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すべての謎が解けるとき
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「だからあの時ギデオン様は、彼女を認識できなかったのですね」
悪魔はアネットさんの言葉にコクリと頷いた。
「離縁誓約書の調印式の時に、あいつの隣に立っていたのはネコの顔でした。ジャポン皇国から帰ってきたときも、カラダは太っていましたがネコの顔のままでしたし。フィーと性交した後は、女性はすべて人間に見えるようになりましたけど、彼女の顔は知りませんでしたから」
「ギデオンさん、なんで呪いは解けないなんて言ったの?私とエッチする気満々だったくせに」
悪魔はまた不貞腐れた顔になった。
「フィーと性交すれば呪いが解けるなんて言ったら、フィーは一も二もなくわたくしと性交したでしょう。でも、あの時フィーは、呪いが解けたらフィーではない女性を選べばいいって言ってたんですよ。わたくしの初めてを奪いながら、ポイ捨てする気満々だったじゃないですか」
…えー。なんか、それは、違うような…。
「呪いが解けたらフィーに捨てられると判っていたから、フィーを孕ませてわたくしから逃げられないようにするまでは内緒にしておこうと決めたんです。フィー、もう孕みましたか。わたくしを捨てないと約束したのですから、責任を取ってわたくしの妻になってわたくしの子どもをたくさんたくさん生んでください。わたくしと、家族になってください。お願いします」
悪魔はまた私をギュウッと抱き締めてきた。苦しいから力任せにするのはやめてもらえないだろうか。
「でも、陛下は」
「入るぞ」
私の言葉を遮るようにチンピラが入ってきた。まさか外で立ち聞きしてたんじゃないかと疑うくらいのタイミングの良さだ。
「おいソフィア。俺は前にも言っただろ。おまえとギデオンは結婚させる、それはもう決定事項だと。おまえを逃がす気はねえ。諦めてギデオンと結婚しろ」
「フィーはわたくしを好きなんですよ!諦めて、なんて人聞きの悪いことを言わないでください!…フィー、わたくしと、結婚しますよね?わたくしを捨てたりしませんよね?」
「ギデオンさんがいいならいいよ。私はもうギデオンさんのこと好きになっちゃってるし、むしろ結婚してくれるなら嬉しいよ。ありがたくお受けします」
悪魔はパーッと顔を明るくすると、「良かった…」と呟きニッコリした。
「てなわけでギデオン。おめえの呪いも解けたわけだし、おめえの嫁も決まったわけだし、おめえを皇太子にするから4月からは」
「まさかわたくしに王位を譲る、なんてふざけたことを仰るつもりじゃないですよね、陛下?」
ギクリ、とするチンピラを冷たい目で見据えた悪魔は、
「…父上の変なプライドのせいでわたくしがツラい思いをしてきたことに関して償うと仰ったのですから、あと20年は国王として頑張ってください。わたくしで良ければ、その跡を継ぎます。しかしディーンもゼインもいるわけですから、」
「…あいつらは4月からジャポン皇国に留学することになった。もう勝手に、皇帝の承諾を得ていた。しばらく帰ってくるつもりはない、もしかしたらあちらに骨を埋めるかも、なんて…」
「完全に逃げる気満々ですね。わたくしもフィーと共に領土の視察に出なくてはなりませんし、ジャポン皇国にもお招きいただいておりますし、何よりまず、フィーと結婚式を挙げて新婚旅行に一年は行かなくてはなりませんし、父上、頑張ってください」
「ふざけんな!俺はようやくあのクズどもをやっつけて、これからはイングリットとラブラブに過ごすんだ!」
「妹たちがまだ小さいのですから、隠居なんて無理ですよ。だいたい子どもを5人も作ってるんだからラブラブでしょうが。わたくしもフィーもお手伝いはできますが、まだまだ王位に就ける状態ではありませんので。さて、フィー、結婚式はいつにしますか。籍はもう入れましたので夫婦ですが」
「え!?」
いつの間に入籍したの、っていうか、私、署名とかしてないじゃん!
悪魔はしれっとした顔で、
「フィーが意識を失っている間に死んでしまったら大変ですから、代理で署名をいただきました」
なんて言ってる…。ちょっとお!
「ギデオンさん、騙してすみません、なんて、全然思ってないんでしょ!」
「いいえ、思ってますよ。フィーはわたくしを捨てないと約束したのですから、離縁もなしです。さ、結婚式について話し合いましょう。ジャポン皇国の知事ご夫妻たちにも参加していただきたいですし…藤乃さんと伽藍さんがご出産されてからにしましょうか、式はいつでも構いませんからね、もうわたくしとフィーは夫婦ですから」
そんな勝手に…!ところで、
「なんで側妃はギデオンさんに呪いをかけようと思ったんだろう…陛下、なんでなのか聞いたんですか?」
「あいつが生んだリチャードとギデオンは2ヶ月差で生まれたんだ。先に生まれたのがあいつだから皇太子にするしかなかったんだが、子どもができても一向に相手にされないことに危機感を抱いたんだろうな。俺がもしかしたらギデオンを皇太子に据え直すかもしれねえと。そうできねえように、あんなひでえことを考えたんだろうよ。本当に、てめえのことしか考えてねえクズどもだ。ソフィア、おめえがいなかったらギデオンは童貞のまま死ぬとこだった、気の毒にな。良かったな、ギデオン、セックスできるようになって」
そこは、結婚できるようになって、ではないのか…。そんなあからさまな…。しかし悪魔は嬉しそうに「はい、本当に良かったです」なんて返事している。まあ…生きていく上で、性欲は三大欲求のひとつだし、私自身が、したいのにできないツラさは味わってきたから…愛ある交わりを重ねることができる相手と出会えるのはある意味奇跡なのかもしれない。
「てなわけでギデオン、」
「継承はまだ先ですよ。償うって仰いました」
悪魔は私に向き直り、スッと抱き上げた。
「フィー、愛しています。ずっとずっと、わたくしと性交してください」
「あのさ、ギデオンさん…」
ん?と首を傾げる悪魔は、やっぱりちょっと変わってるんだろうな。話が通じないことも多々あるし。でもいま、私を大事に思っていることは伝わってくる。
「フィーに出会えて良かった…わたくしの元に現れてくれた貴女を、絶対に離しません」
重いけど…。
ニコニコする悪魔が可愛らしく、頭を撫でると気持ちよさそうに目を瞑った。
【了】
悪魔はアネットさんの言葉にコクリと頷いた。
「離縁誓約書の調印式の時に、あいつの隣に立っていたのはネコの顔でした。ジャポン皇国から帰ってきたときも、カラダは太っていましたがネコの顔のままでしたし。フィーと性交した後は、女性はすべて人間に見えるようになりましたけど、彼女の顔は知りませんでしたから」
「ギデオンさん、なんで呪いは解けないなんて言ったの?私とエッチする気満々だったくせに」
悪魔はまた不貞腐れた顔になった。
「フィーと性交すれば呪いが解けるなんて言ったら、フィーは一も二もなくわたくしと性交したでしょう。でも、あの時フィーは、呪いが解けたらフィーではない女性を選べばいいって言ってたんですよ。わたくしの初めてを奪いながら、ポイ捨てする気満々だったじゃないですか」
…えー。なんか、それは、違うような…。
「呪いが解けたらフィーに捨てられると判っていたから、フィーを孕ませてわたくしから逃げられないようにするまでは内緒にしておこうと決めたんです。フィー、もう孕みましたか。わたくしを捨てないと約束したのですから、責任を取ってわたくしの妻になってわたくしの子どもをたくさんたくさん生んでください。わたくしと、家族になってください。お願いします」
悪魔はまた私をギュウッと抱き締めてきた。苦しいから力任せにするのはやめてもらえないだろうか。
「でも、陛下は」
「入るぞ」
私の言葉を遮るようにチンピラが入ってきた。まさか外で立ち聞きしてたんじゃないかと疑うくらいのタイミングの良さだ。
「おいソフィア。俺は前にも言っただろ。おまえとギデオンは結婚させる、それはもう決定事項だと。おまえを逃がす気はねえ。諦めてギデオンと結婚しろ」
「フィーはわたくしを好きなんですよ!諦めて、なんて人聞きの悪いことを言わないでください!…フィー、わたくしと、結婚しますよね?わたくしを捨てたりしませんよね?」
「ギデオンさんがいいならいいよ。私はもうギデオンさんのこと好きになっちゃってるし、むしろ結婚してくれるなら嬉しいよ。ありがたくお受けします」
悪魔はパーッと顔を明るくすると、「良かった…」と呟きニッコリした。
「てなわけでギデオン。おめえの呪いも解けたわけだし、おめえの嫁も決まったわけだし、おめえを皇太子にするから4月からは」
「まさかわたくしに王位を譲る、なんてふざけたことを仰るつもりじゃないですよね、陛下?」
ギクリ、とするチンピラを冷たい目で見据えた悪魔は、
「…父上の変なプライドのせいでわたくしがツラい思いをしてきたことに関して償うと仰ったのですから、あと20年は国王として頑張ってください。わたくしで良ければ、その跡を継ぎます。しかしディーンもゼインもいるわけですから、」
「…あいつらは4月からジャポン皇国に留学することになった。もう勝手に、皇帝の承諾を得ていた。しばらく帰ってくるつもりはない、もしかしたらあちらに骨を埋めるかも、なんて…」
「完全に逃げる気満々ですね。わたくしもフィーと共に領土の視察に出なくてはなりませんし、ジャポン皇国にもお招きいただいておりますし、何よりまず、フィーと結婚式を挙げて新婚旅行に一年は行かなくてはなりませんし、父上、頑張ってください」
「ふざけんな!俺はようやくあのクズどもをやっつけて、これからはイングリットとラブラブに過ごすんだ!」
「妹たちがまだ小さいのですから、隠居なんて無理ですよ。だいたい子どもを5人も作ってるんだからラブラブでしょうが。わたくしもフィーもお手伝いはできますが、まだまだ王位に就ける状態ではありませんので。さて、フィー、結婚式はいつにしますか。籍はもう入れましたので夫婦ですが」
「え!?」
いつの間に入籍したの、っていうか、私、署名とかしてないじゃん!
悪魔はしれっとした顔で、
「フィーが意識を失っている間に死んでしまったら大変ですから、代理で署名をいただきました」
なんて言ってる…。ちょっとお!
「ギデオンさん、騙してすみません、なんて、全然思ってないんでしょ!」
「いいえ、思ってますよ。フィーはわたくしを捨てないと約束したのですから、離縁もなしです。さ、結婚式について話し合いましょう。ジャポン皇国の知事ご夫妻たちにも参加していただきたいですし…藤乃さんと伽藍さんがご出産されてからにしましょうか、式はいつでも構いませんからね、もうわたくしとフィーは夫婦ですから」
そんな勝手に…!ところで、
「なんで側妃はギデオンさんに呪いをかけようと思ったんだろう…陛下、なんでなのか聞いたんですか?」
「あいつが生んだリチャードとギデオンは2ヶ月差で生まれたんだ。先に生まれたのがあいつだから皇太子にするしかなかったんだが、子どもができても一向に相手にされないことに危機感を抱いたんだろうな。俺がもしかしたらギデオンを皇太子に据え直すかもしれねえと。そうできねえように、あんなひでえことを考えたんだろうよ。本当に、てめえのことしか考えてねえクズどもだ。ソフィア、おめえがいなかったらギデオンは童貞のまま死ぬとこだった、気の毒にな。良かったな、ギデオン、セックスできるようになって」
そこは、結婚できるようになって、ではないのか…。そんなあからさまな…。しかし悪魔は嬉しそうに「はい、本当に良かったです」なんて返事している。まあ…生きていく上で、性欲は三大欲求のひとつだし、私自身が、したいのにできないツラさは味わってきたから…愛ある交わりを重ねることができる相手と出会えるのはある意味奇跡なのかもしれない。
「てなわけでギデオン、」
「継承はまだ先ですよ。償うって仰いました」
悪魔は私に向き直り、スッと抱き上げた。
「フィー、愛しています。ずっとずっと、わたくしと性交してください」
「あのさ、ギデオンさん…」
ん?と首を傾げる悪魔は、やっぱりちょっと変わってるんだろうな。話が通じないことも多々あるし。でもいま、私を大事に思っていることは伝わってくる。
「フィーに出会えて良かった…わたくしの元に現れてくれた貴女を、絶対に離しません」
重いけど…。
ニコニコする悪魔が可愛らしく、頭を撫でると気持ちよさそうに目を瞑った。
【了】
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