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番外編~100年に一度の恋へ
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アーロンとザイオンが産まれて2ヶ月が過ぎ、ようやく生活のリズムが取り戻せて来た頃、ジャポン皇国の朱雀州知事である織部さん一家がやってきた。
「ギデオンさん、ソフィアさん、おめでとう。穂高がどうしても、って言うから先に来させちまってごめんな」
「ソフィア様、お身体はどうですか?双子ちゃんでお疲れでしょう」
そういう藤乃さんの腕にも、ふたり、赤ちゃんが抱かれている。ちょうど同じ頃に藤乃さんも出産だったのだ。藤乃さんは5歳の穂高君を筆頭に、4歳、2歳、そして今回産まれた双子ちゃんと、5人の母になっている。織部さんの愛情の深さが窺える結果である。素晴らしい…って言っていいのかな。
「藤乃さんも大変なときに、ありがとうございます」
藤乃さんはニッコリすると、
「穂高が毎日うるさくて…リオンちゃんに会いたい、会いたいと。早くソルマーレ国に婿入りしたいと言うのですよ、バカでしょう?自分の年が何歳なのかわからないのかしら。本当に…リオンちゃんの意思がわからないまま、婚約を結ばせるような真似をして申し訳ありません」
「ほんとにな。なんなら、解消してもらって構わないんだぜ」
揶揄うように言う織部さんの言葉に、いつもならば「そんな真似をしたら内側から朱雀州を壊滅させますよ、父上」と怒りを顕にする穂高君が、今日は黙ったままだった。いつもの言葉が飛んでくるだろうとニヤニヤしていた織部さんも、穂高君の様子がおかしいことに気付いて顔を覗き込む。
「穂高、…どうした?」
織部さんの言葉に、穂高君は俯くと、
「父上、…俺は、リオが好きです。リオと、ずっと一緒にいたくて、結婚したいと言って、リオを婚約者にしてもらいました。通える限りこちらにお邪魔して、時には無理矢理ジャポン皇国にリオを連れていきました。一緒に、…一緒にいたくて。でもそれは、俺の一方的な身勝手な望みで、…リオの気持ちは俺にはない。誰か他の男にあるわけでもないけど、これだけ気持ちを伝えてきた俺にも向いていない、いや、…俺のことは、拒絶しているようです。俺が、リオを好きなことが、…リオにとっては迷惑でしかないようです」
藤乃さんが「…それは当然じゃない?」と呟いたのを聞いて、穂高君はますますうなだれた。
「穂高、…リオンちゃんはまだ4歳なんだぞ。あれだけ貪欲になんでも吸収したい、その上周囲には優秀な方々が揃っている。筆頭が双子の兄のレイン君だ。お互いに切磋琢磨して能力を高め合うのが楽しくて仕方のない時期に、おまえと同じ様に愛情を向けてくれるはずがないだろう。おまえ、重すぎるぞ。リオンちゃんを縛り付けてダメにしたいのか?…おまえのことしか見ていない、おまえのことしか考えられない、おまえがいなければ生きていけないような、そんな女にしたいのか?
そんな相手がいいのなら、リオンちゃんは諦めろ。リオンちゃんはギデオンさんとソフィアさんの子どもだ。そんな、男がいなければ生きていけないなんてバカな女に育つはずがない。自分の足で自律できるひとりの人間であるのだから。…穂高、おまえが考えを改めない限り、…リオンちゃんはおまえから更に距離を置く一方だと俺はおもうが」
織部さんの顔を見上げた穂高君は真っ青な顔をしていた。
「…俺、」
「ほた、きてたんだな!」
ノックとともに扉が開いてレインが入ってきた。リオンは、…いない。
穂高君は泣きそうな顔になり、無理矢理、笑顔を作った。
「お邪魔してるよ、レイン」
その顔を見て、レインはボソリと「…ごめんな」と呟くと、
「ジャポン皇国の成り立ちについて教えてほしいことがあるんだ、俺の部屋に行こう」
と穂高君の手を握った。穂高君はレインに引かれるまま、黙って部屋を出ていった。
「なんか、ごめんね、織部さん。藤乃さんも」
「何を言ってるんですか、ソフィア様!むしろ謝罪しなければならないのはこちらなんですよ!」
藤乃さんが憮然とした表情になる。
「あの子…穂高の勝手で、リオンちゃんを縛り付けるようなことになってしまって…我が国もそうですし、ソルマーレ国も幼いうちから婚約者を決めなくてよい、自分たちの思うように将来的に決めたらよい、と言っているのに、あの子の我が儘でこんなことになってしまって。
もしリオンちゃんに、心から好きだと思える相手ができたとき、穂高は足かせにしかなりません。リオンちゃんは王族としての義務を痛いほど理解している。婚約者が決まっている時点で、いくら好きな、愛しい相手ができても自分の心を殺して穂高を婿として受け入れてしまうでしょう。…それは、リオンちゃんにも穂高にも幸せをもたらしたりしない。その先には、幸せはないのです。…織部様」
藤乃さんの視線を受け、織部さんは「…そうだな」と呟いた。
「しかしレインちゃんとの婚約を解消したりしたら、穂高はもっと意固地になるぞ」
「そうですわね。穂高が気づくしかありませんわね」
二人の会話に、なんだかいたたまれない気持ちになる。穂高君は確かにレインを好きすぎるけど、あれだけ思われることなんてなかなかないわけだし…それに穂高君がもっと成長したら、今みたいな熱烈な気持ちもなくなるかもしれない。人の気持ちなど、どうにかできるものではないのだから。
レインはまだ4歳だから、穂高君と同じ気持ちを育てることは無理だと思う。でもどうしたらいいのか明確な答えが出せずにもどかしく思う。
「ギデオンさん、ソフィアさん、おめでとう。穂高がどうしても、って言うから先に来させちまってごめんな」
「ソフィア様、お身体はどうですか?双子ちゃんでお疲れでしょう」
そういう藤乃さんの腕にも、ふたり、赤ちゃんが抱かれている。ちょうど同じ頃に藤乃さんも出産だったのだ。藤乃さんは5歳の穂高君を筆頭に、4歳、2歳、そして今回産まれた双子ちゃんと、5人の母になっている。織部さんの愛情の深さが窺える結果である。素晴らしい…って言っていいのかな。
「藤乃さんも大変なときに、ありがとうございます」
藤乃さんはニッコリすると、
「穂高が毎日うるさくて…リオンちゃんに会いたい、会いたいと。早くソルマーレ国に婿入りしたいと言うのですよ、バカでしょう?自分の年が何歳なのかわからないのかしら。本当に…リオンちゃんの意思がわからないまま、婚約を結ばせるような真似をして申し訳ありません」
「ほんとにな。なんなら、解消してもらって構わないんだぜ」
揶揄うように言う織部さんの言葉に、いつもならば「そんな真似をしたら内側から朱雀州を壊滅させますよ、父上」と怒りを顕にする穂高君が、今日は黙ったままだった。いつもの言葉が飛んでくるだろうとニヤニヤしていた織部さんも、穂高君の様子がおかしいことに気付いて顔を覗き込む。
「穂高、…どうした?」
織部さんの言葉に、穂高君は俯くと、
「父上、…俺は、リオが好きです。リオと、ずっと一緒にいたくて、結婚したいと言って、リオを婚約者にしてもらいました。通える限りこちらにお邪魔して、時には無理矢理ジャポン皇国にリオを連れていきました。一緒に、…一緒にいたくて。でもそれは、俺の一方的な身勝手な望みで、…リオの気持ちは俺にはない。誰か他の男にあるわけでもないけど、これだけ気持ちを伝えてきた俺にも向いていない、いや、…俺のことは、拒絶しているようです。俺が、リオを好きなことが、…リオにとっては迷惑でしかないようです」
藤乃さんが「…それは当然じゃない?」と呟いたのを聞いて、穂高君はますますうなだれた。
「穂高、…リオンちゃんはまだ4歳なんだぞ。あれだけ貪欲になんでも吸収したい、その上周囲には優秀な方々が揃っている。筆頭が双子の兄のレイン君だ。お互いに切磋琢磨して能力を高め合うのが楽しくて仕方のない時期に、おまえと同じ様に愛情を向けてくれるはずがないだろう。おまえ、重すぎるぞ。リオンちゃんを縛り付けてダメにしたいのか?…おまえのことしか見ていない、おまえのことしか考えられない、おまえがいなければ生きていけないような、そんな女にしたいのか?
そんな相手がいいのなら、リオンちゃんは諦めろ。リオンちゃんはギデオンさんとソフィアさんの子どもだ。そんな、男がいなければ生きていけないなんてバカな女に育つはずがない。自分の足で自律できるひとりの人間であるのだから。…穂高、おまえが考えを改めない限り、…リオンちゃんはおまえから更に距離を置く一方だと俺はおもうが」
織部さんの顔を見上げた穂高君は真っ青な顔をしていた。
「…俺、」
「ほた、きてたんだな!」
ノックとともに扉が開いてレインが入ってきた。リオンは、…いない。
穂高君は泣きそうな顔になり、無理矢理、笑顔を作った。
「お邪魔してるよ、レイン」
その顔を見て、レインはボソリと「…ごめんな」と呟くと、
「ジャポン皇国の成り立ちについて教えてほしいことがあるんだ、俺の部屋に行こう」
と穂高君の手を握った。穂高君はレインに引かれるまま、黙って部屋を出ていった。
「なんか、ごめんね、織部さん。藤乃さんも」
「何を言ってるんですか、ソフィア様!むしろ謝罪しなければならないのはこちらなんですよ!」
藤乃さんが憮然とした表情になる。
「あの子…穂高の勝手で、リオンちゃんを縛り付けるようなことになってしまって…我が国もそうですし、ソルマーレ国も幼いうちから婚約者を決めなくてよい、自分たちの思うように将来的に決めたらよい、と言っているのに、あの子の我が儘でこんなことになってしまって。
もしリオンちゃんに、心から好きだと思える相手ができたとき、穂高は足かせにしかなりません。リオンちゃんは王族としての義務を痛いほど理解している。婚約者が決まっている時点で、いくら好きな、愛しい相手ができても自分の心を殺して穂高を婿として受け入れてしまうでしょう。…それは、リオンちゃんにも穂高にも幸せをもたらしたりしない。その先には、幸せはないのです。…織部様」
藤乃さんの視線を受け、織部さんは「…そうだな」と呟いた。
「しかしレインちゃんとの婚約を解消したりしたら、穂高はもっと意固地になるぞ」
「そうですわね。穂高が気づくしかありませんわね」
二人の会話に、なんだかいたたまれない気持ちになる。穂高君は確かにレインを好きすぎるけど、あれだけ思われることなんてなかなかないわけだし…それに穂高君がもっと成長したら、今みたいな熱烈な気持ちもなくなるかもしれない。人の気持ちなど、どうにかできるものではないのだから。
レインはまだ4歳だから、穂高君と同じ気持ちを育てることは無理だと思う。でもどうしたらいいのか明確な答えが出せずにもどかしく思う。
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