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番外編~100年に一度の恋へ
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「イアンさん、とりあえず貴方のお父上からの手紙を…話はそれからです」
いつもの常識のなさはなりを潜め、王太子らしく冷静に話す悪魔の後ろで、「このっ…、クソガキ…っ、アリスを離せ!…こら、離せ、レイン、リオン!」とチンピラが怒鳴っている。国王なのに…。あれ?いま、レイン、リオン、って言った…?
「おじいさま、とにかくイアン様の話をお聞きします。叔父上、おじいさまをお連れしてください、おじいさまは冷静に聞けないでしょうからおばあさまに立ち合っていただきましょう。俺たちはおばあさまを呼んできますから、父上は、俺たちが戻るまでここにいてください。…イアン様」
レインの声が聞こえるが姿は見えない。レインはイアンさんを知っているの?
「はい」
「父上は構いませんが、母上、弟たち、アリス様には絶対に手を出さないでください」
「無論です。僕は争いに来たわけではない」
イアンさんの言葉が終わると、ギャーギャー喚くチンピラが引きずられて行った。イアンさんに視線を向けると、アリスちゃんを抱き上げたまま立ち上がった。
「…離して、ください」
その腕の中で、アリスちゃんは真っ赤な顔で俯きながら呟く。
「申し訳ありませんが、アリス様の言葉でもきけません。…このまま、僕の腕の中にいてください…貴女を、僕から取り上げないでください…なにも、なにもしませんから、…お願いします…」
イアンさんの声が震えていて、よく見るとイアンさんの顔もほんのりと赤く染まっていた。
「好きです、アリス様」
…ギィーッ!甘酸っぱすぎるぅーっ!そして、人前でも関係なく愛の告白ができるなんて…すごい…肝が座っている…!
「私は、…私の、なにを、知っているのですか、私の、何が好きなのですか」
アリスちゃんは真っ赤な顔のまま、しかし睨み付けるようにイアンさんを見上げた。そうだよね、さっき、「見た目だけしか知らないのに」って言ってたもんね。
「…アリス様の好きなところは、まず、勉強熱心なところです。王太子妃殿下の言葉をきっかけに、この6年、国のために…ご自分と同じ女性、女の子たちを自立させるために様々なことを学び仕組みを作ろうとされている。僕が知る他国の王女殿下で、アリス様のように民のためにとご自分が学び、その地位を向上させようと努力している方はおりません。全世界を知っているわけではありませんから断言はできませんが、僕も一応ジルコニアのひとりです。ほとんどの国の事情は把握しています。こんな年齢から…」
イアンさんの瞳がふわりとやわらぐ。
「僕は、兄上が家を継ぐのだからそれなりでいいと思っていました。煩わしい人間関係など必要ない、自分の仕事さえこなせばいいんだと。でもアリス様を知って、他人のために自分の力を尽くすことも大切だと思うようになりました。自分がすべてでは、人生は面白くないと教えていただいたのです」
「…大袈裟です」
アリスちゃんの抗議の声を無視して、イアンさんの話は続く。
「アリス様を知って、僕は恋を知りました。自分の人生に関わって欲しい、共に歩んで欲しいんです、アリス様…アリス様の好きなところ、続けますね…貴女は、忙しくても必ずレイン様、リオン様の相手をし、彼らの成長を優しく見守っていらっしゃる。ご自分が受けてきた愛情を当然のものとせず、それを周りに自然に還元されるところ、貴女の、まだ11歳なのに慈愛に満ちた心、眼差し、姿勢、すべてが好きです。使用人と呼ばれる立場の人間にも分け隔てなく、しかし時にはきちんと厳しくできる、凛とした心が好きです。アリス様は薔薇の花が好きですね、お部屋にいつも飾っているとお聞きしました。離宮にいらしたとき、アネットさんが育てている薔薇の薫りをかいで、幸せそうに柔らかく笑うアリス様が好きです。それから、」
「も、も、もう、も、…も、い、いいでしゅ…っ」
「…まだたくさんあるんですが」
アリスちゃんはもう失神寸前だ…。
あんなふうに素直な感情をぶつけられたら、そりゃあもう大変だろう。ましてや、アリスちゃんは純粋培養だ。勉強にのめりこみ、チンピラが同じ年頃の男の子との接触をあえて避けさせているために免疫がない。
「…僕のことは、これから知ってください、アリス様」
アリスちゃんの髪にそっと唇を落とすと、「…アリス様の匂いだ」と嬉しそうに顔を埋めたイアンさん。…何もしないって言わなかった?アリスちゃんが…真っ赤になりすぎて危険だ…!
「ギ、ギデオンさ、」
「フィー、わたくしもフィーを抱っこします」
「…は?」
ふわり、とベッドから抱き上げられた私の首に、悪魔が吸い付くようにキスをする。
「ギデオンさん!張り合うのやめて!アリスちゃんが気絶しそうだから助けてあげてよ…ちょ、やめ…っ」
「お兄様!ソフィア様はまだ産後まもないのですよ、何をされているのですか!」
アリスちゃん…覚醒が早い…。
「…イアン様、私、いなくなりませんから。自分の足で立たせてください」
途端に捨てられた犬のようにションボリするイアンさん。煌めく銀髪の美少年が台無しだ。
「…あとで、また、触れさせてくれますか?」
「…それは、」
「…くれますか?アリス様」
キューン、と聞こえてきそうな哀願の瞳に、アリスちゃんはまた真っ赤になると、
「わ、かりまし、た、」
と呟き顔を覆ってしまった。途端に満面の笑みに変わるイアンさん。…顔面偏差値が高い人間しかいないのかな、この世界って…。まぶしすぎる…。
イアンさんが、そっとアリスちゃんを降ろすと同時に、扉が開いた。
いつもの常識のなさはなりを潜め、王太子らしく冷静に話す悪魔の後ろで、「このっ…、クソガキ…っ、アリスを離せ!…こら、離せ、レイン、リオン!」とチンピラが怒鳴っている。国王なのに…。あれ?いま、レイン、リオン、って言った…?
「おじいさま、とにかくイアン様の話をお聞きします。叔父上、おじいさまをお連れしてください、おじいさまは冷静に聞けないでしょうからおばあさまに立ち合っていただきましょう。俺たちはおばあさまを呼んできますから、父上は、俺たちが戻るまでここにいてください。…イアン様」
レインの声が聞こえるが姿は見えない。レインはイアンさんを知っているの?
「はい」
「父上は構いませんが、母上、弟たち、アリス様には絶対に手を出さないでください」
「無論です。僕は争いに来たわけではない」
イアンさんの言葉が終わると、ギャーギャー喚くチンピラが引きずられて行った。イアンさんに視線を向けると、アリスちゃんを抱き上げたまま立ち上がった。
「…離して、ください」
その腕の中で、アリスちゃんは真っ赤な顔で俯きながら呟く。
「申し訳ありませんが、アリス様の言葉でもきけません。…このまま、僕の腕の中にいてください…貴女を、僕から取り上げないでください…なにも、なにもしませんから、…お願いします…」
イアンさんの声が震えていて、よく見るとイアンさんの顔もほんのりと赤く染まっていた。
「好きです、アリス様」
…ギィーッ!甘酸っぱすぎるぅーっ!そして、人前でも関係なく愛の告白ができるなんて…すごい…肝が座っている…!
「私は、…私の、なにを、知っているのですか、私の、何が好きなのですか」
アリスちゃんは真っ赤な顔のまま、しかし睨み付けるようにイアンさんを見上げた。そうだよね、さっき、「見た目だけしか知らないのに」って言ってたもんね。
「…アリス様の好きなところは、まず、勉強熱心なところです。王太子妃殿下の言葉をきっかけに、この6年、国のために…ご自分と同じ女性、女の子たちを自立させるために様々なことを学び仕組みを作ろうとされている。僕が知る他国の王女殿下で、アリス様のように民のためにとご自分が学び、その地位を向上させようと努力している方はおりません。全世界を知っているわけではありませんから断言はできませんが、僕も一応ジルコニアのひとりです。ほとんどの国の事情は把握しています。こんな年齢から…」
イアンさんの瞳がふわりとやわらぐ。
「僕は、兄上が家を継ぐのだからそれなりでいいと思っていました。煩わしい人間関係など必要ない、自分の仕事さえこなせばいいんだと。でもアリス様を知って、他人のために自分の力を尽くすことも大切だと思うようになりました。自分がすべてでは、人生は面白くないと教えていただいたのです」
「…大袈裟です」
アリスちゃんの抗議の声を無視して、イアンさんの話は続く。
「アリス様を知って、僕は恋を知りました。自分の人生に関わって欲しい、共に歩んで欲しいんです、アリス様…アリス様の好きなところ、続けますね…貴女は、忙しくても必ずレイン様、リオン様の相手をし、彼らの成長を優しく見守っていらっしゃる。ご自分が受けてきた愛情を当然のものとせず、それを周りに自然に還元されるところ、貴女の、まだ11歳なのに慈愛に満ちた心、眼差し、姿勢、すべてが好きです。使用人と呼ばれる立場の人間にも分け隔てなく、しかし時にはきちんと厳しくできる、凛とした心が好きです。アリス様は薔薇の花が好きですね、お部屋にいつも飾っているとお聞きしました。離宮にいらしたとき、アネットさんが育てている薔薇の薫りをかいで、幸せそうに柔らかく笑うアリス様が好きです。それから、」
「も、も、もう、も、…も、い、いいでしゅ…っ」
「…まだたくさんあるんですが」
アリスちゃんはもう失神寸前だ…。
あんなふうに素直な感情をぶつけられたら、そりゃあもう大変だろう。ましてや、アリスちゃんは純粋培養だ。勉強にのめりこみ、チンピラが同じ年頃の男の子との接触をあえて避けさせているために免疫がない。
「…僕のことは、これから知ってください、アリス様」
アリスちゃんの髪にそっと唇を落とすと、「…アリス様の匂いだ」と嬉しそうに顔を埋めたイアンさん。…何もしないって言わなかった?アリスちゃんが…真っ赤になりすぎて危険だ…!
「ギ、ギデオンさ、」
「フィー、わたくしもフィーを抱っこします」
「…は?」
ふわり、とベッドから抱き上げられた私の首に、悪魔が吸い付くようにキスをする。
「ギデオンさん!張り合うのやめて!アリスちゃんが気絶しそうだから助けてあげてよ…ちょ、やめ…っ」
「お兄様!ソフィア様はまだ産後まもないのですよ、何をされているのですか!」
アリスちゃん…覚醒が早い…。
「…イアン様、私、いなくなりませんから。自分の足で立たせてください」
途端に捨てられた犬のようにションボリするイアンさん。煌めく銀髪の美少年が台無しだ。
「…あとで、また、触れさせてくれますか?」
「…それは、」
「…くれますか?アリス様」
キューン、と聞こえてきそうな哀願の瞳に、アリスちゃんはまた真っ赤になると、
「わ、かりまし、た、」
と呟き顔を覆ってしまった。途端に満面の笑みに変わるイアンさん。…顔面偏差値が高い人間しかいないのかな、この世界って…。まぶしすぎる…。
イアンさんが、そっとアリスちゃんを降ろすと同時に、扉が開いた。
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