁ。俺としては、俺自身が継承権を放棄するし、ジークもここに縛り付ける気はねぇから。むしろあの変質者は喜んで臣籍降下するんじゃねぇかな」
「そうですか」
ケイトリンはホッとしたように言うと、「オーウェン様、ケビンの話とはなんですか?」とオーウェンを見た。
「ケビンさん、辺境に行くんでしょ、って話だよ
」
「…なぜご存知なのですか」
「さっきまでケビンさんに拘束されてたから☆」
フヘヘ、と緩みきった顔になったオーウェンを諦めて私はケイトリンに尋ねた。
「ケビンが辺境に行くというのは…彼は、こちらの執事だろ?」
「ええ、そうなんですが、ジョージがどうしても王都に来たいと」
「ジョージは、辺境伯爵家の部隊の長だろう?そこはどうするんだ?」
「実力からすれば変わりませんので、ケビンを新たな長にするつもりです。幸い、行ったり来たりはありますし、ケビンもあちらで戦ってますから。部隊側としても受け入れないことはないかと」
「そうか。前からそんな話が出てたのか?」
「いえ、昨夜…急展開がありまして。私は知らなかったのですが、その…」
「なんだ」
「ジョージが、ヴィーの専属侍女を娶りたいと。ヴィーが王都にいるなら侍女も王都にいるわけだから、自分も王都に来たいと。今まで自分のことなんて二の次三の次だったジョージの口からそんな申し出があって驚きまして」
「ジョージが、こちらに来てたのは知らなかったな。彼ほどの魔力の移動があれば私も気づいたはずだが」
「いえ、来たのは昨夜遅くです」
「では、ルヴィア嬢の専属侍女があちらに移動してたのか?」
「いえ、マーサは…マーサというんですが、彼女はモンタリアーノ国からヴィーとともに来たので魔力はありません。移動もできませんし」
「ケイトリン…」
「はい」
「そのふたりは、どうやって、その…愛を育んだんだ?」
「育んではいないんです。ジョージがマーサに会ったのはヴィーとシーラが我が家に来た夜、ほんの何時間か。次の日、陛下とのお話が終わったあと、私がマーサを連れて王都の屋敷に移ってしまいましたので、その日ももし接触があったとしても数時間のはずです」
「しかし、先ほど娶りたいと言っていなかったか?」
「…ジョージが、一方的に、そうしたいと。ケビンはちょくちょく辺境に行ってジョージから話を聞いていたそうなんですが、」
「いや、わからない、わからないんだが、そもそもなぜいきなり結婚に結びつくんだ!」
我が国の行く末を思って、私は頭が痛くなった。
75
お気に入りに追加
8,285
あなたにおすすめの小説
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる