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番外編~100年に一度の恋へ
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「お待たせしました」
レイン、リオン、その後ろから王妃陛下が入ってきた。
「イアンさん、ですね。お話はあらかた伺いました。セルーラン国のジルコニア侯爵家と言えば知らない者はいないほどその道では有名です。その家と我が国が婚姻という形で正式に縁を結ぶことは双方にとって喜ばしいことだとわたくしは思います。ジルコニア侯爵家のご当主からの手紙をお持ちとか。見せていただけますか?」
レインがスッとイアンさんに近づき手紙を受け取る。それを受け取った王妃陛下は、
「こちらは後程読ませていただきますね。先ほど申し上げた通り、わたくしは今回の申し出は賛成です。ただし、あくまでもアリスの気持ち次第です、無理強いはしないでください」
…さすが、判断が早い。まぁ、イアンさんはアネットさんの家に滞在していて、たぶん人柄なんかも知っているだろうし、その上での判断なんだろうけど。
「アリス、貴女はどうしたい?」
王妃陛下の柔らかい眼差しには、アリスちゃんへの揺るぎない愛情が満ちている。
「…私は、いまやっていることを、我が国で形にしたいのです。ソフィア様の側から離れるのはイヤなんです。ですから、」
「…離れる?アリス様、どこに行くつもりなのですか?」
イアンさんから絶対零度のオーラが立ち上る。怖い。そして寒い。しかし、アリスちゃんはまったく気にならない様子でイアンさんを見上げて言った。
「イアン様は、フェルナンド様の片腕としてジルコニア侯爵家にとどまると聞きました。わたしが貴方と結婚したら、私は必然的にセルーラン国に行かねばなりませんよね、それは、イヤなんです」
アリスちゃんの言葉を聞いて、イアンさんはポカンと呆けた顔になった。
「…アリス様を、セルーラン国に連れていく発想は僕にはなかったのですが」
「え…?でも、」
「確かに、こちらの国に来る前は、このままジルコニアの一員として残るつもりでしたが、…御存知とは思いますが、僕の兄弟は僕も含めて5人です。嫡男は兄のフェルナンド。僕は家を継ぎませんし、万が一愚兄に何かがあってもスペアはいる。
…アリス様。僕は先ほど言いました。この国の民のために努力なさる貴女が好きだと。その貴女のそばに、僕はいたい。だからセルーラン国には戻りません。父にも了承を得て参りましたから…貴女をこの国から連れ去る真似はしません、…断られたら別ですが」
最後のボソリが怖いんだけど…。
「ジルコニア侯爵家は、イアンさんが我が国に来てもいいと?」
王妃陛下の言葉にイアンさんはコクリと頷いたあと、困ったような顔に変わった。
「…親書に、書いてありますが、その、…ジルコニア家に入らないにしても、僕がアリス様と結婚したらジルコニア侯爵家の力が強まったと他貴族…我々侯爵家の上、公爵家並びに、…王家は黙っていないかもしれない、と。ソルマーレ国との繋がりは、どこの国も喉から手が出るほど欲しいですから」
「…セルーラン国の王太子殿下は、今確か、」
王妃陛下の言葉に、イアンさんが「アリス様と同じ、11歳です」と答える。
「その王太子殿下に、オリヴィアをくれないか、という内容かしら」
シン…ッ、と一瞬静寂が落ちる。
「…王妃陛下、」
「セルーラン国が我が国と繋がりを強めたい、一侯爵家であるジルコニアが、婿に出すとは言え我が国の王女を手に入れる。パワーバランスを考えるなら、あちらの国が求めていることは自ずとわかるわ。セルーラン国の今の国王陛下は、四男なのに王にならなくてはいけない立場に追い込まれてしまったのよね」
「…はい。ご長男は8才で王位継承権を放棄。早々に侯爵家に婿に入りました。次男が王太子だったのですが、我が叔父の策略で…いえ、ええ、…とりあえず、他国に行きまして…今はもうこの世にはおりません。王配になる立場で行きましたが、あちらでの権力争いに敗れ処刑されまして。三男は、こちらも早々に公爵家の令嬢と婚約し、新たに侯爵家を立てました。それで、その…」
「貧乏くじを引かされた、ってよくぼやいていらっしゃるもの、リアン陛下は」
王妃陛下はクスクスと笑うと、「ただねぇ」とニッコリした。
「リアン陛下は我が国の陛下同様優秀な方よ。貧乏くじでも、能力があるからこそ回ってきたと思うの、わたくしは。その息子である王太子殿下も、優秀だと聞いているわ」
「はい。僕などが言うのは僭越ですが、ローランド王太子殿下は大層ご優秀です。人柄も申し分なく」
「あなた方ジルコニアは、公の顔だけでなく私の顔もつぶさによく見ているものね」
「…ジルコニア侯爵家は、それが仕事ですから。暴君は国のためになりませぬゆえ」
王妃陛下とイアンさんの話をみんな納得顔で聞いてる…ついていけないのは私だけみたい…我が子たち、ほんと優秀だなぁ…。
「そのローランド王太子殿下と、オリヴィアを結ばせたい、ということね。これは国同士の繋がりを強化するための政略だからオリヴィアの意思は必要ないわ。正式な申し込みが来たらお受けするつもりです」
王妃陛下の言葉に、アリスちゃんがさっと顔色を悪くした。
レイン、リオン、その後ろから王妃陛下が入ってきた。
「イアンさん、ですね。お話はあらかた伺いました。セルーラン国のジルコニア侯爵家と言えば知らない者はいないほどその道では有名です。その家と我が国が婚姻という形で正式に縁を結ぶことは双方にとって喜ばしいことだとわたくしは思います。ジルコニア侯爵家のご当主からの手紙をお持ちとか。見せていただけますか?」
レインがスッとイアンさんに近づき手紙を受け取る。それを受け取った王妃陛下は、
「こちらは後程読ませていただきますね。先ほど申し上げた通り、わたくしは今回の申し出は賛成です。ただし、あくまでもアリスの気持ち次第です、無理強いはしないでください」
…さすが、判断が早い。まぁ、イアンさんはアネットさんの家に滞在していて、たぶん人柄なんかも知っているだろうし、その上での判断なんだろうけど。
「アリス、貴女はどうしたい?」
王妃陛下の柔らかい眼差しには、アリスちゃんへの揺るぎない愛情が満ちている。
「…私は、いまやっていることを、我が国で形にしたいのです。ソフィア様の側から離れるのはイヤなんです。ですから、」
「…離れる?アリス様、どこに行くつもりなのですか?」
イアンさんから絶対零度のオーラが立ち上る。怖い。そして寒い。しかし、アリスちゃんはまったく気にならない様子でイアンさんを見上げて言った。
「イアン様は、フェルナンド様の片腕としてジルコニア侯爵家にとどまると聞きました。わたしが貴方と結婚したら、私は必然的にセルーラン国に行かねばなりませんよね、それは、イヤなんです」
アリスちゃんの言葉を聞いて、イアンさんはポカンと呆けた顔になった。
「…アリス様を、セルーラン国に連れていく発想は僕にはなかったのですが」
「え…?でも、」
「確かに、こちらの国に来る前は、このままジルコニアの一員として残るつもりでしたが、…御存知とは思いますが、僕の兄弟は僕も含めて5人です。嫡男は兄のフェルナンド。僕は家を継ぎませんし、万が一愚兄に何かがあってもスペアはいる。
…アリス様。僕は先ほど言いました。この国の民のために努力なさる貴女が好きだと。その貴女のそばに、僕はいたい。だからセルーラン国には戻りません。父にも了承を得て参りましたから…貴女をこの国から連れ去る真似はしません、…断られたら別ですが」
最後のボソリが怖いんだけど…。
「ジルコニア侯爵家は、イアンさんが我が国に来てもいいと?」
王妃陛下の言葉にイアンさんはコクリと頷いたあと、困ったような顔に変わった。
「…親書に、書いてありますが、その、…ジルコニア家に入らないにしても、僕がアリス様と結婚したらジルコニア侯爵家の力が強まったと他貴族…我々侯爵家の上、公爵家並びに、…王家は黙っていないかもしれない、と。ソルマーレ国との繋がりは、どこの国も喉から手が出るほど欲しいですから」
「…セルーラン国の王太子殿下は、今確か、」
王妃陛下の言葉に、イアンさんが「アリス様と同じ、11歳です」と答える。
「その王太子殿下に、オリヴィアをくれないか、という内容かしら」
シン…ッ、と一瞬静寂が落ちる。
「…王妃陛下、」
「セルーラン国が我が国と繋がりを強めたい、一侯爵家であるジルコニアが、婿に出すとは言え我が国の王女を手に入れる。パワーバランスを考えるなら、あちらの国が求めていることは自ずとわかるわ。セルーラン国の今の国王陛下は、四男なのに王にならなくてはいけない立場に追い込まれてしまったのよね」
「…はい。ご長男は8才で王位継承権を放棄。早々に侯爵家に婿に入りました。次男が王太子だったのですが、我が叔父の策略で…いえ、ええ、…とりあえず、他国に行きまして…今はもうこの世にはおりません。王配になる立場で行きましたが、あちらでの権力争いに敗れ処刑されまして。三男は、こちらも早々に公爵家の令嬢と婚約し、新たに侯爵家を立てました。それで、その…」
「貧乏くじを引かされた、ってよくぼやいていらっしゃるもの、リアン陛下は」
王妃陛下はクスクスと笑うと、「ただねぇ」とニッコリした。
「リアン陛下は我が国の陛下同様優秀な方よ。貧乏くじでも、能力があるからこそ回ってきたと思うの、わたくしは。その息子である王太子殿下も、優秀だと聞いているわ」
「はい。僕などが言うのは僭越ですが、ローランド王太子殿下は大層ご優秀です。人柄も申し分なく」
「あなた方ジルコニアは、公の顔だけでなく私の顔もつぶさによく見ているものね」
「…ジルコニア侯爵家は、それが仕事ですから。暴君は国のためになりませぬゆえ」
王妃陛下とイアンさんの話をみんな納得顔で聞いてる…ついていけないのは私だけみたい…我が子たち、ほんと優秀だなぁ…。
「そのローランド王太子殿下と、オリヴィアを結ばせたい、ということね。これは国同士の繋がりを強化するための政略だからオリヴィアの意思は必要ないわ。正式な申し込みが来たらお受けするつもりです」
王妃陛下の言葉に、アリスちゃんがさっと顔色を悪くした。
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