お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

文字の大きさ
上 下
88 / 161
トゥランクメント族の呪【シュ】

しおりを挟む
織部さんと藤乃さんの結婚式は、皇族だけが参加する、しかしとても温かい式だった。みんながニコニコしていて、二人を祝福してくれていることがよくわかる。

式が終わると、藤乃さんがやってきた。

「藤乃さん、おめでとうございます。すごくキレイで感動したよ」

和装の藤乃さんは輝くばかりの美しさだ。

「あ、ありがとうございます、ソフィア様、…あの、ご報告が、ありまして」

藤乃さんはモジモジすると、「実は、…妊娠したようなのです、わたくし」

「え!?」

あれ?あの鬼畜のせいで、

「わたくしも、信じられなくて…見てくださったお医者様が、子宮を取り出すなら腹に傷痕を残さず処置できるはずがない、貴女の処置をした者にはまだ良識が残っていたのでしょう、と。まだ、織部様には内緒なんです。安定期に入ってからお伝えしようかと、」

「ダメだよ、早く教えてあげなよ!織部さん、すごく喜ぶよ。藤乃さん、夫婦に隠し事はないほうがいいよ、たとえおめでたいことでも」

「…そうでしょうか。織部様は、喜んでくださるでしょうか」

やっぱり、まだ負い目みたいなものがあるんだろうなあ…。そう簡単に癒える傷ではないだろうし。

「喜んでくれるに決まってるよ。織部さんは、藤乃さんのことがだいだいだいすきなんだから」

「わたくしもフィーがだいだいだいすきです」

悪魔よ…勝手に話に混ざってくるのはやめるべきだとわからないのか。

「そして、織部さんが藤乃さんを大切に思っていることは痛いほどわかります。織部さんは男の中の男です。藤乃さん、安心して、織部さんにすべてを預けていいとわたくしは思います」

「…ありがとうございます」

悪魔の言葉を聞いて、藤乃さんは瞳を潤ませた。

「今のは聞かなかったことにするから、一番に報告してあげて。織部さん、いいお父さんになるよ、きっと。あんなに伸びやかで、しなやかな心を持っている人だから」

藤乃さんはペコリ、とすると、織部さんを探しに戻っていった。

「いいですね、織部さん。わたくしも早くフィーを孕ませたいです」

「ギデオンさん、孕ませるって…」

「この前読んだマンガで、女性が『孕ませてぇっ』と絶頂するシーンがあり、すごく下半身が熱くなりました。フィー、わたくしと性交する時もそう言ってください。興奮します」

やっぱりムッツリなんだ、悪魔。まあでも、楽しそうだからいいか。

「あのさ、ギデオンさん。マンガ通りにはいかないんだよ。私は私だし、ギデオンさんはギデオンさんだし」

「そうですよ、もちろんです。ただ、わたくしが興奮したとフィーに言っただけです。妊娠させてくれ、なんて、最高に求められている感じがするじゃありませんか。わたくしはいつでもフィーを孕ませる準備はありますが、なにせあの腐れ皇太子と離縁が成立するまでは待つしかありませんので…なので、言葉だけでもわたくしにください。お願いします。種付けして、でも構いません。赤ちゃんできちゃう、でも」

孕ませる準備が万端だとキリッとした顔で言われても…美形は得だよね。何を言っても許される気がするもん。

しかしながらうちの悪魔はムッツリだけど可愛いな、と頭を撫でていると、「お姉さま!」と声がした。

「お姉さま、ちょうど良かった。ギデオン様もご一緒で」

振り向くと、撫子さんがボールドウィン伯爵を伴ってこちらに向かってくるところだった。

「荷物はもう送りましたので、玄武州に参りましょう」

「…え?」

するとさらに後ろから「撫子!待って、ごめん、僕が軽率だった!」と蘇芳さんが走ってくるのが見える。

「私、しばらく実家に帰ります。蘇芳様、ご機嫌よう」

そう言った撫子さんの足元に淡い光が発生する。

「お姉さま、ギデオン様、さあ、この中に」

「撫子、待って!」

蘇芳さんが手を伸ばしたところで、周りの風景がスッと切り替わった。

「お姉さま、ここは私の実家です。トゥランクメント族の部落の中なので、私と同じ容姿の者ばかりです。部族と言っても、頑なに余所者は入れない!なんてことはありませんから。どうぞゆっくり滞在してくださいね。ギデオン様も、伯爵様も、お部屋は準備してございます。蘇芳様のことは、お義父様に一週間ほど足止めをお願いしてきましたので、その間に佐々木に会いに参りましょう。まったく、バカなことを…ギデオン様、申し訳ありませんでした」

頭を下げる撫子さんに珍しく悪魔が焦ったようになる。

「いえ、わたくしがフィーを信じていなかったのが悪いので、わたくしにも責任がありますから」

それを聞いてボールドウィン伯爵はウンウン、と頷いている。

「では、これで手打ちにしてくださいませ。蘇芳様にはキツく仕置きをいたしますから。私の家族を紹介いたしますね。皆様の話をしていたので、お会いできるのを楽しみに待っていたのです」

ニッコリする撫子さん、かなり成長したなあ…。蘇芳さんが掌の上で転がされるのも時間の問題かもしれない。かかあ天下のほうがうまくいく、っても言うからね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

処理中です...