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番外編~100年に一度の恋へ
プロローグ
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「…フィー、目を開けて。起きてください」
ソフィアの頬にそっと手で触れるギデオンは、囁くように何度も呼び掛ける。
「フィー、わたくしが迎えに来るのが遅くて、こんな冷たい所にいなくてはならなかったから怒っているのですよね、すみません、謝ります、何回でも、フィーが許してくれるまで何回でも謝ります、本当に、…だから、意地悪はやめて、目を開けてください、」
ソフィアの頬を擦るが、その顔は真っ白で生気が感じられない。
「フィー、お願いだから…フィー、謝ります、ね、謝りますから…目を、目を開けてください、」
それでもまったく反応がなく、ギデオンがそろりと抱き上げたソフィアの腕が力なくダラリと垂れた。
「ソフィア様…っ」
ギデオンの対面で菖蒲と紫苑が泣き崩れ、その後ろでディーンとゼインは茫然と立ち尽くしていた。
「う、嘘だ、こんなこと命令していない、だ、誰がこの女を殺したんだ…っ」
突如喚き声をあげたハソックヒル国王太子は、アミノフィア国第2王子に掴みかかった。
「おまえが、おまえがやったのか!」
「そんなわけないだろう、ここに俺の私兵はいない!おまえたちが入れさせなかったくせに、俺がどうやってこの女を殺すと言うんだ…っ、…うわっ!?」
突如鮮血が飛び散り、ハソックヒル国第1王子の顔半分が赤く染まる。叫び声をあげたアミノフィア国第2王子の右腕の、肘から下が消えていた。
「い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛いっ!俺の、俺の腕がっ!!」
床に倒れ転がり回る第2王子の傍らには、剣を右手に、左手にソフィアを抱き込み立つギデオンの姿があった。その顔はゴッソリと表情が抜け落ち、さながら幽鬼のようである。
「…ディーン。ゼイン」
「はっ!」
ギデオンの目の前に双子王子がひざまずく。そのふたりの瞳は、涙に濡れながらも怒りでギラギラと光っている。
「ソルマーレ国王太子ギデオン・エヴァンスが命ずる。ハソックヒル国の艦隊を一隻残らず海の底へ沈めろ。我が国に敵対する艦船も同様だ。行け」
「必ずや」
「我が軍の勝利をソフィア様に捧げます」
双子王子は立ち上がると、「アーヤ、頼む」と菖蒲に視線を移した。菖蒲も泣きながら立ち上がり、ふたりとともに消えた。
「紫苑さん。フィーを、ソルマーレに連れて帰ってください。こんな所にいたせいで、カラダが冷えて…わたくしのベッドに寝かせてあげてもらえますか。後でわたくしが温めますから」
紫苑は、涙を零しながら何度も何度も頷き、ギデオンからソフィアのカラダを受け取った。
「レイン様は、」
「レインは将来ソルマーレ国王太子、ゆくゆくはわたくしの跡を継ぎ国王になる人間です。自分の母を殺した人間がどうなるか見届ける義務がある。眞島さん、レインを守りきれますか」
「あったりまえでしょ!どんなことしたって守るわよっ!…ソフィアちゃん…っ!」
龍彦は紫苑の腕の中のソフィアに目を移し、傍らにひざまずいた。
「なんで…なんで、なんで…っ!こんなこと、なんで…っ」
ソフィアの頭をそっと撫でる龍彦の瞳もまた怒りに燃えていた。
「このクズどもは一人残らず殲滅よ。地獄なんて生ぬるいと思うくらいの目に合わせてやる。行きなさい、紫苑ちゃん。ソフィアちゃんを頼んだわよ」
紫苑はコクリと頷くとソフィアのカラダとともに消えた。
「レイン。できますね」
ギデオンの呼び掛けに、表情を変えず頷いたレインは、龍彦に抱き上げられた。
痛みに転げ回るアミノフィア国第2王子と、その傍らで真っ青な顔で茫然と立ち尽くすハソックヒル第1王子に目を向けたギデオンは、厳かに宣誓した。
「フィーをわたくしから奪ったあなた方をわたくしは赦しません。…さあ、はじめましょうか」
この後の惨状を、たぶん誰一人として予想することはできなかったであろう。ソフィアを喪ったギデオンは、後年各国で畏怖の念とともに語り継がれる「ソルマーレ国の赤い悪魔」へと…自分の命すら省みず容赦なく敵を蹂躙する、本物の悪魔へと変容してしまったのである。
ソフィアの頬にそっと手で触れるギデオンは、囁くように何度も呼び掛ける。
「フィー、わたくしが迎えに来るのが遅くて、こんな冷たい所にいなくてはならなかったから怒っているのですよね、すみません、謝ります、何回でも、フィーが許してくれるまで何回でも謝ります、本当に、…だから、意地悪はやめて、目を開けてください、」
ソフィアの頬を擦るが、その顔は真っ白で生気が感じられない。
「フィー、お願いだから…フィー、謝ります、ね、謝りますから…目を、目を開けてください、」
それでもまったく反応がなく、ギデオンがそろりと抱き上げたソフィアの腕が力なくダラリと垂れた。
「ソフィア様…っ」
ギデオンの対面で菖蒲と紫苑が泣き崩れ、その後ろでディーンとゼインは茫然と立ち尽くしていた。
「う、嘘だ、こんなこと命令していない、だ、誰がこの女を殺したんだ…っ」
突如喚き声をあげたハソックヒル国王太子は、アミノフィア国第2王子に掴みかかった。
「おまえが、おまえがやったのか!」
「そんなわけないだろう、ここに俺の私兵はいない!おまえたちが入れさせなかったくせに、俺がどうやってこの女を殺すと言うんだ…っ、…うわっ!?」
突如鮮血が飛び散り、ハソックヒル国第1王子の顔半分が赤く染まる。叫び声をあげたアミノフィア国第2王子の右腕の、肘から下が消えていた。
「い、痛い、痛い痛い痛い痛い痛いっ!俺の、俺の腕がっ!!」
床に倒れ転がり回る第2王子の傍らには、剣を右手に、左手にソフィアを抱き込み立つギデオンの姿があった。その顔はゴッソリと表情が抜け落ち、さながら幽鬼のようである。
「…ディーン。ゼイン」
「はっ!」
ギデオンの目の前に双子王子がひざまずく。そのふたりの瞳は、涙に濡れながらも怒りでギラギラと光っている。
「ソルマーレ国王太子ギデオン・エヴァンスが命ずる。ハソックヒル国の艦隊を一隻残らず海の底へ沈めろ。我が国に敵対する艦船も同様だ。行け」
「必ずや」
「我が軍の勝利をソフィア様に捧げます」
双子王子は立ち上がると、「アーヤ、頼む」と菖蒲に視線を移した。菖蒲も泣きながら立ち上がり、ふたりとともに消えた。
「紫苑さん。フィーを、ソルマーレに連れて帰ってください。こんな所にいたせいで、カラダが冷えて…わたくしのベッドに寝かせてあげてもらえますか。後でわたくしが温めますから」
紫苑は、涙を零しながら何度も何度も頷き、ギデオンからソフィアのカラダを受け取った。
「レイン様は、」
「レインは将来ソルマーレ国王太子、ゆくゆくはわたくしの跡を継ぎ国王になる人間です。自分の母を殺した人間がどうなるか見届ける義務がある。眞島さん、レインを守りきれますか」
「あったりまえでしょ!どんなことしたって守るわよっ!…ソフィアちゃん…っ!」
龍彦は紫苑の腕の中のソフィアに目を移し、傍らにひざまずいた。
「なんで…なんで、なんで…っ!こんなこと、なんで…っ」
ソフィアの頭をそっと撫でる龍彦の瞳もまた怒りに燃えていた。
「このクズどもは一人残らず殲滅よ。地獄なんて生ぬるいと思うくらいの目に合わせてやる。行きなさい、紫苑ちゃん。ソフィアちゃんを頼んだわよ」
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痛みに転げ回るアミノフィア国第2王子と、その傍らで真っ青な顔で茫然と立ち尽くすハソックヒル第1王子に目を向けたギデオンは、厳かに宣誓した。
「フィーをわたくしから奪ったあなた方をわたくしは赦しません。…さあ、はじめましょうか」
この後の惨状を、たぶん誰一人として予想することはできなかったであろう。ソフィアを喪ったギデオンは、後年各国で畏怖の念とともに語り継がれる「ソルマーレ国の赤い悪魔」へと…自分の命すら省みず容赦なく敵を蹂躙する、本物の悪魔へと変容してしまったのである。
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