お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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番外編~結婚生活編

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その夜、龍彦さんは本当に同じベッドで寝た。まさかの悪魔2号だ。

「ソフィアちゃんがいくら可愛くても、あたし女の子相手には勃たないのぉ。安心して寝ていいわよ☆」

そう言われても…と思いながらぐっすり寝てしまった我が身を残念に思う。

朝食を摂ると、橘さんが双子王子を転移魔術で朱雀州の港まで送ってくれた。菖蒲さん、紫苑さんのことは双子王子がチンピラに伝えると言ってくれたので助かった。

「父上から正式に婚約の申し込みを送っていただきます。その際に婚約指輪を贈りたいので、指のサイズを後で手紙で送っていただけませんか」

真っ赤な顔で頼まれてしまったらイヤとは言えない。それにしても、

「あの…ひとつお聞きしたいのですが、一目惚れだったんですか?」

ふたりは一転して真剣な顔になると、

「勃ったんです。頭より先にカラダが反応しました。一応誤解なきように言いますが、僕たちは女性になら誰でも勃つ節操なしではないですし、変態でもありません」

…ドヤ顔で言われてもまったく説得力がない。

菖蒲さんと紫苑さんはまだ魂が抜けたままだったので、撫子さんが心配して仕事を休ませることにしたようだ。蘇芳さんはウキウキしながら出勤していった。

「ところでソフィアちゃん、今日のご予定は~?」

「知り合いの宝石店に行くつもりです」

「りょーかいっ。夜は、店長さんの彼氏さんのお店でご飯でいいかしら?」

え、

「あれ?私、言いましたっけ?」

「だからぁ、あたしは影なのよぅ。情報が命なのぉ。なんでも知ってなきゃ生きていけないのよぉ」

またバチコンッとウインクされるが、なんか納得できない。昨日から提供されている情報のせいなのか。

撫子さんの実家から馬車で特別区に行く。

ロイドさんが店長を務める宝石店は、かなりの盛況ぶりだった。ロイドさん自身が石に詳しく、人当たりもいいため、ファンがたくさんいるのだとお店のスタッフの方が教えてくれた。

「あたしもねぇ、ここで買い物させてもらったのよぅ。あたしの可愛いネコちゃんに、所有の証で指輪も贈ることにしたの!今までは首輪だけだったんだけどぉ、ペアでつけられるなんて素敵じゃない?」

そう嬉しそうに言って龍彦さんは左手を見せてくれた。ゴツイ指には、シンプルな指輪が填められている。それにしても、指輪だけでなく首輪もさせるのか…そこはあえて触れないことにした。

お客さんが引くのを待って、ロイドさんに声をかける。

「ソフィア様、来てくださったのですね!お元気そうで…あれ?眞島様?」

私の後ろに立つ龍彦さんを見て、ロイドさんはびっくりしたように名前を呼んだ。

「どぉもぉ~!あたし、昨日からソフィアちゃんの護衛をしてるの!ギデオンちゃんの代わりよ☆」

「ギデオン様は、」

「…強制連行されました」

なるほど、とロイドさんはそれ以上突っ込まなかった。悪魔のことを良くわかっている。

「佐々木さんは元気ですか?」

「ええ、おかげさまで。私も最近、佐々木さんに教えられて料理をするようになったんです」

「すごい!あ、料理と言えば、ローズマリーさんも料理が上手だと撫子さんが褒めていました」

ロイドさんはふ、と笑うと、

「たまに来てくれるんですよ。ソルマーレ国にいたときより、親子のようです」

と嬉しそうに言った。良かった、関係性が良好で。

「佐々木さんも仕込みを始める頃でしょうから、お店に行ってみてはどうですか?私も、今日は少し早目に上がらせてもらって17時までには参りますから、夕飯をご一緒させてください」

「お仕事の邪魔になりませんかね、」

「ソフィア様が来てくれたら喜びますよ。おやつなんかもあるでしょうから、どうぞ行ってやってください」

ロイドさんに見送られ、佐々木さんの店に向かう。

「あの店長さん、メッチャ人気あるのよぅ。赤い瞳なんてジャポン皇国にはいないじゃない?カッコいいしさぁ。…だからちょっと危ないんだけどね」

「え?」

なんでもなーいっ、と言った龍彦さんはその後延々と「ネコちゃん」の惚気話を始めた。

龍彦さんの「ネコちゃん」は、同じくらいのガタイの男性らしい。

「見た目はすんごい男前で、寡黙な感じなんだけどあたし好みの超ドMなのぉ!もー、泣き顔とかゾクゾクするくらい可愛くてぇ~。あら、まずい、思い出したら勃っちゃいそうだわ」

BLは好きだがSMは守備範囲外だな…。だからこその首輪なんだ。

「最近、会えてないから溜まってるのかしら、あたし。でも、ネコちゃん以外は抱きたいと思えないから我慢するしかないわよねぇ」

「どうして会えてないんですか?」

龍彦さんは「うふふ、秘密よぅ」といたずらっぽく笑った後、

「でも今夜あたり会えるかもしれないわ」

とニコニコした。会いたいのに会えないのは寂しいもんね。

「あれ、じゃあ私についてたら会えなくないですか?戻ります?」

「いいのよぅ、ソフィアちゃんはそんな心配しないでぇ。まったく可愛いんだから」

佐々木さんの店の前に着くと、龍彦さんはドスの利いた声に変わり、「おい、雄輔」と呼んだ。

「なんだよ、忙しいのに…あれ?ソフィアさん、来てくれたの!いらっしゃい!なんでこいつといるの…痛いバカ力、やめろ!」

「あたしに向かってこいつだなんて…まあ、ソフィアちゃんの前だから許してあげるわ」

「…おふたりは、知り合いなんですか?」

佐々木さんは龍彦さんをチラリと見ると、

「こいつ、皇宮にいたから」

とだけ言って、

「さ、入って!今仕込み中なんだけど、何か作るから」

とニコニコして迎え入れてくれた。

私の後ろから入ってきた龍彦さんは、

「おい雄輔。渡したの、ちゃんと付けさせただろうな」

「当たり前だろ!ったく、わかってるのにどうにもできないなんて、…なんかあったら許さないからな」

「俺がヘマするわけないだろ。傷ひとつつけずにおまえに返してやるよ」

なんの話なのかさっぱりわからないのでそこは混ざらず、カウンター席に座る。だしのいい匂いがして嬉しくなる。

「ソフィアちゃん、17時になったらここに橘ちゃんと撫子ちゃんが来るから、一緒にご飯食べててくれる?絶対にこの店からは出ないでねぇ」

「龍彦さんはどこかに行くんですか?」

「もー、ソフィアちゃんたら。野暮なことはお聞きでないわよぅ」

さっき言ってた「ネコちゃん」に会いに行くのかな。なんだか久しぶりだという逢瀬を邪魔してしまうようで、申し訳なく思った。




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