お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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番外編~100年に一度の恋へ

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イアン・ジルコニアさんがストーカーだということだけはわかったのだが…。

「アリスちゃん、相談っていうのは…?」

アリスちゃんは真っ赤な顔のまま私をベッドに戻し、自分は椅子を持ってきて傍らに座った。私もベッドの背もたれに寄りかかりながら座る。お腹にまだほんのり違和感があるが、それどころではない。

「…婚約、してくれと言われたものの、私は、今勉強していることを辞めたくないんです…お兄様の手助けになるかは別として、お兄様みたいなアホな男性を減らすためにも、まずは女性自身が自分のカラダについて知るべきですし、それを学園で…ソフィア様の前世では、私くらいの年にはもう学校という場所で、性教育を受けていたと仰っていましたよね…?そういうことを、進めていきたいんです。ユリアーナ様とお話して、製薬についてもご協力いただけそうですし、」

「…イアンさんと婚約したら、アリスちゃんがやろうとしていることができなくなっちゃうの?」

アリスちゃんはいつもの理知的な顔に戻ると、淡々と話し出した。

「婚約を、と言われたときはあまりにも突然すぎて…ユリアーナ様もびっくりされて、『それはお義父様は了承されているのですか?』って。イアン様は、『…まだ、誰にも言っていません』と。ただ、私を目の前にしたら、居ても立ってもいられなくて、自分は他国のしがない侯爵家の、しかも次男で、家を継ぐ立場でもない、片や私は王族で、今まだ婚約者がいなくても、もし決まってしまったりしたら、」

そこでアリスちゃんは息を吐くと、

「国同士が拗れるようなことになっても、私を拐って逃げると…」

…え。

「ユリアーナ様が大層心配なさって、でも、『自分が言うまで家族にはこのことは言わないでください、義姉上』って、深々と頭を下げられて。お二人がお帰りになったあと、セルーラン国のジルコニア侯爵家について、アネットさんに聞いてみたのです。勉強不足で、他国の貴族についてまでは詳しくなくて…」

そうため息をつくが、そんなこと言ったら私なんてどうすれば…いまだに言葉もたどたどしい国だらけなのに…。

「アネットさんが言うには、ジルコニア侯爵家の今のご当主はジルベール・ジルコニアという方で、奥様はキャサリン・ジルコニア。本来はジルベール氏のお兄様…ご長男のイーサン氏がキャサリン夫人を娶り、ジルコニア家の当主になるはずだったそうです。諸事情があって、イーサン氏はジルコニア本家を離れ、ジルコニアを名乗ってはいるものの、別な侯爵家に仕えているそうです」

…いきなりそんなに情報を与えられても、私の頭では整理しきれない。いま、何人出てきたっけ…?

そんな私の困惑には気づかず、アリスちゃんの話は続く。

「次のご当主はフェルナンド様…ユリアーナ様の旦那様ですが、ユリアーナ様はキャサリン夫人のように影の一員にはならないので、いまフェルナンド様のご兄弟が全部で5人らしいのですが、そのまま家に残りジルコニアの一員として働くそうです。ただ、本人たちの意向を尊重するから出ていきたければそれでも構わないとジルベール氏は仰っているそうですが、…イアン様は、フェルナンド様の片腕として残りたいと希望されているそうなので、…もし私がイアン様と結婚したら、私は、セルーラン国に行かなければいけませんよね」

ポツリと呟くように「行かなければならない」と言うアリスちゃんの顔は、俯いていて見えない。

「…アリスちゃんは、イアンさんをどう思ったの?」

「…正直な気持ちを言えば、…怖い、です。自分が知らないところで見られていたのも、私に婚約者ができたら連れて逃げる、という思考も。私のことなど、見た目しかわからないわけですよね、それなのに、思い通りにならなければ逃げる、つまり、フェルナンド様の片腕になる、というご自分の使命を捨てるわけです。…何年かしたら、私のことも捨てるのではないかと」

…アリスちゃんは本当に11歳なのだろうか。

「先がよくわからないことよりも、私は自分が思い描いていること…あの5歳の日、ソフィア様に教えていただいて進めてきた勉強を生かして、ソフィア様と、不本意ですけれどギデオンお兄様の手助けができる、…より良い国造りの一端を担いたいのです。私が結婚しなければ、婚約者ができなければ、イアン様も私を拐ったりしない…そもそも、時間が過ぎれば私への熱も冷めて、セルーラン国のご令嬢と婚約なさるかもしれませんし…」

その時、突然ドアが開いて、…悪魔が駆け込んできた。

「…ギデオンさん?」

「アリス、こちらに来なさい」

後ろには双子王子も、…チンピラまでいる。

「お兄様…?」

「…イアンさん。とりあえず、話を聞きます。出てきなさい。出てこないなら容赦しませんよ」

…イアンさん?

その時、ひとつの影がアリスちゃんを抱き上げた。

「キャッ…」

「イアンさん!」

アリスちゃんを抱き上げた男性…まだ少年といった方がしっくりくる見た目の男性は、アリスちゃんを抱いたままキレイな所作でひざまづいた。

「ジルコニア侯爵家当主の親書をお持ちしました。…わたくし、イアン・ジルコニアを、ぜひにもアリス様の婚約者に…国王陛下並びに王太子殿下は御存知と思います、我がジルコニア家の執着を。わたくしも、例に洩れずその血をひいておりますゆえ、…アリス様は必ずわたくしの妻にいたします。誰を敵に回そうと、我がジルコニア家が潰されようと構わない。…アリス様にはご迷惑でしょうが、誰にも危害は加えません、わたくしから貴女を奪おうとする輩以外は。ですから、…諦めてください」

そう言ってイアンさんは、アリスちゃんをギュッと抱き締めた。
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