47 / 110
皇太子サイド
叔母上との話①
しおりを挟む
「叔母上!!」
母上の言葉に心底焦っていた俺は、叔母上の魔力の場所に直接飛んでしまった。
「ジーク…?」
訝しげに俺を見る叔母上に話をしようと口を開きかけたとき、叔母上が手を握る人物に気がついた。
「…申し訳ありません、お客様がいらっしゃるのに」
とんだ失態に思わず下を向くと、「ジーク、こっちに来い」とリッツさんに腕を掴まれる。
リッツさんは、叔母上の前に立っている女性に向かって「団長」と呼び掛けた。団長は、リッツさんでは…ここも、以前と変わってるのか?
いくつかやり取りをしたリッツさんは、あたふたと俺の腕を掴んだまま飛んだ。
「あー…怖かった…」
魔術団の団長室に飛んだリッツさんは、真っ青な顔で呟く。そして、ハッとした様子で「片付けないとマズイ…埋められる…!」と言って、アキラさんを呼んだ。
「どうしました?」
「アキラ、とりあえず片すの手伝ってくれ!」
「日頃から言ってるじゃないですか、片付けてくださいって!無視してたくせに、今頃なんですか!
…あれ?ジーク君?戻ってきたの?」
「そうだ、ジーク、おまえ」
リッツさんはジロリと俺を見て「その魔力はなんだ!?」と言った。
「…何かおかしいですか」
「おかしいも何も、おまえ自分でわからないのか?」
そう言われても違和感はない。
黙っていると、叔母上も現れた。
「エカたん、じゃなかった、陛下!」
と言って片膝をついてリッツさんは叔母上を見上げる。
「とりあえず、ケイトリンは帰った。王都に移動してくるそうだから、もう少ししたら辺境伯を領地に戻す。
実質4日しかない、がんばれよ、リッツ」
それを聞いて涙目になるリッツさんを横目に、叔母上が俺を見て言った。
「ジーク、たった2週間かそこらで、その魔力はなんだ?どうやってそんなふうになった?まだおまえ、特性を利用した魔法を使ったことなどなかっただろう」
叔母上の鋭い視線が突き刺さる。…自分の中の魔力の変化なんてまったく感じなかった。記憶だけじゃなく、魔力もそのままここに戻ってきたのか。
「叔母上」
「なんだ」
「なぜ魔力が変わっているのか、…思い当たることはあります。でも、」
「いいか、ジーク」
叔母上は真剣な顔で俺を見た。
「おまえがさっき飛んできたとき、下手したら捕縛されていたかもしれないんだぞ」
意外な言葉に驚いて叔母上を見ると、先ほどの鋭い視線のままで続ける。
「おまえの魔力は、今、まったく違うものになっている。しかも強大だ。それがいきなり、カーディナルのトップの元に現れるんだぞ。
脅威と捉えられても文句は言えん」
「…申し訳ありません」
「謝罪はいい。理由を言え」
「…叔母上」
今までみたことのない、為政者の顔の叔母上がそこにいた。ごまかすのは得策ではない、と思い俺は正直に話すことにした。
「信じてもらえない話だと思います」
「…その前置き、先ほど聞いたばかりだ…」
叔母上の声は小さくて俺には聞こえなかった。
「俺は、18歳の時に死んで、気付いたら5歳に戻っていたんです。たぶん、俺の中の魔力はその18歳の時のものだと…叔母上?」
天を仰ぐ叔母上を見て、リッツさんが「ジーク、おまえ嘘つくにも限度ってもんがあるだろ!」と怒鳴る。
「違う、リッツ。違うんだ」
「エカ、いや、陛下?」
「ジーク」
「…はい」
「ここではなく、私の執務室で話を聞く。
リッツ、アキラ、おまえたちも来い」
そう言うと叔母上は、俺の腕を掴んで飛んだ。
執務室にリッツさんとアキラさんも着くと、「座れ」と椅子を勧められる。
「おまえたちも座れ」
「ですが、」
戸惑うアキラさんに「いいから座れ」と言う。
おどおどした様子で席についたアキラさんは、「陛下」と叔母上を呼ぶ。
「なんだ」
「…団長は、ともかく。僕はここにいるべきではないのでは」
「アキラ、おまえは前世の記憶を持っているな」
「…はい」
「ジークも、そういうことらしい。ただし、おまえと違うのは同じ人間に戻ってやり直してるということだ」
叔母上の端的すぎる説明にリッツさんとアキラさんはポカンとする。
「だからアキラにも、」
「いやいやいやいや、ちょっと待って、…ください、陛下!」
「なんだ、リッツ」
「いや、そんな、荒唐無稽な話を信じるんですか!?18歳で死んで、戻ってきたなんて!」
「じゃあ、この魔力の変容をどう説明するんだ、おまえは。実際に変化してるのはわかるだろう。たった2週間かそこらで、こんなふうに研ぎ澄まされた魔力にどうやったらできる?
ジークはまだ5歳、しかも、ようやく自分の魔力を制御できるようになったところだったんだぞ」
「それは…」
リッツさんがグッと詰まると、「それとな」と叔母上が続ける。
「先ほど…ケイトリンから同じような話を聞いたばかりなんだ」
「…団長から?」
「ケイトリンって…リッツ団長の前の団長ですよね、めっちゃ怖い…」
「5日後から、彼女が団長に戻る」
ええっ!!と声を上げたアキラさんは、憐れむような目をリッツさんに向けた。
「…なんだ、アキラ。何か言いたそうだな?」
いい笑顔でアキラさんの肩を掴むリッツさんに、「痛い!やめて!痛いから!」と叫ぶアキラさん。
叔母上は、パンッと手を叩くと、「後で存分にやれ。続けるぞ」と言った。
「ジーク」
「…はい」
叔母上の体から、パリパリと言う音とともに火花のようなものが漏れ出す。ものすごい威圧感を漂わせる叔母上を見て何事かと目を剥くと、
「おまえ…女の子の髪の毛を引っ張りあげたり、突き飛ばしたり、足で踏みつけたりしたというのは…事実か?」
母上の言葉に心底焦っていた俺は、叔母上の魔力の場所に直接飛んでしまった。
「ジーク…?」
訝しげに俺を見る叔母上に話をしようと口を開きかけたとき、叔母上が手を握る人物に気がついた。
「…申し訳ありません、お客様がいらっしゃるのに」
とんだ失態に思わず下を向くと、「ジーク、こっちに来い」とリッツさんに腕を掴まれる。
リッツさんは、叔母上の前に立っている女性に向かって「団長」と呼び掛けた。団長は、リッツさんでは…ここも、以前と変わってるのか?
いくつかやり取りをしたリッツさんは、あたふたと俺の腕を掴んだまま飛んだ。
「あー…怖かった…」
魔術団の団長室に飛んだリッツさんは、真っ青な顔で呟く。そして、ハッとした様子で「片付けないとマズイ…埋められる…!」と言って、アキラさんを呼んだ。
「どうしました?」
「アキラ、とりあえず片すの手伝ってくれ!」
「日頃から言ってるじゃないですか、片付けてくださいって!無視してたくせに、今頃なんですか!
…あれ?ジーク君?戻ってきたの?」
「そうだ、ジーク、おまえ」
リッツさんはジロリと俺を見て「その魔力はなんだ!?」と言った。
「…何かおかしいですか」
「おかしいも何も、おまえ自分でわからないのか?」
そう言われても違和感はない。
黙っていると、叔母上も現れた。
「エカたん、じゃなかった、陛下!」
と言って片膝をついてリッツさんは叔母上を見上げる。
「とりあえず、ケイトリンは帰った。王都に移動してくるそうだから、もう少ししたら辺境伯を領地に戻す。
実質4日しかない、がんばれよ、リッツ」
それを聞いて涙目になるリッツさんを横目に、叔母上が俺を見て言った。
「ジーク、たった2週間かそこらで、その魔力はなんだ?どうやってそんなふうになった?まだおまえ、特性を利用した魔法を使ったことなどなかっただろう」
叔母上の鋭い視線が突き刺さる。…自分の中の魔力の変化なんてまったく感じなかった。記憶だけじゃなく、魔力もそのままここに戻ってきたのか。
「叔母上」
「なんだ」
「なぜ魔力が変わっているのか、…思い当たることはあります。でも、」
「いいか、ジーク」
叔母上は真剣な顔で俺を見た。
「おまえがさっき飛んできたとき、下手したら捕縛されていたかもしれないんだぞ」
意外な言葉に驚いて叔母上を見ると、先ほどの鋭い視線のままで続ける。
「おまえの魔力は、今、まったく違うものになっている。しかも強大だ。それがいきなり、カーディナルのトップの元に現れるんだぞ。
脅威と捉えられても文句は言えん」
「…申し訳ありません」
「謝罪はいい。理由を言え」
「…叔母上」
今までみたことのない、為政者の顔の叔母上がそこにいた。ごまかすのは得策ではない、と思い俺は正直に話すことにした。
「信じてもらえない話だと思います」
「…その前置き、先ほど聞いたばかりだ…」
叔母上の声は小さくて俺には聞こえなかった。
「俺は、18歳の時に死んで、気付いたら5歳に戻っていたんです。たぶん、俺の中の魔力はその18歳の時のものだと…叔母上?」
天を仰ぐ叔母上を見て、リッツさんが「ジーク、おまえ嘘つくにも限度ってもんがあるだろ!」と怒鳴る。
「違う、リッツ。違うんだ」
「エカ、いや、陛下?」
「ジーク」
「…はい」
「ここではなく、私の執務室で話を聞く。
リッツ、アキラ、おまえたちも来い」
そう言うと叔母上は、俺の腕を掴んで飛んだ。
執務室にリッツさんとアキラさんも着くと、「座れ」と椅子を勧められる。
「おまえたちも座れ」
「ですが、」
戸惑うアキラさんに「いいから座れ」と言う。
おどおどした様子で席についたアキラさんは、「陛下」と叔母上を呼ぶ。
「なんだ」
「…団長は、ともかく。僕はここにいるべきではないのでは」
「アキラ、おまえは前世の記憶を持っているな」
「…はい」
「ジークも、そういうことらしい。ただし、おまえと違うのは同じ人間に戻ってやり直してるということだ」
叔母上の端的すぎる説明にリッツさんとアキラさんはポカンとする。
「だからアキラにも、」
「いやいやいやいや、ちょっと待って、…ください、陛下!」
「なんだ、リッツ」
「いや、そんな、荒唐無稽な話を信じるんですか!?18歳で死んで、戻ってきたなんて!」
「じゃあ、この魔力の変容をどう説明するんだ、おまえは。実際に変化してるのはわかるだろう。たった2週間かそこらで、こんなふうに研ぎ澄まされた魔力にどうやったらできる?
ジークはまだ5歳、しかも、ようやく自分の魔力を制御できるようになったところだったんだぞ」
「それは…」
リッツさんがグッと詰まると、「それとな」と叔母上が続ける。
「先ほど…ケイトリンから同じような話を聞いたばかりなんだ」
「…団長から?」
「ケイトリンって…リッツ団長の前の団長ですよね、めっちゃ怖い…」
「5日後から、彼女が団長に戻る」
ええっ!!と声を上げたアキラさんは、憐れむような目をリッツさんに向けた。
「…なんだ、アキラ。何か言いたそうだな?」
いい笑顔でアキラさんの肩を掴むリッツさんに、「痛い!やめて!痛いから!」と叫ぶアキラさん。
叔母上は、パンッと手を叩くと、「後で存分にやれ。続けるぞ」と言った。
「ジーク」
「…はい」
叔母上の体から、パリパリと言う音とともに火花のようなものが漏れ出す。ものすごい威圧感を漂わせる叔母上を見て何事かと目を剥くと、
「おまえ…女の子の髪の毛を引っ張りあげたり、突き飛ばしたり、足で踏みつけたりしたというのは…事実か?」
142
お気に入りに追加
8,310
あなたにおすすめの小説


義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です
葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。
王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。
孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。
王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。
働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。
何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。
隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。
そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。
※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。
※小説家になろう様でも掲載予定です。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

ワケあってこっそり歩いていた王宮で愛妾にされました。
しゃーりん
恋愛
ルーチェは夫を亡くして実家に戻り、気持ち的に肩身の狭い思いをしていた。
そこに、王宮から仕事を依頼したいと言われ、実家から出られるのであればと安易に引き受けてしまった。
王宮を訪れたルーチェに指示された仕事とは、第二王子殿下の閨教育だった。
断りきれず、ルーチェは一度限りという条件で了承することになった。
閨教育の夜、第二王子殿下のもとへ向かう途中のルーチェを連れ去ったのは王太子殿下で……
ルーチェを逃がさないように愛妾にした王太子殿下のお話です。

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。
そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。
相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。
トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。
あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。
ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。
そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが…
追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。
今更ですが、閲覧の際はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる