お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

文字の大きさ
上 下
114 / 161
番外編~結婚生活編

しおりを挟む
城に着くと、英樹さんと早苗さんが出迎えてくれた。双子王子を紹介する。

「来年、お世話になります」

「留学先にうちを選んでいただけるなんて光栄です。ぜひ実りある留学生活にしてください。各州に専門学校がありますが、おふたりは何を学びたいのですか?」

双子王子は顔を見合わせると、

「ソルマーレ国とは直接関係ありませんが…、僕たちは、兄上にかけられていたトゥランクメント族の呪【シュ】について研究したいと考えております」

英樹さんは「ほお…」と目を細めると、

「それはなぜですか?」

と聞いたのだが、早苗さんに「あなた、着いたばかりでお疲れなのよ。今夜、食事の時間にでもゆっくりお話したらいいじゃないの」と咎められ、しゅんとしていた。

早苗さんが案内してくれたのは、3階の客間だった。

「みんな知事宮に移ってしまったから、帰ってきたときに使える客間として少し手を入れたんです。1人一部屋で準備してありますので、足りないものがあったら遠慮なく仰ってくださいね」

そう言ってニコッとすると、双子王子に向かって、

「あなた方の義理のお姉さん、ソフィアさんのお陰で、ジャポン皇国は救われたのです。恩返しになるかわかりませんが、おふたりの留学期間中の経費はすべてこちらで持ちますので、たくさん学んでくださいね」

と言った。

「え、そんな、」

「それでも足りないくらいなのよ、ソフィアさん!蘇芳、羅刹、織部、朝霧、4人ともこうして幸せに生活できてるのは貴女のお陰なんだから。本当にありがとう。感謝しかないのよ」

瞳を潤ませる早苗さんを見て、私も胸が熱くなる。あの鬼畜…上総のことも、まだ割りきれたわけではないだろう。お腹を痛めて産んだ子どもなのだから。でも、そういう…清濁併せ呑む強さを持って、早苗さんは皇后として立っているのだ。

「ソルマーレ国の義父が、なんていうかわかりませんが、…ありがたいお言葉です」

双子王子も、「ありがとうございます」と頭を下げた。

18時に夕飯だと言われたので、それまでは部屋でのんびりすることにする。懐かしいな、なんて思いながら荷物を解き始めたら、…大量の、便箋が出てきた。一番上には封筒が載っている。かなり分厚い。イヤな予感しかない。

恐々開くと、やっぱり悪魔からの手紙だった。いつ入れられたんだろうか。

『 わたくしの大切な大切なフィーへ

無事にジャポン皇国に着きましたか。どこか痛いところはないですか。きちんと眠れましたか。わたくしはフィーが隣にいないので、思うように眠れないと思います。フィーのおっぱいを触りながら眠りたい。眠れるかどうかはまた別の話ですが、わたくしのおっぱいは、いえ、間違えました、わたくしのフィーのおっぱいはすべてすべてわたくしのものです。絶対に誰にも触らせたりいわんや見せたりしないでください。お願いします。そんなことになったらと思うだけで頭がおかしくなりそうです』

パタリ、と閉じて封筒にしまうことにした。頭がおかしくなりそうです、ではなく、もうすでに頭がおかしくなっているのではないかと思う。この調子で続くであろう手紙を…しかも改行していないのにこんなに分厚いこの手紙を読まなくてはならないなんて、なんの拷問なのか。悪魔は私に罰ゲームをさせたいのだろうか。

どれだけおっぱいが好きなのかな、あの悪魔は。

呪いの手紙をカバンに押し込めていると、ドアがノックされた。

「はい」

ドアを開けると、織部さんが立っていた。織部さんはニカッと笑うと、

「陛下に承認してもらえたから、ソフィアさんさえよければ『言われた通りに出しちゃうもん』からさっそく出してみようぜ」

この兄弟はほんとに仕事が早い。

歩きながら織部さんは、

「陛下に話したら『わたくしも早苗に着せたい』って恍惚とした顔で呟いてたよ。さっきソフィアさん、カタログって言ってたけど、こっちで仕入れるのにそういう見本みたいな冊子があるといいな」

「そうですね…一番は、モデルさんが着てくれるといいんですけど。ただの下着を見るより、どんなふうなのかイメージがつきやすいでしょうから。でも、あんまり卑猥なのはダメですよ、それは下着だけでいいと思います」

「ソルマーレ国は印刷技術はどうなんだ?」

「本も出版されてますし、カラーでも…ただ、写真はないです」

「写真…そのままを写す、ってことだろ?ジャポン皇国もないな、それは」

どうしたものかと考えながら『言われた通りに出しちゃうもん』の前に立ち、…

「そうだ、この機械からデジカメとプリンターを出せば、それを元に印刷できます!」

織部さんの頭の上にはハテナマークが飛びかっている。聞いたことのない言葉だから仕方ない。

「とりあえずまずは…『女性用の下着のカタログ』」

ドアを開けると、異なる会社のカタログが5冊入っていた。

織部さんは手に取りパラパラ捲ると、

「これ、一個ずつ名前があるんだな」

と感心したように言った。

「そうなんです。この前織部さんが出してくれたのはベビードールって言うんですけど…」

織部さんは紐…完全に紐でしかない下着を見て、

「これは何て言うか…裸よりも、やらしい感じがするな」

と言った。

「そうですか…?」

「うん。全裸よりも、なんか…そそられるものがある」

私からすればただの裸にしか見えないけど、男性の目から見ると違うのだろうか。双子王子にも見てもらおう。

実際に付いている名前で実物の下着も何種類か出し、モデルさんが実際に着ている雑誌も何冊か出してみた。

「あのふたりに見せてみて、あしたにでもギデオンさんに送るといいよ」

…ちょっと、刺激が強すぎるように思うが、双子王子の希望だから仕方がない。王妃様に怒られたらどうしよう…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

処理中です...