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第五章
殿下との再会①
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一週間ほどカーディナル魔法国に滞在したお父様は、「ヴィー、また来るから!すぐに来るから!」と涙目になって私にしがみつき、お母様に引き剥がされた後、襟首を掴まれて消えた。
戻ってきたお母様は、「離縁届を記入してきた。私たちは、今日からサムソン姓だ」と少し寂しそうに笑った。
ルヴィア・サムソン。
前回の生も含めると24年間慣れ親しんだオルスタイン姓でなくなるのは、確かに寂しい。でも、今回はお父様もお母様も一緒だ。一人で閉じ籠っていた人生とはさよならだ。新しい再出発にはふさわしいのかもしれない。
お父様は、あの4ヶ月の間にすべてを整えていたらしく、一週間でカーディナル魔法国に戻ってきた。
「ヴィー、ただいま!寂しかったよ~」
と言って私に抱きつくお父様を、お母様とおばあ様は冷たい目で見ていた。
こちらで婚姻届を提出し、お父様も『ロレックス・サムソン』になった。「ヴィーとお揃いならなんでもいい!」と言って、お母様に叩かれていた。
「揉めなかったのか?」
「いや、まぁ…クズはごねてたよ。だけどもう、承認されちゃってるし、引き継ぎも済んでるし。離縁届出したら、『離縁されたから辞めるのか?女々しいな!』なんて嫌みを言ってきたけど、王妃陛下に『じゃ、早く貴方も離縁届を記入して私を自由にしてくださればいいのに。貴方は女々しくないのでしょ?』って言われて黙ってたよ。
引き継ぎも完璧にしたし、コリンズ前宰相が、息子の補佐として相談役という役職で戻ってくださったから安心だよ」
「そうか」
「あとは…ジークフリート皇子をどうするかだ。時が来るのを待つしかないけどね」
お父様はそう言って、おばあ様を見た。
「私は魔力がないので、瞬間移動もできません。それでご迷惑をおかけすることもあるでしょうが、よろしくお願いします」
「こちらこそ、ロレックスさん。来てくれてありがとう」
お父様とおばあ様は握手を交わした。
こうして、私たちはカーディナル魔法国で生活を始めた。
お父様は、カーディナル魔法国の興産大臣兼学術大臣に任命された。
「義母上、魔術団にいるあのアキラ君は面白いですね」
「ヴィーちゃんとは違うけど、前世の記憶があるからね」
「ニッポン、という国だそうですね。彼の話を元にして、学校を作ってみることにしました」
「今までの学校とは違うのですか、お父様」
「カーディナル魔法国は、貴族だけが入る学園と平民が入る魔術師養成学校があって、どちらも15歳…16歳になる年から、3年間なんだ。貴族の学園に関しては、モンタリアーノ国と同じだね。
貴族の場合は幼い時から家庭教師がついたりして様々なことを学んだ上で入るから、顔を覚えてもらったり親交を深めたりすることが主だろう?」
「そうですね、試験もありますが今まで個人で学んできたことの確認が大部分を占めていました」
「でも、平民が入る魔術師養成学校は、魔法の使い方もそうだけど、読み書きができなかったり、数の概念…例えば50%の出力、とかそういうことをわからない人間のほうが多くて、魔法の練度がなかなか思うように上がらないらしい。
基本をわかっていると応用もきくから、まずはそこを変えるといいんじゃないかと」
「確かにロレックスさんの言う通り、魔術団に入ってくる子たち、差がありすぎるのよね。魔力量は同じくらいなのに言われていることが理解できなくて、うまく使いこなせない子がいる。」
幼い時の学びということなのね、と言うおばあ様に、「ええ。我々は貴族に生まれて当たり前に受けてきた教育も、平民ではなかなか難しい。それがわかったことはとても大きな収穫です」とお父様は答えた。
「魔術団に入らない平民の方はどのような学校に行っているのですか?」
「基本的に通うことはないらしい」
「学びの場がないのですか?」
「ヴィーは、モンタリアーノ国にいたときに僕の兄が治めている領地に行ったことはあったかい?」
「いえ、前回は行ったことはありませんでした」
「領地は、貴族によって規模も領民の数も産業も異なるけど、たとえば代々農民の家に学校に通えとは言わないだろうね」
「なぜですか?」
「何に役立つのかわからない勉強に時間を割くより、畑を耕したほうがいいと思うからさ。
だけどね。アキラ君が言うには、農作業にも勉強は必要だと」
「農作業の勉強…」
「昔から育ててる作物をなんの疑問も持たずにただ作っているのと、自分の土地の特性を知ってその土地に合った作物を育てるのとでは、収穫量がまったく変わってくる。
季節や天候に合わせたり、作物を組み合わせて品種改良したり、土地の栄養を変えたり…そういうことを国を上げてやるのはどうかって」
「確かに、ただやってるのと、考えて試しながらでもやるのとでは効率なんかも変わってきそうねぇ」
おばあ様は考えるように言うと、「じゃあ、魔術団養成学校も中身を変えるの?」とお父様に尋ねた。
「いえ、養成学校を変えるのではなく、幼い…だいたい10歳くらいを目安に、平民でも貴族でも年齢さえ合えば入れる初等部学園を作ったらどうかと」
「でも、入るにはお金がかかるのでしょう?平民だとなかなか通わせられないのでは?」
「アキラ君が言うには、ニッポンの小学校、中学校という学園は義務教育と言って、親は必ず子どもをその学校に入れる、ただしほぼ無償で通わせることができるらしいんだよ」
「財源はどうするのかしら?」
「そこなんですよねぇ…」
お父様の仕事のお話を聞けるのはとても楽しかった。世の中の仕組みを知ることは、自分の世界を広げるために必要なことなのだと実感する。
お父様も生き生きして楽しそうだった。
戻ってきたお母様は、「離縁届を記入してきた。私たちは、今日からサムソン姓だ」と少し寂しそうに笑った。
ルヴィア・サムソン。
前回の生も含めると24年間慣れ親しんだオルスタイン姓でなくなるのは、確かに寂しい。でも、今回はお父様もお母様も一緒だ。一人で閉じ籠っていた人生とはさよならだ。新しい再出発にはふさわしいのかもしれない。
お父様は、あの4ヶ月の間にすべてを整えていたらしく、一週間でカーディナル魔法国に戻ってきた。
「ヴィー、ただいま!寂しかったよ~」
と言って私に抱きつくお父様を、お母様とおばあ様は冷たい目で見ていた。
こちらで婚姻届を提出し、お父様も『ロレックス・サムソン』になった。「ヴィーとお揃いならなんでもいい!」と言って、お母様に叩かれていた。
「揉めなかったのか?」
「いや、まぁ…クズはごねてたよ。だけどもう、承認されちゃってるし、引き継ぎも済んでるし。離縁届出したら、『離縁されたから辞めるのか?女々しいな!』なんて嫌みを言ってきたけど、王妃陛下に『じゃ、早く貴方も離縁届を記入して私を自由にしてくださればいいのに。貴方は女々しくないのでしょ?』って言われて黙ってたよ。
引き継ぎも完璧にしたし、コリンズ前宰相が、息子の補佐として相談役という役職で戻ってくださったから安心だよ」
「そうか」
「あとは…ジークフリート皇子をどうするかだ。時が来るのを待つしかないけどね」
お父様はそう言って、おばあ様を見た。
「私は魔力がないので、瞬間移動もできません。それでご迷惑をおかけすることもあるでしょうが、よろしくお願いします」
「こちらこそ、ロレックスさん。来てくれてありがとう」
お父様とおばあ様は握手を交わした。
こうして、私たちはカーディナル魔法国で生活を始めた。
お父様は、カーディナル魔法国の興産大臣兼学術大臣に任命された。
「義母上、魔術団にいるあのアキラ君は面白いですね」
「ヴィーちゃんとは違うけど、前世の記憶があるからね」
「ニッポン、という国だそうですね。彼の話を元にして、学校を作ってみることにしました」
「今までの学校とは違うのですか、お父様」
「カーディナル魔法国は、貴族だけが入る学園と平民が入る魔術師養成学校があって、どちらも15歳…16歳になる年から、3年間なんだ。貴族の学園に関しては、モンタリアーノ国と同じだね。
貴族の場合は幼い時から家庭教師がついたりして様々なことを学んだ上で入るから、顔を覚えてもらったり親交を深めたりすることが主だろう?」
「そうですね、試験もありますが今まで個人で学んできたことの確認が大部分を占めていました」
「でも、平民が入る魔術師養成学校は、魔法の使い方もそうだけど、読み書きができなかったり、数の概念…例えば50%の出力、とかそういうことをわからない人間のほうが多くて、魔法の練度がなかなか思うように上がらないらしい。
基本をわかっていると応用もきくから、まずはそこを変えるといいんじゃないかと」
「確かにロレックスさんの言う通り、魔術団に入ってくる子たち、差がありすぎるのよね。魔力量は同じくらいなのに言われていることが理解できなくて、うまく使いこなせない子がいる。」
幼い時の学びということなのね、と言うおばあ様に、「ええ。我々は貴族に生まれて当たり前に受けてきた教育も、平民ではなかなか難しい。それがわかったことはとても大きな収穫です」とお父様は答えた。
「魔術団に入らない平民の方はどのような学校に行っているのですか?」
「基本的に通うことはないらしい」
「学びの場がないのですか?」
「ヴィーは、モンタリアーノ国にいたときに僕の兄が治めている領地に行ったことはあったかい?」
「いえ、前回は行ったことはありませんでした」
「領地は、貴族によって規模も領民の数も産業も異なるけど、たとえば代々農民の家に学校に通えとは言わないだろうね」
「なぜですか?」
「何に役立つのかわからない勉強に時間を割くより、畑を耕したほうがいいと思うからさ。
だけどね。アキラ君が言うには、農作業にも勉強は必要だと」
「農作業の勉強…」
「昔から育ててる作物をなんの疑問も持たずにただ作っているのと、自分の土地の特性を知ってその土地に合った作物を育てるのとでは、収穫量がまったく変わってくる。
季節や天候に合わせたり、作物を組み合わせて品種改良したり、土地の栄養を変えたり…そういうことを国を上げてやるのはどうかって」
「確かに、ただやってるのと、考えて試しながらでもやるのとでは効率なんかも変わってきそうねぇ」
おばあ様は考えるように言うと、「じゃあ、魔術団養成学校も中身を変えるの?」とお父様に尋ねた。
「いえ、養成学校を変えるのではなく、幼い…だいたい10歳くらいを目安に、平民でも貴族でも年齢さえ合えば入れる初等部学園を作ったらどうかと」
「でも、入るにはお金がかかるのでしょう?平民だとなかなか通わせられないのでは?」
「アキラ君が言うには、ニッポンの小学校、中学校という学園は義務教育と言って、親は必ず子どもをその学校に入れる、ただしほぼ無償で通わせることができるらしいんだよ」
「財源はどうするのかしら?」
「そこなんですよねぇ…」
お父様の仕事のお話を聞けるのはとても楽しかった。世の中の仕組みを知ることは、自分の世界を広げるために必要なことなのだと実感する。
お父様も生き生きして楽しそうだった。
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