お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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番外編~100年に一度の恋へ

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「可愛い…」

ベビーベッドの傍らに立つレインは、赤ちゃんの頬をツンツンするとヘニャリと笑った。

「母上、ものすごく可愛いです…さすが可愛い母上の産んだ子どもです」

「わたくしとフィーの子どもです。わたくしの種も、」

「下品なことを言わないでください、耳が腐ったらどうするんですか?俺は不本意ながらもう5年近く父上の近くにいるがために耐性がありますけど、この天使たちはいま産まれて間もないんですよ。父上みたいな悪魔に汚されていい存在ではないんです、あっちに行ってください」

私は心の中で呼ぶだけで何も言っていないのだが、レインは悪魔をたまに「父上みたいな悪魔」と言う。私からするとレインも充分悪魔に思える。自分の父親でありながら、先ほどのようにかなり辛辣なことを言う…なぜ悪魔はあちらこちらから敵対心を剥き出しにされるのだろうか。たまに不憫になる。いくら常識がなくても。

あの日レインの腕に出た紋様は、いまだその腕にある。一度菖蒲さんが橘さんを連れてきてくれたが、「呪【シュ】ではない」と断言された。本人はいたって気にしていないようで、「むしろ結婚しないで母上のそばにずっといる理由になるから嬉しい」と言うのを聞いて悪魔が本気で睨み付けていた。

エヴァンス家の子どもたちは優秀だと思っていたが、レインもリオンも例に漏れずかなり優秀な子どもである。

レインは元々前世の記憶があるので、大人のようなところもあるのだが、それでもリオンとふたり揃って4歳にしてジャポン皇国、アミノフィア国、ハソックヒル国、セルーラン国の言葉を身につけてしまった。読むのも書くのも話すのもなんでもござれ、である。羨ましい。また、アネットさんを師匠に訓練をしていて体力面でもメキメキ力をつけているらしい。「いつか父上を倒す」とふたり揃って言うのはなぜなのか。悪魔はふたりの父親のはずなのだが。

あの日リオンに言われた通り、私は妊娠していて、ソルマーレ暦1586年7月7日にまたしても双子の赤ちゃんを産んだ。男の子がふたり。ディーン、ゼイン両王子は、涙を流して喜んでいた。自分たちと同じ双子で嬉しいと…だんだんウザイ悪魔化している、やはり。そのうち話が通じなくなってしまうのではないかと思うと気が気ではない。

その双子王子も、昨年揃って子どもが生まれた。どちらも可愛い女の子で、生まれた直後に「絶対に嫁には出さない」宣言をし、菖蒲さんと紫苑さんに殴られていた。「大きくなったらパパのお嫁さんになるんだよ~」と今から話しかけているところに一抹の不安を感じずにはいられない。

「ギデオンさん、名前決めたの?」

「ええ。アーロンとザイオンです。フィー、次は女の子にしましょう。いつからできますか、」

「父上、ぶん殴りますよ。早く出て行ってください!リオン!」

「おじい様のところに行きますよ、父上。思う存分説教されてください。疲れている母上になんてことを…破廉恥な…」

「やめなさい、双子で連携するのはやめなさい!」

レインとリオンに押し出されるようにして悪魔は部屋を追い出された。たくさん子どもが欲しい、っては確かに言ってたけど、

「キミたちが生まれたばかりなのに、お父様は気が早いねぇ」

アーロンとザイオンはほにゃほにゃしながら眠っている。私もだんだん眠くなってきた。すると、傍らにいたアリスちゃんが、

「ソフィア様、一度お眠りになっては?うるさいお兄様もいなくなりましたし。ふたりは私が…まもなくお母様も来るでしょうから、カラダを休めてください。またしばらく短時間睡眠になってしまうのですから。おっぱいがたくさん出るように、母体がゆったりすることが大切だと書いてありました。ストレスの素になるお兄様はお父様のところに隔離しておきますから心配なさらずに」

11歳になったアリスちゃんは、あれからもどんどん勉強を進め、女性のカラダの仕組みについて、もっと女性自身が知るべきだと考えるようになった。これから初潮を迎える子どもたちから成人前の女性まで、性教育をするべきだと。生理痛が酷い子どもたちのためにカラダに負担がない薬を作りたいとも考えていて、チンピラにも相談したらしいがなかなか製薬までは辿り着けないのだと落ち込んでいた。

しかしつい先日、薬草栽培を手掛けている子爵家の姪…セルーラン国のユリアーナ・ジルコニアさんという方がソルマーレ国に来ていることがわかり、製薬についてたくさん有意義な話ができたのだと嬉しそうに報告をしてくれた。このユリアーナさんという方は、薬草が大好き、研究も大好きで製薬もできちゃうある意味天才なのだそうだ。私はユリアーナさんには会えなかったが、アリスちゃんとの話が長引きそうだからと、彼女の夫だという男性をアネットさんが連れてきた。もちろん悪魔も同席である。

「初めてお目にかかります、お時間をいただきありがとうございます。わたくしは、セルーラン国侯爵家が嫡男、フェルナンド・ジルコニアと申します。以後、お見知りおきください」

「ギデオン様、ソフィア様、ジルコニア侯爵家はセルーラン国の影の一族でして、フェルナンド様の弟君が現在我が家に滞在しております」

「アネットさんから報告があった、イアン・ジルコニアさんですね」

悪魔はアネットさんからフェルナンドさんに視線を移すと、

「妹が我儘を言いまして、今日は奥様をお借りしているそうで。ありがとうございます」

「とんでもないことです。妻も大変光栄なことだと喜んでおりました」

悪魔はニッコリすると、

「フェルナンドさん、是非ふたりで話をしましょう。貴方には何か通じるものを感じます。アネットさん、フィーをしばらくお願いします」

と言って、フェルナンドさんと出て行った。いったい何を感じたというのだろうか。

2時間程で戻ってきたふたりは、昔からの親友かというくらい打ち解けていた。悪魔によると「フェルナンド君はわたくしと同じ」らしい。フェルナンドさんはかなりの常識人に見えたけど、悪魔とどんなふうに同じなんだろう。

そんなことをつらつらと考えているうちに、いつの間にか眠りについた。
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