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番外編~結婚生活編
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龍彦さんが出ていくと、佐々木さんは鍵を閉めた。
「ソフィアさん、なんだかまたキレイになったね。愛されてる証拠だね」
「佐々木さん、お世辞なんか言えるようになったんだね」
ふたりでアハハ、と笑う。BL話で盛り上がったあの時を思い出して懐かしくなる。
「ロイドさんとは順調なんでしょ?」
「もちろん!ロイドさんて、メッチャ頑張り屋だからさぁ、ごはんとかも俺が作るのに最近作ってくれるんだよ。嬉しくて…幸せだよ」
ニコニコする佐々木さんは、言葉通り本当に幸せそうだった。
「それに、なんか最近色気が増して…ツラい…」
「確かに、ロイドさん素敵になったよね。元々素敵だったけど、すんごく柔らかい感じになったし、色気って言葉、わかる気がする」
佐々木さんは目を伏せると、
「…それでちょっと、面倒なことになりそうで」
とボソッと呟いた。
「え?」
ハッとした佐々木さんは、「いや、なんでもない。ごめんね」と言ってまた手を動かし始める。
17時の開店と同時に橘さんと撫子さんが入ってきた。
「佐々木、今回はごめんなさいね」
「…仕方ないです。閉じ込めておけないし、自宅が安全とは言えないし」
「眞島さんがついてるから心配ないわ」
「…でも心配なものは心配です。龍彦だって絶対ではない」
ボソボソ喋るふたりを見るとはなしに見ていると、
「ソフィアさん、そういえば、俺がいないあいだに大変なことになってたみたいで」
と橘さんに言われ、慌てて「すみません」と言うと橘さんも「すまねえ」と言って頬を掻いた。
「…つーかさ。うちの妹、今年22歳なんだぜ。あの王子たちは18歳になるんだろ?歳上なのになんか押し付けるみたいで…」
「いや、ふたりが望んで、むしろ菖蒲さん、紫苑さんは困惑気味でしたよ。申し訳ないのはこちらのほうです」
橘さんは首を横に振ると、
「…できれば、なんだけど。あのふたりに子どもができたら、ひとり、片桐に養子にもらえねえかな」
「…え?」
「撫子から聞いてると思うけど、片桐家は刻印の技術を継承する家だ。でも残念ながら俺も樒も相手がいない。そうなると、跡継ぎもできないし…ま、これはソフィアさんが了承できることじゃねえもんな。実際に生まれたらまた相談するよ」
そう言った橘さんは、なんだか寂しそうだった。樒さんも以前「おばあちゃんしか来ない、出会いがない」と言っていた。
「トゥランクメント族は、少子高齢化が進んでいるんですか?」
橘さんは「少子、…え?なんだって?」と聞き返してくる。馴染みがない言葉なんだな。
「ええと、ご老人が増えて、生まれる子どもが少ない、」
「あ、そういうこと。なんつーか、ほら。働き場所がトゥランクメント族の部落にはあんまりなくて…俺は研究者として知事宮所属だし、妹ふたりも。樒は役所の職員になったけど、うちはたまたま恵まれてたっていうか。働き場所が遠ければ、近くに引っ越したほうが楽だろ?若い世代が流出してる感じだな。だから余計に、呪【シュ】になんて誰も意識はいかねえんだよ。自分がどのくらいの呪術量を持ってるか、わからないヤツもたくさんいると思う」
「働き口、ですか…。ご老人が多いなら、デイケアとか作ってみたら」
「…ソフィアさん、ちょっと意味がわかんねえ」
説明すると、「なるほど…」と橘さんは頷いた。
「それで、働いてる人のお子さんを預かる保育園とかも併設したら、子どもと交流できてご老人たちも楽しいんじゃないですかねぇ」
「保育園、」
「うん。あと、前世で私は子どもいなかったんですけど、お子さんがいる方が困るのって、お子さんが病気になったときに仕事を休まなくちゃいけないとか、休めないのに誰にも見てもらえない、とか聞いたことがあります。病児保育、って言ったと思うんですけど、医療行為ができる人を雇って病気の子どもを預かってあげたらどうですかね」
橘さんは、「ソフィアさん、おもしれえ知識持ってんなー」と関心したように言うと、
「撫子経由で蘇芳様に相談してもらうよ。うまくいったら、出ていった若い世代も戻ってきてくれるかもしれねえもんな」
「学校とかはどうなんですか」
「…今は学校に通うような子どもがいないから閉鎖してる」
「じゃあ、そこも働き口になりますよね、先生が必要だし学校を運営するのに事務の方とか、用務員さんとか、給食とかも学校で作ればあったかいまま食べられますよ」
もちろん公営にしてもらえばいい。
橘さんはハーッ、と長いため息をつくと、
「将来に不安しかなかったけど、ソフィアさんの話聞いたら少し楽になった。狭い世界でおんなじ世界観の人間たちが頭突き合わせてたって、いい案は出ねえよなあ…。トゥランクメント族は消滅するしかない、って…諦めてたよ…」
しんみりしてしまった橘さんになんだか申し訳なくなる。
「でも、あくまでも案なので、うまくいかなかったらすみません」
「なんにもやらないで滅びの道を辿るより、やってみたほうが後悔しないよ。明日にでも撫子と一緒に蘇芳様に頼んでみる。まだ守【シュ】関係の資金は宛にできないし、当座は助けてもらうしかないからさ」
すると撫子さんと佐々木さんが席にやってきた。
「ソフィアさん、うちのオススメの揚げだし豆腐。うまいから食べてみて。お酒は?」
「私はお茶でいいです」
「じゃ、冷たい緑茶持ってくるね。食べたいのあったら遠慮なく言って」
そうして食事を楽しんでいると、
「あー、つっかれたぁ!雄輔、とりあえずビール!」
と大きな袋を抱えた龍彦さんが入ってきた。
「ソフィアさん、なんだかまたキレイになったね。愛されてる証拠だね」
「佐々木さん、お世辞なんか言えるようになったんだね」
ふたりでアハハ、と笑う。BL話で盛り上がったあの時を思い出して懐かしくなる。
「ロイドさんとは順調なんでしょ?」
「もちろん!ロイドさんて、メッチャ頑張り屋だからさぁ、ごはんとかも俺が作るのに最近作ってくれるんだよ。嬉しくて…幸せだよ」
ニコニコする佐々木さんは、言葉通り本当に幸せそうだった。
「それに、なんか最近色気が増して…ツラい…」
「確かに、ロイドさん素敵になったよね。元々素敵だったけど、すんごく柔らかい感じになったし、色気って言葉、わかる気がする」
佐々木さんは目を伏せると、
「…それでちょっと、面倒なことになりそうで」
とボソッと呟いた。
「え?」
ハッとした佐々木さんは、「いや、なんでもない。ごめんね」と言ってまた手を動かし始める。
17時の開店と同時に橘さんと撫子さんが入ってきた。
「佐々木、今回はごめんなさいね」
「…仕方ないです。閉じ込めておけないし、自宅が安全とは言えないし」
「眞島さんがついてるから心配ないわ」
「…でも心配なものは心配です。龍彦だって絶対ではない」
ボソボソ喋るふたりを見るとはなしに見ていると、
「ソフィアさん、そういえば、俺がいないあいだに大変なことになってたみたいで」
と橘さんに言われ、慌てて「すみません」と言うと橘さんも「すまねえ」と言って頬を掻いた。
「…つーかさ。うちの妹、今年22歳なんだぜ。あの王子たちは18歳になるんだろ?歳上なのになんか押し付けるみたいで…」
「いや、ふたりが望んで、むしろ菖蒲さん、紫苑さんは困惑気味でしたよ。申し訳ないのはこちらのほうです」
橘さんは首を横に振ると、
「…できれば、なんだけど。あのふたりに子どもができたら、ひとり、片桐に養子にもらえねえかな」
「…え?」
「撫子から聞いてると思うけど、片桐家は刻印の技術を継承する家だ。でも残念ながら俺も樒も相手がいない。そうなると、跡継ぎもできないし…ま、これはソフィアさんが了承できることじゃねえもんな。実際に生まれたらまた相談するよ」
そう言った橘さんは、なんだか寂しそうだった。樒さんも以前「おばあちゃんしか来ない、出会いがない」と言っていた。
「トゥランクメント族は、少子高齢化が進んでいるんですか?」
橘さんは「少子、…え?なんだって?」と聞き返してくる。馴染みがない言葉なんだな。
「ええと、ご老人が増えて、生まれる子どもが少ない、」
「あ、そういうこと。なんつーか、ほら。働き場所がトゥランクメント族の部落にはあんまりなくて…俺は研究者として知事宮所属だし、妹ふたりも。樒は役所の職員になったけど、うちはたまたま恵まれてたっていうか。働き場所が遠ければ、近くに引っ越したほうが楽だろ?若い世代が流出してる感じだな。だから余計に、呪【シュ】になんて誰も意識はいかねえんだよ。自分がどのくらいの呪術量を持ってるか、わからないヤツもたくさんいると思う」
「働き口、ですか…。ご老人が多いなら、デイケアとか作ってみたら」
「…ソフィアさん、ちょっと意味がわかんねえ」
説明すると、「なるほど…」と橘さんは頷いた。
「それで、働いてる人のお子さんを預かる保育園とかも併設したら、子どもと交流できてご老人たちも楽しいんじゃないですかねぇ」
「保育園、」
「うん。あと、前世で私は子どもいなかったんですけど、お子さんがいる方が困るのって、お子さんが病気になったときに仕事を休まなくちゃいけないとか、休めないのに誰にも見てもらえない、とか聞いたことがあります。病児保育、って言ったと思うんですけど、医療行為ができる人を雇って病気の子どもを預かってあげたらどうですかね」
橘さんは、「ソフィアさん、おもしれえ知識持ってんなー」と関心したように言うと、
「撫子経由で蘇芳様に相談してもらうよ。うまくいったら、出ていった若い世代も戻ってきてくれるかもしれねえもんな」
「学校とかはどうなんですか」
「…今は学校に通うような子どもがいないから閉鎖してる」
「じゃあ、そこも働き口になりますよね、先生が必要だし学校を運営するのに事務の方とか、用務員さんとか、給食とかも学校で作ればあったかいまま食べられますよ」
もちろん公営にしてもらえばいい。
橘さんはハーッ、と長いため息をつくと、
「将来に不安しかなかったけど、ソフィアさんの話聞いたら少し楽になった。狭い世界でおんなじ世界観の人間たちが頭突き合わせてたって、いい案は出ねえよなあ…。トゥランクメント族は消滅するしかない、って…諦めてたよ…」
しんみりしてしまった橘さんになんだか申し訳なくなる。
「でも、あくまでも案なので、うまくいかなかったらすみません」
「なんにもやらないで滅びの道を辿るより、やってみたほうが後悔しないよ。明日にでも撫子と一緒に蘇芳様に頼んでみる。まだ守【シュ】関係の資金は宛にできないし、当座は助けてもらうしかないからさ」
すると撫子さんと佐々木さんが席にやってきた。
「ソフィアさん、うちのオススメの揚げだし豆腐。うまいから食べてみて。お酒は?」
「私はお茶でいいです」
「じゃ、冷たい緑茶持ってくるね。食べたいのあったら遠慮なく言って」
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