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すべての謎が解けるとき
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ボールドウィン伯爵が帰国した次の日、チンピラに呼ばれ王宮に悪魔と共に行くと、王太子と側妃がすでに来ていた。側妃はこちらを見ると途端にイヤそうな顔になったのだが、なぜか室内だというのに大きな帽子を被っている。王太子は王太子で悪魔に殴りかかってきたが、ヒラリと避けられつんのめっている。
「いったいなんの真似です」
「黙れ!貴様がソフィアを欲しがったりするから父上が、」
「黙るのはおまえだ、リチャード」
「皆様、お座りください」
チンピラと宰相様が入ってきた。宰相様は今日も安定の微笑みをわたしに向けてくる。尊い。ありがとうございます。
チンピラが玉座に腰をおろし、その対面を指示され座る。右から側妃、王太子、悪魔、私の順だ。チンピラの前でも側妃は帽子を取ろうとしなかった。
「…さて。2週間前に、ギデオンとソフィアには告げたが、リチャード、おまえとソフィアの離縁を正式に認めた。離縁誓約書に記載した日付とは異なるが、おまえはもうソフィアの夫ではない」
「な、…っ!なんです、どういうことですか!そんな勝手が、」
「おまえが初夜に訪れなかったためにソフィアが絶望して自殺を図ったことをおまえは知っているか」
「…は?」
王太子の視線が私に向く。
「で、でも、生きて、」
「そうだ。あまりにも肥えすぎてたために、首をつったもののそのまま落ちたからな。しかしながら、それでソフィアは目が覚めたんだよ。おまえみたいな阿呆に縛られず生きていく、だから俺に誓約書の締結を願い出た。今回早まったのは、ソフィアの自殺未遂を聞いたソフィアの両親から、原因となった人間の妻でいさせるとはどういうことか、また娘を殺す気か、と正式な抗議文とともに離縁申し立てがあったからだ」
「そ、そんな、親が口を出してくるなんて、」
「可愛い娘が夫のために死ぬところだったんだぞ。口を出すのは当然だろうが。それとも何か、おまえに虐待されてるのを知りながら見て見ぬふりをするのが親だとでも言うつもりか」
「僕は王太子ですよ!何をしようと許される立場だ!僕が望んだのだからソフィアは僕の妃のままであるべきだ!」
「ほお…」
チンピラは冷酷な笑みを浮かべると、
「おまえは随分偉くなったんだな。俺の決定を覆えそうってのか」
「ち、違います、ソフィアの両親が、」
「ソフィアの両親が出した抗議文及び申し立て書を受けて、俺が決めたんだぞ。おまえとソフィアの離縁を。頭が悪すぎて理解できねえんだな。こんなのを王太子にしちまったのは俺の過ちだ。俺のちっぽけなプライドのために、多くの人間に犠牲を強いちまった。謝罪しても許されることではないことはこの俺が一番わかってる。必ずその犠牲に報いるつもりだ」
「陛下、何を…?」
声をあげた側妃には見向きもせず、チンピラは、宰相様にひとつ頷いた。
「前回の離縁誓約書の調印式のように、3日後、離縁届の調印式を実施します。王太子殿下とソフィア様は、その日を持って正式に離縁を認めます」
「え!?」
思わず声が出てしまった私に視線が集まる。
「やっぱり僕と離縁したくないんだろう、ソフィア!さあ、早く撤回するんだ!」
叫ぶ王太子を睨み付けながら悪魔が私の手を握る。
「…フィー、どういうことですか」
「痛い、ギデオンさん、痛いからやめて!陛下、私、ギデオンさんともう性交しちゃったけど!」
「…は?」
しばしの沈黙の後、最初に戻ってきたのは宰相様だった。
「…ソフィア様、それは離縁誓約書で認められておりますから、」
「いえ、あの、避妊、してない…です…よね、ギデオンさん…」
悪魔は耳まで真っ赤になると、「フィー、なんの辱しめをわたくしは受けているのですか」と俯いてしまった。
「…あのよ。なんか問題があんのか」
チンピラが呆れたように言うけど、
「だって、もう離縁を認める、って言われたからエッチしたのに、避妊してなかったらまずくない、の、かな、…って?」
「なんで疑問形なのか不明だが、なにもまずくねえだろ。ギデオンよくやった。ヘタレだと思ってたのに意外とやるもんだな」
えー…なんか、先走った感が半端ない気がするのは私だけなのかな。まだ離縁してなかったのに…これじゃあ、不倫した妻じゃん、私。チンピラめ!なんでわざわざ調印式なんか…!あの時認めるって言ったじゃん!
ニヤニヤしているチンピラを睨み付けていると、
「おまえ、ソフィアを抱いただと!?」
王太子が突如立ち上がり悪魔を殴りつけようとしたが、近衛騎士に取り押さえられた。
「離せ!僕の妻に手を出すなんて、おまえは処刑してやる!ソフィア、おまえも痛い目に合わせてやるからな!僕を裏切りやがって、」
「…ほんとに阿呆だな。ま、あと数日の辛抱だ。おい、連れて行け」
チンピラの合図で王太子は外に連れ出された。最後までギャーギャー喚いている様を見て、あんなのを次の国王にしようとしているチンピラの思考に何度目かの疑問を覚える。国を潰すつもりなんだろうか。
そんな私の視線が届いているのか否か…チンピラは、側妃に、「おまえも必ず出席だ。逃げんなよ」と圧力をかけていた。この側妃を娶ったことだって疑問でしかない。最初は好きで子どもも作ったけど、途中から仲悪くなったのかな…でも側妃はチンピラにはツンケンしてないよな。このふたりの関係性がまったくわからない。
「いったいなんの真似です」
「黙れ!貴様がソフィアを欲しがったりするから父上が、」
「黙るのはおまえだ、リチャード」
「皆様、お座りください」
チンピラと宰相様が入ってきた。宰相様は今日も安定の微笑みをわたしに向けてくる。尊い。ありがとうございます。
チンピラが玉座に腰をおろし、その対面を指示され座る。右から側妃、王太子、悪魔、私の順だ。チンピラの前でも側妃は帽子を取ろうとしなかった。
「…さて。2週間前に、ギデオンとソフィアには告げたが、リチャード、おまえとソフィアの離縁を正式に認めた。離縁誓約書に記載した日付とは異なるが、おまえはもうソフィアの夫ではない」
「な、…っ!なんです、どういうことですか!そんな勝手が、」
「おまえが初夜に訪れなかったためにソフィアが絶望して自殺を図ったことをおまえは知っているか」
「…は?」
王太子の視線が私に向く。
「で、でも、生きて、」
「そうだ。あまりにも肥えすぎてたために、首をつったもののそのまま落ちたからな。しかしながら、それでソフィアは目が覚めたんだよ。おまえみたいな阿呆に縛られず生きていく、だから俺に誓約書の締結を願い出た。今回早まったのは、ソフィアの自殺未遂を聞いたソフィアの両親から、原因となった人間の妻でいさせるとはどういうことか、また娘を殺す気か、と正式な抗議文とともに離縁申し立てがあったからだ」
「そ、そんな、親が口を出してくるなんて、」
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「僕は王太子ですよ!何をしようと許される立場だ!僕が望んだのだからソフィアは僕の妃のままであるべきだ!」
「ほお…」
チンピラは冷酷な笑みを浮かべると、
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「ち、違います、ソフィアの両親が、」
「ソフィアの両親が出した抗議文及び申し立て書を受けて、俺が決めたんだぞ。おまえとソフィアの離縁を。頭が悪すぎて理解できねえんだな。こんなのを王太子にしちまったのは俺の過ちだ。俺のちっぽけなプライドのために、多くの人間に犠牲を強いちまった。謝罪しても許されることではないことはこの俺が一番わかってる。必ずその犠牲に報いるつもりだ」
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声をあげた側妃には見向きもせず、チンピラは、宰相様にひとつ頷いた。
「前回の離縁誓約書の調印式のように、3日後、離縁届の調印式を実施します。王太子殿下とソフィア様は、その日を持って正式に離縁を認めます」
「え!?」
思わず声が出てしまった私に視線が集まる。
「やっぱり僕と離縁したくないんだろう、ソフィア!さあ、早く撤回するんだ!」
叫ぶ王太子を睨み付けながら悪魔が私の手を握る。
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「痛い、ギデオンさん、痛いからやめて!陛下、私、ギデオンさんともう性交しちゃったけど!」
「…は?」
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「…ソフィア様、それは離縁誓約書で認められておりますから、」
「いえ、あの、避妊、してない…です…よね、ギデオンさん…」
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「…あのよ。なんか問題があんのか」
チンピラが呆れたように言うけど、
「だって、もう離縁を認める、って言われたからエッチしたのに、避妊してなかったらまずくない、の、かな、…って?」
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えー…なんか、先走った感が半端ない気がするのは私だけなのかな。まだ離縁してなかったのに…これじゃあ、不倫した妻じゃん、私。チンピラめ!なんでわざわざ調印式なんか…!あの時認めるって言ったじゃん!
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王太子が突如立ち上がり悪魔を殴りつけようとしたが、近衛騎士に取り押さえられた。
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