お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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番外編~結婚生活編

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次の日、本来なら汽車で行くはずが、気を揉む撫子さんの転移魔術で龍彦さんとふたり、白虎州に送られてしまった。

「お姉さま、さ、早く帰りましょう」

「撫子さん、いま降り立ったばっかりだよ…」

だってギデオン様が!とオロオロする撫子さんを宥めていると、

「ソフィアさん、いらっしゃい!良く来てくれたね!なんだ、龍彦も来てるのか。今蘇芳兄さんの下だもんな、そういえば。まったく兄さんは、抜け目なくいいとこ全部浚っていくからなぁ」

「うふふ、お褒めいただき光栄よぉ~、朝霧ちゃん!でも、朝霧ちゃんとこ…白虎州警備部トップもできる男でしょ?あたしよりは下だけどぉ」

朝霧さんはシラケた目で龍彦さんを見ると、

「虎彦はおまえの兄だろ、もう少し気を使え」

使ってますぅ~、と頬を膨らませる龍彦さんを無視し、

「ところでソフィアさん」

と私を見た朝霧さんの瞳はかなり鋭い。

「な、…んですか?」

朝霧さんはガッと私の肩を掴む。昨日撫子さんにもやられた。まさかのデジャブ。

「織部兄さんとこに、新しい事業持ちかけたらしいじゃない。トゥランクメント族のことも聞いたよ」

…なんでみんなそんなに情報早いの。隣で撫子さんが「お姉さまのおかげで」なんて満面の笑みになっている。

「ズルいよね、僕のとこも…白虎州にも、何か提案してよ。じゃなきゃ、ソルマーレ国には帰さないからね」

「朝霧様、ギデオン様を敵に回す気なのですか。死ぬ覚悟はなさったのですね」

撫子さんの言葉に朝霧さんの顔色が見る間に悪くなるけど、悪魔はそこまで傍若無人ではないと思うのだが…。

「そうよぅ。なるべく早く帰さないと、ギデオンちゃんが更に頭おかしくなっちゃうわよう」

…頭がおかしいことは確定なんだ。まあ確かに、あんな呪いの手紙を書くくらいだからおかしくないとは贔屓目に見てもいえないところがツラい。不甲斐ない妻で申し訳ない。

「っ、でも、でもさ、」

「朝霧、あまりワガママを言って困らせるんじゃない」

「伽藍さん!」

朝霧さんが駆け寄った先に立っている伽藍さんは、妊婦のはずなのに痩せ細り顔もゲッソリ痩けている。足元もフラフラしていて、私も思わず駆け寄った。

「ソフィア殿、よく来てくれた」

「伽藍さん、体調すごく悪そうだけど、大丈夫なんですか?」

朝霧さんは伽藍さんを支えながら、

「伽藍さん、つわりが収まらなくて…小平の義母からはつわりって4ヶ月くらいまで、って聞いてたんだけど、あと2ヶ月で産み月なのにぜんぜん変わらないんだよ」

「…産むまでつわりがある方もいると聞いたことがあります」

伽藍さんはかなりツラそうなのに、ニコリと微笑んでくれる。

「2月の藤乃殿の結婚式に行けなかったから、会えて嬉しいよソフィア殿。そうだ、ご結婚おめでとう」

「ありがとうございます…とりあえず伽藍さん、横になって。それから話しましょう」

こんな状態では長居するわけにもいかない。

「ごはんも、なかなか食べられない感じなんでしょうか」

「うん…医官がついてくれて、栄養をとらせてくれてるけどツラそうで…僕、心配で心配で部屋から出さないようにしてたんだけど怒られちゃうし…伽藍さんがこんなにツラいなら、妊娠なんてさせなきゃ良かったよ」

伽藍さんを抱き上げた朝霧さんの顔が苦痛に歪む。

「朝霧、そんな、」

「伽藍さん。僕は、伽藍さんが一番大切なの。もちろん子どもが生まれたら子どもも大切にするよ。でも、順番は変わらないの。同じように、皇帝なんてどうでもいいの。小平の義父だって、そのまま小平を継げばいいって言ってくれてるし、経営に手を抜くつもりはないけど、こんなに酷い状態になるなら子ども4人なんて産ませられないでしょ。伽藍さんが元気なのが一番大事なんだから…」

そう言うと、朝霧さんの目から涙がボロボロ零れ出した。確かにこんな状態の伽藍さんを側で見てきたら、心配で心配で仕方がないだろう。

「まあねぇ。ずーっと300年変わらないで来たから当たり前になってたけどぉ、別に4人子どもが必要とか、いらないわよねぇ。なんならこのまま、それぞれの州を受け継いでいけばいいんじゃない?皇帝は、継いでからの税収だけで決めればいいのよ」

龍彦さん、なんて発言を…。

焦る私の気持ちを他所に、撫子さんも眉をしかめながら

「私もそう思います。女性にばかり負担をかけるのはおかしいわ」

「ねぇ。青龍州の芙蓉ちゃんみたいに悩んじゃうわよねぇ」

「…え?」

龍彦さんはニヤリとすると、

「芙蓉ちゃんは、子どもができない、ってメッチャ焦ってるのよぅ」

「でも、まだ…羅刹さんとまともに性交するようになってから一年くらいしか経ってないのに、」

「それでも伽藍ちゃんが妊娠して、藤乃ちゃんも妊娠したのよぉ、羅刹ちゃんを皇帝にさせるためには4人子どもが必要なんだもん、プレッシャーにもなるわよぅ」

「…確かにそうですよね」

私も悪魔と「子どもを作る」なんて簡単に言ってたけど、できるかどうかなんて誰にもわからない。タイミングの問題なのかもしれないけど、実際に中に出されてきてもまだ私は妊娠していないのだし。

「だからさぁ、朝霧ちゃん。あんた、陛下に進言してみなさいよぅ。実際あんただって心労で倒れたんでしょ、何回か」

「龍彦っ」

「朝霧…そうだったのか?すまない、私のせいで、」

「…伽藍さんのせいじゃない。ふたりのことなんだから、ふたりで悩むのは当たり前でしょ。ったく、余計なこと言いやがって、龍彦。減棒するように蘇芳兄さんに言うからな」

「ちょっとぉ、蘇芳ちゃんが喜んじゃうからやめてよう~」

そう言いながらも、龍彦さんは嬉しそうだ。この人はたくさん手に入れた情報を、本当に必要なところに蒔いてくれるんだ。そこから希望の芽が出るように。

朝霧さんは伽藍さんをそっと寝室のベッドに寝かせると、「僕、オレンジジュース持ってくるから」と出ていった。

「あたしたちには何にする、もないのねぇ。さすが伽藍ちゃんのことしか目に入ってないわぁ、朝霧ちゃん。あそこまで行くといっそのこと清々しいわよぅ」

龍彦さんをじっと見ていた伽藍さんは、撫子さんに視線を移した。

「…撫子殿も。来てくれて、ありがとう」

「なかなかお邪魔できなくてすみません。何しろ朝霧様が伽藍さんを出さないと聞いてしまったので、なんだか来づらくて…転移魔術が使えるのですから、もっと気軽に来ればよかったですわ」

撫子さんはニッコリすると、「さ、お姉さま帰りましょう」とまた言った。

「いや、あの…」

「ギデオンちゃんが首を長くするどころか、こっちに殴り込みに来かねないからねぇ~」

「まだ3日ですけど…」

「そうか、ギデオン殿は今回は一緒ではないのか。彼は元気かい?」

なんて答えたらいいのか…元気は元気だけど、頭がおかしくなって…いや、違うな…。

「とりあえず元気です」

私の言葉に頷いた伽藍さんは、

「私も、帰ったほうがいいと思う。できれば長く居てもらいたいから、つぎはギデオン殿と一緒に来てくれ」

…悪魔はジャポン皇国の方々にどれだけ我慢が利かないヤツだと思われているのだろう。
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