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第五章

モンタリアーノ国へ(エカテリーナ視点)

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ジークが崩れ落ちる。

何が、起きた?

剣が胸に刺さったままのジークを抱えると兄上は、「モンタリアーノ国に飛ぶぞ、カティ」と言って私の返事を待たずにジークごと消えた。

混乱する頭でとりあえず兄上を追うことを決めた私の視界に、自分の手を見つめてじっとたたずむルヴィア嬢の姿が映った。









姉様の魔力を探って飛んだ先で、…姉様とカイルセンがジークにすがり付いて泣いていた。

兄上は隣に立ったまま、何も言わない。体から滲み出る覇気に、その部屋にいるモンタリアーノ国の人間は固まって動けないようだった。

「サヴィオン、いったいどういうことなの!?」

怒りの形相で兄上を睨み付ける姉様の体からは怒気がふくれあがっている。その隣でカイルセンは、ジークをゆさぶり、「兄上!兄上!目を開けてください、兄上!」と泣き叫んでいた。

ジークはピクリとも動かない。

すると、ようやくこの部屋の主であるクズが、「いったいなんなんだ…っ」と怒鳴ったが、兄上の視線を受けてすぐに下を向いた。

「ジークは、自殺した」

その言葉に驚いて兄上を見ると、「黙ってろ」と口だけを動かす。

「自殺?自殺ですって!?そんなわけないじゃない、あんなに、あんなに喜んでいたのに…っ」

掴みかかる姉様をそのままに、「だからだ」と言うと、兄上はクズに目を向けた。

「おい、あんた」

「な、」

「俺はアンジェリーナの弟、サヴィオン・エイベルだ」

と言ったあとに、貴様になんぞ名乗るのももったいないがな、と吐き捨てた。

「なんだと…っ」

「あんたさぁ、」

兄上はツカツカとクズに近づくと襟を掴み上げた。

「ひ…っ」

たまらず悲鳴をあげるクズの足元が床から離れる。

「ジークが帰ってくるように、婚約者を勝手に選定したらしいな?」

「え、」

姉様が、キッとクズを睨み付ける。

「本当なの!?答えて!」

「何が悪い!さっさと帰ってきて、僕の補佐をするべきなのにいつまでも遊び歩きやがって!
コリンズ公爵の娘だぞ、落ちこぼれのあいつにはもったいなすぎる相手だろうが!ありがたく思え!」

周りを見ると、明らかに嫌そうな顔をした男がいる。あれがコリンズ公爵なのだろう。

「ジークはな、好いた女がいたんだ」

「だからなんだ、そんなの妾にでもすればいいだろう!次期国王なんだから、何人でも妾を作ればいいじゃないか!子どもを作るのは王族の義務だ!」

「あいつは、あんたと違って下半身でモノを考えられないんだよ、まともだからな」

いや、変質者ですけどね、ルヴィア嬢に関してはという突っ込みは自分だけの胸に留める。

「愛しい女を裏切るのはイヤだと、…自ら命を絶ったんだよ」

姉様は驚愕に目を見開くと、怒りを滲ませた目でクズを睨み付けた。

「あなた」

「なんだ…っ」

姉様は、クズを水泡に入れると、「ジークの苦しみを思いしれ」と言って、コリンズ公爵に向かい、「宰相」と言った。

「王妃陛下」

スッと頭を下げる男に、「承認はとれたわよね?」と言った。

「はい。すでに、お子様もお生まれですので…同い年の皇子が5人も」

まぁ、男児ばかりなんて優秀ねぇ~と言った姉様は、水泡を割った。

ゲホゲホむせりながら涙目で「おまえ…っ」と睨み付けるクズに、「息できたわね?」と言うと、また水泡に入れる。

「じゃあ、これで離縁は成立ね。お世話になりました」

「いえ、」

姉様はまた水泡を割り、むせるクズを踏みつけた。

「じゃ、そういうわけで。お幸せに、人殺しの国王陛下…あ、違ったわ」

そう言うと、蹴り飛ばして雷撃を喰らわせた。ずぶ濡れのお陰でさぞや通りがいいだろう。

ピクピク動くクズを心底嫌そうに見ると、「我が子殺しの能無し屑野郎」と言って、ジークの元に駆け寄る。

カイルセンは、ジークが動かないのを目の当たりにし呆然と座っていたが、姉様がジークを抱き上げて泣き出すとスクッと立ち上がりクズの元に歩いて行った。

「カ、カイル…!今日からはおまえが皇太子だ、嬉しいだろ?」

ありがたく思え!と笑うクズの、…顔を、踏みつけた。

「ギャッ」

「おい、腐れ野郎」

カイルセンの顔は怒りで真っ赤になっていた。

「ぼくが大人しくしてたのは、兄上のためだ。兄上が国王になったとき、少しでも手助けしたくて、モンタリアーノ国にいようと思っていたが、」

グリグリと顔を踏みつけ、「もうこんな国に用はない。兄上がいなければ意味がないんだ」とポツリと呟いた。

「お、おまえは、」

「出て行けるよ。ね、宰相」

コリンズ公爵を見据えるカイルセンの瞳に耐えきれなくなったのか、コリンズ公爵は目を反らし「カイルセン様の離脱も承認済みです」と言った。

「兄上がいれば、その承認も使うつもりなかったけど。もういないからね。貴様が殺したから。兄上を」

カイルセンはそう言ってクズの顎を蹴り上げた。いつの間に重力操作ができるようになったのか、6歳の蹴りではあり得ない距離を吹っ飛ばした。

「兄上…」

ボロボロと涙をこぼすと、「行きましょう、母上」と言って、ジークの体を持ち上げスッと消えた。

姉様は、兄上を睨み付けると、「貴方も赦さないわよ、サヴィオン。貴方の力ならジークを止められたはずなのに…っ」と嗚咽を洩らしながら消えた。

「モンタリアーノ国の宰相は、あんたか?」

兄上が呼び掛けると、コリンズ公爵はビクッとしながらも姿勢をただし、「左様です」と言って兄上を見た。

「とりあえず、なんて言っていいのかわからねぇが、邪魔したな」

と言って軽く頭を下げると、吹っ飛ばされて動かないクズの元に歩いていく。

そして何やら唱えると、…クズの左頬に、黒い稲妻のような模様が浮かび上がった。

「宰相さん、こっちにきてくれ。カティ、おまえも…そこにいる、あんたたちもきてくれ」と手招きする。

部屋にいるモンタリアーノ国の人間が恐る恐る近づくと、兄上は足でクズの顔を差して言った。

「これは、俺がかけた従属魔法だ」

「従属、魔法…?」

宰相が呟くと、「一国の主にこんなことするべきじゃねぇんだが、こいつだけは信用ならねぇからな」と言って、宰相に、「さっきの承認書を出してくれ」と言った。

宰相から書類を受けとると、兄上は、ほんのすこし、書類のはじを破いた。

「ギャッ」

途端、クズの顔にある模様から炎があがる。

青ざめる面々を見て、「この書類に何かあったら、こいつがこうなる。理解できたか?」と言った。

コクコクと蒼白な顔で頷く面々を満足そうに見ると、「今のは試しだから、サービスで治してやる」と言って、クズの顔の火傷を治した。

「あんたもわかったか?」

「こ、こんなことして…っ」

と喚くクズに、「ああ、そうそう」と言うと、髪の毛を掴み上げた。

「もし、あんたがカーディナル魔法国を侵略しようとした場合も同じことが起こるぜ」

「、でたらめを、」

「でたらめかどうかやってみろや。ついでに、オメーが関わってなくても、カーディナル魔法国に何かが起きたら顔、燃えるからな」

パッと手を離して立ち上がると、「じゃ、そういうことなんで」と言って、「…アンジェに怒られに帰るかぁ」と消えた。

独り残された私は、待ち受ける姉上の詰問を思い憂鬱な気持ちになる。いくら友好国だとは言え、今後は関係性がどうなるかわからないモンタリアーノ国にカーディナル魔法国のトップを置き去りにするなんて、まったく…姉様も兄上も…!!
愚痴りながらカーディナルに飛ぼうとすると、「女王陛下、お待ちください!!」とコリンズ公爵が私の腕を掴んだ。
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