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番外編~レインとリオン
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話が長くなる、というので自室に戻ることにした。「父上には聞かれたくない」というので、悪魔には「今日はレインとふたりで過ごしたいから、リオンとギデオンさんが組ね」と伝えると、
「任せてください!わたくしが責任を持ってリオンと過ごします!」
と鼻息粗く張り切ってくれた。なぜなのか、など答えづらいことを聞かれずに済んでありがたい。
自室のソファに座らせ、オレンジジュースを目の前に置くと、それをひとくち飲んでレインは徐に口を開いた。
「俺は、12歳の時に婚約者ができました。俺はその国では王太子で…初めてその子に会った時、なんてキレイな瞳をしているのだろう、と。一瞬で恋に落ちました。『はじめまして』と挨拶してくれたその声が可愛らしくて…こんな子が婚約者だなんて、と、すごく嬉しくなりました。でも同時に、政略結婚をする相手として連れてこられたこの子は、俺のことを好きになってくれるのか、不安になって。どうやったら気を引けるのか、真剣に考えました」
政略結婚であっても、仲がいい夫婦はたくさんいる。身近なところで言えばジャポン皇国の皇帝並びに知事夫妻。あの方たちは、本当に仲がいい。特に旦那さんたちの愛情が溢れ出るばかりで、白虎州の伽藍さんなどはたまに溺れるのではないかと思うほどの溺愛を受けている。時間をかけて歩みより、対話を重ね、触れあいを重ねたからこその関係性だろう。
「それで俺は、他の女といるところを見せつけて嫉妬させることにしたんです」
「…え?」
まったく予想しない方向から飛んできた言葉に、間抜けな答えしか返せなかった私は悪くないと思う。いま、この子なんて言ったの?
「婚約者だ、って公にはなっていましたから、王太子の婚約者に手を出すようなバカな男はいませんでしたし、…出さないようにかなり牽制しましたし、物理的にも、」
話がだんだん怖い方向に進んでいる気がするのは気のせいなのだろうか。
「俺は、彼女には一切贈り物をしませんでした。夜会のエスコートなんかもせず、手紙を書いたり花を送ったり、そんなこともしなかった。本当は一緒に過ごしたかったけど、彼女が言い出してくれるまで我慢したんです」
「…何を?」
「他の女に構うのはやめてください、私だけを見てください、って」
…確かに。そういうことを言う女性もいるだろう。でも、相手が自分を好きだとは思えない態度で現に他の女性を口説いているようにしか見えなくて、
「…私だったら、レインが求めてるような言葉は言わないなぁ」
レインはビックリしたような顔で私を見ると、「なぜですか!?」と叫んだ。
「まずね。レインは、その婚約者さんに、『俺はおまえが好きだ』って伝えたの?」
するとレインが途端に不貞腐れた顔になった。やっぱり血の繋がった親子だなぁ。悪魔の不貞腐れた顔にそっくり。
「…そこなんです」
「そこ?」
「父上は、母上にいつもたくさん言うでしょう、好きだ、愛してる、って。あれは、本当はそんなふうに思っていないから、だからあんなふうに軽く何度も何度も言えるんじゃないですか?本当に愛してるなら、そんな簡単には言えないと思います!俺は、俺は彼女が愛しすぎて、言えませんでした…愛情の重みが違うんです、俺と父上では!」
重み、なぁ…。愛情は目に見えない。だから重みは量りようがない。目に見えないからこそ、言葉で伝えなくてはならないと思う。対話すらない夫妻で菜緒子と裕さんは破綻したから、だから言葉を大事に、伝えることを第一に考えるようになったわけだけど。
「あのね、レイン」
レインは不貞腐れた顔のまま私をじっと見ている。
「ギデオンさん…お父様はね。昔、よく、『もういいです』って言う人だったの。私と話をしているのに、自分で勝手に結論を出して、それ以上話を続けることも放棄して、もういいです、って。でもね、私はそれがすごくイヤだった。何を考えてそうなったのかわからないし、もういいです、って言葉は相手を拒絶している、切り捨てる言葉だよね。相手の考えてること、レインは正確にわかる?私はわからない。だから、お父様には折に触れて伝えてきたの。もういいです、って言わないで、って。あなたのことを知りたいから、きちんと言葉にして伝えて欲しいって。関係性を断ち切りたくなかったから。お父様と、ずっと一緒に生きていく、って決めたから」
「一緒に、生きていく、」
「うん。きちんと言葉で伝えてないのに、相手に俺の真意をわかれ、って言うのは傲慢だと思うよ。さっきレインは、お父様が私を思う気持ちが軽いから何回も好きだって言えるんだ、って言ったけど、私は言われて嬉しいよ。好きだ、愛してる、って。私もお父様を好きだから、好きだよって伝えてるつもりだよ。言葉にしたから軽いとは、私は思わない。レインにも、リオンにも、私は…お父様も、好きだよ、って、言葉で伝えてきたでしょう。カラダでのふれあいよりも何よりも、言葉で伝える努力が大切だと私は思うよ」
レインは何も言わず、不貞腐れた顔で下を向いた。見た目が3歳だからなぁ…違和感が凄すぎる。
「任せてください!わたくしが責任を持ってリオンと過ごします!」
と鼻息粗く張り切ってくれた。なぜなのか、など答えづらいことを聞かれずに済んでありがたい。
自室のソファに座らせ、オレンジジュースを目の前に置くと、それをひとくち飲んでレインは徐に口を開いた。
「俺は、12歳の時に婚約者ができました。俺はその国では王太子で…初めてその子に会った時、なんてキレイな瞳をしているのだろう、と。一瞬で恋に落ちました。『はじめまして』と挨拶してくれたその声が可愛らしくて…こんな子が婚約者だなんて、と、すごく嬉しくなりました。でも同時に、政略結婚をする相手として連れてこられたこの子は、俺のことを好きになってくれるのか、不安になって。どうやったら気を引けるのか、真剣に考えました」
政略結婚であっても、仲がいい夫婦はたくさんいる。身近なところで言えばジャポン皇国の皇帝並びに知事夫妻。あの方たちは、本当に仲がいい。特に旦那さんたちの愛情が溢れ出るばかりで、白虎州の伽藍さんなどはたまに溺れるのではないかと思うほどの溺愛を受けている。時間をかけて歩みより、対話を重ね、触れあいを重ねたからこその関係性だろう。
「それで俺は、他の女といるところを見せつけて嫉妬させることにしたんです」
「…え?」
まったく予想しない方向から飛んできた言葉に、間抜けな答えしか返せなかった私は悪くないと思う。いま、この子なんて言ったの?
「婚約者だ、って公にはなっていましたから、王太子の婚約者に手を出すようなバカな男はいませんでしたし、…出さないようにかなり牽制しましたし、物理的にも、」
話がだんだん怖い方向に進んでいる気がするのは気のせいなのだろうか。
「俺は、彼女には一切贈り物をしませんでした。夜会のエスコートなんかもせず、手紙を書いたり花を送ったり、そんなこともしなかった。本当は一緒に過ごしたかったけど、彼女が言い出してくれるまで我慢したんです」
「…何を?」
「他の女に構うのはやめてください、私だけを見てください、って」
…確かに。そういうことを言う女性もいるだろう。でも、相手が自分を好きだとは思えない態度で現に他の女性を口説いているようにしか見えなくて、
「…私だったら、レインが求めてるような言葉は言わないなぁ」
レインはビックリしたような顔で私を見ると、「なぜですか!?」と叫んだ。
「まずね。レインは、その婚約者さんに、『俺はおまえが好きだ』って伝えたの?」
するとレインが途端に不貞腐れた顔になった。やっぱり血の繋がった親子だなぁ。悪魔の不貞腐れた顔にそっくり。
「…そこなんです」
「そこ?」
「父上は、母上にいつもたくさん言うでしょう、好きだ、愛してる、って。あれは、本当はそんなふうに思っていないから、だからあんなふうに軽く何度も何度も言えるんじゃないですか?本当に愛してるなら、そんな簡単には言えないと思います!俺は、俺は彼女が愛しすぎて、言えませんでした…愛情の重みが違うんです、俺と父上では!」
重み、なぁ…。愛情は目に見えない。だから重みは量りようがない。目に見えないからこそ、言葉で伝えなくてはならないと思う。対話すらない夫妻で菜緒子と裕さんは破綻したから、だから言葉を大事に、伝えることを第一に考えるようになったわけだけど。
「あのね、レイン」
レインは不貞腐れた顔のまま私をじっと見ている。
「ギデオンさん…お父様はね。昔、よく、『もういいです』って言う人だったの。私と話をしているのに、自分で勝手に結論を出して、それ以上話を続けることも放棄して、もういいです、って。でもね、私はそれがすごくイヤだった。何を考えてそうなったのかわからないし、もういいです、って言葉は相手を拒絶している、切り捨てる言葉だよね。相手の考えてること、レインは正確にわかる?私はわからない。だから、お父様には折に触れて伝えてきたの。もういいです、って言わないで、って。あなたのことを知りたいから、きちんと言葉にして伝えて欲しいって。関係性を断ち切りたくなかったから。お父様と、ずっと一緒に生きていく、って決めたから」
「一緒に、生きていく、」
「うん。きちんと言葉で伝えてないのに、相手に俺の真意をわかれ、って言うのは傲慢だと思うよ。さっきレインは、お父様が私を思う気持ちが軽いから何回も好きだって言えるんだ、って言ったけど、私は言われて嬉しいよ。好きだ、愛してる、って。私もお父様を好きだから、好きだよって伝えてるつもりだよ。言葉にしたから軽いとは、私は思わない。レインにも、リオンにも、私は…お父様も、好きだよ、って、言葉で伝えてきたでしょう。カラダでのふれあいよりも何よりも、言葉で伝える努力が大切だと私は思うよ」
レインは何も言わず、不貞腐れた顔で下を向いた。見た目が3歳だからなぁ…違和感が凄すぎる。
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