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番外編~100年に一度の恋へ
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翌日から私は、寝室に閉じ込められた。寝室と言っても、ホテルの一室並みに生活に困らない設備は整っているので、そこに連れて来られたアーロンとザイオンの面倒を見ながら過ごしている。
あの夜、宣言通りに、私に媚薬を無理矢理飲ませてまで抱き潰した悪魔は、私が目を覚ましたときにはすでにいなかった。カラダもベッドもキレイになっていたけれど、残された無数の赤い跡が、昨夜の出来事が嘘ではないのだと示していた。そしてその日以来、悪魔は一度も姿を見せていない。
「母上」
「…レイン」
ソファでぼんやりしていると、レインが中に入ってきた。後ろにはリオンと、リオンの手を握った穂高君がいる。
「州知事ご一家が今日お帰りになります。父上が許さないので、母上の見送りはできません。穂高が代表で挨拶にきました」
いつもなら、こんなことレインもリオンも許さないはずなのに、こんな状態にされている私を気遣いこそすれ悪魔に抗議していたり、憤っている様子は感じられなかった。…私が、悪いのかな。オリヴィアちゃんが奴隷として売られていったのを、是として受け入れられない私が?
穂高君の挨拶を上の空で聞いて、3人が出て行ったあと視界がぼんやり滲む。
じゃあどうすれば良かったのか、それはわからない。セルーラン国との約束もあるのだから、だけど…。
鬱々しながら、いつの間にかソファで寝入っていて…気がついたら、悪魔に横抱きにされていた。髪を撫でる手の優しさに胸がギュッと痛くなる。
「フィー、目が覚めましたか」
悪魔の言葉に返事をする気になれず、また目を瞑る。どうすれば良かったのか、解決策が出せないのだから私がとやかく言う権利はないのかもしれないけど、手段があまりにも残酷だ。そんなにしなくちゃいけないほどだったの?
「…フィー、怒ってるんですね。でも、謝りません。ソルマーレ国として、やらねばならないことをやっただけですから。…フィーが赦してくれないのは悲しいですが、…時間が、必要なのです」
悪魔の言葉をウトウトしながら聞く。時間が必要、って、なんだろう。よくわからない。でも、聞く気にもなれない。グルグルと、どうしようもない気持ちだけが消えずにいる。
織部さん一家が帰った次の日から、私の生活も元に戻ったが、晴れない気持ちに引きずられているのか、ただ淡々と公務をこなすだけになり…悪魔とも夜一緒に過ごすのがイヤで、今のまま部屋をわけてもらうことにした。悪魔は不満そうだったが、「2週間そうしたのはギデオンさんでしょ」と言ったら悲しげな顔になり無言で出て行った。
この世界に来てから、たぶん初めて悪魔と夜過ごすことを拒否した。ずっとずっと、よほどのことがない限り一緒に寝てきたから。このまま、私の気持ちが浮上しなければ、前の人生のように、夫だった裕さんとのように、婚姻関係を結んでいるだけの同居人になるかもしれない。でも、割りきれない。何もしなかった自分のことも。
すると、ドアをノックする音のあと、レインとリオンと、悪魔が入ってきた。
「…フィー、わたくしとふたりはいやでしょうが、レインとリオンと、アーロンとザイオンと、家族みんなでここで寝るのは構わないでしょう?…一緒に、寝てください。お願いです」
悪魔の言葉に、涙がボタボタ溢れてくる。なんで、私を捨てないんだろう。なんでこんなに、優しいんだろう。私が手を離しても、こうして捕まえてくれる。
「お願いなんて、言わないで…私にはそんな権利はない…っ」
「母上、泣かないで」
「母上、大丈夫ですから」
「フィー、…愛してます。フィーと同じくらいではありませんが、オリヴィアもわたくしの大事な家族です。いまはそれしか言えません。…ここで、わたくしの腕の中にきて、寝てください。寝るだけですから。触れることを、許してください…拒絶しないでください…」
私は何も言葉にできず、悪魔のパジャマをビシャビシャに濡らしながらいつの間にかその温もりの中に微睡んだ。
あの夜、宣言通りに、私に媚薬を無理矢理飲ませてまで抱き潰した悪魔は、私が目を覚ましたときにはすでにいなかった。カラダもベッドもキレイになっていたけれど、残された無数の赤い跡が、昨夜の出来事が嘘ではないのだと示していた。そしてその日以来、悪魔は一度も姿を見せていない。
「母上」
「…レイン」
ソファでぼんやりしていると、レインが中に入ってきた。後ろにはリオンと、リオンの手を握った穂高君がいる。
「州知事ご一家が今日お帰りになります。父上が許さないので、母上の見送りはできません。穂高が代表で挨拶にきました」
いつもなら、こんなことレインもリオンも許さないはずなのに、こんな状態にされている私を気遣いこそすれ悪魔に抗議していたり、憤っている様子は感じられなかった。…私が、悪いのかな。オリヴィアちゃんが奴隷として売られていったのを、是として受け入れられない私が?
穂高君の挨拶を上の空で聞いて、3人が出て行ったあと視界がぼんやり滲む。
じゃあどうすれば良かったのか、それはわからない。セルーラン国との約束もあるのだから、だけど…。
鬱々しながら、いつの間にかソファで寝入っていて…気がついたら、悪魔に横抱きにされていた。髪を撫でる手の優しさに胸がギュッと痛くなる。
「フィー、目が覚めましたか」
悪魔の言葉に返事をする気になれず、また目を瞑る。どうすれば良かったのか、解決策が出せないのだから私がとやかく言う権利はないのかもしれないけど、手段があまりにも残酷だ。そんなにしなくちゃいけないほどだったの?
「…フィー、怒ってるんですね。でも、謝りません。ソルマーレ国として、やらねばならないことをやっただけですから。…フィーが赦してくれないのは悲しいですが、…時間が、必要なのです」
悪魔の言葉をウトウトしながら聞く。時間が必要、って、なんだろう。よくわからない。でも、聞く気にもなれない。グルグルと、どうしようもない気持ちだけが消えずにいる。
織部さん一家が帰った次の日から、私の生活も元に戻ったが、晴れない気持ちに引きずられているのか、ただ淡々と公務をこなすだけになり…悪魔とも夜一緒に過ごすのがイヤで、今のまま部屋をわけてもらうことにした。悪魔は不満そうだったが、「2週間そうしたのはギデオンさんでしょ」と言ったら悲しげな顔になり無言で出て行った。
この世界に来てから、たぶん初めて悪魔と夜過ごすことを拒否した。ずっとずっと、よほどのことがない限り一緒に寝てきたから。このまま、私の気持ちが浮上しなければ、前の人生のように、夫だった裕さんとのように、婚姻関係を結んでいるだけの同居人になるかもしれない。でも、割りきれない。何もしなかった自分のことも。
すると、ドアをノックする音のあと、レインとリオンと、悪魔が入ってきた。
「…フィー、わたくしとふたりはいやでしょうが、レインとリオンと、アーロンとザイオンと、家族みんなでここで寝るのは構わないでしょう?…一緒に、寝てください。お願いです」
悪魔の言葉に、涙がボタボタ溢れてくる。なんで、私を捨てないんだろう。なんでこんなに、優しいんだろう。私が手を離しても、こうして捕まえてくれる。
「お願いなんて、言わないで…私にはそんな権利はない…っ」
「母上、泣かないで」
「母上、大丈夫ですから」
「フィー、…愛してます。フィーと同じくらいではありませんが、オリヴィアもわたくしの大事な家族です。いまはそれしか言えません。…ここで、わたくしの腕の中にきて、寝てください。寝るだけですから。触れることを、許してください…拒絶しないでください…」
私は何も言葉にできず、悪魔のパジャマをビシャビシャに濡らしながらいつの間にかその温もりの中に微睡んだ。
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