お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

文字の大きさ
上 下
97 / 161
すべての謎が解けるとき

しおりを挟む
ボールドウィン伯爵が帰国した次の日、チンピラに呼ばれ王宮に悪魔と共に行くと、王太子と側妃がすでに来ていた。側妃はこちらを見ると途端にイヤそうな顔になったのだが、なぜか室内だというのに大きな帽子を被っている。王太子は王太子で悪魔に殴りかかってきたが、ヒラリと避けられつんのめっている。

「いったいなんの真似です」

「黙れ!貴様がソフィアを欲しがったりするから父上が、」

「黙るのはおまえだ、リチャード」

「皆様、お座りください」

チンピラと宰相様が入ってきた。宰相様は今日も安定の微笑みをわたしに向けてくる。尊い。ありがとうございます。

チンピラが玉座に腰をおろし、その対面を指示され座る。右から側妃、王太子、悪魔、私の順だ。チンピラの前でも側妃は帽子を取ろうとしなかった。

「…さて。2週間前に、ギデオンとソフィアには告げたが、リチャード、おまえとソフィアの離縁を正式に認めた。離縁誓約書に記載した日付とは異なるが、おまえはもうソフィアの夫ではない」

「な、…っ!なんです、どういうことですか!そんな勝手が、」

「おまえが初夜に訪れなかったためにソフィアが絶望して自殺を図ったことをおまえは知っているか」

「…は?」

王太子の視線が私に向く。

「で、でも、生きて、」

「そうだ。あまりにも肥えすぎてたために、首をつったもののそのまま落ちたからな。しかしながら、それでソフィアは目が覚めたんだよ。おまえみたいな阿呆に縛られず生きていく、だから俺に誓約書の締結を願い出た。今回早まったのは、ソフィアの自殺未遂を聞いたソフィアの両親から、原因となった人間の妻でいさせるとはどういうことか、また娘を殺す気か、と正式な抗議文とともに離縁申し立てがあったからだ」

「そ、そんな、親が口を出してくるなんて、」

「可愛い娘が夫のために死ぬところだったんだぞ。口を出すのは当然だろうが。それとも何か、おまえに虐待されてるのを知りながら見て見ぬふりをするのが親だとでも言うつもりか」

「僕は王太子ですよ!何をしようと許される立場だ!僕が望んだのだからソフィアは僕の妃のままであるべきだ!」

「ほお…」

チンピラは冷酷な笑みを浮かべると、

「おまえは随分偉くなったんだな。俺の決定を覆えそうってのか」

「ち、違います、ソフィアの両親が、」

「ソフィアの両親が出した抗議文及び申し立て書を受けて、俺が決めたんだぞ。おまえとソフィアの離縁を。頭が悪すぎて理解できねえんだな。こんなのを王太子にしちまったのは俺の過ちだ。俺のちっぽけなプライドのために、多くの人間に犠牲を強いちまった。謝罪しても許されることではないことはこの俺が一番わかってる。必ずその犠牲に報いるつもりだ」

「陛下、何を…?」

声をあげた側妃には見向きもせず、チンピラは、宰相様にひとつ頷いた。

「前回の離縁誓約書の調印式のように、3日後、離縁届の調印式を実施します。王太子殿下とソフィア様は、その日を持って正式に離縁を認めます」

「え!?」

思わず声が出てしまった私に視線が集まる。

「やっぱり僕と離縁したくないんだろう、ソフィア!さあ、早く撤回するんだ!」

叫ぶ王太子を睨み付けながら悪魔が私の手を握る。

「…フィー、どういうことですか」

「痛い、ギデオンさん、痛いからやめて!陛下、私、ギデオンさんともう性交しちゃったけど!」

「…は?」

しばしの沈黙の後、最初に戻ってきたのは宰相様だった。

「…ソフィア様、それは離縁誓約書で認められておりますから、」

「いえ、あの、避妊、してない…です…よね、ギデオンさん…」

悪魔は耳まで真っ赤になると、「フィー、なんの辱しめをわたくしは受けているのですか」と俯いてしまった。

「…あのよ。なんか問題があんのか」

チンピラが呆れたように言うけど、

「だって、もう離縁を認める、って言われたからエッチしたのに、避妊してなかったらまずくない、の、かな、…って?」

「なんで疑問形なのか不明だが、なにもまずくねえだろ。ギデオンよくやった。ヘタレだと思ってたのに意外とやるもんだな」

えー…なんか、先走った感が半端ない気がするのは私だけなのかな。まだ離縁してなかったのに…これじゃあ、不倫した妻じゃん、私。チンピラめ!なんでわざわざ調印式なんか…!あの時認めるって言ったじゃん!

ニヤニヤしているチンピラを睨み付けていると、

「おまえ、ソフィアを抱いただと!?」

王太子が突如立ち上がり悪魔を殴りつけようとしたが、近衛騎士に取り押さえられた。

「離せ!僕の妻に手を出すなんて、おまえは処刑してやる!ソフィア、おまえも痛い目に合わせてやるからな!僕を裏切りやがって、」

「…ほんとに阿呆だな。ま、あと数日の辛抱だ。おい、連れて行け」

チンピラの合図で王太子は外に連れ出された。最後までギャーギャー喚いている様を見て、あんなのを次の国王にしようとしているチンピラの思考に何度目かの疑問を覚える。国を潰すつもりなんだろうか。

そんな私の視線が届いているのか否か…チンピラは、側妃に、「おまえも必ず出席だ。逃げんなよ」と圧力をかけていた。この側妃を娶ったことだって疑問でしかない。最初は好きで子どもも作ったけど、途中から仲悪くなったのかな…でも側妃はチンピラにはツンケンしてないよな。このふたりの関係性がまったくわからない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

もう、今更です

ねむたん
恋愛
伯爵令嬢セリーヌ・ド・リヴィエールは、公爵家長男アラン・ド・モントレイユと婚約していたが、成長するにつれて彼の態度は冷たくなり、次第に孤独を感じるようになる。学園生活ではアランが王子フェリクスに付き従い、王子の「真実の愛」とされるリリア・エヴァレットを囲む騒動が広がり、セリーヌはさらに心を痛める。 やがて、リヴィエール伯爵家はアランの態度に業を煮やし、婚約解消を申し出る。

侯爵夫人の手紙

桃井すもも
恋愛
侯爵夫人ルイーザは、王都の邸を離れて湖畔の別荘にいた。 別荘は夫の祖父が終の棲家にしていた邸宅で、森と湖畔があるだけの静かな場所だった。 ルイーザは庭のブランコを揺らしながら、これといって考えることが何もないことに気が付いた。 今まで只管忙しなく暮らしてきた。家の為に領地の為に、夫の為に。 ついつい自分の事は後回しになって、鏡を見る暇も無かった。 それが今は森と湖畔以外は何もないこの場所で、なんにもしない暮らしをしている。 何故ならルイーザは、家政も執務も社交も投げ出して、王都の暮らしから飛び出して来た。 そうして夫からも、逃げ出して来たのであった。 ❇後半部分に出産に関わるセンシティブな内容がございます。関連話冒頭に注意書きにて表記をさせて頂きます。苦手な方は読み飛ばして下さいませ。 ❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく公開後に激しい修正が入ります。 「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。 ❇登場人物のお名前が他作品とダダ被りしておりますが、皆様別人でございます。 ❇相変わらずの100%妄想の産物です。妄想なので史実とは異なっております。 ❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた妄想スイマーによる寝物語です。 疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。 ❇座右の銘は「知らないことは書けない」「嘘をつくなら最後まで」

人形となった王妃に、王の後悔と懺悔は届かない

望月 或
恋愛
「どちらかが“過ち”を犯した場合、相手の伴侶に“人”を損なう程の神の『呪い』が下されよう――」 ファローダ王国の国王と王妃が事故で急逝し、急遽王太子であるリオーシュが王に即位する事となった。 まだ齢二十三の王を支える存在として早急に王妃を決める事となり、リオーシュは同い年のシルヴィス侯爵家の長女、エウロペアを指名する。 彼女はそれを承諾し、二人は若き王と王妃として助け合って支え合い、少しずつ絆を育んでいった。 そんなある日、エウロペアの妹のカトレーダが頻繁にリオーシュに会いに来るようになった。 仲睦まじい二人を遠目に眺め、心を痛めるエウロペア。 そして彼女は、リオーシュがカトレーダの肩を抱いて自分の部屋に入る姿を目撃してしまう。 神の『呪い』が発動し、エウロペアの中から、五感が、感情が、思考が次々と失われていく。 そして彼女は、動かぬ、物言わぬ“人形”となった―― ※視点の切り替わりがあります。タイトルの後ろに◇は、??視点です。 ※Rシーンがあるお話はタイトルの後ろに*を付けています。

最初からここに私の居場所はなかった

kana
恋愛
死なないために媚びても駄目だった。 死なないために努力しても認められなかった。 死なないためにどんなに辛くても笑顔でいても無駄だった。 死なないために何をされても怒らなかったのに⋯⋯ だったら⋯⋯もう誰にも媚びる必要も、気を使う必要もないでしょう? だから虚しい希望は捨てて生きるための準備を始めた。 二度目は、自分らしく生きると決めた。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ いつも稚拙な小説を読んでいただきありがとうございます。 私ごとですが、この度レジーナブックス様より『後悔している言われても⋯⋯ねえ?今さらですよ?』が1月31日頃に書籍化されることになりました~ これも読んでくださった皆様のおかげです。m(_ _)m これからも皆様に楽しんでいただける作品をお届けできるように頑張ってまいりますので、よろしくお願いいたします(>人<;)

都合のいい女は卒業です。

火野村志紀
恋愛
伯爵令嬢サラサは、王太子ライオットと婚約していた。 しかしライオットが神官の娘であるオフィーリアと恋に落ちたことで、事態は急転する。 治癒魔法の使い手で聖女と呼ばれるオフィーリアと、魔力を一切持たない『非保持者』のサラサ。 どちらが王家に必要とされているかは明白だった。 「すまない。オフィーリアに正妃の座を譲ってくれないだろうか」 だから、そう言われてもサラサは大人しく引き下がることにした。 しかし「君は側妃にでもなればいい」と言われた瞬間、何かがプツンと切れる音がした。 この男には今まで散々苦労をかけられてきたし、屈辱も味わってきた。 それでも必死に尽くしてきたのに、どうしてこんな仕打ちを受けなければならないのか。 だからサラサは満面の笑みを浮かべながら、はっきりと告げた。 「ご遠慮しますわ、ライオット殿下」

離縁してくださいと言ったら、大騒ぎになったのですが?

ネコ
恋愛
子爵令嬢レイラは北の領主グレアムと政略結婚をするも、彼が愛しているのは幼い頃から世話してきた従姉妹らしい。夫婦生活らしい交流すらなく、仕事と家事を押し付けられるばかり。ある日、従姉妹とグレアムの微妙な関係を目撃し、全てを諦める。

【R18/完結】強面騎士団長の慰め係〜こんなに絶倫なんて聞いてません!!〜

河津ミネ
恋愛
第三騎士団のリスはクマより強い――最近王城ではそんな笑い話がよく聞かれる。 子リスこと事務官のクラリスが、強面クマ男のジークベルトと毎日のように言い合いをしているからだ。 「うるせえぞ、チビ!」 「私が小さいんじゃなくて団長がデカいんですよ! もう、このデカブツ!!」 そんな子どもじみた言い合いをしていたある日、クラリスが罠にはまったところをジークベルトに助けられる。一見怪我はないように見えたが、その夜からジークベルトの身体に異変が起こり――!? ★R18なシーンには※を付けます。

木曜日生まれの子供達

十河
BL
 毒を喰らわば皿まで。番外編第四弾。  五十四歳の誕生日を迎えたアンドリムは、ヨルガと共に残された日々を穏やかに過ごしていた。  年齢を重ねたヨルガの緩やかな老いも愛おしく、アンドリムはこの世界に自らが招かれた真の理由を、朧げながらも理解しつつある。  しかし運命の歯車は【主人公】である彼の晩年であっても、休むことなく廻り続けていた。  或る日。  宰相モリノから王城に招かれたアンドリムとヨルガは、驚きの報告を受けることになる。 「キコエドの高等学院に、アンドリム様の庶子が在籍しているとの噂が広まっています」 「なんと。俺にはもう一人、子供がいたのか」 「……面白がっている場合か?」  状況を楽しんでいるアンドリムと彼の番であるヨルガは、最後の旅に出ることになった。  賢妃ベネロペの故郷でもある連合国家キコエドで、二人を待つ新たな運命とはーー。

処理中です...