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トゥランクメント族の呪【シュ】
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悪魔と橘さんは5日後にようやく帰ってきた。
「フィー、会いたかった…ただいま帰りました」
ギュウッとされる感触に、思わず泣きそうになり慌てて瞬きした。
「お帰り、ギデオンさん」
ニコリ、とした悪魔は私に口付けてきた。深く深く口づけられ、胸がキュッと痛む。
「フィー、橘さんのお陰でわたくしにかけられた呪いの解き方がわかりました。陛下にご報告しなくてはならないので、なるべく早くソルマーレ国に帰りましょう」
嬉しそうな悪魔を見て、また胸が痛む。いかん、こんな感情は良くない。
「良かったね、おめでとうギデオンさん。どうやったら解けるの?」
私の言葉を聞いた悪魔はスッと目を逸らした。…なに?
「…最初に、陛下にご報告しないといけないので、…フィー、すみません、今は言えないのです」
「そうか、そうだよね。ごめん」
「いえ、こちらこそ…すみません、フィー」
なんとなくギクシャクした感じのまま、ソルマーレ国に帰ることになった。蘇芳さんが帰ってくる前に帰ってしまっていいのかと思ったが、
「謝ればいい、なんて思わせてはいけませんから」
という撫子さんに追いたてられるように港に送られる。ボールドウィン伯爵は、蘇芳さんと商談をしてからにするといい、佐々木さんが「責任を持ってすべて面倒をみます」と言うのでお願いすることにした。帰る前に会った伯爵は、なんだか嬉しそうで、幸せそうでこちらも嬉しくなった。
「私も商談が終わり次第一度帰ります。陛下によろしくお伝えください」
佐々木さんに押しきられた感がないでもないけど、本人が幸せならそれでいい。これからどうするのかは、わからないけれど。ボールドウィン伯爵はあくまでもまだ爵位を賜っている身だし、国も異なるわけだから陛下から許しが出ない限りジャポン皇国に移住するのは簡単ではないだろう。生活もどうするか、いろいろ決めなくてはならないだろうけど…今すぐどうにかしなくてはならないわけでもないだろうし。佐々木さんは離れたくないだろうけど、しばらくは遠距離にて耐えてもらうしかないだろう。
ソルマーレ国に着いて、馬車に乗ってもあまり会話が続かなかった。悪魔は考え事をしているようで返事も上の空なので、早々に話しかけるのをやめた。
私も、帰る前に橘さんに言われたことを思い出す。
「ソフィアさん、あの人はなかなか大変な人だけど、今まで、あんたと出会うまであの呪いと付き合ってひとりで頑張ってきた。どうか、支えてやってほしい。何があっても、あの人が何者であっても、あの人にはあんたが必要なんだ。それだけは絶対的な事実だ。だから、信じてやってくれ」
何を言われているのかイマイチわからなかったが、とにかく頷いておくことにする。悪魔がひとりで苦しんできたことは事実だし、私が少しでも助けになるなら支えたいと思う。
ただし、呪いが解除できたら話は別だ。私以外の女性も、きちんと人間として認識できるようになるわけだし、…私みたいなお飾り妃なんていう、しかもあと約2年後には離縁されるようなある意味傷物を妻にする必要はない。悪魔は、…ギデオンさんは、ギデオンさんに合う可愛らしい女性を妻に迎えるべきだ。
「フィー、着きましたよ」
悪魔に声を掛けられ、覚醒する。いつの間にか王宮の前だった。
「フィー、大丈夫ですか?さあ、行きましょう」
当然のように抱き上げられるが、こういうことが当たり前になっちゃうと後がツラいだろうな…。あー、もう、なんでこんな…。
「おい、待て!」
陛下の執務室に向かっていると、後ろから聞きたくない声がする。またか、とうんざりしながら見るとやはり皇太子だ。悪魔はまったく気にすることなくスタスタと歩いていく。
「待てと言っているだろう!僕の妻に触るな!」
「離縁誓約書を読めないんですか。貴方の妻である、はあくまで書類上です。フィーはわたくしのものです」
「なんだと、」
そのまま陛下の執務室の前まで来てしまったが、皇太子は一向にいなくなるつもりがないらしい。私に向かって、「ソフィア、話をしよう」などと言っている。
「うるさい。俺の部屋の前で何をしている」
皇太子の後ろからチンピラが来た。そのさらに後ろに、
「ソフィア!」
ソフィアの父母、ヘイワード公爵夫妻が立っていた。
「フィー、会いたかった…ただいま帰りました」
ギュウッとされる感触に、思わず泣きそうになり慌てて瞬きした。
「お帰り、ギデオンさん」
ニコリ、とした悪魔は私に口付けてきた。深く深く口づけられ、胸がキュッと痛む。
「フィー、橘さんのお陰でわたくしにかけられた呪いの解き方がわかりました。陛下にご報告しなくてはならないので、なるべく早くソルマーレ国に帰りましょう」
嬉しそうな悪魔を見て、また胸が痛む。いかん、こんな感情は良くない。
「良かったね、おめでとうギデオンさん。どうやったら解けるの?」
私の言葉を聞いた悪魔はスッと目を逸らした。…なに?
「…最初に、陛下にご報告しないといけないので、…フィー、すみません、今は言えないのです」
「そうか、そうだよね。ごめん」
「いえ、こちらこそ…すみません、フィー」
なんとなくギクシャクした感じのまま、ソルマーレ国に帰ることになった。蘇芳さんが帰ってくる前に帰ってしまっていいのかと思ったが、
「謝ればいい、なんて思わせてはいけませんから」
という撫子さんに追いたてられるように港に送られる。ボールドウィン伯爵は、蘇芳さんと商談をしてからにするといい、佐々木さんが「責任を持ってすべて面倒をみます」と言うのでお願いすることにした。帰る前に会った伯爵は、なんだか嬉しそうで、幸せそうでこちらも嬉しくなった。
「私も商談が終わり次第一度帰ります。陛下によろしくお伝えください」
佐々木さんに押しきられた感がないでもないけど、本人が幸せならそれでいい。これからどうするのかは、わからないけれど。ボールドウィン伯爵はあくまでもまだ爵位を賜っている身だし、国も異なるわけだから陛下から許しが出ない限りジャポン皇国に移住するのは簡単ではないだろう。生活もどうするか、いろいろ決めなくてはならないだろうけど…今すぐどうにかしなくてはならないわけでもないだろうし。佐々木さんは離れたくないだろうけど、しばらくは遠距離にて耐えてもらうしかないだろう。
ソルマーレ国に着いて、馬車に乗ってもあまり会話が続かなかった。悪魔は考え事をしているようで返事も上の空なので、早々に話しかけるのをやめた。
私も、帰る前に橘さんに言われたことを思い出す。
「ソフィアさん、あの人はなかなか大変な人だけど、今まで、あんたと出会うまであの呪いと付き合ってひとりで頑張ってきた。どうか、支えてやってほしい。何があっても、あの人が何者であっても、あの人にはあんたが必要なんだ。それだけは絶対的な事実だ。だから、信じてやってくれ」
何を言われているのかイマイチわからなかったが、とにかく頷いておくことにする。悪魔がひとりで苦しんできたことは事実だし、私が少しでも助けになるなら支えたいと思う。
ただし、呪いが解除できたら話は別だ。私以外の女性も、きちんと人間として認識できるようになるわけだし、…私みたいなお飾り妃なんていう、しかもあと約2年後には離縁されるようなある意味傷物を妻にする必要はない。悪魔は、…ギデオンさんは、ギデオンさんに合う可愛らしい女性を妻に迎えるべきだ。
「フィー、着きましたよ」
悪魔に声を掛けられ、覚醒する。いつの間にか王宮の前だった。
「フィー、大丈夫ですか?さあ、行きましょう」
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「おい、待て!」
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「待てと言っているだろう!僕の妻に触るな!」
「離縁誓約書を読めないんですか。貴方の妻である、はあくまで書類上です。フィーはわたくしのものです」
「なんだと、」
そのまま陛下の執務室の前まで来てしまったが、皇太子は一向にいなくなるつもりがないらしい。私に向かって、「ソフィア、話をしよう」などと言っている。
「うるさい。俺の部屋の前で何をしている」
皇太子の後ろからチンピラが来た。そのさらに後ろに、
「ソフィア!」
ソフィアの父母、ヘイワード公爵夫妻が立っていた。
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