あなたを守りたい

蜜柑マル

文字の大きさ
上 下
27 / 35
婚約者編

望んでない

しおりを挟む
ギルバートが飛んだ先は、誕生日パーティーでシャロンを見つけた城の庭園だった。初対面にも関わらずキャアキャア群がる令嬢たちにうんざりして飛んだ先に、ひっそりと立ち尽くすシャロンがいた。彼女から、ごくごくほのかに甘い香りがして、ギルバートは胸がドクリと音を立てたのを今でも鮮明に覚えている。

(…何が悪かったのか、なんて、…もう、どうでもいいな)

いろいろな糸が複雑に絡まり合って、あの結果になった。さっきランベールの顔を見て感情が爆発したが、ランベールをまた殺したところで状況は何も変わりはしない。

なんのために俺は巻き戻らされたのか。またさっきの自問に戻る。

(シャロンを苦しみ痛め付けた、その罰を受けろと?そういうことなのか?)

ギルバートは「…ハハッ」と力なく嗤うと、瞳から涙を流す。前回の失敗を取り戻せるならまだしも、正解がわかっていながら自分の欲しいシャロンは絶対に手に入らない。そんな苦しみを味わいながら生きていくのはイヤだ。

(前回、だって、…俺は、幸せなんかじゃなかった)

自分の努力ではどうにもできない理由で母には疎まれ、父には事実上捨てられた。シャロンとも、良い関係は築けなかった。入学するまでも。入学した後は言うまでもない。愛情を受けられず、愛情を求めても裏切られたらと思う臆病な気持ちが、シャロンとの間に壁を作っていた。本当なら、もっと触れ合いたかった。自分と同じ様に家族とうまくいっていないシャロンと、二人、絆を強めたかった。でも拒絶されたら、と思うと踏み込めなかった。自分だけが彼女を求めているという現実もギルバートを苛んだ。

「…俺はどうせ、欠陥品だ」

涙を流しながら、ギルバートは自分が呟いた言葉にまた傷付く。なんのために俺は生まれて来たんだろう?自分が傷付き、他人を傷付け、愛している人間を痛め付けて殺した。

どうせなら、魅了が解けないままがよかった。最低な人間のまま、死ねれば良かった。

(そうだ、死ねばいい)

自分が望んだわけではない巻き戻り。こんなぐちゃぐちゃの感情のまま、生きて行きたくない。

幸せになれる人間ではなかったんだ。そう諦めるしかない。

ギルバートは立ち上がり、涙に濡れた瞳で空を見上げた。もう疲れた。もうたくさんだ。

庭園を取り囲むように立つ大木まで歩き、その樹に氷の刃を生やす。何本も生やして、自分のカラダを風魔法でそこ目掛けてぶつけようと魔力を強めた時、

「ギルバート!!」

ぐうっ、とカラダが挟まれる圧迫を感じ、顔を上げるとジークハルトの顔が見えた。後ろからも、焦ったような声音で「ギルバート!」と呼ばれ、ギュウッと抱き締められる。

「悪かった、意地悪だったな、ごめん、」

「…離してください」

顔を覗き込むようにしてくるジークハルトを力の限り睨み付ける。

「俺は生きてる価値もない、生きてる意味なんかないんだ!あんたらは勝手に幸せに生きていけよ、俺のことは放っておいてくれ!!」

「ギル、」

「こんなの、望んでない…なんでこんな目に遭わなくちゃならないんだよ、もう一度死ねばいいんだろ、もうイヤだ、こんな世界イヤだ、シャロンがいない世界なんて、」

「彼女はいるだろ、」

「いない!シャロンはもういない!俺が殺したんだ、シャロンはもうこの世にいないんだ!死んで詫びるから、もう赦してほしい、こんな苦しみから抜け出したい、こんな現実、見たくなかった、…死にたい、…離せっ!!」

ものすごい力で突き飛ばされ、想定外のギルバートの行動にジークハルトとジェライトの動きが一瞬遅れた。その一瞬で、ギルバートは自分のカラダを刃に向けて投げ出す。突き刺される痛みに、しかしギルバートは心底安堵した。こんな冷たい世界、俺の方から拒絶してやる。

「…だいっきらいだ」

意識を失う直前に目に入ったのは、一面に広がる空の青さだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

勝手にしなさいよ

恋愛
どうせ将来、婚約破棄されると分かりきってる相手と婚約するなんて真っ平ごめんです!でも、相手は王族なので公爵家から破棄は出来ないのです。なら、徹底的に避けるのみ。と思っていた悪役令嬢予定のヴァイオレットだが……

下げ渡された婚約者

相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。 しかしある日、第一王子である兄が言った。 「ルイーザとの婚約を破棄する」 愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。 「あのルイーザが受け入れたのか?」 「代わりの婿を用意するならという条件付きで」 「代わり?」 「お前だ、アルフレッド!」 おさがりの婚約者なんて聞いてない! しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。 アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。 「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」 「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

見えるものしか見ないから

mios
恋愛
公爵家で行われた茶会で、一人のご令嬢が倒れた。彼女は、主催者の公爵家の一人娘から婚約者を奪った令嬢として有名だった。一つわかっていることは、彼女の死因。 第二王子ミカエルは、彼女の無念を晴そうとするが……

純白の牢獄

ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。 ご都合主義のハッピーエンドのSSです。 でも周りは全くハッピーじゃないです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...