あなたを守りたい

蜜柑マル

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婚約者編

望んでない

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ギルバートが飛んだ先は、誕生日パーティーでシャロンを見つけた城の庭園だった。初対面にも関わらずキャアキャア群がる令嬢たちにうんざりして飛んだ先に、ひっそりと立ち尽くすシャロンがいた。彼女から、ごくごくほのかに甘い香りがして、ギルバートは胸がドクリと音を立てたのを今でも鮮明に覚えている。

(…何が悪かったのか、なんて、…もう、どうでもいいな)

いろいろな糸が複雑に絡まり合って、あの結果になった。さっきランベールの顔を見て感情が爆発したが、ランベールをまた殺したところで状況は何も変わりはしない。

なんのために俺は巻き戻らされたのか。またさっきの自問に戻る。

(シャロンを苦しみ痛め付けた、その罰を受けろと?そういうことなのか?)

ギルバートは「…ハハッ」と力なく嗤うと、瞳から涙を流す。前回の失敗を取り戻せるならまだしも、正解がわかっていながら自分の欲しいシャロンは絶対に手に入らない。そんな苦しみを味わいながら生きていくのはイヤだ。

(前回、だって、…俺は、幸せなんかじゃなかった)

自分の努力ではどうにもできない理由で母には疎まれ、父には事実上捨てられた。シャロンとも、良い関係は築けなかった。入学するまでも。入学した後は言うまでもない。愛情を受けられず、愛情を求めても裏切られたらと思う臆病な気持ちが、シャロンとの間に壁を作っていた。本当なら、もっと触れ合いたかった。自分と同じ様に家族とうまくいっていないシャロンと、二人、絆を強めたかった。でも拒絶されたら、と思うと踏み込めなかった。自分だけが彼女を求めているという現実もギルバートを苛んだ。

「…俺はどうせ、欠陥品だ」

涙を流しながら、ギルバートは自分が呟いた言葉にまた傷付く。なんのために俺は生まれて来たんだろう?自分が傷付き、他人を傷付け、愛している人間を痛め付けて殺した。

どうせなら、魅了が解けないままがよかった。最低な人間のまま、死ねれば良かった。

(そうだ、死ねばいい)

自分が望んだわけではない巻き戻り。こんなぐちゃぐちゃの感情のまま、生きて行きたくない。

幸せになれる人間ではなかったんだ。そう諦めるしかない。

ギルバートは立ち上がり、涙に濡れた瞳で空を見上げた。もう疲れた。もうたくさんだ。

庭園を取り囲むように立つ大木まで歩き、その樹に氷の刃を生やす。何本も生やして、自分のカラダを風魔法でそこ目掛けてぶつけようと魔力を強めた時、

「ギルバート!!」

ぐうっ、とカラダが挟まれる圧迫を感じ、顔を上げるとジークハルトの顔が見えた。後ろからも、焦ったような声音で「ギルバート!」と呼ばれ、ギュウッと抱き締められる。

「悪かった、意地悪だったな、ごめん、」

「…離してください」

顔を覗き込むようにしてくるジークハルトを力の限り睨み付ける。

「俺は生きてる価値もない、生きてる意味なんかないんだ!あんたらは勝手に幸せに生きていけよ、俺のことは放っておいてくれ!!」

「ギル、」

「こんなの、望んでない…なんでこんな目に遭わなくちゃならないんだよ、もう一度死ねばいいんだろ、もうイヤだ、こんな世界イヤだ、シャロンがいない世界なんて、」

「彼女はいるだろ、」

「いない!シャロンはもういない!俺が殺したんだ、シャロンはもうこの世にいないんだ!死んで詫びるから、もう赦してほしい、こんな苦しみから抜け出したい、こんな現実、見たくなかった、…死にたい、…離せっ!!」

ものすごい力で突き飛ばされ、想定外のギルバートの行動にジークハルトとジェライトの動きが一瞬遅れた。その一瞬で、ギルバートは自分のカラダを刃に向けて投げ出す。突き刺される痛みに、しかしギルバートは心底安堵した。こんな冷たい世界、俺の方から拒絶してやる。

「…だいっきらいだ」

意識を失う直前に目に入ったのは、一面に広がる空の青さだった。


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