145 / 161
番外編~100年に一度の恋へ
4
しおりを挟む
「イアンさん、とりあえず貴方のお父上からの手紙を…話はそれからです」
いつもの常識のなさはなりを潜め、王太子らしく冷静に話す悪魔の後ろで、「このっ…、クソガキ…っ、アリスを離せ!…こら、離せ、レイン、リオン!」とチンピラが怒鳴っている。国王なのに…。あれ?いま、レイン、リオン、って言った…?
「おじいさま、とにかくイアン様の話をお聞きします。叔父上、おじいさまをお連れしてください、おじいさまは冷静に聞けないでしょうからおばあさまに立ち合っていただきましょう。俺たちはおばあさまを呼んできますから、父上は、俺たちが戻るまでここにいてください。…イアン様」
レインの声が聞こえるが姿は見えない。レインはイアンさんを知っているの?
「はい」
「父上は構いませんが、母上、弟たち、アリス様には絶対に手を出さないでください」
「無論です。僕は争いに来たわけではない」
イアンさんの言葉が終わると、ギャーギャー喚くチンピラが引きずられて行った。イアンさんに視線を向けると、アリスちゃんを抱き上げたまま立ち上がった。
「…離して、ください」
その腕の中で、アリスちゃんは真っ赤な顔で俯きながら呟く。
「申し訳ありませんが、アリス様の言葉でもきけません。…このまま、僕の腕の中にいてください…貴女を、僕から取り上げないでください…なにも、なにもしませんから、…お願いします…」
イアンさんの声が震えていて、よく見るとイアンさんの顔もほんのりと赤く染まっていた。
「好きです、アリス様」
…ギィーッ!甘酸っぱすぎるぅーっ!そして、人前でも関係なく愛の告白ができるなんて…すごい…肝が座っている…!
「私は、…私の、なにを、知っているのですか、私の、何が好きなのですか」
アリスちゃんは真っ赤な顔のまま、しかし睨み付けるようにイアンさんを見上げた。そうだよね、さっき、「見た目だけしか知らないのに」って言ってたもんね。
「…アリス様の好きなところは、まず、勉強熱心なところです。王太子妃殿下の言葉をきっかけに、この6年、国のために…ご自分と同じ女性、女の子たちを自立させるために様々なことを学び仕組みを作ろうとされている。僕が知る他国の王女殿下で、アリス様のように民のためにとご自分が学び、その地位を向上させようと努力している方はおりません。全世界を知っているわけではありませんから断言はできませんが、僕も一応ジルコニアのひとりです。ほとんどの国の事情は把握しています。こんな年齢から…」
イアンさんの瞳がふわりとやわらぐ。
「僕は、兄上が家を継ぐのだからそれなりでいいと思っていました。煩わしい人間関係など必要ない、自分の仕事さえこなせばいいんだと。でもアリス様を知って、他人のために自分の力を尽くすことも大切だと思うようになりました。自分がすべてでは、人生は面白くないと教えていただいたのです」
「…大袈裟です」
アリスちゃんの抗議の声を無視して、イアンさんの話は続く。
「アリス様を知って、僕は恋を知りました。自分の人生に関わって欲しい、共に歩んで欲しいんです、アリス様…アリス様の好きなところ、続けますね…貴女は、忙しくても必ずレイン様、リオン様の相手をし、彼らの成長を優しく見守っていらっしゃる。ご自分が受けてきた愛情を当然のものとせず、それを周りに自然に還元されるところ、貴女の、まだ11歳なのに慈愛に満ちた心、眼差し、姿勢、すべてが好きです。使用人と呼ばれる立場の人間にも分け隔てなく、しかし時にはきちんと厳しくできる、凛とした心が好きです。アリス様は薔薇の花が好きですね、お部屋にいつも飾っているとお聞きしました。離宮にいらしたとき、アネットさんが育てている薔薇の薫りをかいで、幸せそうに柔らかく笑うアリス様が好きです。それから、」
「も、も、もう、も、…も、い、いいでしゅ…っ」
「…まだたくさんあるんですが」
アリスちゃんはもう失神寸前だ…。
あんなふうに素直な感情をぶつけられたら、そりゃあもう大変だろう。ましてや、アリスちゃんは純粋培養だ。勉強にのめりこみ、チンピラが同じ年頃の男の子との接触をあえて避けさせているために免疫がない。
「…僕のことは、これから知ってください、アリス様」
アリスちゃんの髪にそっと唇を落とすと、「…アリス様の匂いだ」と嬉しそうに顔を埋めたイアンさん。…何もしないって言わなかった?アリスちゃんが…真っ赤になりすぎて危険だ…!
「ギ、ギデオンさ、」
「フィー、わたくしもフィーを抱っこします」
「…は?」
ふわり、とベッドから抱き上げられた私の首に、悪魔が吸い付くようにキスをする。
「ギデオンさん!張り合うのやめて!アリスちゃんが気絶しそうだから助けてあげてよ…ちょ、やめ…っ」
「お兄様!ソフィア様はまだ産後まもないのですよ、何をされているのですか!」
アリスちゃん…覚醒が早い…。
「…イアン様、私、いなくなりませんから。自分の足で立たせてください」
途端に捨てられた犬のようにションボリするイアンさん。煌めく銀髪の美少年が台無しだ。
「…あとで、また、触れさせてくれますか?」
「…それは、」
「…くれますか?アリス様」
キューン、と聞こえてきそうな哀願の瞳に、アリスちゃんはまた真っ赤になると、
「わ、かりまし、た、」
と呟き顔を覆ってしまった。途端に満面の笑みに変わるイアンさん。…顔面偏差値が高い人間しかいないのかな、この世界って…。まぶしすぎる…。
イアンさんが、そっとアリスちゃんを降ろすと同時に、扉が開いた。
いつもの常識のなさはなりを潜め、王太子らしく冷静に話す悪魔の後ろで、「このっ…、クソガキ…っ、アリスを離せ!…こら、離せ、レイン、リオン!」とチンピラが怒鳴っている。国王なのに…。あれ?いま、レイン、リオン、って言った…?
「おじいさま、とにかくイアン様の話をお聞きします。叔父上、おじいさまをお連れしてください、おじいさまは冷静に聞けないでしょうからおばあさまに立ち合っていただきましょう。俺たちはおばあさまを呼んできますから、父上は、俺たちが戻るまでここにいてください。…イアン様」
レインの声が聞こえるが姿は見えない。レインはイアンさんを知っているの?
「はい」
「父上は構いませんが、母上、弟たち、アリス様には絶対に手を出さないでください」
「無論です。僕は争いに来たわけではない」
イアンさんの言葉が終わると、ギャーギャー喚くチンピラが引きずられて行った。イアンさんに視線を向けると、アリスちゃんを抱き上げたまま立ち上がった。
「…離して、ください」
その腕の中で、アリスちゃんは真っ赤な顔で俯きながら呟く。
「申し訳ありませんが、アリス様の言葉でもきけません。…このまま、僕の腕の中にいてください…貴女を、僕から取り上げないでください…なにも、なにもしませんから、…お願いします…」
イアンさんの声が震えていて、よく見るとイアンさんの顔もほんのりと赤く染まっていた。
「好きです、アリス様」
…ギィーッ!甘酸っぱすぎるぅーっ!そして、人前でも関係なく愛の告白ができるなんて…すごい…肝が座っている…!
「私は、…私の、なにを、知っているのですか、私の、何が好きなのですか」
アリスちゃんは真っ赤な顔のまま、しかし睨み付けるようにイアンさんを見上げた。そうだよね、さっき、「見た目だけしか知らないのに」って言ってたもんね。
「…アリス様の好きなところは、まず、勉強熱心なところです。王太子妃殿下の言葉をきっかけに、この6年、国のために…ご自分と同じ女性、女の子たちを自立させるために様々なことを学び仕組みを作ろうとされている。僕が知る他国の王女殿下で、アリス様のように民のためにとご自分が学び、その地位を向上させようと努力している方はおりません。全世界を知っているわけではありませんから断言はできませんが、僕も一応ジルコニアのひとりです。ほとんどの国の事情は把握しています。こんな年齢から…」
イアンさんの瞳がふわりとやわらぐ。
「僕は、兄上が家を継ぐのだからそれなりでいいと思っていました。煩わしい人間関係など必要ない、自分の仕事さえこなせばいいんだと。でもアリス様を知って、他人のために自分の力を尽くすことも大切だと思うようになりました。自分がすべてでは、人生は面白くないと教えていただいたのです」
「…大袈裟です」
アリスちゃんの抗議の声を無視して、イアンさんの話は続く。
「アリス様を知って、僕は恋を知りました。自分の人生に関わって欲しい、共に歩んで欲しいんです、アリス様…アリス様の好きなところ、続けますね…貴女は、忙しくても必ずレイン様、リオン様の相手をし、彼らの成長を優しく見守っていらっしゃる。ご自分が受けてきた愛情を当然のものとせず、それを周りに自然に還元されるところ、貴女の、まだ11歳なのに慈愛に満ちた心、眼差し、姿勢、すべてが好きです。使用人と呼ばれる立場の人間にも分け隔てなく、しかし時にはきちんと厳しくできる、凛とした心が好きです。アリス様は薔薇の花が好きですね、お部屋にいつも飾っているとお聞きしました。離宮にいらしたとき、アネットさんが育てている薔薇の薫りをかいで、幸せそうに柔らかく笑うアリス様が好きです。それから、」
「も、も、もう、も、…も、い、いいでしゅ…っ」
「…まだたくさんあるんですが」
アリスちゃんはもう失神寸前だ…。
あんなふうに素直な感情をぶつけられたら、そりゃあもう大変だろう。ましてや、アリスちゃんは純粋培養だ。勉強にのめりこみ、チンピラが同じ年頃の男の子との接触をあえて避けさせているために免疫がない。
「…僕のことは、これから知ってください、アリス様」
アリスちゃんの髪にそっと唇を落とすと、「…アリス様の匂いだ」と嬉しそうに顔を埋めたイアンさん。…何もしないって言わなかった?アリスちゃんが…真っ赤になりすぎて危険だ…!
「ギ、ギデオンさ、」
「フィー、わたくしもフィーを抱っこします」
「…は?」
ふわり、とベッドから抱き上げられた私の首に、悪魔が吸い付くようにキスをする。
「ギデオンさん!張り合うのやめて!アリスちゃんが気絶しそうだから助けてあげてよ…ちょ、やめ…っ」
「お兄様!ソフィア様はまだ産後まもないのですよ、何をされているのですか!」
アリスちゃん…覚醒が早い…。
「…イアン様、私、いなくなりませんから。自分の足で立たせてください」
途端に捨てられた犬のようにションボリするイアンさん。煌めく銀髪の美少年が台無しだ。
「…あとで、また、触れさせてくれますか?」
「…それは、」
「…くれますか?アリス様」
キューン、と聞こえてきそうな哀願の瞳に、アリスちゃんはまた真っ赤になると、
「わ、かりまし、た、」
と呟き顔を覆ってしまった。途端に満面の笑みに変わるイアンさん。…顔面偏差値が高い人間しかいないのかな、この世界って…。まぶしすぎる…。
イアンさんが、そっとアリスちゃんを降ろすと同時に、扉が開いた。
25
お気に入りに追加
5,689
あなたにおすすめの小説

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~
Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。
「俺はお前を愛することはない!」
初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。
(この家も長くはもたないわね)
貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。
ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。
6話と7話の間が抜けてしまいました…
7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる