149 / 161
番外編~100年に一度の恋へ
8
しおりを挟む
アーロンとザイオンが産まれて2ヶ月が過ぎ、ようやく生活のリズムが取り戻せて来た頃、ジャポン皇国の朱雀州知事である織部さん一家がやってきた。
「ギデオンさん、ソフィアさん、おめでとう。穂高がどうしても、って言うから先に来させちまってごめんな」
「ソフィア様、お身体はどうですか?双子ちゃんでお疲れでしょう」
そういう藤乃さんの腕にも、ふたり、赤ちゃんが抱かれている。ちょうど同じ頃に藤乃さんも出産だったのだ。藤乃さんは5歳の穂高君を筆頭に、4歳、2歳、そして今回産まれた双子ちゃんと、5人の母になっている。織部さんの愛情の深さが窺える結果である。素晴らしい…って言っていいのかな。
「藤乃さんも大変なときに、ありがとうございます」
藤乃さんはニッコリすると、
「穂高が毎日うるさくて…リオンちゃんに会いたい、会いたいと。早くソルマーレ国に婿入りしたいと言うのですよ、バカでしょう?自分の年が何歳なのかわからないのかしら。本当に…リオンちゃんの意思がわからないまま、婚約を結ばせるような真似をして申し訳ありません」
「ほんとにな。なんなら、解消してもらって構わないんだぜ」
揶揄うように言う織部さんの言葉に、いつもならば「そんな真似をしたら内側から朱雀州を壊滅させますよ、父上」と怒りを顕にする穂高君が、今日は黙ったままだった。いつもの言葉が飛んでくるだろうとニヤニヤしていた織部さんも、穂高君の様子がおかしいことに気付いて顔を覗き込む。
「穂高、…どうした?」
織部さんの言葉に、穂高君は俯くと、
「父上、…俺は、リオが好きです。リオと、ずっと一緒にいたくて、結婚したいと言って、リオを婚約者にしてもらいました。通える限りこちらにお邪魔して、時には無理矢理ジャポン皇国にリオを連れていきました。一緒に、…一緒にいたくて。でもそれは、俺の一方的な身勝手な望みで、…リオの気持ちは俺にはない。誰か他の男にあるわけでもないけど、これだけ気持ちを伝えてきた俺にも向いていない、いや、…俺のことは、拒絶しているようです。俺が、リオを好きなことが、…リオにとっては迷惑でしかないようです」
藤乃さんが「…それは当然じゃない?」と呟いたのを聞いて、穂高君はますますうなだれた。
「穂高、…リオンちゃんはまだ4歳なんだぞ。あれだけ貪欲になんでも吸収したい、その上周囲には優秀な方々が揃っている。筆頭が双子の兄のレイン君だ。お互いに切磋琢磨して能力を高め合うのが楽しくて仕方のない時期に、おまえと同じ様に愛情を向けてくれるはずがないだろう。おまえ、重すぎるぞ。リオンちゃんを縛り付けてダメにしたいのか?…おまえのことしか見ていない、おまえのことしか考えられない、おまえがいなければ生きていけないような、そんな女にしたいのか?
そんな相手がいいのなら、リオンちゃんは諦めろ。リオンちゃんはギデオンさんとソフィアさんの子どもだ。そんな、男がいなければ生きていけないなんてバカな女に育つはずがない。自分の足で自律できるひとりの人間であるのだから。…穂高、おまえが考えを改めない限り、…リオンちゃんはおまえから更に距離を置く一方だと俺はおもうが」
織部さんの顔を見上げた穂高君は真っ青な顔をしていた。
「…俺、」
「ほた、きてたんだな!」
ノックとともに扉が開いてレインが入ってきた。リオンは、…いない。
穂高君は泣きそうな顔になり、無理矢理、笑顔を作った。
「お邪魔してるよ、レイン」
その顔を見て、レインはボソリと「…ごめんな」と呟くと、
「ジャポン皇国の成り立ちについて教えてほしいことがあるんだ、俺の部屋に行こう」
と穂高君の手を握った。穂高君はレインに引かれるまま、黙って部屋を出ていった。
「なんか、ごめんね、織部さん。藤乃さんも」
「何を言ってるんですか、ソフィア様!むしろ謝罪しなければならないのはこちらなんですよ!」
藤乃さんが憮然とした表情になる。
「あの子…穂高の勝手で、リオンちゃんを縛り付けるようなことになってしまって…我が国もそうですし、ソルマーレ国も幼いうちから婚約者を決めなくてよい、自分たちの思うように将来的に決めたらよい、と言っているのに、あの子の我が儘でこんなことになってしまって。
もしリオンちゃんに、心から好きだと思える相手ができたとき、穂高は足かせにしかなりません。リオンちゃんは王族としての義務を痛いほど理解している。婚約者が決まっている時点で、いくら好きな、愛しい相手ができても自分の心を殺して穂高を婿として受け入れてしまうでしょう。…それは、リオンちゃんにも穂高にも幸せをもたらしたりしない。その先には、幸せはないのです。…織部様」
藤乃さんの視線を受け、織部さんは「…そうだな」と呟いた。
「しかしレインちゃんとの婚約を解消したりしたら、穂高はもっと意固地になるぞ」
「そうですわね。穂高が気づくしかありませんわね」
二人の会話に、なんだかいたたまれない気持ちになる。穂高君は確かにレインを好きすぎるけど、あれだけ思われることなんてなかなかないわけだし…それに穂高君がもっと成長したら、今みたいな熱烈な気持ちもなくなるかもしれない。人の気持ちなど、どうにかできるものではないのだから。
レインはまだ4歳だから、穂高君と同じ気持ちを育てることは無理だと思う。でもどうしたらいいのか明確な答えが出せずにもどかしく思う。
「ギデオンさん、ソフィアさん、おめでとう。穂高がどうしても、って言うから先に来させちまってごめんな」
「ソフィア様、お身体はどうですか?双子ちゃんでお疲れでしょう」
そういう藤乃さんの腕にも、ふたり、赤ちゃんが抱かれている。ちょうど同じ頃に藤乃さんも出産だったのだ。藤乃さんは5歳の穂高君を筆頭に、4歳、2歳、そして今回産まれた双子ちゃんと、5人の母になっている。織部さんの愛情の深さが窺える結果である。素晴らしい…って言っていいのかな。
「藤乃さんも大変なときに、ありがとうございます」
藤乃さんはニッコリすると、
「穂高が毎日うるさくて…リオンちゃんに会いたい、会いたいと。早くソルマーレ国に婿入りしたいと言うのですよ、バカでしょう?自分の年が何歳なのかわからないのかしら。本当に…リオンちゃんの意思がわからないまま、婚約を結ばせるような真似をして申し訳ありません」
「ほんとにな。なんなら、解消してもらって構わないんだぜ」
揶揄うように言う織部さんの言葉に、いつもならば「そんな真似をしたら内側から朱雀州を壊滅させますよ、父上」と怒りを顕にする穂高君が、今日は黙ったままだった。いつもの言葉が飛んでくるだろうとニヤニヤしていた織部さんも、穂高君の様子がおかしいことに気付いて顔を覗き込む。
「穂高、…どうした?」
織部さんの言葉に、穂高君は俯くと、
「父上、…俺は、リオが好きです。リオと、ずっと一緒にいたくて、結婚したいと言って、リオを婚約者にしてもらいました。通える限りこちらにお邪魔して、時には無理矢理ジャポン皇国にリオを連れていきました。一緒に、…一緒にいたくて。でもそれは、俺の一方的な身勝手な望みで、…リオの気持ちは俺にはない。誰か他の男にあるわけでもないけど、これだけ気持ちを伝えてきた俺にも向いていない、いや、…俺のことは、拒絶しているようです。俺が、リオを好きなことが、…リオにとっては迷惑でしかないようです」
藤乃さんが「…それは当然じゃない?」と呟いたのを聞いて、穂高君はますますうなだれた。
「穂高、…リオンちゃんはまだ4歳なんだぞ。あれだけ貪欲になんでも吸収したい、その上周囲には優秀な方々が揃っている。筆頭が双子の兄のレイン君だ。お互いに切磋琢磨して能力を高め合うのが楽しくて仕方のない時期に、おまえと同じ様に愛情を向けてくれるはずがないだろう。おまえ、重すぎるぞ。リオンちゃんを縛り付けてダメにしたいのか?…おまえのことしか見ていない、おまえのことしか考えられない、おまえがいなければ生きていけないような、そんな女にしたいのか?
そんな相手がいいのなら、リオンちゃんは諦めろ。リオンちゃんはギデオンさんとソフィアさんの子どもだ。そんな、男がいなければ生きていけないなんてバカな女に育つはずがない。自分の足で自律できるひとりの人間であるのだから。…穂高、おまえが考えを改めない限り、…リオンちゃんはおまえから更に距離を置く一方だと俺はおもうが」
織部さんの顔を見上げた穂高君は真っ青な顔をしていた。
「…俺、」
「ほた、きてたんだな!」
ノックとともに扉が開いてレインが入ってきた。リオンは、…いない。
穂高君は泣きそうな顔になり、無理矢理、笑顔を作った。
「お邪魔してるよ、レイン」
その顔を見て、レインはボソリと「…ごめんな」と呟くと、
「ジャポン皇国の成り立ちについて教えてほしいことがあるんだ、俺の部屋に行こう」
と穂高君の手を握った。穂高君はレインに引かれるまま、黙って部屋を出ていった。
「なんか、ごめんね、織部さん。藤乃さんも」
「何を言ってるんですか、ソフィア様!むしろ謝罪しなければならないのはこちらなんですよ!」
藤乃さんが憮然とした表情になる。
「あの子…穂高の勝手で、リオンちゃんを縛り付けるようなことになってしまって…我が国もそうですし、ソルマーレ国も幼いうちから婚約者を決めなくてよい、自分たちの思うように将来的に決めたらよい、と言っているのに、あの子の我が儘でこんなことになってしまって。
もしリオンちゃんに、心から好きだと思える相手ができたとき、穂高は足かせにしかなりません。リオンちゃんは王族としての義務を痛いほど理解している。婚約者が決まっている時点で、いくら好きな、愛しい相手ができても自分の心を殺して穂高を婿として受け入れてしまうでしょう。…それは、リオンちゃんにも穂高にも幸せをもたらしたりしない。その先には、幸せはないのです。…織部様」
藤乃さんの視線を受け、織部さんは「…そうだな」と呟いた。
「しかしレインちゃんとの婚約を解消したりしたら、穂高はもっと意固地になるぞ」
「そうですわね。穂高が気づくしかありませんわね」
二人の会話に、なんだかいたたまれない気持ちになる。穂高君は確かにレインを好きすぎるけど、あれだけ思われることなんてなかなかないわけだし…それに穂高君がもっと成長したら、今みたいな熱烈な気持ちもなくなるかもしれない。人の気持ちなど、どうにかできるものではないのだから。
レインはまだ4歳だから、穂高君と同じ気持ちを育てることは無理だと思う。でもどうしたらいいのか明確な答えが出せずにもどかしく思う。
27
お気に入りに追加
5,689
あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました
常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。
裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。
ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる