お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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番外編~結婚生活編

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龍彦さんに物凄い勢いで佐々木さんが詰め寄る。

「おい、龍彦、ロイドさんはどうした!」

「もちろん無事に決まってるじゃない~。あたしを誰だと思ってんの?ったく。ちょっとぉ、早くおビール!ネコちゃんたちの分も頼むわねぇ、そのために今夜は貸しきりにしてあるんだからっ☆」

龍彦さんがそういうと、これまたガタイのいい男性たちがゾロゾロ入ってきた。

それに目を奪われつつ、佐々木さんが言った言葉を反芻する。そういえば、ロイドさんが来てない。17時までには行きます、って言ってたのにすっかり失念してた…私、なんて薄情な…。

どちらに聞けばいいんだろうかと迷っていると、龍彦さんと目が合った。チョイチョイ、と手招きされる。

「あの、」

「ソフィアちゃんも気になるでしょうからぁ、今からちゃんと話すからね、主に蘇芳ちゃんが~」

という龍彦さんの言葉と同時に蘇芳さんが入ってきてカギを閉めた。…このタイミングの良さ…まさかの立ち聞き?チンピラと同類なの?

「龍彦、首尾は」

「蘇芳ちゃん、とりあえず待って。よいしょ、っと」

そう言った龍彦さんは、座敷に抱えて来た袋をそっと降ろし、口を開けた。中からぐったりした様子のロイドさんが出てきてびっくりする。

「ロイドさん!?」

慌てて駆け寄る私を抱き留めた龍彦さんは、

「ソフィアちゃん、大丈夫よぉ~。ロイドちゃんは今、眠ってるだけなんだから。雄輔、傷はついてねぇけどキスマークはついてるから。それは勘弁な」

「え!?」

厨房から出てきた佐々木さんがロイドさんを抱き起こしカラダを確認し始める。…ホントだ。艶かしいロイドさんの胸元に、赤い点々が何個か見える。

「…おまえ」

今まで見たことのない怒りの形相で睨み付ける佐々木さんを、龍彦さんはシラケた目で見返した。

「仕方ないでしょ、とりあえず『無抵抗なのに手を出した』って事実確認をしなきゃいけなかったんだからぁ。唇は無事よ☆」

佐々木さんは何も言わず、ロイドさんをそっと降ろすと奥に消えた。

「龍彦、首尾は」

蘇芳さんがもう一度尋ねる。何でこんな風になっているのか全くわからず気が急くが、話を待つしかない。ロイドさんの寝せられた座敷に腰かけて様子を見る。佐々木さんがはだけたロイドさんの上半身は、胸元だけであとはキレイだった。なんだか寒そうで、そっと元に戻す。苦しげな感じはなく、スースー寝息をたてていることに一安心する。

「とりあえず、ヤツの…なんて言ったらいいのかしらぁ、おぞましい、愛のない奴隷屋敷?はぶっ潰してきたわよぅ。中に囚われていた子たちはみぃんな解放したから心配しないでぇ、その後きれいさっぱり焼き尽くしたから☆ヤツは部下ごと拘束中、ヤツに話を持ち掛けたアイツも拘束したわ。ギャーギャー喚いてたから何発か蹴っちゃったけどぉ、不可抗力だからぁ、仕方ないわよね☆」

バチコンッとウインクする龍彦さんにハーッとため息をついた蘇芳さんは、

「…ま、いいだろ。良くやった。ここの会計は僕のポケットマネーから出すから、遠慮しないで…おまえが遠慮した試しはないな、まあ好きに飲み食いしろ。奴隷にされてたのは何人だ」

「全部で6人いたみたいだけどぉ、ひとりは亡くなってたわ、鎖に繋がれたまま。可哀想に、焼きゴテだらけだったわよぅ。鎖から外してキレイに服を着せてきたから、遺族に見せるなら、」

「…たぶんいないな、遺族は」

「…そうね」

ふたりがそんな会話を交わしているところに佐々木さんがタオルケットを持って戻ってきた。

「ソフィアさん、悪いんだけど…ロイドさんにかけてやってくれる?」

「はい」

ついでに座敷の座布団をひとつ借り、枕がわりに頭の下に入れる。まだ寝息は穏やかなままだ。佐々木さんは手にタオルを持ってくると、ロイドさんの胸元を拭き始めた。

「俺のロイドさんの肌に…こんな薄汚い跡を付けやがって…」

「そうだ、雄輔。ロイドちゃんの店にも、ひとり入り込んでたの。最近入った若い女いたでしょ?試用期間中の。あいつが手引き役だったわ」

佐々木さんは何も言わず、ロイドさんの服を整えると髪の毛を撫ではじめた。

「無事で良かった…」

目が潤んでくる佐々木さんを見て、私ももらい泣きしそうになる。慌てて顔を上げると、龍彦さんがじっとこちらを見ていた。

「…どうしたんですか」

「ううん。あの時ソフィアちゃんには悪いことしたなぁ、って。悪いのは蘇芳ちゃんだからあたしのことは恨まないでね」

「あの時?」

蘇芳さんが焦ったように「龍彦っ」と叫ぶと、撫子さんがひんやりした声で、

「眞島さんはお姉さまが害されたあの場にいたのに、見て見ぬフリをなさったということですか」

「そうよぅ、あたしはすぐに助けてあげたかったのにぃ、犯される以外は手を出すなって蘇芳ちゃんが言うからぁ。でもさ、犯されるってどこまで?お触りはあり?なし?なんて考えてる間にソフィアちゃん腕は折られちゃうしぃ、殴られるしぃ、ギデオンちゃんが遅れてきたからよかったものの、あれ、バレたら蘇芳ちゃん、確実に殺られるわよ」

「もうバラしてるだろうが!」

あ、ほんとだ☆とテヘペロしてる龍彦さんと蘇芳さんを冷たく見やる撫子さんは、

「蘇芳様。私、しばらく実家におりますので。そうだわ、お姉さまと一緒に白虎州に行って参ります。伽藍さんのお見舞いに行ってきますわね」

「撫子、待って、」

「…お姉さまが連れ去られるのを黙って見てろ、だけならまだしも、傷つけられても黙って見てろだなんて…」

撫子さんは私の手を取ると、「兄さんも、帰るわよ」と橘さんの手を取り光を発動させた…そこになぜか、龍彦さんも入ってきた。

一瞬で視界が変わり、撫子さんの実家に着く。橘さんは、佐々木さんの店で私から聞いたことをまとめるからと自室に戻っていった。

「お姉さま、」

「撫子さん、あの時のことはもういいんだよ。ただ、ギデオンさんはたぶんもういいって言わないから黙っててあげて、蘇芳さん確実に消されちゃうから」

龍彦さんに護衛させる、と言われて「葬る」と宣う悪魔が、いまのこの話を聞いたら酷い騒ぎになることしか目に見えない。友好国の知事を殺めたなんて言ったら、それこそ大惨事だ。いくらぶっ飛んでても、そのくらいはわかるだろうという常識は悪魔には通用しない。

「そうよぅ、確実に消されちゃうわよ、蘇芳ちゃん。ギデオンちゃんのラブは激しいからねぇ」

楽しそうな龍彦さんを軽く睨む撫子さんに、

「あのそれより、ロイドさんは何があったんですか」

「実は、」

と撫子さんが始めたのはなかなか恐ろしい話だった。

ロイドさんがジャポン皇国に出店する前にあった宝石店の店主は、ロイドさんの店に軒並み顧客を取られ逆恨みしたのだという。

「自分の店しかないのをいいことに、まともな商売をしてこなかったツケが回ってきただけなんだけどぉ、クズはなんでも人のせいにするでしょお?ロイドちゃんさえいなくなれば、って浅はかにも考えたみたいなのよねぇ」

その店主が頼ったのが、黒い噂のある豪商だった。こちらはこちらで「拐ってきた見目麗しい男性を自分の奴隷にしていたぶる」というクズだが、なかなかシッポが掴めなかったらしい。

「こっちはネコちゃんに探らせてたのよね。ニオイがしたのか、警戒してなかなか出掛けなくて、奴隷屋敷の場所がわからなくてお手上げだったんだけどぉ、ロイドちゃんという餌を手にしたら絶対にそこに行くはずだと踏んだってわけ」

豪商はスパイとして若い女性を送り込み、今日いつもと違う行動をするロイドさんを狙うことにした。

「ソフィアちゃんと会うために店を早く出たでしょう?あの女、ソフィアちゃんが誰なのか知らないから、そのままソフィアちゃんのことを証言して犯人…ロイドちゃんが行方不明になったきっかけを作った犯人のひとりにしようとしたみたいねぇ。捕まえてちょーっと脅したらペラペラ喋ってくれたの☆楽だったわぁ」

ニコニコ笑う龍彦さんの目が笑ってない…絶対ちょっとじゃないに決まってる。

「まああとは、さっき話した通りよぉ。悪者は全員取っ捕まえたから安心してねぇ。てなわけで撫子ちゃん、あたし今夜はネコちゃんとハッスルしてきていいかしら?久方ぶりに可愛がってあげたいのよぅ」

「眞島さんのことですから、この家の周りにもう配置させてるんでしょ、腕のたつ方々を。どうぞごゆっくり。明日には私とお姉さまはこちらを出ますから間に合うように戻ってください」

龍彦さんは「りょーかいっ」と言って、鼻歌を歌いながら嬉しそうに出て行った。知りたいような、知りたくないような世界である。
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