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すべての謎が解けるとき
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そして3日後。
離縁誓約書の調印式を行った王宮内の部屋ではなく、王宮の庭園内で行われると伝えられ、そちらに案内される。
「フィー、あの、」
私の手を繋ぐ悪魔は、チラチラこちらを見ながらなんだかばつの悪そうな顔になった。
「なに?」
「あの、…ジャポン皇国から帰ってきた次の日、陛下から話があるはずだったのですが、わたくしがフィーを連れて帰ってしまったので、まだフィーが聞いていないことがあるんです。それで、その…、離縁届の調印式の後に、陛下からお話があります…あの、フィー、わたくしをキライにならないで欲しいのです」
「キライになる…?キライになるような何かがあるの?」
悪魔はなんだか情けない顔になった。しょんぼり項垂れたワンコのようだ。
「あの…」
「ギデオンさん、とりあえず聞いてみないとわからないけど…私とギデオンさんは始まりが『駄豚を躾る』だったんだよ。ほぼ初対面でそんな酷いことを平気で言う人でも、最終的に私はギデオンさんを好きになっちゃったし、今はエッチまでする仲になっちゃったし、よほどのことじゃない限り、キライってはならないと思うけど…」
「…そうですよね。聞いてみないとわからないですよね。自分で未来はわからないなんていいながら、すみません…なんか、不安になってしまって…フィーを、離したくないんです」
悪魔は私をギュッと抱き締め、額にチュッと口づけた。
「フィー、愛しています。フィー、今日の調印式が済んだら、わたくしと結婚してください」
「ギデオンさん、まず、話を聞いてからね、」
「…はい」
前々から私と結婚するんだと言っていたけど、考えてみれば私、悪魔のことってほとんど知らないんだよなあ…。母が父に贈られた指輪です、なんて指輪ももらっちゃったのに肝心のご両親に会ったこともない。どんな人なのか、聞いたこともないし。近衛騎士って、貴族なの?それとも平民からでもなれるの?チンピラにまで慇懃無礼な悪魔だけど、なぜそれが許されているのか、それもわからない。
本当に結婚するならば、個人で決められることではないのでは…。
お互いになんとなく沈黙がおりる。
「ソフィアちゃん!」
名前を呼ばれて顔を上げると、王妃様がこちらに向かってくるところだった。イケメン双子王子もその後ろにいる。
「王妃陛下…王妃陛下も、ご参加なのですか?」
ボールドウィン伯爵とミューズはさすがにないだろうから、チンピラ、宰相様、側妃、皇太子と私だけだと思っていたのだが。
「ええ。ギデオンも参列するのよ」
「え?」
振り向いて目が合うと、「当たり前ですよ。フィー、まさかわたくしを付き添いだとでも思っていたのですか」と睨み付けてくる。さっきのしょぼくれワンコはどこへ?
「え、だって、私の離縁なのに、」
「…でも参加するんです」
悪魔は「ああ…やっぱりあの時話を聞いてからにするべきだったのか」とブツブツ呟きはじめたが、なんのことやらさっぱりわからない。
「ソフィア様、僕たちも参列しますので」
「え?」
なんでそんな大掛かりなことになってるの…?みんなの前で結婚を誓うならまだしも、離縁します!なのに?チンピラの考えがわからない…!そして事前に知らせるべきではないのか、当事者に…!
これではなんだか客寄せパンダのようである。離縁をみんなの前で、なんて…なんか恥ずかしい…。
しおしおしながら歩いて行くと、座席を指定された。庭園の中のアーチの前にひとつ椅子があり、その前に演台のようなものが置いてある。あれはチンピラが座る椅子なんだろう。対するように、前列に椅子が3脚。その後ろの列に椅子が4脚並んでいる。私は前列の左端に座るように言われた。私の後ろに王妃陛下、悪魔は後列の一番右に座るよう指示され鼻白んでいた。なぜすぐにケンカを売ろうとするのか。間の2脚に双子王子が座る。
「王妃陛下、なぜわたくしがフィーの後ろではないのですか」
「陛下の指示よ。従いなさい」
ムスッとした顔はやめるべきである。なんで、最高権力者に逆らおうとするのか、命が惜しくないのか、悪魔よ。
ハラハラしながら見ていると、今日も帽子を被っている側妃が私の隣に座るよう指示され、右端に皇太子が座った。悪魔と睨み合っている。なんでわざわざこんな配置にするんだチンピラめ!調印式を台無しにしようとしてるわけ!?
「皆様お揃いですね。それでは始めます」
だんだんチンピラに対してイライラしていると、宰相様の声が響いた。チンピラもスタンバイだ。後で絶対文句言ってやる!
「リチャード様とソフィア様は、前へ」
宰相様に促され台の前に進むと、「署名をお願いいたします」と皇太子にペンを渡した。
「父上、こんな騙しうちのような、」
「うるさい。おまえも同じことをしただろう、おまえのミューズとやらに。もっと質が悪いと思うが?罰されなかったからと言って、罪を見逃された訳じゃねえんだ」
「罪!?僕は何も、罪など犯していません!侮辱だ!」
「うるせえ!さっさとしやがれ!無理矢理書かせてもいいんだぞ!」
チンピラに睨み付けられ、舌打ちをした皇太子はサラサラ署名すると、ペンを投げ捨てた。
宰相様は懐からペンを取り出すと私に手渡してくれる。同じペンを使わないで済むようにしてくれる宰相様の気遣いが嬉しかった。
「これでおふたりの離縁は成立です」
宰相様はチンピラに一度見せたあと、箱に入れ厳重に鍵をかけ、端に控えていた文官らしき男性に渡した。
ようやく、終わったんだ…。3年待たずに1年でお飾り妃という立場から解放されるとは思わなかったけど。これから先をどうするのか具体的に決まってないのが不安ではあるけど、とにかく一区切りついたことには間違いない。
促され席に戻ろうとした時、突然周りに煙が立ち込め始めた。急激に視界が白くなる。
「何事だ!」
チンピラの声と、「フィー!大丈夫ですか、動かないで!」という悪魔の声が聞こえた時、口を何かで塞がれた。耳元で聞こえてきたのは、…ミューズ?
「…あんた、お人好しでキライよ。でも、ありがとう」
チクリ、と脇腹に軽い痛みを感じたのを最後に、カラダから力が抜けた。
離縁誓約書の調印式を行った王宮内の部屋ではなく、王宮の庭園内で行われると伝えられ、そちらに案内される。
「フィー、あの、」
私の手を繋ぐ悪魔は、チラチラこちらを見ながらなんだかばつの悪そうな顔になった。
「なに?」
「あの、…ジャポン皇国から帰ってきた次の日、陛下から話があるはずだったのですが、わたくしがフィーを連れて帰ってしまったので、まだフィーが聞いていないことがあるんです。それで、その…、離縁届の調印式の後に、陛下からお話があります…あの、フィー、わたくしをキライにならないで欲しいのです」
「キライになる…?キライになるような何かがあるの?」
悪魔はなんだか情けない顔になった。しょんぼり項垂れたワンコのようだ。
「あの…」
「ギデオンさん、とりあえず聞いてみないとわからないけど…私とギデオンさんは始まりが『駄豚を躾る』だったんだよ。ほぼ初対面でそんな酷いことを平気で言う人でも、最終的に私はギデオンさんを好きになっちゃったし、今はエッチまでする仲になっちゃったし、よほどのことじゃない限り、キライってはならないと思うけど…」
「…そうですよね。聞いてみないとわからないですよね。自分で未来はわからないなんていいながら、すみません…なんか、不安になってしまって…フィーを、離したくないんです」
悪魔は私をギュッと抱き締め、額にチュッと口づけた。
「フィー、愛しています。フィー、今日の調印式が済んだら、わたくしと結婚してください」
「ギデオンさん、まず、話を聞いてからね、」
「…はい」
前々から私と結婚するんだと言っていたけど、考えてみれば私、悪魔のことってほとんど知らないんだよなあ…。母が父に贈られた指輪です、なんて指輪ももらっちゃったのに肝心のご両親に会ったこともない。どんな人なのか、聞いたこともないし。近衛騎士って、貴族なの?それとも平民からでもなれるの?チンピラにまで慇懃無礼な悪魔だけど、なぜそれが許されているのか、それもわからない。
本当に結婚するならば、個人で決められることではないのでは…。
お互いになんとなく沈黙がおりる。
「ソフィアちゃん!」
名前を呼ばれて顔を上げると、王妃様がこちらに向かってくるところだった。イケメン双子王子もその後ろにいる。
「王妃陛下…王妃陛下も、ご参加なのですか?」
ボールドウィン伯爵とミューズはさすがにないだろうから、チンピラ、宰相様、側妃、皇太子と私だけだと思っていたのだが。
「ええ。ギデオンも参列するのよ」
「え?」
振り向いて目が合うと、「当たり前ですよ。フィー、まさかわたくしを付き添いだとでも思っていたのですか」と睨み付けてくる。さっきのしょぼくれワンコはどこへ?
「え、だって、私の離縁なのに、」
「…でも参加するんです」
悪魔は「ああ…やっぱりあの時話を聞いてからにするべきだったのか」とブツブツ呟きはじめたが、なんのことやらさっぱりわからない。
「ソフィア様、僕たちも参列しますので」
「え?」
なんでそんな大掛かりなことになってるの…?みんなの前で結婚を誓うならまだしも、離縁します!なのに?チンピラの考えがわからない…!そして事前に知らせるべきではないのか、当事者に…!
これではなんだか客寄せパンダのようである。離縁をみんなの前で、なんて…なんか恥ずかしい…。
しおしおしながら歩いて行くと、座席を指定された。庭園の中のアーチの前にひとつ椅子があり、その前に演台のようなものが置いてある。あれはチンピラが座る椅子なんだろう。対するように、前列に椅子が3脚。その後ろの列に椅子が4脚並んでいる。私は前列の左端に座るように言われた。私の後ろに王妃陛下、悪魔は後列の一番右に座るよう指示され鼻白んでいた。なぜすぐにケンカを売ろうとするのか。間の2脚に双子王子が座る。
「王妃陛下、なぜわたくしがフィーの後ろではないのですか」
「陛下の指示よ。従いなさい」
ムスッとした顔はやめるべきである。なんで、最高権力者に逆らおうとするのか、命が惜しくないのか、悪魔よ。
ハラハラしながら見ていると、今日も帽子を被っている側妃が私の隣に座るよう指示され、右端に皇太子が座った。悪魔と睨み合っている。なんでわざわざこんな配置にするんだチンピラめ!調印式を台無しにしようとしてるわけ!?
「皆様お揃いですね。それでは始めます」
だんだんチンピラに対してイライラしていると、宰相様の声が響いた。チンピラもスタンバイだ。後で絶対文句言ってやる!
「リチャード様とソフィア様は、前へ」
宰相様に促され台の前に進むと、「署名をお願いいたします」と皇太子にペンを渡した。
「父上、こんな騙しうちのような、」
「うるさい。おまえも同じことをしただろう、おまえのミューズとやらに。もっと質が悪いと思うが?罰されなかったからと言って、罪を見逃された訳じゃねえんだ」
「罪!?僕は何も、罪など犯していません!侮辱だ!」
「うるせえ!さっさとしやがれ!無理矢理書かせてもいいんだぞ!」
チンピラに睨み付けられ、舌打ちをした皇太子はサラサラ署名すると、ペンを投げ捨てた。
宰相様は懐からペンを取り出すと私に手渡してくれる。同じペンを使わないで済むようにしてくれる宰相様の気遣いが嬉しかった。
「これでおふたりの離縁は成立です」
宰相様はチンピラに一度見せたあと、箱に入れ厳重に鍵をかけ、端に控えていた文官らしき男性に渡した。
ようやく、終わったんだ…。3年待たずに1年でお飾り妃という立場から解放されるとは思わなかったけど。これから先をどうするのか具体的に決まってないのが不安ではあるけど、とにかく一区切りついたことには間違いない。
促され席に戻ろうとした時、突然周りに煙が立ち込め始めた。急激に視界が白くなる。
「何事だ!」
チンピラの声と、「フィー!大丈夫ですか、動かないで!」という悪魔の声が聞こえた時、口を何かで塞がれた。耳元で聞こえてきたのは、…ミューズ?
「…あんた、お人好しでキライよ。でも、ありがとう」
チクリ、と脇腹に軽い痛みを感じたのを最後に、カラダから力が抜けた。
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