あなたを守りたい

蜜柑マル

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婚約者編

過去の私ではなく

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「もう死にたい気持ちはなくなりましたか」

クローディアに見つめられ、ギルバートはコクリと頷いた。

「良かった」

うふふ、と微笑んで、クローディアはギルバートの髪の毛をそっと指で鋤いた。

「髪の毛、ツヤツヤになりましたね」

「…食事、きちんとしてるから」

ギルバートが目覚め、カラダを動かすようになってからもカーティス一家はジークハルトの家に居候のような形で滞在していた。急に場所を移すより慣れた場所の方が心が落ち着くのではないかという配慮と、クローディアが会いに来やすいようにするためだった。城にはなかなか毎日のようには行きづらい。いくら幼い子どもであっても警備面から考えると手続きも面倒であろうと、ジークハルトがカーティス夫婦に進言した。ギルバートの心の安定のために、クローディアの存在は欠かせないであろうと。

クローディア…前回のシャロンをギルバートに会わせていいものかジークハルトもナディールも大いに悩んだ。何よりクローディアの両親は娘を幸せにせんと、前回と…主に母であるマリアンヌが、であるが、行動をだいぶ変えてまで娘を守ろうとしたのだ。しかし、アレクサンドライトが、これはほとんど自分のためにだが、クローディアをギルバートに会わせて欲しいとクローディアの両親に頼みに行ったのだ。絶対に、危ない目には遭わせないから(自分の父や大叔父たちが)と頭を下げ、何度も何度も来るアレクサンドライトにクローディアの両親は根負けした。何より、ギルバートが命に関わるケガをしていると聞いたクローディアが「会いに行きたい」と願ったから。

「貴女が亡くなった原因の一人かもしれないのよ」

とマリアンヌに言われたが、クローディアは

「寝たきりの王子に何ができるのですか」

と相手にせず、エイベル家に足を運んできたのだった。

「…俺のこと、怖くないの」

ギルバートの言葉にキョトンとした顔になったクローディアは、首を傾げて「何がですか?」と尋ねた。

「…だって、俺がキミを殺したんだよ」

「また殺しますか?」

クローディアの直接すぎる物言いにギルバートはカッとなり、

「そんなことしないっ!」

と怒鳴った。

「そうですよね」

ギルバートの剣幕にはまったく頓着せずに頷いたクローディアは、

「私はギル様を怖いとは思いません。あなたは優しい。ただ、優しすぎます。さっき言ったようにお母様が女王を降りた、だからギル様も国王になる道は限りなくゼロに近い。だけど、王族であることに変わりはありません。王族ならば、王族としての強さを持たなくてはならないのではありませんか。いつでも公平でいられるよう、周囲に媚びない強さを。…周囲にいる人間を、心を許す人間を、選ばなくてはならないと、そう思います。孤独を感じることもあるでしょう。だからこそ、ご家族やジークハルト様たちとの絆を育てて…強固にしていくべきだと、そう考えます」

「周囲に、媚びない強さ」

「ええ。ギル様を特別視する人間は多々いるわけですから、そういう思惑を見透かせる器用さ、したたかさ、…人を見る目を養うとよろしいかと」

「…心を許す中に、ディーは入ってくれるの」

ギルバートの弱々しい視線を受けて、クローディアは一瞬虚を突かれたような顔になり、そこからふにゃりと微笑んだ。

「ギル様が私を側に置いてもいいと思ってくださるなら、そこに入れてください。私はギル様を、ギル様の心を守りたいので…、側に置いてくださるなら嬉しいです」

(俺の、心を守る)

そう言われてギルバートはひどく狼狽した。心を守るために側にいる。それはどのような立場でいてくれるということなのか。クローディアが言ったジークハルトたちは自分の家族や親戚であるが、…クローディアはまったくの赤の他人である。

「俺の側に、ずっといてくれるの」

「…?ギル様がいいなら、いますよ。私がいてもいい時まで」

不思議そうな顔で微笑むクローディアに、

「…一生、いて欲しいって言ったら、…いてくれるの」

と聞いてみる。

「一生いて欲しいと思うかどうかはこれから変わるのでは、」

「キミは俺の運命の香りだ、俺の、…俺だけの、女性であって欲しい」

そう言って、ギルバートはクローディアの前にひざまづいた。

「…俺を、好きになってもらえるように、…真っ直ぐで強いキミに相応しい男になるように、努力するから、…俺と、ずっと一緒に、いて欲しいんだ、ディー」

自分の手を握るギルバートの掌の熱を感じて、クローディアは屈託なく笑った。

「私もギル様に相応しい人間になれるようにいたします。これから、よろしくお願いできますか?」

晴天のような輝く笑顔を、ギルバートは生涯忘れないと切実に思い、赤い顔でただコクリと頷いた。
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