お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

文字の大きさ
上 下
159 / 161
番外編~100年に一度の恋へ

18

しおりを挟む
ハソックヒル国に向かうジャポン皇国の艦隊の前に広がる海に、炎が立ち上っては消えていく。

「…なんだ、あれ」

呟いた織部の元に、義理の姉、撫子が現れた。真っ赤に泣き濡れた瞳に、織部の胸がドクリと鳴った。まさか。

「撫子さん、」

「お姉様が…っ。…っ、ソフィア様が…っ」

そのまま泣き崩れる撫子を抱えあげ、織部は顔を上げさせた。

「撫子さん、ソフィアさんがどうしたんだ!この海の惨状はなんだ、」

『織部さん』

龍彦がふざけ半分で出したトランシーバーとやらから、声が聞こえてくる。この声、

「…ギデオンさんか?」

『ソフィアが殺されました。王太子妃誘拐の上に無事で返さない…約束を一方的に反古にされました。ですので、我が国の当然の権利としてハソックヒル国を滅ぼします。こちらは片がつきましたので、今からこの戦犯共を連れてアミノフィア国に乗り込みます。せっかく来ていただいて申し訳ありませんが、ソルマーレ国に向かっていただけますか?アミノフィア国での話し合いが付いたら戻りますので』

「ギデオンさん…っ!?」

しかしその機械から、再びギデオンの声が聞こえてくることはなかった。

「くそ…っ」

ソフィアが、殺された、…ギデオンは、そう言った。大事な人質だった、オリヴィアを手に入れた上でソルマーレ国も好きにするための人質だったソフィアを殺した?

いったい何が起きたのか。しかし、協力を求められて来た以上、その相手から「帰れ」と言われれば帰るしかない。ソルマーレ国で待つしか、真相を知る術はない。

何時にも増して無機質な声で告げるギデオンの心情を想い、織部は男泣きに泣いた。












「…ハソックヒル国は、今この時を持って姿を消します。あなた方ハソックヒル国の王族はソルマーレ国にて処刑。

アミノフィア国はどうしますか、国王陛下?ハソックヒル国と命運を共にされますか?」

ギデオンに聞かれたアミノフィア国国王の顔が歪む。

「我が国は被害者だ…っ!倅が関わっていたことだって、」

「証拠がないと、そう仰りたいのでしょうか、父上」

「…イェーガー!こんなふうにバカにされて、我が国はソルマーレ国の属国ではないのだぞ…っ」

しかし、ギデオン同様の冷たい瞳で自分を見据える長男に、カラダがビクリと跳ねた。

「ええ、我が国は属国ではありませんね。そこな腐れの企みでソルマーレ国を属国にしようとしていたのですからね。証拠はたんまり出てきましたよ、父上。貴方の愛してやまない側妃様の寝室からね」

目の前に紙吹雪のように大量の書類をバラ蒔かれ、アミノフィア国王の顔がみるみる青ざめる。

「私を廃太子にした後、冤罪で処刑、我が妃と子も処刑、母上まで処刑しようとは…いやはや、そこまで父上に憎まれていたとは正直知りませんでした。しかしそれを知っても、まったく哀しみが湧いてこないことがむしろ悲しいですけどねぇ」

「イ、イェーガー、違うんだ、これは、」

「ギデオン王太子殿下。貴方の大切な最愛を奪った我が国に、それでも慈悲をかけていただけるのならば、アミノフィア国はこのままこの後も、ソルマーレ国の友好国としていただけないだろうか。私は貴方に誓う」

そう言ったイェーガー王太子は、目の前で無様に尻餅をついた父親…アミノフィア国王の首をなんの躊躇いもなくはねた。鮮血が飛び散り、喚き散らしていた側妃の顔が真っ赤に染まる。

「キ…っ、…キャアアアア…ッ」

「…うるさいな。今、宣誓中だってこともわからないのか、この畜生が」

冷たい声音とともに白刃が煌めく。側妃の首も飛び、それを見た第2王子は失禁の上失神した。

「邪魔が入ったので改めて…我が国は、今後ソルマーレ国に忠誠を誓います。未来永劫、君主が変わろうとこれは不変の決定事項だ。それが破られたら、我が国を消滅させてください」

「わかりました。この男は我が国に任せてもらっていいですね…?一瞬で殺すなんて生ぬるいことは、わたくしにはとても無理です」

血みどろに…真っ赤に染まった顔でニッコリと微笑むギデオンの狂気の瞳に、アミノフィア国の重臣たちはカラダを震わせた。この王太子が生きている限り、自分たちアミノフィア国に安寧は訪れないであろうことを悟って。そして、あの無様に気絶し倒れている第2王子の、穏やかに迎えられないであろう死を思って。

誰かが、呟く。

赤い悪魔、

と。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

処理中です...