お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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番外編~結婚生活編

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次の日の朝目覚めると、オリヴィアちゃんはまだ寝ていたが、アリスちゃんの姿がなかった。気づかず寝てるなんて、どれだけ寝入っていたんだろう。慌てて起き上がり、オリヴィアちゃんを起こさないようにそおっとベッドから降りると、ドアからとても控え目なノックの音がする。

音を立てないように静かに開けると、パジャマを着た悪魔とアリスちゃんが立っていた。悪魔はバツの悪そうな顔で「…おはようございます」と呟くように言った。

「おにいさま、またおなじことするんですか。それならもういちどおかあさまにいってきてください、やっぱりやめます、って」

アリスちゃんが冷たく見据えると、悪魔は慌てたように「もうしません。…ありがとう、アリス」と言い、私に視線を戻した。

「フィー、あの…母上に許可をもらって、今日一日ふたりで話し合える時間をもらいました。これから、いいですか?あの、…軽食を準備してもらったので、寝室に、行きましょう…お願いします」

何が何やら話がわからない私をそっと横抱きにすると、悪魔はもう一度アリスちゃんに「ありがとう」と言った。

「おにいさま、ソフィアさまににげられるようなことになったら、わたしたち、ゆるしませんからね。オリヴィアも、すっごくおこるとおもいますからね。きちんとしてください。おとななのに」

と悪魔を睨み付け、私にはニコッとし部屋に入ってしまった。…逃げられる?

悪魔を見上げると、困ったような顔をして「…じゃあ、行きましょう」と歩き始めた。

「ギデオンさん、何があったの?」

「着いてから話します」

キュッと口を結んでしまったので、それ以上聞くのは諦めて悪魔の腕に身を委ねた。ユラユラして気持ちがいい。

寝室に入ると、悪魔は私をそっとベッドに横たえ、自分は隣に横になり手を繋いだ。

「フィー、あの。昨日はすみませんでした」

考えてみれば、悪魔はまだ19歳。呪いのせいでまともに女性と付き合うこともできず、交際期間とも言えないような中で私と結婚してしまった。考え方だって幼いに決まっているし、今まで我慢してきたことや、叶えたくてもどうしようもなかったことを私になんとかして欲しい、私となんとか叶えたい、ずっと一緒に過ごしたい、という気持ちになるのは当たり前なのかもしれない。恋人として付き合い始めたら楽しくて嬉しくて、でも言葉にできない不安や寂しさに襲われることもある。悪魔はいま、そんな状態にいるのだろう。

「ギデオンさん」

「…許してくれますか」

悪魔は繋いだ手を離し上に覆い被さるようにしたが、腕で自分を支え私には体重をかけないようにしてくれる。

「アリスとオリヴィアに、生理の話をしたそうですね」

「うん、ごめん」

「謝ることじゃないです。きちんと話してくれて、全部わかったわけじゃないけど、ソフィア様が教えてくれて嬉しかった、とアリスが喜んでいました。それで、その…お兄様がアホなせいでソフィア様に赤ちゃんができない、って泣かれてしまいまして」

…え。

「ソフィア様と仲良くしないで、ソフィア様の子どもみたいに甘えて、お兄様は大人のくせに、ズルいです!って。ソフィア様は、赤ちゃんが来ないせいで、またお布団を新しくしなくちゃいけなくて、痛い思いをしてるのに、って。なんの話かよくわからなくて、でも泣かせてるのはわたくしの態度が悪いせいだということはわかったので、キチンとフィーに謝ることにしようと…。
あの。アリスとオリヴィアにした話を、わたくしにもしてもらえませんか」

かなり恥ずかしかったが、昨夜ふたりにした通りに話をすると、悪魔は「なるほど…」と呟いた。

「フィーは、その…お腹が、痛くなるのですか」

「私はね、おかげさまで、って言うのが合ってるのかわからないけど、あんまり生理痛は酷くないの」

「せいりつう」

「うん。あんまり、お腹は痛くならない。ただ、生理が近くなるとおっぱいが痛くなる」

「おっぱいがいたくなる」

「うん。周期はだいたい30日くらいかなぁ」

「しゅうき」

「うん」

「…あの。フィー。そういうことは、世の女性は皆さん知っていることなのですか」

「うーん、どうなんだろう…私はほら、菜緒子の知識があるからさ。生理の周期って、赤ちゃん作るのにすごく大事なことだし」

悪魔は「え!?」と叫ぶと、

「中に出したら、必ず出来るわけではないのですか!?」

「違うよ。精子が入っても、卵子がなければ」

「らんし」

「うん」

悪魔はゴロリと転がると、「…わからないことだらけです」と呻いた。

「あのね、ギデオンさん」

悪魔のほうにカラダを向けると、悪魔もこちらを向いてくれる。

「さっき言ったみたいに、生理痛があんまりない人もいれば、ものすごく痛くなる人もいるの。私の、…菜緒子の時の友達は、生理痛がものすごく酷くてね。大人になってからは少し緩和されたらしいけど、高校生の時に、あまりに痛くて失神したんだって」

「失神!?」

「うん。例えがどうかとは思うけど、男性器もみんな違うでしょ。大きい人もいれば短い人もいるし、」

「フィー、やめるべきです。その例えは、わかりましたがやめてください」

悪魔にギラリと睨み付けられ口を閉じる。

「…とにかく、カラダの形がみんな違うように、中身もみんな違うの。生理の時、私は眠くなるんだけど、この前ギデオンさんが寝かせてくれなかったから貧血で倒れたでしょ。出血してるし、カラダを休ませて欲しいの」

悪魔はとたんにしょんぼりすると、

「そうですね。血が、出てるんですもんね…わたくしが、自分の欲求を満たしたいがためにフィーにツラい思いをさせてしまいました。すみません。…隣に寝ていると、我慢できなくなる可能性が高いので、母上が決めた通りにします。生理は、一週間くらいですよね、その間は我慢します」

「うん、ありがとう、ギデオンさん。あと、前も言ったけど、『もういいです』は言わないで。私は超能力はないから、ギデオンさんが思っていることわからないし、きちんと、言葉にして伝えて欲しいの。わかってもらえない、なんて殻に閉じ籠らないで、わかるまで伝えて欲しい。ギデオンさん、ふたりで毎日を共有しようって言ってくれたでしょ。気持ちも伝え合って、共有していこうよ」

悪魔はコクリと頷くと、私をキュッと抱き締めた。

「フィー。わたくしが昨日、もういいと言ったことについて話します。フィーは、わたくしの誕生日に、あの紫の下着を着てわたくしと性交してくれると約束したのに、わたくしの誕生日にジャポン皇国にいる、なんて言って、約束も覚えていない、なんて言うから、悔しくなったのです。約束してくれたのに」

「え!?」

悪魔があの下着をまだ諦めていなかったことに衝撃を受けた。

「…ギデオンさん、あの、」

「フィー、なんで、なんであの下着はイヤなのですか、あんなにイヤらしいことをしているのに、わたくしには見せたくないのですか」

真剣な悪魔の顔になんだかいたたまれなくなる。なんでそんなに着せたいんだろう…。

「あのね、ギデオンさん」

「はい」

「…あの下着、あまりにも、上級者すぎるよ。レベルが高すぎる」

「レベル…?」

悪魔は首を傾げると、「下着にレベルなどあるのですか、なんにも書いてありませんでしたが。上級者向け、なんてどこかにありましたか」とじっと見つめてくる。

「そうじゃないんだけど…エッチな下着も、段階を踏まないと私は恥ずかしいというか、だって、あれ、穴が開いてるんだよ!」

「着たままするんですから当たり前です」

しれっと言うけどさ!

「でも、恥ずかしいの!できれば最初は、穴が開いてないTバックとか…シースルーも抵抗が、ある、し…」

悪魔は私の顔を覗き込むと、ふ、と微笑んだ。

「フィーは、あんな激しい性交のマンガを読んだりするくせに、なんでそんなに恥ずかしがり屋さんなんでしょうね…本当に、…可愛いです」

そのままチュ、と口づける。

「じゃあ、フィーが着てもいいかな、と思う下着から始めてください。わたくしにはわからないので…あ!!」

突然叫ばれてびっくりし、見上げると悪魔も驚いたような顔をしていた。

「ど、うしたの?」

「フィー、そういう下着を作る、販売する、商会を立ち上げましょう!わたくしがとても楽しませてもらえるこの喜びを、世の男性たちにも味わって欲しいのです!自分の愛する女性が、まさかのあんな格好で出迎えてくれたりしたら…もう…堪らないです!フィー、世の中の…いえ、このソルマーレ国の幸福度の発展のために、ふたりで力を合わせて頑張りましょう!」

もっともらしいことを言うけど…、それは悪魔の趣味…性癖を満たしたいだけなのでは…。
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