【R18】今度は逃げません?あの決意はどこへ~あまくとろかされてしまうまで~

蜜柑マル

文字の大きさ
上 下
33 / 110
皇太子サイド

モンタリアーノへの帰還②

しおりを挟む
モンタリアーノ国に入ってすぐに、俺は誰かの魔力を感じた。
母上や、カイルセンとは違う…優しい、暖かい魔力を。

「どうした?ジーク」

「いえ…」

「この国にも、姉様とカイルセン以外に魔力保持者がいるのだな」

「叔母上…」

「ジーク」

「はい」

「この魔力の持ち主…見に行きたいな。
場所はわかるから、覗きに行ってみるか?」
とニヤリとする。

自分の気持ちを見透かされたようで真っ赤になった俺に、「行くぞ」と言って、その場所に飛んだ。




「あれは…」

庭でお茶を飲んでニコニコしている、親子とおぼしき人たちを見て叔母上が呟く。
母親らしき人から感じる魔力はあまり高くない。さっき感じたのはこの魔力ではないだろう。種類も違う。

「ご存知なのですか」

「うん、恐らく…母親らしき女性は、姉上が婚姻でこちらに来る時に、護衛としてモンタリアーノに付いて来た近衛のひとりだと思う」

「カーディナル出身者、ということですか」

「そうだ。彼女は、うちの辺境伯爵の娘だったんだが、彼女自身もこちらで結婚すると決まって辺境伯爵が絶縁したと言っていた」

「絶縁…」

「過激だからな、辺境伯爵も…」

妻はもっと過激なんだが、とぼそりと言う。

「あの女の子の方が、さっきおまえが感じた魔力保持者だろう?」

「はい…」

「元近衛の彼女の魔力は、近づかないとおまえはまだ感知できないだろう、低くて」

「…そうですね」

叔母上は俺を見てニヤニヤする。

「…なんですか」

「いや、良かったな、ジーク」

「何がですか」

叔母上のニヤニヤがすべて見透かしているようで、恥ずかしくて俺はそっぽを向いた。…向きながら、女の子を見る。

栗色のふわふわした髪をふたつのおさげにして、顔がはっきりと見える。…キレイな、緑色の瞳だった。

さっき感じた優しい魔力が、彼女の中でユラユラしている。彼女の瞳と同じ、太陽の光を浴びて輝く、美しい緑の色だった。

「まだ、魔力を自覚してないな」

叔母上がジロジロ彼女を見るので、「もう行きましょう」と手を引っ張った。またニヤニヤする叔母上に、顔が赤くなる。

「じゃ、行くか!
…あんまり頻繁に覗きに来るなよ」

「…来ません!」

カーディナルからはいくら叔母上でも、モンタリアーノ国内の魔力の移動まではわからないよな…。わからないことを祈る。








「姉様、ご無沙汰しております」

「カティ…ジーク!!」

突然現れた俺たちを見て驚いた母上は、俺の元へ来るとギュッと俺を抱き締めた。

「大きくなって…!!」

そう言うとボロボロと涙を流す。

「…お久しぶりです」

俺はなんて言っていいのかわからず、下を向いた。

その時、「顔をあげなさい」と言ったあの人の顔が甦る。

「母上、オルスタイン宰相は、今日はいらっしゃいますか」

「…ええ、陛下の執務室にいるはずよ」

「ありがとうございます。
叔母上、では、また…」

「ああ、ジーク。またな」

そう言って、叔母上はスゥッと消えた。

「カティ!」

叫ぶ母上を背中に、俺も父上の執務室に向かった。

ノックをすると、「はいれ」と声がする。

「失礼します」

「…ジーク!?」

いつ帰ってきたんだ、と立ち上がる父上を流して、俺は目的の人の前に立ってお辞儀をした。

「ご無沙汰しておりました、オルスタイン宰相」

「ジークフリート皇子」

彼は、スッと自分の右手を俺に差し出す。俺が握り返すと、そのままに、「お帰りなさい。…大きくなられましたね」と無表情で言った。

「ありがとうございます。…あの時」

俺は、彼の顔を見て言う。

「あの時、俺のことを見てくれて、考えてくれたのは貴方だけでした。感謝しています」

そう言うと、一瞬眩しそうな顔をして、ニコッと笑ってくれた。

「お待ちしていました。とても精悍になられて…まだ5歳なのに」

「…叔母上と、カーディナルの方々のおかげです。
カーディナルに行けと、言ってくれた、貴方のおかげです」

「いいえ。すべては、ジークフリート皇子の、ご自身の努力の結果ですよ。よく頑張られました」

俺は、つい先程見つけた彼女を思い出して彼に言った。

「見つけました。2年前、宰相が教えてくれた…寂しさから救ってくれる存在を」

俺を見る瞳に少し驚きの色が混じる。

「…そうですか。出会えない人もいる中で、幸運なことですね」

俺はニコッとして、「ありがとうございます」と言った。

「それでは、これで。お仕事中、失礼しました」

「ジーク!父様は!?父様には、なにか…」

父上が何か言っていたが、俺はそのまま部屋を出た。

…まずは、あの子が。

どこの誰なのかを調べたい。

あの子の魔力を思い出して、俺はうっとりした。

「…必ず」

必ず、彼女を俺のものにする。

誰にも、…誰にも、渡さない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

ヤンデレエリートの執愛婚で懐妊させられます

沖田弥子
恋愛
職場の後輩に恋人を略奪された澪。終業後に堪えきれず泣いていたところを、営業部のエリート社員、天王寺明夜に見つかってしまう。彼に優しく慰められながら居酒屋で事の顛末を話していたが、なぜか明夜と一夜を過ごすことに――!? 明夜は傷心した自分を慰めてくれただけだ、と考える澪だったが、翌朝「責任をとってほしい」と明夜に迫られ、婚姻届にサインしてしまった。突如始まった新婚生活。明夜は澪の心と身体を幸せで満たしてくれていたが、徐々に明夜のヤンデレな一面が見えてきて――執着強めな旦那様との極上溺愛ラブストーリー!

ワケあってこっそり歩いていた王宮で愛妾にされました。

しゃーりん
恋愛
ルーチェは夫を亡くして実家に戻り、気持ち的に肩身の狭い思いをしていた。 そこに、王宮から仕事を依頼したいと言われ、実家から出られるのであればと安易に引き受けてしまった。 王宮を訪れたルーチェに指示された仕事とは、第二王子殿下の閨教育だった。 断りきれず、ルーチェは一度限りという条件で了承することになった。 閨教育の夜、第二王子殿下のもとへ向かう途中のルーチェを連れ去ったのは王太子殿下で…… ルーチェを逃がさないように愛妾にした王太子殿下のお話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

処理中です...