お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

文字の大きさ
上 下
136 / 161
番外編~レインとリオン

しおりを挟む
話が長くなる、というので自室に戻ることにした。「父上には聞かれたくない」というので、悪魔には「今日はレインとふたりで過ごしたいから、リオンとギデオンさんが組ね」と伝えると、

「任せてください!わたくしが責任を持ってリオンと過ごします!」

と鼻息粗く張り切ってくれた。なぜなのか、など答えづらいことを聞かれずに済んでありがたい。

自室のソファに座らせ、オレンジジュースを目の前に置くと、それをひとくち飲んでレインは徐に口を開いた。

「俺は、12歳の時に婚約者ができました。俺はその国では王太子で…初めてその子に会った時、なんてキレイな瞳をしているのだろう、と。一瞬で恋に落ちました。『はじめまして』と挨拶してくれたその声が可愛らしくて…こんな子が婚約者だなんて、と、すごく嬉しくなりました。でも同時に、政略結婚をする相手として連れてこられたこの子は、俺のことを好きになってくれるのか、不安になって。どうやったら気を引けるのか、真剣に考えました」

政略結婚であっても、仲がいい夫婦はたくさんいる。身近なところで言えばジャポン皇国の皇帝並びに知事夫妻。あの方たちは、本当に仲がいい。特に旦那さんたちの愛情が溢れ出るばかりで、白虎州の伽藍さんなどはたまに溺れるのではないかと思うほどの溺愛を受けている。時間をかけて歩みより、対話を重ね、触れあいを重ねたからこその関係性だろう。

「それで俺は、他の女といるところを見せつけて嫉妬させることにしたんです」

「…え?」

まったく予想しない方向から飛んできた言葉に、間抜けな答えしか返せなかった私は悪くないと思う。いま、この子なんて言ったの?

「婚約者だ、って公にはなっていましたから、王太子の婚約者に手を出すようなバカな男はいませんでしたし、…出さないようにかなり牽制しましたし、物理的にも、」

話がだんだん怖い方向に進んでいる気がするのは気のせいなのだろうか。

「俺は、彼女には一切贈り物をしませんでした。夜会のエスコートなんかもせず、手紙を書いたり花を送ったり、そんなこともしなかった。本当は一緒に過ごしたかったけど、彼女が言い出してくれるまで我慢したんです」

「…何を?」

「他の女に構うのはやめてください、私だけを見てください、って」

…確かに。そういうことを言う女性もいるだろう。でも、相手が自分を好きだとは思えない態度で現に他の女性を口説いているようにしか見えなくて、

「…私だったら、レインが求めてるような言葉は言わないなぁ」

レインはビックリしたような顔で私を見ると、「なぜですか!?」と叫んだ。

「まずね。レインは、その婚約者さんに、『俺はおまえが好きだ』って伝えたの?」

するとレインが途端に不貞腐れた顔になった。やっぱり血の繋がった親子だなぁ。悪魔の不貞腐れた顔にそっくり。

「…そこなんです」

「そこ?」

「父上は、母上にいつもたくさん言うでしょう、好きだ、愛してる、って。あれは、本当はそんなふうに思っていないから、だからあんなふうに軽く何度も何度も言えるんじゃないですか?本当に愛してるなら、そんな簡単には言えないと思います!俺は、俺は彼女が愛しすぎて、言えませんでした…愛情の重みが違うんです、俺と父上では!」

重み、なぁ…。愛情は目に見えない。だから重みは量りようがない。目に見えないからこそ、言葉で伝えなくてはならないと思う。対話すらない夫妻で菜緒子と裕さんは破綻したから、だから言葉を大事に、伝えることを第一に考えるようになったわけだけど。

「あのね、レイン」

レインは不貞腐れた顔のまま私をじっと見ている。

「ギデオンさん…お父様はね。昔、よく、『もういいです』って言う人だったの。私と話をしているのに、自分で勝手に結論を出して、それ以上話を続けることも放棄して、もういいです、って。でもね、私はそれがすごくイヤだった。何を考えてそうなったのかわからないし、もういいです、って言葉は相手を拒絶している、切り捨てる言葉だよね。相手の考えてること、レインは正確にわかる?私はわからない。だから、お父様には折に触れて伝えてきたの。もういいです、って言わないで、って。あなたのことを知りたいから、きちんと言葉にして伝えて欲しいって。関係性を断ち切りたくなかったから。お父様と、ずっと一緒に生きていく、って決めたから」

「一緒に、生きていく、」

「うん。きちんと言葉で伝えてないのに、相手に俺の真意をわかれ、って言うのは傲慢だと思うよ。さっきレインは、お父様が私を思う気持ちが軽いから何回も好きだって言えるんだ、って言ったけど、私は言われて嬉しいよ。好きだ、愛してる、って。私もお父様を好きだから、好きだよって伝えてるつもりだよ。言葉にしたから軽いとは、私は思わない。レインにも、リオンにも、私は…お父様も、好きだよ、って、言葉で伝えてきたでしょう。カラダでのふれあいよりも何よりも、言葉で伝える努力が大切だと私は思うよ」

レインは何も言わず、不貞腐れた顔で下を向いた。見た目が3歳だからなぁ…違和感が凄すぎる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました

さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア 姉の婚約者は第三王子 お茶会をすると一緒に来てと言われる アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる ある日姉が父に言った。 アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね? バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました

常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。 裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。 ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです

珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。 その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。 そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。 そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...