お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

文字の大きさ
上 下
109 / 161
番外編~結婚生活編

しおりを挟む
次の日の朝目覚めると、オリヴィアちゃんはまだ寝ていたが、アリスちゃんの姿がなかった。気づかず寝てるなんて、どれだけ寝入っていたんだろう。慌てて起き上がり、オリヴィアちゃんを起こさないようにそおっとベッドから降りると、ドアからとても控え目なノックの音がする。

音を立てないように静かに開けると、パジャマを着た悪魔とアリスちゃんが立っていた。悪魔はバツの悪そうな顔で「…おはようございます」と呟くように言った。

「おにいさま、またおなじことするんですか。それならもういちどおかあさまにいってきてください、やっぱりやめます、って」

アリスちゃんが冷たく見据えると、悪魔は慌てたように「もうしません。…ありがとう、アリス」と言い、私に視線を戻した。

「フィー、あの…母上に許可をもらって、今日一日ふたりで話し合える時間をもらいました。これから、いいですか?あの、…軽食を準備してもらったので、寝室に、行きましょう…お願いします」

何が何やら話がわからない私をそっと横抱きにすると、悪魔はもう一度アリスちゃんに「ありがとう」と言った。

「おにいさま、ソフィアさまににげられるようなことになったら、わたしたち、ゆるしませんからね。オリヴィアも、すっごくおこるとおもいますからね。きちんとしてください。おとななのに」

と悪魔を睨み付け、私にはニコッとし部屋に入ってしまった。…逃げられる?

悪魔を見上げると、困ったような顔をして「…じゃあ、行きましょう」と歩き始めた。

「ギデオンさん、何があったの?」

「着いてから話します」

キュッと口を結んでしまったので、それ以上聞くのは諦めて悪魔の腕に身を委ねた。ユラユラして気持ちがいい。

寝室に入ると、悪魔は私をそっとベッドに横たえ、自分は隣に横になり手を繋いだ。

「フィー、あの。昨日はすみませんでした」

考えてみれば、悪魔はまだ19歳。呪いのせいでまともに女性と付き合うこともできず、交際期間とも言えないような中で私と結婚してしまった。考え方だって幼いに決まっているし、今まで我慢してきたことや、叶えたくてもどうしようもなかったことを私になんとかして欲しい、私となんとか叶えたい、ずっと一緒に過ごしたい、という気持ちになるのは当たり前なのかもしれない。恋人として付き合い始めたら楽しくて嬉しくて、でも言葉にできない不安や寂しさに襲われることもある。悪魔はいま、そんな状態にいるのだろう。

「ギデオンさん」

「…許してくれますか」

悪魔は繋いだ手を離し上に覆い被さるようにしたが、腕で自分を支え私には体重をかけないようにしてくれる。

「アリスとオリヴィアに、生理の話をしたそうですね」

「うん、ごめん」

「謝ることじゃないです。きちんと話してくれて、全部わかったわけじゃないけど、ソフィア様が教えてくれて嬉しかった、とアリスが喜んでいました。それで、その…お兄様がアホなせいでソフィア様に赤ちゃんができない、って泣かれてしまいまして」

…え。

「ソフィア様と仲良くしないで、ソフィア様の子どもみたいに甘えて、お兄様は大人のくせに、ズルいです!って。ソフィア様は、赤ちゃんが来ないせいで、またお布団を新しくしなくちゃいけなくて、痛い思いをしてるのに、って。なんの話かよくわからなくて、でも泣かせてるのはわたくしの態度が悪いせいだということはわかったので、キチンとフィーに謝ることにしようと…。
あの。アリスとオリヴィアにした話を、わたくしにもしてもらえませんか」

かなり恥ずかしかったが、昨夜ふたりにした通りに話をすると、悪魔は「なるほど…」と呟いた。

「フィーは、その…お腹が、痛くなるのですか」

「私はね、おかげさまで、って言うのが合ってるのかわからないけど、あんまり生理痛は酷くないの」

「せいりつう」

「うん。あんまり、お腹は痛くならない。ただ、生理が近くなるとおっぱいが痛くなる」

「おっぱいがいたくなる」

「うん。周期はだいたい30日くらいかなぁ」

「しゅうき」

「うん」

「…あの。フィー。そういうことは、世の女性は皆さん知っていることなのですか」

「うーん、どうなんだろう…私はほら、菜緒子の知識があるからさ。生理の周期って、赤ちゃん作るのにすごく大事なことだし」

悪魔は「え!?」と叫ぶと、

「中に出したら、必ず出来るわけではないのですか!?」

「違うよ。精子が入っても、卵子がなければ」

「らんし」

「うん」

悪魔はゴロリと転がると、「…わからないことだらけです」と呻いた。

「あのね、ギデオンさん」

悪魔のほうにカラダを向けると、悪魔もこちらを向いてくれる。

「さっき言ったみたいに、生理痛があんまりない人もいれば、ものすごく痛くなる人もいるの。私の、…菜緒子の時の友達は、生理痛がものすごく酷くてね。大人になってからは少し緩和されたらしいけど、高校生の時に、あまりに痛くて失神したんだって」

「失神!?」

「うん。例えがどうかとは思うけど、男性器もみんな違うでしょ。大きい人もいれば短い人もいるし、」

「フィー、やめるべきです。その例えは、わかりましたがやめてください」

悪魔にギラリと睨み付けられ口を閉じる。

「…とにかく、カラダの形がみんな違うように、中身もみんな違うの。生理の時、私は眠くなるんだけど、この前ギデオンさんが寝かせてくれなかったから貧血で倒れたでしょ。出血してるし、カラダを休ませて欲しいの」

悪魔はとたんにしょんぼりすると、

「そうですね。血が、出てるんですもんね…わたくしが、自分の欲求を満たしたいがためにフィーにツラい思いをさせてしまいました。すみません。…隣に寝ていると、我慢できなくなる可能性が高いので、母上が決めた通りにします。生理は、一週間くらいですよね、その間は我慢します」

「うん、ありがとう、ギデオンさん。あと、前も言ったけど、『もういいです』は言わないで。私は超能力はないから、ギデオンさんが思っていることわからないし、きちんと、言葉にして伝えて欲しいの。わかってもらえない、なんて殻に閉じ籠らないで、わかるまで伝えて欲しい。ギデオンさん、ふたりで毎日を共有しようって言ってくれたでしょ。気持ちも伝え合って、共有していこうよ」

悪魔はコクリと頷くと、私をキュッと抱き締めた。

「フィー。わたくしが昨日、もういいと言ったことについて話します。フィーは、わたくしの誕生日に、あの紫の下着を着てわたくしと性交してくれると約束したのに、わたくしの誕生日にジャポン皇国にいる、なんて言って、約束も覚えていない、なんて言うから、悔しくなったのです。約束してくれたのに」

「え!?」

悪魔があの下着をまだ諦めていなかったことに衝撃を受けた。

「…ギデオンさん、あの、」

「フィー、なんで、なんであの下着はイヤなのですか、あんなにイヤらしいことをしているのに、わたくしには見せたくないのですか」

真剣な悪魔の顔になんだかいたたまれなくなる。なんでそんなに着せたいんだろう…。

「あのね、ギデオンさん」

「はい」

「…あの下着、あまりにも、上級者すぎるよ。レベルが高すぎる」

「レベル…?」

悪魔は首を傾げると、「下着にレベルなどあるのですか、なんにも書いてありませんでしたが。上級者向け、なんてどこかにありましたか」とじっと見つめてくる。

「そうじゃないんだけど…エッチな下着も、段階を踏まないと私は恥ずかしいというか、だって、あれ、穴が開いてるんだよ!」

「着たままするんですから当たり前です」

しれっと言うけどさ!

「でも、恥ずかしいの!できれば最初は、穴が開いてないTバックとか…シースルーも抵抗が、ある、し…」

悪魔は私の顔を覗き込むと、ふ、と微笑んだ。

「フィーは、あんな激しい性交のマンガを読んだりするくせに、なんでそんなに恥ずかしがり屋さんなんでしょうね…本当に、…可愛いです」

そのままチュ、と口づける。

「じゃあ、フィーが着てもいいかな、と思う下着から始めてください。わたくしにはわからないので…あ!!」

突然叫ばれてびっくりし、見上げると悪魔も驚いたような顔をしていた。

「ど、うしたの?」

「フィー、そういう下着を作る、販売する、商会を立ち上げましょう!わたくしがとても楽しませてもらえるこの喜びを、世の男性たちにも味わって欲しいのです!自分の愛する女性が、まさかのあんな格好で出迎えてくれたりしたら…もう…堪らないです!フィー、世の中の…いえ、このソルマーレ国の幸福度の発展のために、ふたりで力を合わせて頑張りましょう!」

もっともらしいことを言うけど…、それは悪魔の趣味…性癖を満たしたいだけなのでは…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~

Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。 「俺はお前を愛することはない!」 初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。 (この家も長くはもたないわね) 貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。 ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。 6話と7話の間が抜けてしまいました… 7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

処理中です...