お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

文字の大きさ
上 下
93 / 161
トゥランクメント族の呪【シュ】

しおりを挟む
「ソフィア、帰ってきて早々でわりいが、ちょうどおまえの両親が来ててな。今から話をするから入れ。ギデオン、おまえはイングリットの部屋にいろ。終わったら呼ぶ」

「かしこまりました。フィー、降ろしますよ」

悪魔に抱かれる私を、なんの反応もなく見ているソフィアの両親…陛下の前だから?頭の中にあるソフィアの思い出より、なんだかふたりとも痩せている気がする。特に父親のほうは、お腹のでっぱりが控え目になっていた。

「では、失礼します」

去っていく悪魔を見送り、3人に続いて執務室に入ろうとすると、皇太子に腕を掴まれた。

「ソフィア、」

「衛兵、不審者を摘まみ出せ」

チンピラの命令で皇太子は拘束され引きずられていく。

「父上、なぜ僕が不審者なのですか!?父上!」

「壁の中の離宮に入れろ。絶対に出すな」

皇太子を一瞥もせず、チンピラはドカリとソファに座った。私たちにも座るように指をさす。

「ソフィア、とてもキレイになって…陛下のお許しをいただいて会いにきたの。ね、あなた」

「ああ。ソフィア、おまえの活躍を聞いてとても嬉しくてね。…今まで、済まなかったね。私たちのせいで、まさか命を絶つまで追い詰められていたなんて」

「え…」

慌ててチンピラを見ると、「発端はあのボンクラだ」と淡々と言う。

「ボンクラ、って、皇太子ですよね、」

「そうだ。あいつは、3ヶ月前に変わったおまえを見てから、なんとか離縁誓約書を無効にできないかと画策したらしい。ライラって女を放逐したのもひとつ。あとは、おまえの両親を使っておまえを説得させようとしたらしい。皇太子妃であれば、将来は王妃になるから家のためにもなるだろうと。このふたりはな、ソフィア。おまえがジャポン皇国に行って、大豆の生産を取り付けただろ?その時に、初めて領民に感謝されたんだと。領主様のお嬢様のお陰で、新たな作物に取り組める。ありがたいことです、ってな。領民のほうが先に知ってて恥ずかしい思いをして…自分の娘のことなのに、と。それから、少しずつこいつらは変わってきたんだが、あのボンクラに離縁誓約書のことを言われてまたびっくりして、俺に謁見を求めてきた。で、俺はありのままを喋った。ボンクラが3年後、おまえを捨てると言ったこと。初夜すら訪れない夫に絶望して自殺を図ったこと。落ちて頭を打ってから人が変わったこと。今は皇太子の妻だが、あくまで書類上であり3年後には離縁すること。そのあと、ギデオンと結婚すること」

「え!?」

「え、ってなんだ。ここまではもう決定事項だぞ。今更変更は聞かん。おまえとギデオンは夫婦にする」

そんな、だって、

「だって、陛下、ギデオンさんは、」

「待て、ソフィア。取り敢えず話を聞け。このふたりはな、確かに今までクズ貴族だったよ。だが、娘のおまえが自殺を図ったのに、その原因でありながら図々しくも誓約書を撤回させろ、なんて言ってきたボンクラに唯々諾々と従わず、それどころか俺に抗議に来たんだよ。自殺を図った時点で離縁を認めるべきではないか、殺されたも同然だ、ってな」

チンピラはニヤリとすると、

「てなわけで、ソフィア。おまえの両親からの抗議を受けて、おまえとボンクラの離縁を認める。今日からおまえはあいつとは夫婦ではない」

「え!?」

そんな急な話、

「ソフィア、今まで本当に済まなかった。私たちが酷い親だったせいでおまえもそんなふうに育ってしまって、なおかつ自殺にまで追い込まれていたなんて。陛下の温情で離縁が認められたから、いつでも帰ってきていいからね」

ソフィアの父親の言葉が聞こえてはいるものの、あまりの急展開に返事ができない。だって、ギデオンさんは、呪いが解けるかもしれないのに、それなのに私と結婚?ダメだよ、そんな…私はギデオンさんにふさわしくなんかない。

でも今ここで、ギデオンさんの呪いについて言うべきではないのだろう。チンピラがさっき話を遮ったのもたぶんそういう意図だ。

どうすればいいのかわからず、知らず俯いていた私をソフィアの母親がそっと抱き締めてくれた。

「ソフィア、今までよく頑張りました。一度死んだ身なのだから、もう何にも縛られる必要はありません。陛下はそう仰ったけど、貴女の気持ちが第一なのよ。ギデオン様と結婚するのがイヤなら、わたくしたちが阻止します。ね、遠慮なく言ってちょうだい」

「…ありがとう、ございます」

それ以上何も言えない私の背中を擦り続けてくれたソフィアの母親は、父親に促され部屋を出ていった。

「ギデオンを呼べ」

チンピラはふたりが出て行くのを見送ると、近衛騎士に告げ、私をじっと見た。

「ソフィア、ギデオンに不満があるのか?」

「違います。私は、ギデオンさんにふさわしくない。ギデオンさんは、呪いを解除する方法を見つけました。もう私に縛られる必要はないんです」

「…なに?」

私は、悪魔の秘密を知っていること、また、その呪いがジャポン皇国のトゥランクメント族の呪【シュ】であると判明したこと、そしてその解除方法がわかったことを告げた。

「それはどうやって解除するんだ」

「陛下に直接いちばんに話すから、私にはまだ言えないと。だから聞いてません」

ふーん、とチンピラが唸った時、ドアがノックされた。

「ギデオンです」

「入れ」

悪魔は入ってくると、「陛下、ふたりで話したいので…フィーを一度離宮に送り、それからまた来ます」と言った。私には、聞かれたくないってことなんだ、解除方法を。

「ふん、…わかった。じゃあな、ソフィア。また明日夕飯の時間に来い。いいな」

「わかりました」

悪魔は私をまた抱え馬車に乗り込み、今度は私を膝に抱いたままでいた。

「フィー、あの…もう少し、待っていてください。必ず、話しますから」

「うん…大丈夫だよ」

悪魔はホッとしたように微笑んだ。その笑顔にまた胸が痛む。

チンピラが、さっきの話をきちんと捉えて判断してくれることを祈るしかない。悪魔に気付かれないように、そっと、ため息をついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...