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第一章
わたしが知らなかったこと③
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「お母様、モンタリアーノ国からカーディナル魔法国までは、どのくらいかかるのですか?」
私が尋ねると、お母様はキョトンとした顔でこちらを見る。
「どのくらい、とは?」
「私、前回の人世では家と王城、そして16歳になってからは学園に通いましたがその三ヶ所にしか行ったことはない、というくらい他には出ていかなかったので…隣国のカーディナルまでどのくらいの日数で行けるのかわからないのです…」
無知であることを恥ずかしいと思いながら聞くと、
「ああー…、そういうことか。
あのね、ヴィー。さっき、お母様に魔法が使えるか聞いただろう?」
「はい」
「カーディナル魔法国の人間はね、魔法を使って移動することができるんだよ」
「移動…ですか?」
「うん」
お母様は、頷くと、「まぁ、条件もあるんだけど」と言った。
「王族のように強い魔力がある人間は、地図さえあればその土地に移動することが可能なんだ。ただし、初めて行く場所に移動できるのは自分のみ。
軍隊を連れて、とか、そういうことはできない。
すでに行ったことのある土地ならば、かなりの人数を一緒に移動させることもできる。
お母様のような、まぁ…普通の魔力の人間は、相手方で受け入れる準備をしてくれていれば、そこに行くことができる。たくさんの人数は無理だけど、自分の魔力に応じて何人か一緒に移動させることができる。
知らない土地、自分の既知がいない場所に移動することはできない」
「では、お母様は、この国に魔法で来られたのですか?」
「いや、こちらに来るときは馬で…王妃陛下も、馬を駆って来たんだよ」
「王妃陛下まで!?馬で!?」
「そう」
だから、苛烈な方なんだと言ったでしょう、とお母様は言った。
「何しろ型破りな方だから。
そのときは、カーディナルから馬で5日ほどだったかな?
王妃陛下を襲うような馬鹿は自国にはもちろんだけど、近隣諸国にもまずいないからね。万が一にも、ってことがあるから一応護衛として着いてきたけど、陛下が一番強いから」
護衛の意味がないよね、と笑う。
「陛下だけなら、こちらに移動できたのになぜか私たち…お母様も含めて護衛は4人いたんだけど、私たちをモンタリアーノに連れて来たかったみたいでね」
「お一人で来るのは、いくら陛下が強くても寂しいでしょうからねぇ」
と、マーサがポツリと言った。
「好きな人に嫁ぐとは言え、気を許せる人間が他にいないのはツラいでしょう」
「そうだね…」
お母様はフッと息を吐いて目線を上に向ける。
「だから、私たちのこともなかなか帰してくださらなかったのかもしれないな」
苛烈だけれど、やはり人間らしいところもあるんだな、と言ったお母様にマーサは「不敬にあたるのでは…」と苦笑した。
「だからね、ヴィー。
お母様の実家に移動することができるんだよ。
まぁ、ヴィーとマーサを連れて三人一気に移動できるかはわからないけれど」
お母様は、そう言って私の頭を撫でた。
「まずは、お母様の実家に連絡をして、あちらに受け入れる準備をしてもらう。
それができ次第、カーディナルに行こう」
「…奥様。まずは、旦那様とのお話です。順番が違います」
マーサがお母様を見て呆れたように言う。
「あ、そうか…もうカーディナルに行くことばかり考えていたよ。
じゃあ…マーサ、ちょっと書くものを持ってきてくれるかい?」
はい、と返事をして庭園を出ていくマーサ。
お母様は私を見ると、
「情報は、書くことで整理される」
と言った。
「ヴィーも、頭の中で考えてばかりいないで、心配なことや困ったことが起きたらまずは紙に書き出してごらん。
そうすることで、問題点がより鮮明に見えてくると思うよ」
「はい、お母様」
マーサが戻ってくると、三人で意見を出しながらこれからについて書き出した。
1 お父様に、私と皇太子殿下の婚約の話がどこまで進んでいるのか、いま、どんな状態なのかを聞く。
2 お父様に、私の前回の人生の話をする。
3 お母様の里帰り、出産、育児を理由としてカーディナル魔法国に行きたいということを伝える。
4 お父様から了承が出たら、
①王妃陛下にお目通りを願う(お父様に伝えてもらう)
②お母様のご実家に連絡をする
5 お母様のご実家から了承がきたら、お母様とマーサと私の三人でカーディナルに行く。
「前回は、もう妃候補になってしまっていたから出られなかったけど、今回はまだそこまで行ってないはずだし。
王妃陛下のご出身地でもあり、私の出身地でもあるのだから、国王陛下も出国を否定はなさらないと思うんだよね。
里帰りして、しばらく育児も手伝ってもらうと言えば、すぐにモンタリアーノに戻れとも言わないだろう」
お母様はそういうと、ふわっと欠伸をした。
「…ヴィー、ごめん。お母様とお昼寝してくれないかな?」
「え、でも、お腹が…」
「大丈夫だよ」
お母様は私に「おいで」というと、目の前に立たせて両手を握った。
「ヴィーのあったかいカラダを抱っこして寝たら、ぐっすり眠れるから。
…お願いできるかい?」
とウインクする。
「今夜のロレックスとの戦いに備えなくてはならないからね」
戦い、と聞いて笑ってしまった私を優しく抱き締めるお母様。
「大好きだよ、ヴィー。
お母様が必ず守る。一緒に、強くなろう」
「…はい!」
「マーサもお嬢様を守りますよ!」
三人で、声をあげて笑った。
私が尋ねると、お母様はキョトンとした顔でこちらを見る。
「どのくらい、とは?」
「私、前回の人世では家と王城、そして16歳になってからは学園に通いましたがその三ヶ所にしか行ったことはない、というくらい他には出ていかなかったので…隣国のカーディナルまでどのくらいの日数で行けるのかわからないのです…」
無知であることを恥ずかしいと思いながら聞くと、
「ああー…、そういうことか。
あのね、ヴィー。さっき、お母様に魔法が使えるか聞いただろう?」
「はい」
「カーディナル魔法国の人間はね、魔法を使って移動することができるんだよ」
「移動…ですか?」
「うん」
お母様は、頷くと、「まぁ、条件もあるんだけど」と言った。
「王族のように強い魔力がある人間は、地図さえあればその土地に移動することが可能なんだ。ただし、初めて行く場所に移動できるのは自分のみ。
軍隊を連れて、とか、そういうことはできない。
すでに行ったことのある土地ならば、かなりの人数を一緒に移動させることもできる。
お母様のような、まぁ…普通の魔力の人間は、相手方で受け入れる準備をしてくれていれば、そこに行くことができる。たくさんの人数は無理だけど、自分の魔力に応じて何人か一緒に移動させることができる。
知らない土地、自分の既知がいない場所に移動することはできない」
「では、お母様は、この国に魔法で来られたのですか?」
「いや、こちらに来るときは馬で…王妃陛下も、馬を駆って来たんだよ」
「王妃陛下まで!?馬で!?」
「そう」
だから、苛烈な方なんだと言ったでしょう、とお母様は言った。
「何しろ型破りな方だから。
そのときは、カーディナルから馬で5日ほどだったかな?
王妃陛下を襲うような馬鹿は自国にはもちろんだけど、近隣諸国にもまずいないからね。万が一にも、ってことがあるから一応護衛として着いてきたけど、陛下が一番強いから」
護衛の意味がないよね、と笑う。
「陛下だけなら、こちらに移動できたのになぜか私たち…お母様も含めて護衛は4人いたんだけど、私たちをモンタリアーノに連れて来たかったみたいでね」
「お一人で来るのは、いくら陛下が強くても寂しいでしょうからねぇ」
と、マーサがポツリと言った。
「好きな人に嫁ぐとは言え、気を許せる人間が他にいないのはツラいでしょう」
「そうだね…」
お母様はフッと息を吐いて目線を上に向ける。
「だから、私たちのこともなかなか帰してくださらなかったのかもしれないな」
苛烈だけれど、やはり人間らしいところもあるんだな、と言ったお母様にマーサは「不敬にあたるのでは…」と苦笑した。
「だからね、ヴィー。
お母様の実家に移動することができるんだよ。
まぁ、ヴィーとマーサを連れて三人一気に移動できるかはわからないけれど」
お母様は、そう言って私の頭を撫でた。
「まずは、お母様の実家に連絡をして、あちらに受け入れる準備をしてもらう。
それができ次第、カーディナルに行こう」
「…奥様。まずは、旦那様とのお話です。順番が違います」
マーサがお母様を見て呆れたように言う。
「あ、そうか…もうカーディナルに行くことばかり考えていたよ。
じゃあ…マーサ、ちょっと書くものを持ってきてくれるかい?」
はい、と返事をして庭園を出ていくマーサ。
お母様は私を見ると、
「情報は、書くことで整理される」
と言った。
「ヴィーも、頭の中で考えてばかりいないで、心配なことや困ったことが起きたらまずは紙に書き出してごらん。
そうすることで、問題点がより鮮明に見えてくると思うよ」
「はい、お母様」
マーサが戻ってくると、三人で意見を出しながらこれからについて書き出した。
1 お父様に、私と皇太子殿下の婚約の話がどこまで進んでいるのか、いま、どんな状態なのかを聞く。
2 お父様に、私の前回の人生の話をする。
3 お母様の里帰り、出産、育児を理由としてカーディナル魔法国に行きたいということを伝える。
4 お父様から了承が出たら、
①王妃陛下にお目通りを願う(お父様に伝えてもらう)
②お母様のご実家に連絡をする
5 お母様のご実家から了承がきたら、お母様とマーサと私の三人でカーディナルに行く。
「前回は、もう妃候補になってしまっていたから出られなかったけど、今回はまだそこまで行ってないはずだし。
王妃陛下のご出身地でもあり、私の出身地でもあるのだから、国王陛下も出国を否定はなさらないと思うんだよね。
里帰りして、しばらく育児も手伝ってもらうと言えば、すぐにモンタリアーノに戻れとも言わないだろう」
お母様はそういうと、ふわっと欠伸をした。
「…ヴィー、ごめん。お母様とお昼寝してくれないかな?」
「え、でも、お腹が…」
「大丈夫だよ」
お母様は私に「おいで」というと、目の前に立たせて両手を握った。
「ヴィーのあったかいカラダを抱っこして寝たら、ぐっすり眠れるから。
…お願いできるかい?」
とウインクする。
「今夜のロレックスとの戦いに備えなくてはならないからね」
戦い、と聞いて笑ってしまった私を優しく抱き締めるお母様。
「大好きだよ、ヴィー。
お母様が必ず守る。一緒に、強くなろう」
「…はい!」
「マーサもお嬢様を守りますよ!」
三人で、声をあげて笑った。
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