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トゥランクメント族の呪【シュ】
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次の日佐々木さんが持ってきた手紙には、
『しばらくこちらでご厄介になります。ソフィア様には御迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします』
とキレイな文字で書かれていた。
佐々木さんはツヤツヤしている。
「いや…もう…最高だった…」
ニヤニヤする佐々木さんを取り敢えず蹴飛ばす。ここ、州知事の妻の実家!淫靡な雰囲気を朝から醸し出すのはやめなさい。
「佐々木さん、ボールドウィン伯爵、大丈夫なんだよね」
「うん…ちょっと、今朝は立てない感じだったかな…ごめん、あまりに可愛すぎて…あれで年上とか、もー、すべてが可愛すぎてツラい!」
ツラいのはボールドウィン伯爵でしょ、と思いつつニヤニヤする佐々木さんをもう一度蹴飛ばす。
「ちゃんと食事させてね。ダメだよ、追い込んじゃ。初めてなんだから」
「わかってます、わかってます。…我慢が利くかは別だけど」
「今すぐ連れて帰ってもいいんだよ」
「…自重します」
ニコニコしながら帰る佐々木さんを見送りながら、でもまだ帰れないんだよね、と呟く。
昨夜悪魔は、部屋に戻ってこなかった。
『しばらくの間、橘さんと行動します。何かあったら連絡してください』
と書き置きがあり、今朝も早くから出掛けてしまったそうだ。ここ3ヶ月、また一緒に寝ていたからなんとなく寂しかった。
左手の指輪をそっと見る…自分に気がつき、叫びだしたくなった。
寂しいってなに!?私しかいないから仕方ない、人命救助だ、とか偉そうに思ってたくせに!?
…悪魔の呪いが解けたら、もう私は必要なくなるのに。バカだな。
こんなふうに指輪を贈ってくれたのも、私しか人間に見えないからなのに。せっかく、呪いが解けるかもしれない、そのヒントがもたらされたのに。
「フィー」、と呼んでくれるあの声が、他の女性の愛称を呼び、真っ直ぐに愛情を注ぐのかと思うと心が乱れた。
特に何もすることがないから鬱々としてしまうのかもしれない。撫子さんとともに玄武州知事の城に行き、図書室を借りることにした。
背表紙を見ながらも、探してしまうのはトゥランクメント族の呪【シュ】について書かれているのではないか、という本ばかり。解けて欲しい、でも欲しくない、という自分の醜さを突き付けられているようで余計に落ち込んだ。なんでこんなふうになっちゃったんだろう…今まで慕ってくれていた近所の高校生に彼女ができて寂しい、みたいな感傷なのかな。情けない。
苦しんできたのは悪魔なのに。それを願ってあげられない自分に腹がたった。
『しばらくこちらでご厄介になります。ソフィア様には御迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします』
とキレイな文字で書かれていた。
佐々木さんはツヤツヤしている。
「いや…もう…最高だった…」
ニヤニヤする佐々木さんを取り敢えず蹴飛ばす。ここ、州知事の妻の実家!淫靡な雰囲気を朝から醸し出すのはやめなさい。
「佐々木さん、ボールドウィン伯爵、大丈夫なんだよね」
「うん…ちょっと、今朝は立てない感じだったかな…ごめん、あまりに可愛すぎて…あれで年上とか、もー、すべてが可愛すぎてツラい!」
ツラいのはボールドウィン伯爵でしょ、と思いつつニヤニヤする佐々木さんをもう一度蹴飛ばす。
「ちゃんと食事させてね。ダメだよ、追い込んじゃ。初めてなんだから」
「わかってます、わかってます。…我慢が利くかは別だけど」
「今すぐ連れて帰ってもいいんだよ」
「…自重します」
ニコニコしながら帰る佐々木さんを見送りながら、でもまだ帰れないんだよね、と呟く。
昨夜悪魔は、部屋に戻ってこなかった。
『しばらくの間、橘さんと行動します。何かあったら連絡してください』
と書き置きがあり、今朝も早くから出掛けてしまったそうだ。ここ3ヶ月、また一緒に寝ていたからなんとなく寂しかった。
左手の指輪をそっと見る…自分に気がつき、叫びだしたくなった。
寂しいってなに!?私しかいないから仕方ない、人命救助だ、とか偉そうに思ってたくせに!?
…悪魔の呪いが解けたら、もう私は必要なくなるのに。バカだな。
こんなふうに指輪を贈ってくれたのも、私しか人間に見えないからなのに。せっかく、呪いが解けるかもしれない、そのヒントがもたらされたのに。
「フィー」、と呼んでくれるあの声が、他の女性の愛称を呼び、真っ直ぐに愛情を注ぐのかと思うと心が乱れた。
特に何もすることがないから鬱々としてしまうのかもしれない。撫子さんとともに玄武州知事の城に行き、図書室を借りることにした。
背表紙を見ながらも、探してしまうのはトゥランクメント族の呪【シュ】について書かれているのではないか、という本ばかり。解けて欲しい、でも欲しくない、という自分の醜さを突き付けられているようで余計に落ち込んだ。なんでこんなふうになっちゃったんだろう…今まで慕ってくれていた近所の高校生に彼女ができて寂しい、みたいな感傷なのかな。情けない。
苦しんできたのは悪魔なのに。それを願ってあげられない自分に腹がたった。
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