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皇太子サイド
リッツ・ハンフリート③
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思いもしない言葉にポカンとする。
「嫌い、ですか?」
「うん、まあ、一方的になんだけどねぇ。
キミの父上にはお会いしたことすらないし」
「では、なぜ?」
「そもそもさ。ジーク君がカーディナルに来ることになったのは、キミの両親が何も考えていない無能だからだ」
「父様と、母様が、無能…?」
俺はその言葉にカッとなった。確かに、ひとりにされてツラくて、寂しくて、こんな風にするあのふたりをキライだと思った。
でも、他人にそう言われるのは無性に腹が立った。
「俺の両親は、無能なんかじゃない!」
「無能だよ。だってさ。魔法を使える人間と結婚したら、子どもにその能力が遺伝するかも、なんて、誰でも考えることじゃない?
ましてや、キミの母上はカーディナルの女王になる予定だった。エカたんほどではなくても、魔力が強い。自分の妹のエカたんは黒髪、赤い瞳。自分だって、黒髪だ。そういうものが遺伝する可能性を考えられなかったのか?」
だから無能なんだよ、とリッツさんは憎々しげに吐き捨てた。
「もし、魔力を持つ子どもが生まれたらどうするか?さらに、魔力が強いときは?
モンタリアーノ国で生きていくために、その子の教育をどうする?王位継承はどうする?魔法をどこまで教える?そんなことも考えずに一目惚れだ、なんて結婚して。
その結果がキミだよ」
「そ、」
「あげくに、魔力をコントロールできないからとエカたんに丸投げだ。
王位を丸投げして、次は自分の子どもを丸投げ。
自分の子どもなのに…」
リッツさんはフッとバカにしたように鼻で嗤った。
「無能なバカのおかげで、エカたんが迷惑を被るのが、オレは我慢ならないんだよ。
無責任なクズども」
「それ以上、言うな!」
俺はもうこれ以上、リッツさんの言葉を聞きたくなかった。
「でも、ほんとのことだからね。事実だ」
「やめろ!」
途端に、あの日のようにブワッと温度が上がる。
「俺の両親は、無能なんかじゃ…」
「キミはね。自分が見捨てられたと思いたくないから、両親を庇ってるだけだ。
捨てられたんだよ、キミは」
「やめろーっ!!」
俺が叫ぶと同時に床に炎がはしる。
「コラ!リッツ!」
リッツさんの前に叔母上が現れたと思うと、床の炎はすべて凍り付いていた。
「だーいじょうぶだよぉ、エカたん」
「大丈夫じゃないだろう!なんてこと言うんだ!」
「もー、盗み聞き禁止だよぉ」
「そもそも、おまえな…!」
リッツさんは叔母上をじっと見つめると、「でも、オレがそう思ってることは事実だから」と言った。
「リッツ…」
叔母上から視線を逸らすと、リッツさんは俺を見た。
「でもね、ジーク君。
キミのことは気の毒に思うけど、嫌いではないよ」
そして、しゃがみこみ、俺をギュッと抱き締めた。
「どのくらい出るか見てみたかったんだけど…まだ、そんなではないね。
とりあえず、感情が昂っても魔力が暴れないように制御する、形を整えて自分の中にしまっておけるようになろう」
「リッツさん、」
「ごめん、とは言わないよ。オレは、ほんとのことを言っただけだから。
だけど、だからこそ、ジーク君の面倒はオレが責任持ってみるよ」
俺と目線を合わせると、リッツさんは言った。
「ジーク君、自分がこれからどうするのか。
可能性はたくさんあるんだよ。
モンタリアーノ国で国王になるのはもちろんだけど、生まれた弟君を王にして、自分はその補佐につく、ということもできる。
国を捨てて、カーディナルに来て生きていく道もあるんだよ」
何者になりたいのか、それを真剣に考えるといいよ、と言って俺の頭を撫でる。
「オレも手伝う。エカたんも、もちろん、手伝ってくれる。
他人の言動や評価に振り回されないように、自分の進む道、進みたい道は自分自身が決めるんだ」
叔母上もしゃがみこむと、「ジーク、泣くな」と言ってハンカチを取り出した。気づかないうちに、涙が零れていた。
「…つらかったな」
俺は叔母上にしがみついて声をあげて泣いた。
叔母上とリッツさんは、ふたりで俺を抱き締めてくれた。
「嫌い、ですか?」
「うん、まあ、一方的になんだけどねぇ。
キミの父上にはお会いしたことすらないし」
「では、なぜ?」
「そもそもさ。ジーク君がカーディナルに来ることになったのは、キミの両親が何も考えていない無能だからだ」
「父様と、母様が、無能…?」
俺はその言葉にカッとなった。確かに、ひとりにされてツラくて、寂しくて、こんな風にするあのふたりをキライだと思った。
でも、他人にそう言われるのは無性に腹が立った。
「俺の両親は、無能なんかじゃない!」
「無能だよ。だってさ。魔法を使える人間と結婚したら、子どもにその能力が遺伝するかも、なんて、誰でも考えることじゃない?
ましてや、キミの母上はカーディナルの女王になる予定だった。エカたんほどではなくても、魔力が強い。自分の妹のエカたんは黒髪、赤い瞳。自分だって、黒髪だ。そういうものが遺伝する可能性を考えられなかったのか?」
だから無能なんだよ、とリッツさんは憎々しげに吐き捨てた。
「もし、魔力を持つ子どもが生まれたらどうするか?さらに、魔力が強いときは?
モンタリアーノ国で生きていくために、その子の教育をどうする?王位継承はどうする?魔法をどこまで教える?そんなことも考えずに一目惚れだ、なんて結婚して。
その結果がキミだよ」
「そ、」
「あげくに、魔力をコントロールできないからとエカたんに丸投げだ。
王位を丸投げして、次は自分の子どもを丸投げ。
自分の子どもなのに…」
リッツさんはフッとバカにしたように鼻で嗤った。
「無能なバカのおかげで、エカたんが迷惑を被るのが、オレは我慢ならないんだよ。
無責任なクズども」
「それ以上、言うな!」
俺はもうこれ以上、リッツさんの言葉を聞きたくなかった。
「でも、ほんとのことだからね。事実だ」
「やめろ!」
途端に、あの日のようにブワッと温度が上がる。
「俺の両親は、無能なんかじゃ…」
「キミはね。自分が見捨てられたと思いたくないから、両親を庇ってるだけだ。
捨てられたんだよ、キミは」
「やめろーっ!!」
俺が叫ぶと同時に床に炎がはしる。
「コラ!リッツ!」
リッツさんの前に叔母上が現れたと思うと、床の炎はすべて凍り付いていた。
「だーいじょうぶだよぉ、エカたん」
「大丈夫じゃないだろう!なんてこと言うんだ!」
「もー、盗み聞き禁止だよぉ」
「そもそも、おまえな…!」
リッツさんは叔母上をじっと見つめると、「でも、オレがそう思ってることは事実だから」と言った。
「リッツ…」
叔母上から視線を逸らすと、リッツさんは俺を見た。
「でもね、ジーク君。
キミのことは気の毒に思うけど、嫌いではないよ」
そして、しゃがみこみ、俺をギュッと抱き締めた。
「どのくらい出るか見てみたかったんだけど…まだ、そんなではないね。
とりあえず、感情が昂っても魔力が暴れないように制御する、形を整えて自分の中にしまっておけるようになろう」
「リッツさん、」
「ごめん、とは言わないよ。オレは、ほんとのことを言っただけだから。
だけど、だからこそ、ジーク君の面倒はオレが責任持ってみるよ」
俺と目線を合わせると、リッツさんは言った。
「ジーク君、自分がこれからどうするのか。
可能性はたくさんあるんだよ。
モンタリアーノ国で国王になるのはもちろんだけど、生まれた弟君を王にして、自分はその補佐につく、ということもできる。
国を捨てて、カーディナルに来て生きていく道もあるんだよ」
何者になりたいのか、それを真剣に考えるといいよ、と言って俺の頭を撫でる。
「オレも手伝う。エカたんも、もちろん、手伝ってくれる。
他人の言動や評価に振り回されないように、自分の進む道、進みたい道は自分自身が決めるんだ」
叔母上もしゃがみこむと、「ジーク、泣くな」と言ってハンカチを取り出した。気づかないうちに、涙が零れていた。
「…つらかったな」
俺は叔母上にしがみついて声をあげて泣いた。
叔母上とリッツさんは、ふたりで俺を抱き締めてくれた。
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