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第三章
魔力の目覚め
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誰かが私を呼ぶ声がする。温かくて、ゆらゆらして…とても心地好い。まだ目覚めたくない。この心地好さをまだ味わいたい…。
「ヴィーちゃん!」
ハッと目が覚めると、おばあ様が目の前にいるが…なんだか、視界がゆらゆらしていてぼやけて見える。
「ヴィーちゃん、私の声、聞こえるかしら?」
コクリと頷くと、おばあ様は「良かった」と言って微笑んだ。
「おばあ様、」
自分の声が普段と違って聞こえる。耳に手を当てようとしたとき、視界が変わって温かい何かに包まれる。
「ヴィーちゃん、大丈夫そうね」
おばあ様がギュッと抱き締めた。「どこか痛いところはない?今乾かしたから濡れてる不快感はないと思うんだけど」と言いながら私の髪を撫でる。
「おばあ様、私、」
「ヴィーちゃん」
おばあ様は私を抱き締めながら「魔力が発現したわ」と言った。
「…え?」
思わず顔を見上げた私に満面の笑みを向けて「ヴィーちゃん!!おめでとう!そして、ありがとう!最高だわ!」と叫んだ。
「お、おばあ様、」
「あら、ごめんなさい。興奮しすぎたわ」
つい嬉しくて、と言うとおばあ様は、「さっき、ヴィーちゃんは話の途中で気を失ってしまったのよ」と言って、私を立たせる。
「大丈夫?ひとりで立てるかしら?」
おばあ様が手を離すと途端に身体がぐにゃりとする。
「まだダメそうね」
と言うと、私を横抱きにして歩きだした。
「お、ばあ様」
「急に魔力を放出したせいで、身体が疲れてしまったの。回復できるように、水泡に入れたんだけど」
その時、私のお腹がキュルルと鳴った。
「フフフ、まずは何か食べましょう!」
私はコクリと頷いた。
温かいポタージュスープと、トーストしたパンに蜂蜜、それにこれまた温かいゆで卵。とても美味しくて、どんどん食べる。
「ヴィーちゃん、これも食べて」
おばあ様がイチゴがたくさん載ったお皿を目の前に置く。甘くてとても美味しい。
私が食べる様子を見てニコニコするおばあ様。「たくさん食べてね!すごく消耗してるから!」と言うおばあ様に、とりあえず首を縦に振るだけの返事をして食べ続けた。
ようやくお腹が落ち着くと、すかさず現れたケビンさんが「お嬢様、どうぞ」と紅茶を淹れてくれる。
「ありがとうございます」
カップを手にとると、フワリといい香りがした。
「ヴィーちゃん、さっき話してたことなんだけど、どこまで覚えてる?」
「皇太子殿下を、だいっきらいと言ったところです」
「そう。そのあともいろいろ言ってたわよ。
あんたが私をキライなように、私だってあんたなんかだいっきらいなのよ!って」
「えっ!?」
「フフフ、冗談よ」
ウインクするおばあ様は急に真剣な顔になった。
「ヴィーちゃん。あなた、我慢しすぎたのよ」
「我慢、」
「そう。あのね。一番最初の顔合わせの時は、確かに怖かったんでしょう。だけど、それを自分の中で消化することもできず、誰にも相談もできず、殻を作ってひたすら閉じ籠っちゃったのね。
さっきみたいに、ふざけんな!って言ってたらまた違ってたはずよ」
「おばあ様、私、ふざけんなとは言っていません」
おばあ様はちょっとだけポカンとしたあと、大声で笑いだした。
「そうそう、その調子よ!!そうやって、自分の気持ちを言葉にするのよ!!
何でも言えばいいわけではないだろうけど、自分がやられてイヤだったり不快だったりしたら、それを相手に伝えないと。
やられっぱなしじゃ、前のヴィーちゃんと同じになっちゃうわよ?」
おばあ様は私の隣に座ると、頭を撫でた。
「同じ人生にならないように、皇太子殿下から逃げ続けるのもひとつの方法ではある。それは私も認めるわ。でもね」
私の身体を椅子ごと自分の方に向けると、おばあ様は挑発するような顔になって言った。
「誰かの顔色を伺いながら生きて、他人にビクビクしながら怯えて暮らすことは、ヴィーちゃんの望む人生なの?」
…私を薄く覆っていた、以前の私がパリンと割れた。そうだ。私は、人生をやり直したいと願い、それを叶えてもらったから今ここにいるんだ。
あの時、…崖から突き落とされ命が閉じる瞬間。
もう、逃げない。
そう誓ったのだ。
お父様とお母様がカーディナル魔法国に私を移動させてくれたのは、妃候補から逃れるため。でも、それだけではダメだ。
いつまでも、皇太子殿下にやられたことで萎縮していては、
「おばあ様」
「なあに、ヴィーちゃん」
「私、もう逃げません。皇太子殿下を避けて、ビクビクしながら生きていくのは止めます」
「その意気よ!ヴィーちゃん!」
「皇太子殿下は、まだこちらにいらっしゃるのですか?」
「なぜ?」
「今から会って、」
「ダメ~」
「え?」
てっきり「よし、行きましょう!!」と言ってくれるものだと思っていたおばあ様の言葉に拍子抜けする。
「なぜ、ですか」
「ヴィーちゃん」
「はい」
「ヴィーちゃんは見た目は5歳だけど、中身は18歳ね?」
「…はい?」
「皇太子殿下に、突然会って、『よくもやってくれたわね!』って言うの?
貴女は知っていても、皇太子殿下からしたら何を言われているかわからないのではないかしら」
「それは…」
「それともうひとつ。ヴィーちゃんは、先ほど言ったように魔力が発現したの。でもまだ不安定だわ。
通常、貴族クラスの子どもは10歳前後に魔力を発現させる訓練を始めるの」
「はい、そのようにお母様から聞きました」
「私も初めてのケースだから推測でしかないんだけど、ヴィーちゃんの中には自覚していなかったけれども存在していた以前の魔力があって、それが今回気持ちの昂りとともに一緒に発現したのではないかと思うのよ」
だけど、体は5歳だから、今体の中にある魔力をうまく使えるようになるには時間がかかると思う、とおばあ様は言った。
「だから、その訓練をしましょう。まさかこんなふうになるとは思わなくて、団長に戻ります!って言ってしまったことを軽く後悔しているんだけど」
おばあ様は、そう言いながらも満面の笑みだった。
「おばあ様が見れるときはもちろん一緒に訓練する。ヴィーちゃんはまだ魔術団の訓練に参加できないから、おばあ様が仕事のときは、ケビンに見てもらいましょう」
「ケビンさんに、ですか」
「ええ。ヴィーちゃんはケビンと同じで植物の特性が強いわ。ケビンは植物魔法を使いこなす天才だから、ヴィーちゃんのいい先生になってくれる」
「おばあ様、あの」
「なぁに?」
「私、こちらに来る前にお父様から言われたことがありまして」
うん?と首を傾げるおばあ様に、
「…おじい様に、剣を教えてもらってはどうか、」
「ダメ。無理。ヴィーちゃんには会わせないわ」
「お、」
「あのクズのせいで私はヴィーちゃんにずっと会えなかったの。わざとヴィーちゃんの部屋まで作ってみせたのに、あいつは知らんぷりだったの。
絶対に絶対に絶対に絶対に会わせないわ。少なくとも、あいつが自分の非を認めてシーラと私に謝るまでは絶対に会わせないわ」
でも謝るなんてできないだろうから、ヴィーちゃんとは一生会えないかもね!ザマーミロ!と叫び高笑いするおばあ様の顔は物語で見る悪魔のようだった。
ひとしきり嗤った後、おばあ様は私を見ると、「剣も学びたいなら、それもケビンに先生になってもらいましょう」と言った。
「ケビンさんに、そんなにお時間をいただいていいのでしょうか?」
「いいのよ~。むしろ嬉しいと思うわ、可愛い生徒ができて!」
「でも、お仕事が、」
「マーサという心強い存在がいるから大丈夫よ!」
おばあ様はそう言うと「ケビン!」と呼んだ。
「かしこまりました」
まだ何も言ってないのに?と思う私にニコリとして、「お嬢様、これからよろしくお願いいたします」と言うと、私の手を取り、手の甲に軽くキスをした。
真っ赤になる私を見て笑ったおばあ様は、
「ヴィーちゃん、そういう訳だから。
皇太子殿下とまた顔を合わせることがあったとして、前と同じことをやられたらやり返してやりなさい。会うかどうか、それはわからないけれど。
…まずはヴィーちゃん、強くなるために頑張りましょ!」
そう言ってウインクした。
「ヴィーちゃん!」
ハッと目が覚めると、おばあ様が目の前にいるが…なんだか、視界がゆらゆらしていてぼやけて見える。
「ヴィーちゃん、私の声、聞こえるかしら?」
コクリと頷くと、おばあ様は「良かった」と言って微笑んだ。
「おばあ様、」
自分の声が普段と違って聞こえる。耳に手を当てようとしたとき、視界が変わって温かい何かに包まれる。
「ヴィーちゃん、大丈夫そうね」
おばあ様がギュッと抱き締めた。「どこか痛いところはない?今乾かしたから濡れてる不快感はないと思うんだけど」と言いながら私の髪を撫でる。
「おばあ様、私、」
「ヴィーちゃん」
おばあ様は私を抱き締めながら「魔力が発現したわ」と言った。
「…え?」
思わず顔を見上げた私に満面の笑みを向けて「ヴィーちゃん!!おめでとう!そして、ありがとう!最高だわ!」と叫んだ。
「お、おばあ様、」
「あら、ごめんなさい。興奮しすぎたわ」
つい嬉しくて、と言うとおばあ様は、「さっき、ヴィーちゃんは話の途中で気を失ってしまったのよ」と言って、私を立たせる。
「大丈夫?ひとりで立てるかしら?」
おばあ様が手を離すと途端に身体がぐにゃりとする。
「まだダメそうね」
と言うと、私を横抱きにして歩きだした。
「お、ばあ様」
「急に魔力を放出したせいで、身体が疲れてしまったの。回復できるように、水泡に入れたんだけど」
その時、私のお腹がキュルルと鳴った。
「フフフ、まずは何か食べましょう!」
私はコクリと頷いた。
温かいポタージュスープと、トーストしたパンに蜂蜜、それにこれまた温かいゆで卵。とても美味しくて、どんどん食べる。
「ヴィーちゃん、これも食べて」
おばあ様がイチゴがたくさん載ったお皿を目の前に置く。甘くてとても美味しい。
私が食べる様子を見てニコニコするおばあ様。「たくさん食べてね!すごく消耗してるから!」と言うおばあ様に、とりあえず首を縦に振るだけの返事をして食べ続けた。
ようやくお腹が落ち着くと、すかさず現れたケビンさんが「お嬢様、どうぞ」と紅茶を淹れてくれる。
「ありがとうございます」
カップを手にとると、フワリといい香りがした。
「ヴィーちゃん、さっき話してたことなんだけど、どこまで覚えてる?」
「皇太子殿下を、だいっきらいと言ったところです」
「そう。そのあともいろいろ言ってたわよ。
あんたが私をキライなように、私だってあんたなんかだいっきらいなのよ!って」
「えっ!?」
「フフフ、冗談よ」
ウインクするおばあ様は急に真剣な顔になった。
「ヴィーちゃん。あなた、我慢しすぎたのよ」
「我慢、」
「そう。あのね。一番最初の顔合わせの時は、確かに怖かったんでしょう。だけど、それを自分の中で消化することもできず、誰にも相談もできず、殻を作ってひたすら閉じ籠っちゃったのね。
さっきみたいに、ふざけんな!って言ってたらまた違ってたはずよ」
「おばあ様、私、ふざけんなとは言っていません」
おばあ様はちょっとだけポカンとしたあと、大声で笑いだした。
「そうそう、その調子よ!!そうやって、自分の気持ちを言葉にするのよ!!
何でも言えばいいわけではないだろうけど、自分がやられてイヤだったり不快だったりしたら、それを相手に伝えないと。
やられっぱなしじゃ、前のヴィーちゃんと同じになっちゃうわよ?」
おばあ様は私の隣に座ると、頭を撫でた。
「同じ人生にならないように、皇太子殿下から逃げ続けるのもひとつの方法ではある。それは私も認めるわ。でもね」
私の身体を椅子ごと自分の方に向けると、おばあ様は挑発するような顔になって言った。
「誰かの顔色を伺いながら生きて、他人にビクビクしながら怯えて暮らすことは、ヴィーちゃんの望む人生なの?」
…私を薄く覆っていた、以前の私がパリンと割れた。そうだ。私は、人生をやり直したいと願い、それを叶えてもらったから今ここにいるんだ。
あの時、…崖から突き落とされ命が閉じる瞬間。
もう、逃げない。
そう誓ったのだ。
お父様とお母様がカーディナル魔法国に私を移動させてくれたのは、妃候補から逃れるため。でも、それだけではダメだ。
いつまでも、皇太子殿下にやられたことで萎縮していては、
「おばあ様」
「なあに、ヴィーちゃん」
「私、もう逃げません。皇太子殿下を避けて、ビクビクしながら生きていくのは止めます」
「その意気よ!ヴィーちゃん!」
「皇太子殿下は、まだこちらにいらっしゃるのですか?」
「なぜ?」
「今から会って、」
「ダメ~」
「え?」
てっきり「よし、行きましょう!!」と言ってくれるものだと思っていたおばあ様の言葉に拍子抜けする。
「なぜ、ですか」
「ヴィーちゃん」
「はい」
「ヴィーちゃんは見た目は5歳だけど、中身は18歳ね?」
「…はい?」
「皇太子殿下に、突然会って、『よくもやってくれたわね!』って言うの?
貴女は知っていても、皇太子殿下からしたら何を言われているかわからないのではないかしら」
「それは…」
「それともうひとつ。ヴィーちゃんは、先ほど言ったように魔力が発現したの。でもまだ不安定だわ。
通常、貴族クラスの子どもは10歳前後に魔力を発現させる訓練を始めるの」
「はい、そのようにお母様から聞きました」
「私も初めてのケースだから推測でしかないんだけど、ヴィーちゃんの中には自覚していなかったけれども存在していた以前の魔力があって、それが今回気持ちの昂りとともに一緒に発現したのではないかと思うのよ」
だけど、体は5歳だから、今体の中にある魔力をうまく使えるようになるには時間がかかると思う、とおばあ様は言った。
「だから、その訓練をしましょう。まさかこんなふうになるとは思わなくて、団長に戻ります!って言ってしまったことを軽く後悔しているんだけど」
おばあ様は、そう言いながらも満面の笑みだった。
「おばあ様が見れるときはもちろん一緒に訓練する。ヴィーちゃんはまだ魔術団の訓練に参加できないから、おばあ様が仕事のときは、ケビンに見てもらいましょう」
「ケビンさんに、ですか」
「ええ。ヴィーちゃんはケビンと同じで植物の特性が強いわ。ケビンは植物魔法を使いこなす天才だから、ヴィーちゃんのいい先生になってくれる」
「おばあ様、あの」
「なぁに?」
「私、こちらに来る前にお父様から言われたことがありまして」
うん?と首を傾げるおばあ様に、
「…おじい様に、剣を教えてもらってはどうか、」
「ダメ。無理。ヴィーちゃんには会わせないわ」
「お、」
「あのクズのせいで私はヴィーちゃんにずっと会えなかったの。わざとヴィーちゃんの部屋まで作ってみせたのに、あいつは知らんぷりだったの。
絶対に絶対に絶対に絶対に会わせないわ。少なくとも、あいつが自分の非を認めてシーラと私に謝るまでは絶対に会わせないわ」
でも謝るなんてできないだろうから、ヴィーちゃんとは一生会えないかもね!ザマーミロ!と叫び高笑いするおばあ様の顔は物語で見る悪魔のようだった。
ひとしきり嗤った後、おばあ様は私を見ると、「剣も学びたいなら、それもケビンに先生になってもらいましょう」と言った。
「ケビンさんに、そんなにお時間をいただいていいのでしょうか?」
「いいのよ~。むしろ嬉しいと思うわ、可愛い生徒ができて!」
「でも、お仕事が、」
「マーサという心強い存在がいるから大丈夫よ!」
おばあ様はそう言うと「ケビン!」と呼んだ。
「かしこまりました」
まだ何も言ってないのに?と思う私にニコリとして、「お嬢様、これからよろしくお願いいたします」と言うと、私の手を取り、手の甲に軽くキスをした。
真っ赤になる私を見て笑ったおばあ様は、
「ヴィーちゃん、そういう訳だから。
皇太子殿下とまた顔を合わせることがあったとして、前と同じことをやられたらやり返してやりなさい。会うかどうか、それはわからないけれど。
…まずはヴィーちゃん、強くなるために頑張りましょ!」
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