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番外編~結婚生活編
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英樹さんへの連絡はチンピラに任せることにした。3人で行くとなると、どこに滞在させてもらうか、なども考えなくてはならない。
「ソフィア様、僕たち、ぜひともトゥランクメント族の皆様にお会いしたいのです。兄上がかけられていたという『呪』についてお話を聞きたくて」
「じゃあ、玄武州知事の奥様に…撫子さん、って言うんだけど、お願いしてみるね。撫子さんのお兄さんで、橘さんて方が研究しているの」
「ありがとうございます!夏休みは2か月ほどあるので、できたら4州ともお邪魔できないでしょうか」
「それは英樹さんに…皇帝陛下に確認してみたほうがいいかな?陛下から聞いてもらおうか」
「そうですね。父上、お願いできますか?」
「おう、任せとけ」
ワイワイ盛り上がる片隅で、悪魔はズーンという効果音がついているかのように項垂れていた。オリヴィアちゃんが頭を撫でながら「おにいたま、なかないで。しょくばくがつよいおとこはきらわれましゅよ」とグサグサ抉っている。やはり王妃様の娘たちだ。悪魔に強い、強すぎる。
「フィー、あの、話をしたいです」
「ふたりきりはダメよ、ギデオン。アリスとオリヴィアに同席させます」
「そんな、横暴です!」
「そうしたのは貴方の行動でしょ。まったく反省していないのね、貴方は。とにかくふたりきりは認めません。わかったわね」
悪魔はフイッと顔を背けると、私の手を握り歩きだした。
「フィー、行かないでください。わたくしをひとりにしないでください」
「ギデオンさん、」
「…わかってます。わかってるけど、寂しいんです。それにあのふたりも行くなんて…」
「ギデオンさんは、私がディーン様や」
「名前は呼ばないでください」
「…私が、彼らと浮気すると思ってるの?」
悪魔はブンブンと首を横に振ると、「違います…」とまた項垂れてしまった。
「ギデオンさん、今度は文通しようよ。ね?」
「文通…?え?フィー、どれだけジャポン皇国にいるつもりなんですか?」
あれ、さっきの話を聞いてなかったのかな。
「ディーン様とゼイン様が7月から夏休みだから、2ヶ月はいるつもりだよ」
「2ヶ月!?」
悪魔は私の前にひざまずいて見上げてくる。
「フィー、来月は、7月は、わたくしの誕生日なんですよ!」
「うん、7月31日だよね。お祝いは、帰ってきてからじゃダメかな?」
「…フィー、約束したことはどうするつもりです」
約束…?
「約束、って、何かしたっけ?」
悪魔は一瞬目を見開くと、スゥッと冷酷に目を細めいきなり立ち上がった。
「…もういいです」
そのままスタスタ立ち去ってしまう。名前を読んでも、振り向いてくれなかった。また私、なにかやっちゃったんだろうか。そしてまた「もういいです」って言ったな、悪魔め。なんでああやって不貞腐れて自分の中に仕舞い込んじゃうのかなぁ…。言ってくれなくちゃわからないのに。
その日は結局夕飯にも現れず、悪魔と話をすることはできなかった。夕飯の後、アリスちゃんとオリヴィアちゃんに「一瞬にお風呂に入りたい」と言われたが、「お腹が痛いから、また今度」と伝えるとものすごく心配されてしまった。
生理だから、って言ってもわからないだろうしなぁ…。
ふたりの部屋にお邪魔するとスケッチブックがあったので、絵に描いて説明してみることにした。
「これはね、『子宮』と言って、赤ちゃんを育てる部屋なんだけど、女の子にはみんなあるの。アリスちゃんにも、オリヴィアちゃんにもあるんだよ」
「アリス、まだ、あかちゃんいらない」
「ヴィアもー」
「うん、そうだね。まだ、ふたりとも大人になってないから、赤ちゃんはできないね」
ふーん?と不思議そうに首を傾げるふたりに、まだ早すぎるよな、と思いつつ説明を続ける。
「赤ちゃんを育てるために、この中に布団ができるの」
あえて赤色で子宮として描いたマルの内側を塗りつぶす。
「でも、赤ちゃんが来ないときもあるでしょ。そうすると、この布団は古くなっちゃうから、ここから下に捨てちゃうんだよね。そして、しばらくしたら、また新しい布団を用意するの。
私はね、今、布団を捨ててるところで、お腹から出て行くから少し痛いんだよ。でも、そんなに痛くないから大丈夫なの。心配してくれてありがとう」
アリスちゃんは私を見上げると、
「ソフィアさま、あかちゃんこなかったの?」
と聞いた。
「うん。来るときばっかりじゃないし、赤ちゃんは、来るとお腹の中に10か月いるから、一度来るとしばらくお腹で一緒にいるんだよ」
「ヴィアもショフィアしゃまのおなかにいっしょにいたい」
なんて可愛いことを…。思わずギュッと抱き締めると、「エヘヘ」と嬉しそうに笑った。
「ソフィアさま、あかちゃんはどうやっておなかにくるのですか」
あ、核心をつく質問が…。なんて答えようか悩みつつ、
「アリスちゃんと、オリヴィアちゃんのお父様とお母様はとっても仲良しでしょ?結婚しているふたりが仲良しだと、赤ちゃんが安心して、お腹にくるんだよ」
仲良しでも来ないこともあるが、まさか幼児相手に精子が、卵子が、なんて生殖の話をするわけにはいかん。
アリスちゃんは何か考えているような顔になったが、オリヴィアちゃんにせがまれて動物を描いていた私はその後アリスちゃんに話を聞くこともせず、3人で川の字になり手を繋いで眠った。
「ソフィア様、僕たち、ぜひともトゥランクメント族の皆様にお会いしたいのです。兄上がかけられていたという『呪』についてお話を聞きたくて」
「じゃあ、玄武州知事の奥様に…撫子さん、って言うんだけど、お願いしてみるね。撫子さんのお兄さんで、橘さんて方が研究しているの」
「ありがとうございます!夏休みは2か月ほどあるので、できたら4州ともお邪魔できないでしょうか」
「それは英樹さんに…皇帝陛下に確認してみたほうがいいかな?陛下から聞いてもらおうか」
「そうですね。父上、お願いできますか?」
「おう、任せとけ」
ワイワイ盛り上がる片隅で、悪魔はズーンという効果音がついているかのように項垂れていた。オリヴィアちゃんが頭を撫でながら「おにいたま、なかないで。しょくばくがつよいおとこはきらわれましゅよ」とグサグサ抉っている。やはり王妃様の娘たちだ。悪魔に強い、強すぎる。
「フィー、あの、話をしたいです」
「ふたりきりはダメよ、ギデオン。アリスとオリヴィアに同席させます」
「そんな、横暴です!」
「そうしたのは貴方の行動でしょ。まったく反省していないのね、貴方は。とにかくふたりきりは認めません。わかったわね」
悪魔はフイッと顔を背けると、私の手を握り歩きだした。
「フィー、行かないでください。わたくしをひとりにしないでください」
「ギデオンさん、」
「…わかってます。わかってるけど、寂しいんです。それにあのふたりも行くなんて…」
「ギデオンさんは、私がディーン様や」
「名前は呼ばないでください」
「…私が、彼らと浮気すると思ってるの?」
悪魔はブンブンと首を横に振ると、「違います…」とまた項垂れてしまった。
「ギデオンさん、今度は文通しようよ。ね?」
「文通…?え?フィー、どれだけジャポン皇国にいるつもりなんですか?」
あれ、さっきの話を聞いてなかったのかな。
「ディーン様とゼイン様が7月から夏休みだから、2ヶ月はいるつもりだよ」
「2ヶ月!?」
悪魔は私の前にひざまずいて見上げてくる。
「フィー、来月は、7月は、わたくしの誕生日なんですよ!」
「うん、7月31日だよね。お祝いは、帰ってきてからじゃダメかな?」
「…フィー、約束したことはどうするつもりです」
約束…?
「約束、って、何かしたっけ?」
悪魔は一瞬目を見開くと、スゥッと冷酷に目を細めいきなり立ち上がった。
「…もういいです」
そのままスタスタ立ち去ってしまう。名前を読んでも、振り向いてくれなかった。また私、なにかやっちゃったんだろうか。そしてまた「もういいです」って言ったな、悪魔め。なんでああやって不貞腐れて自分の中に仕舞い込んじゃうのかなぁ…。言ってくれなくちゃわからないのに。
その日は結局夕飯にも現れず、悪魔と話をすることはできなかった。夕飯の後、アリスちゃんとオリヴィアちゃんに「一瞬にお風呂に入りたい」と言われたが、「お腹が痛いから、また今度」と伝えるとものすごく心配されてしまった。
生理だから、って言ってもわからないだろうしなぁ…。
ふたりの部屋にお邪魔するとスケッチブックがあったので、絵に描いて説明してみることにした。
「これはね、『子宮』と言って、赤ちゃんを育てる部屋なんだけど、女の子にはみんなあるの。アリスちゃんにも、オリヴィアちゃんにもあるんだよ」
「アリス、まだ、あかちゃんいらない」
「ヴィアもー」
「うん、そうだね。まだ、ふたりとも大人になってないから、赤ちゃんはできないね」
ふーん?と不思議そうに首を傾げるふたりに、まだ早すぎるよな、と思いつつ説明を続ける。
「赤ちゃんを育てるために、この中に布団ができるの」
あえて赤色で子宮として描いたマルの内側を塗りつぶす。
「でも、赤ちゃんが来ないときもあるでしょ。そうすると、この布団は古くなっちゃうから、ここから下に捨てちゃうんだよね。そして、しばらくしたら、また新しい布団を用意するの。
私はね、今、布団を捨ててるところで、お腹から出て行くから少し痛いんだよ。でも、そんなに痛くないから大丈夫なの。心配してくれてありがとう」
アリスちゃんは私を見上げると、
「ソフィアさま、あかちゃんこなかったの?」
と聞いた。
「うん。来るときばっかりじゃないし、赤ちゃんは、来るとお腹の中に10か月いるから、一度来るとしばらくお腹で一緒にいるんだよ」
「ヴィアもショフィアしゃまのおなかにいっしょにいたい」
なんて可愛いことを…。思わずギュッと抱き締めると、「エヘヘ」と嬉しそうに笑った。
「ソフィアさま、あかちゃんはどうやっておなかにくるのですか」
あ、核心をつく質問が…。なんて答えようか悩みつつ、
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仲良しでも来ないこともあるが、まさか幼児相手に精子が、卵子が、なんて生殖の話をするわけにはいかん。
アリスちゃんは何か考えているような顔になったが、オリヴィアちゃんにせがまれて動物を描いていた私はその後アリスちゃんに話を聞くこともせず、3人で川の字になり手を繋いで眠った。
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