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マリアンヌ編
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その夜も、食事後それぞれの自室に戻り、湯浴みを済ませノーマンを待っていたのだが、いつもの時間になってもやって来なかった。
「…実は私、今日、妊娠してることがわかったんです」
「え!?」
揃って声を上げたジークハルトとヴェルデは、
「うわー…何しちゃってんのよあいつ…」
「終わったな、ノーマン君」
とボソボソと呟いた。
明日でも良かったのだが、どうしても今夜のうちに伝えたいと部屋を出たところで義母が立っていた。ノーマンの部屋に行くと伝えると、「あら、そうなの?私も行くわ」と付いてくる。断る理由もないため連れ立って行ったところ、
「…部屋の中から、喘ぎ声が聞こえてきたんです」
義母に告げられた内容を合わせて話すと、ジークハルトが首を捻った。
「その従妹って、ゾーン伯爵家の令嬢だよね。ゾーン伯爵家…ゾーン伯爵家…あれ。もしかして…」
「ハルト君、ストップ」
突然現れた男性がジークハルトの口をふさいだ。
「ナディール様、おかえりなさい」
まったく動じることなくにこやかに迎えたルヴィアは、
「ナディール様もお茶にされますか?」
と尋ねたが、「ううん、大丈夫」と首を横に振ったナディールは、マリアンヌに視線を向けた。ジークハルトと同じ色持ちの男性の赤い無機質な瞳がじっと見据える。
「キミ、ノーマン君の奥さんだよね。マリアンヌちゃん」
初対面のはずなのにまさかのちゃん付けでびっくりしたが、その何もかも見透かすような瞳に逆らえず「はい」と頷いてしまう。
「初めまして。僕はナディール・エイベル。諜報部の長官です。よろしくね。ノーマン君はね、僕の部下なんだよ。諜報部員は存在を大っぴらにできない、関係性を探られても困るから結婚式にも参列できなかったんだけど、匿名でお祝いはさせてもらった。ま、そんなことはどうでもよくてね。イノーシュ君、なんでマリアンヌちゃんのこと第3部隊の隊長室から連れ去ったりしたの。ノーマン君が大暴れして大変だったんだよ」
淡々とものすごい情報量を吐き出され理解できずにいるマリアンヌの隣で、ヴェルデが「…えええ」と顔を青ざめさせた。
「大暴れ…って…まさか…」
「一応第3部隊隊長室だけで済んだけど、しばらく使い物にはならないかな」
「やっぱりぃぃぃぃぃぃ…っ!!!」
くっそ鬼畜野郎がぁっ!!と叫ぶヴェルデをチラリと見たナディールは、
「ノーマン君からマリアンヌちゃんを取り上げたりするからだよ」
「ナディール叔父上、もちろん諜報部持ちで修理していただけるんですよね」
ジークハルトに睨み付けられたナディールは、「ノーマン君持ちだよね、諜報部関係ないもん」とシレッと答えると、
「とりあえずノーマン君は諜報部の取調室にぶちこんである。僕のシールドは破れないだろうから出てくる心配はないよ。なんかさ、もう何を言ってるかわからなくて埒が明かないからマリアンヌちゃんに聞きにきたんだけど、なんで離縁なんて?何があったの?」
グッ、と詰まるマリアンヌを見て、ジークハルトが「俺が説明します」と答えた。内容を聞いたナディールは、
「…はあ~。バカらしい」
とため息をつく。
「…すみません」
バカらしい、と言われて悔しさのあまり泣きそうになりながらも、なんとかそう絞り出したマリアンヌに、
「あれ、違うよマリアンヌちゃん。…僕、言い方が悪いってよくマディに怒られるんだよ、ごめんね。バカらしいって言うのは、ノーマン君のことだよ。まったく、わかってるのに引っ掛かるなんてバカにも程がある。自分が優秀だと自惚れての結果がこれだよ。若いからって目を瞑っていたけど、だいぶ痛いお灸になっちゃったなあ、ノーマン君」
とナディールは頭を下げて謝罪した。
「ナディール叔父上、やっぱりゾーン伯爵家絡みなんですね」
ジークハルトに詰め寄られ、さっとかわしたナディールは、ルヴィアの隣に腰を降ろした。
「ナディール叔父上!ルヴィから離れてください!!」
「いいじゃん別に。ルヴィちゃんの近くにいると癒されるんだよ。…あのね、マリアンヌちゃん。これは、まだ極秘の話だったんだけど、今夜ノーマン君がぶちギレちゃって相手に自白させちゃったから明日にはすべて明るみに出るし、お話しておくね。ノーマン君が、大っきらいな従妹を抱いてしまったのは…まあ、レイプされたみたいなもんなんだけど、ノーマン君が。ゾーン伯爵家で違法に作られている薬物を摂取させられて、その大っきらいな従妹をキミだと勘違いさせられた、プラス、かなり強力な媚薬を盛られたからなんだ。ある程度耐性があるノーマン君がその気にさせられちゃうんだから、これ素人が摂取したら命に関わるかもしれないよ。ノーマン君自身の血液と、ノーマン君が出した精子を今分析しているところ。どんな薬物が出てきて、どこに繋がるのか…少なくともゾーン伯爵家は取り潰しだね。いま、ノーマン君の父親にも言伝てを出したから今夜中には帰ってくるだろう」
ものすごく大変な話をされているのだと思うが、話しているナディールのあまりにも淡々とした物言いに、マリアンヌは「…はあ、」と間抜けな返答しか返せなかった。
「ゾーン伯爵家の前の当主あたりからちょっと臭う感じだったんだけど、今の当主がバカでねぇ~。まともに仕事してないのにあちこちで豪遊するわ散財するわで、じゃあその財源どこから出てるんだよ、って素人ですらわかるじゃん。ちょうどノーマン君の母親の実家だし、あの従妹とやらがノーマン君にはメタクソ嫌われてるのに、ノーマン君がツンデレで自分に素直になれないだけ☆なんて頭がイカれてるからさぁ。それをうまく利用して、なんとか証拠を掴ませようとしてたんだけど、とんでもない形で掴まされちゃったな、ノーマン君。…マリアンヌちゃん」
「は、い、」
またあの無機質な瞳でじっと見据えられたじろぐと、
「ノーマン君はね、切り落とすって」
「…切り落とす?」
唐突すぎる言葉の意味がわからずに聞き返すと、
「うん。陰部を切り落とすって。あんな腐れ女に突っ込んだちんぽなんかいらないって燃やそうとしてたよバカだよね」
アハハ、と笑っているが笑い事ではない。
「な、んで、そんな、」
「マリアンヌちゃんに離縁されるなら、もう必要ないからって。死にたいって言うから、とりあえず国にかけてもらった金を返してからにしろって誓約書書かせた。10年は死ねないな」
そんなことを言われても、…そこまでする価値なんて、私にはない。
「違うよ、マリアンヌちゃん。価値があるかどうか決めるのはキミじゃないでしょ、ノーマン君でしょ。ノーマン君にとって、キミを裏切ってしまった陰部なんて必要ないし、キミが自分のモノじゃなくなるなら、キミがいなくなってしまうなら、自分の存在なんて消し去りたいんだよ」
マリアンヌの思考を読み取ったかのように話すナディールの言葉に、「…おもっ」と呟くヴェルデ。
ざわざわする胸を必死に押さえるマリアンヌに、ナディールがさらに追い討ちをかける。
「自分でやったらさすがに死んじゃうから、城の医官に処置してもらうようにしたよ」
「や、やめてください、」
ガタガタと震え出す手を必死に握るマリアンヌに、「マリアンヌちゃん」とナディールが囁く。
「マリアンヌちゃんは、ノーマン君の穢れたカラダを赦せるかい」
「…は、」
「ノーマン君はね、さっき言ったようにあの従妹がだいっ嫌いなんだよ。義母に言われたことが引っ掛かるのかもしれないけど、義母は従妹の味方だからね。…なんで今夜、ノーマン君に薬を盛ったかわかる?あの従妹はね、遊びが激しい女でね、父親と一緒で。ただねぇ、父親は出す側だからいいけど、あの従妹は女だから出される側でしょ?バカだからその場限りの快楽に溺れて中出しさせちゃって、妊娠しちゃったんだって。それをキミの義母…従妹からすりゃ、叔母さんだね。その叔母さんに子どもができたと相談したら、ノーマン君に一服盛って既成事実を作れってなったらしいよ。いとこ同士だから結婚は難しくても事実婚にすればいい、って。頭がイカれてる人間はとんでもないこと考えるよね。自分の息子の幸せよりも自分の幸せを優先するんだからさぁ。マリアンヌちゃんていう他人より、自分が可愛がってる姪が嫁のほうがいい、なんて。ジェンキンス侯爵家の乗っ取りになる、そんなことも考えられないんだからねぇ。重罪だよ」
「の、…っとり?」
ナディールは「そうだよ」と頷くと、
「ノーマン君の種じゃない子どもをジェンキンス侯爵家の跡継ぎにしようとしたんでしょ?だもん、家の乗っ取りじゃない。…マリアンヌちゃん、話を戻すけど、キミはノーマン君の穢れたカラダを赦せるかい?キミのことが大好きで、キミのことしかまともに考えてなくて、それなのにバカで油断したがためにクスリ盛られてレイプされちゃったバカなノーマン君を赦せるかい?心はキミにしかないのに、無理矢理他の女を抱かされてしまったある意味被害者のノーマン君を赦せるかい、って聞いてるんだよ」
じっと見つめられるが、赦せる、赦せないではなく…。
「あ、の、…私は、私は、この、お腹の子を、守りたいんです、養子に出された上に、第1王子の婚約者にされて、あげくに、殺されてしまうなんて、イヤなんです、」
「…は?」
ナディールの訝しげな声にハッ、と我に返るが、既に遅し。隣に移動してきたナディールにグッ、と両肩を掴まれ顔を覗き込まれた。
「養子に出されて、第1王子の婚約者になるってどういうこと。確かにアズちゃんは妊娠してるけどまだ生まれてないし性別もわかってないんだよ。しかも、殺される、ってなんなの。どういうこと、マリアンヌちゃん。場合によっては容赦できないけど…どうする?」
先ほどまでの無機質な瞳が今はとてつもなく冷酷に光っている。思わずゴクリ、と喉が鳴ったマリアンヌは、覚悟を決めた。
「…信じて、もらえないと思いますが、私、さっき、記憶が、戻って、…今回、2回目なんです、あの二人の、情交の場に立ち合ってしまったの…前回、私は、何も、しませんでした。その場から、逃げて、何も、しないで、妊娠が、わかったら、魔術師団を、辞めさせられました、それで、もし、離縁したら、どうやって、生きていけばいいのか、怖くて、…娘が、生まれて、すぐに養子に出されて、マリエラ様が生んだ男の子を、私と、ノーマン様の、子どもに、されて、でも、マリエラ様がいなくなって、義母が亡くなって、娘が、戻ってきました。戻ってきたけど、懐いてくれなくて…私、自分が悪いのに、義母や、夫への苛立ちを、娘で発散したんです…。まったく通じ合えないまま、娘は第1王子と結婚して、半年で、死んでしまった…私が、殺したんです…」
震える声でなんとか言葉を紡ぐマリアンヌを、その場にいる皆が見守るように話を聞いた。
「…実は私、今日、妊娠してることがわかったんです」
「え!?」
揃って声を上げたジークハルトとヴェルデは、
「うわー…何しちゃってんのよあいつ…」
「終わったな、ノーマン君」
とボソボソと呟いた。
明日でも良かったのだが、どうしても今夜のうちに伝えたいと部屋を出たところで義母が立っていた。ノーマンの部屋に行くと伝えると、「あら、そうなの?私も行くわ」と付いてくる。断る理由もないため連れ立って行ったところ、
「…部屋の中から、喘ぎ声が聞こえてきたんです」
義母に告げられた内容を合わせて話すと、ジークハルトが首を捻った。
「その従妹って、ゾーン伯爵家の令嬢だよね。ゾーン伯爵家…ゾーン伯爵家…あれ。もしかして…」
「ハルト君、ストップ」
突然現れた男性がジークハルトの口をふさいだ。
「ナディール様、おかえりなさい」
まったく動じることなくにこやかに迎えたルヴィアは、
「ナディール様もお茶にされますか?」
と尋ねたが、「ううん、大丈夫」と首を横に振ったナディールは、マリアンヌに視線を向けた。ジークハルトと同じ色持ちの男性の赤い無機質な瞳がじっと見据える。
「キミ、ノーマン君の奥さんだよね。マリアンヌちゃん」
初対面のはずなのにまさかのちゃん付けでびっくりしたが、その何もかも見透かすような瞳に逆らえず「はい」と頷いてしまう。
「初めまして。僕はナディール・エイベル。諜報部の長官です。よろしくね。ノーマン君はね、僕の部下なんだよ。諜報部員は存在を大っぴらにできない、関係性を探られても困るから結婚式にも参列できなかったんだけど、匿名でお祝いはさせてもらった。ま、そんなことはどうでもよくてね。イノーシュ君、なんでマリアンヌちゃんのこと第3部隊の隊長室から連れ去ったりしたの。ノーマン君が大暴れして大変だったんだよ」
淡々とものすごい情報量を吐き出され理解できずにいるマリアンヌの隣で、ヴェルデが「…えええ」と顔を青ざめさせた。
「大暴れ…って…まさか…」
「一応第3部隊隊長室だけで済んだけど、しばらく使い物にはならないかな」
「やっぱりぃぃぃぃぃぃ…っ!!!」
くっそ鬼畜野郎がぁっ!!と叫ぶヴェルデをチラリと見たナディールは、
「ノーマン君からマリアンヌちゃんを取り上げたりするからだよ」
「ナディール叔父上、もちろん諜報部持ちで修理していただけるんですよね」
ジークハルトに睨み付けられたナディールは、「ノーマン君持ちだよね、諜報部関係ないもん」とシレッと答えると、
「とりあえずノーマン君は諜報部の取調室にぶちこんである。僕のシールドは破れないだろうから出てくる心配はないよ。なんかさ、もう何を言ってるかわからなくて埒が明かないからマリアンヌちゃんに聞きにきたんだけど、なんで離縁なんて?何があったの?」
グッ、と詰まるマリアンヌを見て、ジークハルトが「俺が説明します」と答えた。内容を聞いたナディールは、
「…はあ~。バカらしい」
とため息をつく。
「…すみません」
バカらしい、と言われて悔しさのあまり泣きそうになりながらも、なんとかそう絞り出したマリアンヌに、
「あれ、違うよマリアンヌちゃん。…僕、言い方が悪いってよくマディに怒られるんだよ、ごめんね。バカらしいって言うのは、ノーマン君のことだよ。まったく、わかってるのに引っ掛かるなんてバカにも程がある。自分が優秀だと自惚れての結果がこれだよ。若いからって目を瞑っていたけど、だいぶ痛いお灸になっちゃったなあ、ノーマン君」
とナディールは頭を下げて謝罪した。
「ナディール叔父上、やっぱりゾーン伯爵家絡みなんですね」
ジークハルトに詰め寄られ、さっとかわしたナディールは、ルヴィアの隣に腰を降ろした。
「ナディール叔父上!ルヴィから離れてください!!」
「いいじゃん別に。ルヴィちゃんの近くにいると癒されるんだよ。…あのね、マリアンヌちゃん。これは、まだ極秘の話だったんだけど、今夜ノーマン君がぶちギレちゃって相手に自白させちゃったから明日にはすべて明るみに出るし、お話しておくね。ノーマン君が、大っきらいな従妹を抱いてしまったのは…まあ、レイプされたみたいなもんなんだけど、ノーマン君が。ゾーン伯爵家で違法に作られている薬物を摂取させられて、その大っきらいな従妹をキミだと勘違いさせられた、プラス、かなり強力な媚薬を盛られたからなんだ。ある程度耐性があるノーマン君がその気にさせられちゃうんだから、これ素人が摂取したら命に関わるかもしれないよ。ノーマン君自身の血液と、ノーマン君が出した精子を今分析しているところ。どんな薬物が出てきて、どこに繋がるのか…少なくともゾーン伯爵家は取り潰しだね。いま、ノーマン君の父親にも言伝てを出したから今夜中には帰ってくるだろう」
ものすごく大変な話をされているのだと思うが、話しているナディールのあまりにも淡々とした物言いに、マリアンヌは「…はあ、」と間抜けな返答しか返せなかった。
「ゾーン伯爵家の前の当主あたりからちょっと臭う感じだったんだけど、今の当主がバカでねぇ~。まともに仕事してないのにあちこちで豪遊するわ散財するわで、じゃあその財源どこから出てるんだよ、って素人ですらわかるじゃん。ちょうどノーマン君の母親の実家だし、あの従妹とやらがノーマン君にはメタクソ嫌われてるのに、ノーマン君がツンデレで自分に素直になれないだけ☆なんて頭がイカれてるからさぁ。それをうまく利用して、なんとか証拠を掴ませようとしてたんだけど、とんでもない形で掴まされちゃったな、ノーマン君。…マリアンヌちゃん」
「は、い、」
またあの無機質な瞳でじっと見据えられたじろぐと、
「ノーマン君はね、切り落とすって」
「…切り落とす?」
唐突すぎる言葉の意味がわからずに聞き返すと、
「うん。陰部を切り落とすって。あんな腐れ女に突っ込んだちんぽなんかいらないって燃やそうとしてたよバカだよね」
アハハ、と笑っているが笑い事ではない。
「な、んで、そんな、」
「マリアンヌちゃんに離縁されるなら、もう必要ないからって。死にたいって言うから、とりあえず国にかけてもらった金を返してからにしろって誓約書書かせた。10年は死ねないな」
そんなことを言われても、…そこまでする価値なんて、私にはない。
「違うよ、マリアンヌちゃん。価値があるかどうか決めるのはキミじゃないでしょ、ノーマン君でしょ。ノーマン君にとって、キミを裏切ってしまった陰部なんて必要ないし、キミが自分のモノじゃなくなるなら、キミがいなくなってしまうなら、自分の存在なんて消し去りたいんだよ」
マリアンヌの思考を読み取ったかのように話すナディールの言葉に、「…おもっ」と呟くヴェルデ。
ざわざわする胸を必死に押さえるマリアンヌに、ナディールがさらに追い討ちをかける。
「自分でやったらさすがに死んじゃうから、城の医官に処置してもらうようにしたよ」
「や、やめてください、」
ガタガタと震え出す手を必死に握るマリアンヌに、「マリアンヌちゃん」とナディールが囁く。
「マリアンヌちゃんは、ノーマン君の穢れたカラダを赦せるかい」
「…は、」
「ノーマン君はね、さっき言ったようにあの従妹がだいっ嫌いなんだよ。義母に言われたことが引っ掛かるのかもしれないけど、義母は従妹の味方だからね。…なんで今夜、ノーマン君に薬を盛ったかわかる?あの従妹はね、遊びが激しい女でね、父親と一緒で。ただねぇ、父親は出す側だからいいけど、あの従妹は女だから出される側でしょ?バカだからその場限りの快楽に溺れて中出しさせちゃって、妊娠しちゃったんだって。それをキミの義母…従妹からすりゃ、叔母さんだね。その叔母さんに子どもができたと相談したら、ノーマン君に一服盛って既成事実を作れってなったらしいよ。いとこ同士だから結婚は難しくても事実婚にすればいい、って。頭がイカれてる人間はとんでもないこと考えるよね。自分の息子の幸せよりも自分の幸せを優先するんだからさぁ。マリアンヌちゃんていう他人より、自分が可愛がってる姪が嫁のほうがいい、なんて。ジェンキンス侯爵家の乗っ取りになる、そんなことも考えられないんだからねぇ。重罪だよ」
「の、…っとり?」
ナディールは「そうだよ」と頷くと、
「ノーマン君の種じゃない子どもをジェンキンス侯爵家の跡継ぎにしようとしたんでしょ?だもん、家の乗っ取りじゃない。…マリアンヌちゃん、話を戻すけど、キミはノーマン君の穢れたカラダを赦せるかい?キミのことが大好きで、キミのことしかまともに考えてなくて、それなのにバカで油断したがためにクスリ盛られてレイプされちゃったバカなノーマン君を赦せるかい?心はキミにしかないのに、無理矢理他の女を抱かされてしまったある意味被害者のノーマン君を赦せるかい、って聞いてるんだよ」
じっと見つめられるが、赦せる、赦せないではなく…。
「あ、の、…私は、私は、この、お腹の子を、守りたいんです、養子に出された上に、第1王子の婚約者にされて、あげくに、殺されてしまうなんて、イヤなんです、」
「…は?」
ナディールの訝しげな声にハッ、と我に返るが、既に遅し。隣に移動してきたナディールにグッ、と両肩を掴まれ顔を覗き込まれた。
「養子に出されて、第1王子の婚約者になるってどういうこと。確かにアズちゃんは妊娠してるけどまだ生まれてないし性別もわかってないんだよ。しかも、殺される、ってなんなの。どういうこと、マリアンヌちゃん。場合によっては容赦できないけど…どうする?」
先ほどまでの無機質な瞳が今はとてつもなく冷酷に光っている。思わずゴクリ、と喉が鳴ったマリアンヌは、覚悟を決めた。
「…信じて、もらえないと思いますが、私、さっき、記憶が、戻って、…今回、2回目なんです、あの二人の、情交の場に立ち合ってしまったの…前回、私は、何も、しませんでした。その場から、逃げて、何も、しないで、妊娠が、わかったら、魔術師団を、辞めさせられました、それで、もし、離縁したら、どうやって、生きていけばいいのか、怖くて、…娘が、生まれて、すぐに養子に出されて、マリエラ様が生んだ男の子を、私と、ノーマン様の、子どもに、されて、でも、マリエラ様がいなくなって、義母が亡くなって、娘が、戻ってきました。戻ってきたけど、懐いてくれなくて…私、自分が悪いのに、義母や、夫への苛立ちを、娘で発散したんです…。まったく通じ合えないまま、娘は第1王子と結婚して、半年で、死んでしまった…私が、殺したんです…」
震える声でなんとか言葉を紡ぐマリアンヌを、その場にいる皆が見守るように話を聞いた。
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