お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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すべての謎が解けるとき

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「陛下たちをお守りしろ!」

バタバタと足音が響き、怒声が飛び交う中、ようやく煙が晴れてくる。

「…フィー!」 

演台の前には、今しがた離縁が成立したばかりのソフィア元妃が倒れていた。彼女の白いドレスの脇腹あたりが、真っ赤に染まっている。

彼女の姿に驚愕して駆け寄ろうとしたギデオンは、後ろからスティーブ近衛騎士に羽交い締めにされた。

「なりません、ギデオン様」

「は、離してくれっ、フィーがっ!」

「まだ賊がおります、近寄ってはなりません」

ソフィア元妃の隣には、ナイフを手に静かに佇む細身の女がひとり。

「あれは、あれは誰なんだ、なぜフィーを、」

女はニッコリ微笑むと、「リチャード様!」と皇太子に視線を移した。

「…ライラ?」

その隙に、ソフィア元妃を抱き上げた人物がいる。アネットだ。

アネットは、ラインハルトに一礼するとソフィア元妃を抱え走り去った。

「フィー!…離せ、離してくれ!フィーは無事なのか!」

「ウフフフフ…ごめんなさいね、ギデオン様。でも、あの女を殺せば私を妃にしてくれるってリチャード様からお手紙をいただいたの。あの女にはなんの恨みもないけど、私の幸せのためだから」

殺人を犯した人間とは思えないくらい、にこやかに語るライラはスタスタとリチャードに向かって歩いて行く。

「女を捕らえろ」

ラインハルトの命を受けた騎士たちに拘束されても、その表情はまったく変わることがない。

「おい、女」

「はい、国王陛下」

ニコニコと見上げるライラを一瞥したラインハルトは、

「さっきおめえは、リチャードから手紙を受け取ったと言ったな。どんな手紙だ」

「今も大事に持ってきましたわ。リチャード様からの手紙ですもの」

ライラが言う通り、下着の中から封筒が出てきた。騎士に手渡されたラインハルトは、それを開く前にライラをじっとみすえた。

「なぜリチャードからの手紙だと思った」

「私を追い出すよう、子爵家に届いた手紙に押されていた印が同じだったからですわ。王室の皆様は、それぞれの印をお持ちと聞いております。子爵家の祖父…もう私には祖父と呼ぶ資格はないでしょうが、手紙の印を見て間違いなくリチャード皇太子殿下のものだと言いました」

ラインハルトは徐に手紙を開き目を通した。

「…間違いなく、ソフィア殺害を依頼した内容だ。殺した暁には妃にすると書いてある」

「そ、そんな手紙、僕は書いてない!偽造です、父上っ」

喚くリチャードを鋭く睨み付けたラインハルトは、

「では、ここに押されたおまえの印はどう説明する?先ほどその女が言ったように、おまえの印がどのようなものか、貴族たちは知っているだろう。だが、詳細まで覚えている人間が何人いると?見本がない限りここまでそっくりに偽造できるはずがない」

「それは、僕が子爵家に送った手紙を誰かが使って、」

「偽造を是とするような軽率な行動を取ったおまえに責任がある。ソフィアを殺したのはおまえだ」

「そんな、そんな言いがかりだ!僕は何もしていない!」

「陛下、わたくしをフィーの元へ行かせてください!」

スティーブ近衛騎士に羽交い締めにされたまま叫ぶギデオンに目を向けたラインハルトは、

「それはならん」

と短く告げた。

「さあ、始めるぞ。断罪の時間だ。20年、20年かかった。ようやく、俺の鬱憤を晴らせる時がきたぜ。ソフィアのおかげだ」

ラインハルトは一度天を見上げると、「ありがとよ、ソフィア」と呟き、視線を戻した。その鋭い瞳は、側妃を爛々と睨み付けている。

「よくもまあ、今まで俺を苦しめてくれたな、マリアンヌ。…名前を呼ぶのも忌々しいわ。近衛、側妃とリチャードを拘束しろ」

「陛下、何を!?」

突然のことに目を見開いた側妃は、皇太子とともに後ろ手に縛られ、そのまま椅子に拘束された。

「わたくしが何をしたと仰るのですか!?」

「側妃の帽子を外せ」

「な、…っ、やめ、やめなさい!わたくしを誰だと思っているの!?無礼者!」

しかしいくら暴れても拘束されている側妃にはどうすることもできず、被っていた大きな帽子は無情にも外されてしまった。

「…母上?」

呆けたようなリチャードの目に写ったのは、通常ならあり得ないものがついた側妃の頭。彼女の頭には、ピクピクと小刻みに動く、茶色いものが…動物の耳のようなものが生えていた。

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