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番外編~結婚生活編
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7月に入り、双子王子と3人でジャポン皇国に向かう。悪魔だけでなく、アリスちゃんとオリヴィアちゃんにも泣かれてしまった。
「ソフィアさまと、まだ、いっかいしかねてないです」
「一回じゃありません、一週間も寝たではありませんか!わたくしから一週間もフィーを取り上げたのに、」
「ショフィアしゃま、いかないでー」
エグエグ涙をこぼすオリヴィアちゃんを抱き上げて目を合わせる。
「オリヴィアちゃん、お手紙書くから、待ってて?ジャポン皇国で、何か可愛いものを見つけて送るから楽しみに待ってて欲しいな。アリスちゃんも。ね?」
「…おてがみ」
「うん。アリスちゃん、文字読めるもんね、お勉強頑張ってるから」
アリスちゃんは真っ赤な瞳で、それでもニコッとしてくれた。なんでこんなに慕ってくれるんだろう。かわゆすぎてツラい。
「じゃあ、ソフィアさまのことまってます。おてがみかいてください。わたしもかきますね」
「ヴィアは、え、かくからね、ショフィアしゃま、まっててね」
「うん、待ってる。楽しみに待ってるね」
3人でニコニコしていると、悪魔が抱き付いてきた。
「フィー、わたくしにもっ!必ず必ず手紙を書いてください!毎日書いてください!誕生日は、フィーが帰ってきてからのお祝いでいいです、あの紫の」
「ギデオンさん、手紙書くから」
まだ諦めていないのか…あれだけ言ったのに。
港まで送ると騒ぐ悪魔は、「そのまま乗り込むつもりだろうがそうはいかねえぞ」とチンピラに首根っこを捕まれ王宮から出してもらえなかった。本当にやりかねないから危ない。
あの日、自分の妄想を現実にするべく立ち上がった悪魔は、「女性のことなので」と王妃様に相談に行き、ドン引きされていた。
「ギデオン…貴方…」
「なにかおかしなことを言いましたか」
首を傾げる悪魔に、王妃様は、
「王族が商会を持つのはどうなのかしら…それよりも、そのアイディアを買い取ってもらったら?新しい事業になるわけだし、働く場所も増えるわけだし、やりたいと思う方もいるのではないかしら。…奇抜すぎるけど」
王妃様の呟きを物ともせず、悪魔は『ソルマーレ国に新しい下着文化を取り入れ発展させる会』なるものを立ち上げ、貴族の子息たちに大喝采を浴びていた。ただの堅物だと思われていた王太子が、実はかなりのエロ魔神…エロ悪魔だということで、周りの見る目が変わったらしかった。いいのか、そんなんで。
布地を特産にしている侯爵家と、ボールドウィン伯爵家が名乗りを上げ、その両方で作ってもらうことが決まったと悪魔は嬉しそうに話した。ボールドウィン伯爵家の新しい家長は、ロイドさんの弟でケビンさんと言うのだが悪魔と同じ年なのだという。つまり、ソフィアとも同じ年なのだが、記憶にない、残念ながら。
ボールドウィン伯爵領は宝石が特産なのだが、ケビンさんの奥様の出身地が布地の特産らしく「ぜひやりたい!」とケビンさんに拝み倒したらしい。奥様はアミノフィア国の侯爵令嬢だったがソルマーレ国に留学中、ケビンさんに一目惚れし猛アタックしたそうだ。ご自分のご両親もさっさと説得し、学園を卒業後にケビンさんが19歳になるのを待って入籍した。
ロイドさん曰く、「明るく、サバサバしていて私のことも『素敵!ぜひ話を聞かせてください!萌える!』と言って拒絶反応がありませんでした。…変わった娘かもしれません」。萌える、という言葉にかなりの親近感を覚える。機会があればお会いしたい。
「ただ、わたくしの貧相な知識では種類を増やせないので、ジャポン皇国に行ったら、『言われた通りに出しちゃうもん』で、見本になるようなものを出してもらって欲しいのです、フィー」
「ええー…」
「送ってくれなければ、フィーがあの紫の下着を着ることも確定ですよ。今のところあれしかないのですから、レベルがうんぬんは聞きません」
半ば脅しにしか聞こえない…いや、この悪魔は必ずそうするだろう。仕方がないので、着いたらお願いするしかない…誰に頼めというのか…。
船の中で現実逃避していると、「ソフィア様」と声をかけられた。
「ディーン様」
ディーン王子はニコリとすると、「呼び捨てで構いませんのに」と言ったが、そんなわけにはいかない。何しろ正真正銘の王子様なのだ。悪魔も?…悪魔は悪魔である。
ディーン王子は私の隣に腰を降ろすと、
「まず、皇帝陛下にご挨拶に行くのですよね」
「そうですね。朱雀州の港に着きますし、そのまま汽車に乗って陛下に挨拶に行きます。今日と明日は城に泊めていただけるそうなので。皇帝陛下から、楽しみに待ってる、とお手紙をいただきました」
「朱雀州の知事にもお会いできそうですか?」
「たぶん、大丈夫だろうと思います。奥様は身重なのでどうかわかりませんが…」
するとディーン王子が突然、
「ソフィア様は、まだ子どもを作らないのですか」
と言うので、ビックリして固まってしまった。悪魔はああやってエロ全開だが、双子王子からはエロチックな雰囲気を感じたことがない。まさか、何かが…たとえばいるのかわからないが、コウノトリが運んでくるとか思っているのだろうか。しかし、続けて
「兄上にかなり激しく求められているので、お子ができるのも早いのかと思っていたのですが」
…え?
「…なぜ、あの、」
ディーン王子はまたニコリとすると、自分の首の後ろをトントンとした。
「たくさんシルシがついています。兄上の独占欲のシルシが」
…うわー…気づかなかった…。
「…すみません」
「謝ることではありません、ソフィア様。僕たちは、本当に嬉しいんです。兄上にかけられていた呪いが解けてくれたおかげで、あの腐れ詐欺師どもを追い出すことができましたし…」
「ディーン様たちは、あいつが陛下の種ではないと御存知だったのですか」
「ええ。我々が学園に入る年に、父上から言われたのです。『リチャードの野郎はいずれ、公爵家に婿として入れる。ギデオンがあの状態である現状からして、おまえらふたりのうちどっちかに俺の跡を継いでもらうぞ』と。あいつが国王になるのはゴメンでしたが、兄上を差し置いて僕たちのどちらかが、というのも…僕もゼインも、王になりたいという気持ちはなくて、…兄上のツラさや苦しさもわかりますが、それでもどうにか…王になってもらえないものかと…。アリスかオリヴィアの生んだ子どもを兄上の養子にして、跡継ぎ問題を解決させたらどうか、と話していたのです。…兄上は、誰も娶れないことに変わりはなくて、申し訳なかったのですが」
ディーン王子はひとつため息をつくと、
「でも、ソフィア様が現れてくれたおかげで兄上は変わりました。死んだような目付きだったのに、毎日が楽しそうになった。ソフィア様には感謝しかありません。ありがとうございます。…しかも、兄上の暑苦しい愛情を一身に受けてくださってるわけですから」
…悪魔よ。弟に「暑苦しい」とまで言われてしまっているぞ。
「ソフィアさまと、まだ、いっかいしかねてないです」
「一回じゃありません、一週間も寝たではありませんか!わたくしから一週間もフィーを取り上げたのに、」
「ショフィアしゃま、いかないでー」
エグエグ涙をこぼすオリヴィアちゃんを抱き上げて目を合わせる。
「オリヴィアちゃん、お手紙書くから、待ってて?ジャポン皇国で、何か可愛いものを見つけて送るから楽しみに待ってて欲しいな。アリスちゃんも。ね?」
「…おてがみ」
「うん。アリスちゃん、文字読めるもんね、お勉強頑張ってるから」
アリスちゃんは真っ赤な瞳で、それでもニコッとしてくれた。なんでこんなに慕ってくれるんだろう。かわゆすぎてツラい。
「じゃあ、ソフィアさまのことまってます。おてがみかいてください。わたしもかきますね」
「ヴィアは、え、かくからね、ショフィアしゃま、まっててね」
「うん、待ってる。楽しみに待ってるね」
3人でニコニコしていると、悪魔が抱き付いてきた。
「フィー、わたくしにもっ!必ず必ず手紙を書いてください!毎日書いてください!誕生日は、フィーが帰ってきてからのお祝いでいいです、あの紫の」
「ギデオンさん、手紙書くから」
まだ諦めていないのか…あれだけ言ったのに。
港まで送ると騒ぐ悪魔は、「そのまま乗り込むつもりだろうがそうはいかねえぞ」とチンピラに首根っこを捕まれ王宮から出してもらえなかった。本当にやりかねないから危ない。
あの日、自分の妄想を現実にするべく立ち上がった悪魔は、「女性のことなので」と王妃様に相談に行き、ドン引きされていた。
「ギデオン…貴方…」
「なにかおかしなことを言いましたか」
首を傾げる悪魔に、王妃様は、
「王族が商会を持つのはどうなのかしら…それよりも、そのアイディアを買い取ってもらったら?新しい事業になるわけだし、働く場所も増えるわけだし、やりたいと思う方もいるのではないかしら。…奇抜すぎるけど」
王妃様の呟きを物ともせず、悪魔は『ソルマーレ国に新しい下着文化を取り入れ発展させる会』なるものを立ち上げ、貴族の子息たちに大喝采を浴びていた。ただの堅物だと思われていた王太子が、実はかなりのエロ魔神…エロ悪魔だということで、周りの見る目が変わったらしかった。いいのか、そんなんで。
布地を特産にしている侯爵家と、ボールドウィン伯爵家が名乗りを上げ、その両方で作ってもらうことが決まったと悪魔は嬉しそうに話した。ボールドウィン伯爵家の新しい家長は、ロイドさんの弟でケビンさんと言うのだが悪魔と同じ年なのだという。つまり、ソフィアとも同じ年なのだが、記憶にない、残念ながら。
ボールドウィン伯爵領は宝石が特産なのだが、ケビンさんの奥様の出身地が布地の特産らしく「ぜひやりたい!」とケビンさんに拝み倒したらしい。奥様はアミノフィア国の侯爵令嬢だったがソルマーレ国に留学中、ケビンさんに一目惚れし猛アタックしたそうだ。ご自分のご両親もさっさと説得し、学園を卒業後にケビンさんが19歳になるのを待って入籍した。
ロイドさん曰く、「明るく、サバサバしていて私のことも『素敵!ぜひ話を聞かせてください!萌える!』と言って拒絶反応がありませんでした。…変わった娘かもしれません」。萌える、という言葉にかなりの親近感を覚える。機会があればお会いしたい。
「ただ、わたくしの貧相な知識では種類を増やせないので、ジャポン皇国に行ったら、『言われた通りに出しちゃうもん』で、見本になるようなものを出してもらって欲しいのです、フィー」
「ええー…」
「送ってくれなければ、フィーがあの紫の下着を着ることも確定ですよ。今のところあれしかないのですから、レベルがうんぬんは聞きません」
半ば脅しにしか聞こえない…いや、この悪魔は必ずそうするだろう。仕方がないので、着いたらお願いするしかない…誰に頼めというのか…。
船の中で現実逃避していると、「ソフィア様」と声をかけられた。
「ディーン様」
ディーン王子はニコリとすると、「呼び捨てで構いませんのに」と言ったが、そんなわけにはいかない。何しろ正真正銘の王子様なのだ。悪魔も?…悪魔は悪魔である。
ディーン王子は私の隣に腰を降ろすと、
「まず、皇帝陛下にご挨拶に行くのですよね」
「そうですね。朱雀州の港に着きますし、そのまま汽車に乗って陛下に挨拶に行きます。今日と明日は城に泊めていただけるそうなので。皇帝陛下から、楽しみに待ってる、とお手紙をいただきました」
「朱雀州の知事にもお会いできそうですか?」
「たぶん、大丈夫だろうと思います。奥様は身重なのでどうかわかりませんが…」
するとディーン王子が突然、
「ソフィア様は、まだ子どもを作らないのですか」
と言うので、ビックリして固まってしまった。悪魔はああやってエロ全開だが、双子王子からはエロチックな雰囲気を感じたことがない。まさか、何かが…たとえばいるのかわからないが、コウノトリが運んでくるとか思っているのだろうか。しかし、続けて
「兄上にかなり激しく求められているので、お子ができるのも早いのかと思っていたのですが」
…え?
「…なぜ、あの、」
ディーン王子はまたニコリとすると、自分の首の後ろをトントンとした。
「たくさんシルシがついています。兄上の独占欲のシルシが」
…うわー…気づかなかった…。
「…すみません」
「謝ることではありません、ソフィア様。僕たちは、本当に嬉しいんです。兄上にかけられていた呪いが解けてくれたおかげで、あの腐れ詐欺師どもを追い出すことができましたし…」
「ディーン様たちは、あいつが陛下の種ではないと御存知だったのですか」
「ええ。我々が学園に入る年に、父上から言われたのです。『リチャードの野郎はいずれ、公爵家に婿として入れる。ギデオンがあの状態である現状からして、おまえらふたりのうちどっちかに俺の跡を継いでもらうぞ』と。あいつが国王になるのはゴメンでしたが、兄上を差し置いて僕たちのどちらかが、というのも…僕もゼインも、王になりたいという気持ちはなくて、…兄上のツラさや苦しさもわかりますが、それでもどうにか…王になってもらえないものかと…。アリスかオリヴィアの生んだ子どもを兄上の養子にして、跡継ぎ問題を解決させたらどうか、と話していたのです。…兄上は、誰も娶れないことに変わりはなくて、申し訳なかったのですが」
ディーン王子はひとつため息をつくと、
「でも、ソフィア様が現れてくれたおかげで兄上は変わりました。死んだような目付きだったのに、毎日が楽しそうになった。ソフィア様には感謝しかありません。ありがとうございます。…しかも、兄上の暑苦しい愛情を一身に受けてくださってるわけですから」
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