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第ニ章
動き出す、二度目の人生②
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お父様は次の日から計画通り、一週間邸に帰って来なかった。
お身体が大丈夫かと心配になったが、お母様は
「平気だよ。あいつは、ヴィーの前ではただのアホになってしまったが…失礼。仕事の時は、私がいなくなった後に前回のヴィーが感じていたような、どちらかと言えば冷徹な男でね」
国王陛下をも黙らせる氷の宰相と呼ばれているくらいだし、一週間くらいなんてことないよと言ってあまり気にしてないようなので、私もマーサに手伝ってもらいながら自分の出国のための準備に取りかかった。
「お嬢様、ドレスはあちらでも作れるでしょうが、お気に入りのものはすべて持っていきましょうね」
マーサが手早くドレスをカバンに詰め込んでいく。
「ねぇ、マーサ」
「なんですか?」
「私は、今見た目は5歳だけれど…中身は18歳でしょ?」
「ええ、そうですね」
「おばあ様と話していて、…訝しがられないかしら」
マーサは手を止めて私を見ると、優しく微笑んだ。
「お嬢様…これは、マーサ個人の意見ですが…。
お嬢様自身が味方になって欲しいと思う方には、前回の人生のことをお話してはどうかと思うんです。
確かに、奇想天外な話ですし…信じてもらえるかどうかはわかりません。
でも、ごまかすよりは、正直にお話ししたほうがいいのではないでしょうか。
私も大奥様にお会いしたことはないのでどんな方かわかりませんが…きっと、きちんと向き合ってお話しすればわかってくださると思いますよ」
なにしろ、奥様のお母様ですからね。
そう言うマーサに、私はコクンと頷いた。
「それにたぶん、奥様が秘密にしておいたりはしないと思います。
お嬢様を守りたい、それなら味方は多いにこしたことはありませんからね。
奥様と、それについてはお話してみるといいかもしれませんよ」
「わかった、聞いてみるね」
まだお会いする前から、変な風に警戒しても仕方のないことだ。
石橋を叩いたところで、何が起こるのかは誰にもわからない。その時その時で、誠実に対応していくしかない。
お母様は、はじめからカーディナルのおばあ様には打ち明けるつもりだったと言った。
「手紙で書く内容ではないから、とりあえずまだ何も伝えてはいないけど。
カーディナルについたら、早目にお話するつもりだよ」
くそじじいには言うかどうかわからないけどね、と黒い笑顔で呟いた。
一週間後、ヨレヨレになったお父様が帰ってきた。あまりの窶れぶりに、思わず涙がにじむ。
「お父様…!!」
抱きついた私を優しく抱き止め、お父様は優しく笑った。
「ただいま、ヴィー。
会いたかったよ…!!」
「お父様、お帰りなさい!!
お仕事、お疲れ様でした…!
夜、眠る時間はとれましたか?
お食事は大丈夫でしたか?」
二人で感極まって抱き合っていると、お母様がからかうように「たった一週間でこんなふうになってしまって、この先大丈夫なのか?ロレックス?」と言った。
「大丈夫じゃない…!」
私をぎゅうぎゅう抱き締めてお父様が言う。
「でも!でも、ヴィーを助けるためだから…我慢する!!」
「…ロレックス」
お母様が、お父様の背中をさすりながら言う。
「私はまだ出産まで日がある。
だから、おまえのことをこちらに迎えに来ることも可能だし、カーディナルで定期的にヴィーと会うようにしたらどうだ?」
「いや、大丈夫だ。
我慢する…。
たとえばだけど、王妃陛下に…魔法を使って感づかれたりしたら何にもならないから」
寂しそうに笑うお父様。
「お父様、私…私も、我慢しますね!
お父様に会えない間、頑張って…変わったね、って。
お父様に感心していただけるように…!」
だから…次に会えるのを楽しみにしていてください、と言いながら…涙がにじむ。
「ロレックス、いい加減にしろ!今生の別れじゃないんだぞ!
ヴィーも!ロレックスにつられすぎだ!」
「だって…だってぇ」
お父様は私を抱き締めてボロボロと涙を流した。
「ヴィー、絶対に、前回と同じ目に遭わせたりしないからね。
お父様が、お父様が、必ずヴィーを守るから…!!」
だから、自分を諦めないで、とお父様は言った。
お身体が大丈夫かと心配になったが、お母様は
「平気だよ。あいつは、ヴィーの前ではただのアホになってしまったが…失礼。仕事の時は、私がいなくなった後に前回のヴィーが感じていたような、どちらかと言えば冷徹な男でね」
国王陛下をも黙らせる氷の宰相と呼ばれているくらいだし、一週間くらいなんてことないよと言ってあまり気にしてないようなので、私もマーサに手伝ってもらいながら自分の出国のための準備に取りかかった。
「お嬢様、ドレスはあちらでも作れるでしょうが、お気に入りのものはすべて持っていきましょうね」
マーサが手早くドレスをカバンに詰め込んでいく。
「ねぇ、マーサ」
「なんですか?」
「私は、今見た目は5歳だけれど…中身は18歳でしょ?」
「ええ、そうですね」
「おばあ様と話していて、…訝しがられないかしら」
マーサは手を止めて私を見ると、優しく微笑んだ。
「お嬢様…これは、マーサ個人の意見ですが…。
お嬢様自身が味方になって欲しいと思う方には、前回の人生のことをお話してはどうかと思うんです。
確かに、奇想天外な話ですし…信じてもらえるかどうかはわかりません。
でも、ごまかすよりは、正直にお話ししたほうがいいのではないでしょうか。
私も大奥様にお会いしたことはないのでどんな方かわかりませんが…きっと、きちんと向き合ってお話しすればわかってくださると思いますよ」
なにしろ、奥様のお母様ですからね。
そう言うマーサに、私はコクンと頷いた。
「それにたぶん、奥様が秘密にしておいたりはしないと思います。
お嬢様を守りたい、それなら味方は多いにこしたことはありませんからね。
奥様と、それについてはお話してみるといいかもしれませんよ」
「わかった、聞いてみるね」
まだお会いする前から、変な風に警戒しても仕方のないことだ。
石橋を叩いたところで、何が起こるのかは誰にもわからない。その時その時で、誠実に対応していくしかない。
お母様は、はじめからカーディナルのおばあ様には打ち明けるつもりだったと言った。
「手紙で書く内容ではないから、とりあえずまだ何も伝えてはいないけど。
カーディナルについたら、早目にお話するつもりだよ」
くそじじいには言うかどうかわからないけどね、と黒い笑顔で呟いた。
一週間後、ヨレヨレになったお父様が帰ってきた。あまりの窶れぶりに、思わず涙がにじむ。
「お父様…!!」
抱きついた私を優しく抱き止め、お父様は優しく笑った。
「ただいま、ヴィー。
会いたかったよ…!!」
「お父様、お帰りなさい!!
お仕事、お疲れ様でした…!
夜、眠る時間はとれましたか?
お食事は大丈夫でしたか?」
二人で感極まって抱き合っていると、お母様がからかうように「たった一週間でこんなふうになってしまって、この先大丈夫なのか?ロレックス?」と言った。
「大丈夫じゃない…!」
私をぎゅうぎゅう抱き締めてお父様が言う。
「でも!でも、ヴィーを助けるためだから…我慢する!!」
「…ロレックス」
お母様が、お父様の背中をさすりながら言う。
「私はまだ出産まで日がある。
だから、おまえのことをこちらに迎えに来ることも可能だし、カーディナルで定期的にヴィーと会うようにしたらどうだ?」
「いや、大丈夫だ。
我慢する…。
たとえばだけど、王妃陛下に…魔法を使って感づかれたりしたら何にもならないから」
寂しそうに笑うお父様。
「お父様、私…私も、我慢しますね!
お父様に会えない間、頑張って…変わったね、って。
お父様に感心していただけるように…!」
だから…次に会えるのを楽しみにしていてください、と言いながら…涙がにじむ。
「ロレックス、いい加減にしろ!今生の別れじゃないんだぞ!
ヴィーも!ロレックスにつられすぎだ!」
「だって…だってぇ」
お父様は私を抱き締めてボロボロと涙を流した。
「ヴィー、絶対に、前回と同じ目に遭わせたりしないからね。
お父様が、お父様が、必ずヴィーを守るから…!!」
だから、自分を諦めないで、とお父様は言った。
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