【R18】今度は逃げません?あの決意はどこへ~あまくとろかされてしまうまで~

蜜柑マル

文字の大きさ
上 下
20 / 110
第ニ章

動き出す、二度目の人生(シーラ視点)

しおりを挟む
「シーラ」
ヴィーを寝かせて居間に戻ってくると、ロレックスに呼ばれた。

「なんだい?」

「…2年程前、僕がジークフリート皇子について話したこと、覚えてるかい?」

「ジークフリート皇子って、ヴィーの敵の皇太子のことだろう」

「そうだ」

「たしか、弟君がお生まれになったときだったよな。
魔力が暴走して、自分の部屋を焼いたと」

「そうだ。
あの時、君は『カーディナルに行ったほうがいい』と言っていた」

「そうだね。
王妃陛下は、弟のカイルセン様を生んだばかりだったし…魔力が強い皇太子の相手は産後すぐには難しいのではないかと思ったからね」

ロレックスに、当時のジークフリート皇子の話を聞いたときは、なんて痛々しいと思ったものだ。
だから、王妃陛下を差し置いて、そんな助言もしてしまったわけだが…。

「ヴィーの話を聞いた今は、余計なことを言うんじゃなかったという悔恨しかないな」

「いや、元々は僕のおせっかいから始まったことだし…。
ヴィーと同じ年の子ども、…どうしても放っておけなかった」

ロレックスは、苦痛を堪えるようにギュッと眉間にしわを寄せる。

「いま、皇太子はどうしてるんだ?」

「まだ、皇太子ではないよ、シーラ。
皇太子、と発表はしていないんだ」

「…そうだったか。今のところ、第一皇子、第二皇子、と呼ばれているのだったな」

つい、ヴィーの話につられてしまうが、まだ皇太子として正式に発表されたわけではない。

「つい先週、カーディナルから帰国されたんだ」

「先週。
先週まで、カーディナルにいたのか」

「ああ。
まだ5歳なのに、ずいぶん精悍な顔つきになってね。
エルネストが…国王陛下が、僕に感謝する、と。
『あの時、おまえが決断させてくれなければ、僕はあの子を永遠に失うところだった』と」

「…失えば良かったんだ」

ヴィーが、18歳で死んだ、殺されたという未来を受け入れたくない私は思わず吐き捨てた。

「ヴィーのことを思うと、ほんとにそうなんだけど。
ジークフリート皇子はね。帰ってきて真っ先に、僕のところに来たんだよ。
『オルスタイン侯爵、ご無沙汰しております』って。5歳が、だよ。
あの時、貴方だけが俺を見てくれました、感謝しています、と、そう言ったあとに」

「あとに?」

「…見つけました、って。そう言ったんだ」

「見つけた?何を?」

「自分を救ってくれる存在を」

「カーディナルで見つけたってことか?」

「いや、わからない。でも、すごく嬉しそうでね。
あんなに喜んで僕に報告してきたのに、その存在を諦めたのか?5年後に?」

「子どもだぞ。気持ちなんてコロコロ変わるに決まってるだろう」

「そこなんだよ」

「そことは?」

「シーラ、カーディナルに行ったら…それとなく探ってくれないか?」

「何を?」

ハーッとため息をつくと、ロレックスは、「だからぁ!」と呆れたように言う。

「ジークフリート皇子が見つけたという、大切な存在だよ!」

…呆れられているのはわかるが、さっぱりロレックスの言いたいことが理解できない。

「それを見つけてどうする?」

「だから…!…自分を救ってくれる存在だという女性が、カーディナルの方であったら、その方をジークフリート皇子の婚約者にすればいいじゃないか!!」

「…なるほど!」

「遅いよ!」

まったく、とブツブツ言いながら「シーラ、ワイン飲むかい?僕は明日から一週間飲めないから、今夜飲んでおきたいんだよ」

「妊娠中だから、ジュースにしてくれ」

ロレックスはさっと立ち上がるとグラスを2つと、最近お気に入りの赤ワインを持ってきて注いだ。
私のグラスには、オレンジジュースを注ぐ。

軽くグラスを合わせて口に含むと、甘酸っぱさが広がる。

「ただ、見つけられるかどうかは自信はないぞ」

「シーラ、君には強い味方がいるだろう?」

未だに宮廷に影響力を持っている、とロレックスが言う。

「…母上か」

「そう。君の母上の情報網で、ジークフリート皇子の想い人を探してほしいんだ」

そして、と言うとロレックスはヴィーの前では絶対に見せないであろう、氷の宰相の顔になった。

「見つけ次第、国王のケツを叩いて、最速で婚約を結ばせる。
二代続けてカーディナルから王妃を娶るなら、国の関係もますます強固になるからな」

そう言ったあとに、

「…カーディナルの女王陛下は、まだご結婚されてないよな?」

「ああ、まだそのような話はきいていない」

「だとすれば、女王陛下のお子様ではないだろうから、血が近すぎる心配もないだろうし」

ロレックスはグイッとグラスを傾けると一気に飲み干した。

「ヴィーは必ず守る。
ジークフリート皇子に婚約者ができれば、いくら頭がわいててもヴィーを妃候補に、なんて言わないだろう」

ロレックスの瞳はギラギラと光っていた。

私はそのロレックスを見ながら…でも、その救ってくれる存在が、女性なのかどうか…それ以上に人間かどうかはどこにも保証はないのでは、と考えていた。…怖くて言えなかったが。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

処理中です...