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トゥランクメント族の呪【シュ】
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織部さんと藤乃さんの結婚式は、皇族だけが参加する、しかしとても温かい式だった。みんながニコニコしていて、二人を祝福してくれていることがよくわかる。
式が終わると、藤乃さんがやってきた。
「藤乃さん、おめでとうございます。すごくキレイで感動したよ」
和装の藤乃さんは輝くばかりの美しさだ。
「あ、ありがとうございます、ソフィア様、…あの、ご報告が、ありまして」
藤乃さんはモジモジすると、「実は、…妊娠したようなのです、わたくし」
「え!?」
あれ?あの鬼畜のせいで、
「わたくしも、信じられなくて…見てくださったお医者様が、子宮を取り出すなら腹に傷痕を残さず処置できるはずがない、貴女の処置をした者にはまだ良識が残っていたのでしょう、と。まだ、織部様には内緒なんです。安定期に入ってからお伝えしようかと、」
「ダメだよ、早く教えてあげなよ!織部さん、すごく喜ぶよ。藤乃さん、夫婦に隠し事はないほうがいいよ、たとえおめでたいことでも」
「…そうでしょうか。織部様は、喜んでくださるでしょうか」
やっぱり、まだ負い目みたいなものがあるんだろうなあ…。そう簡単に癒える傷ではないだろうし。
「喜んでくれるに決まってるよ。織部さんは、藤乃さんのことがだいだいだいすきなんだから」
「わたくしもフィーがだいだいだいすきです」
悪魔よ…勝手に話に混ざってくるのはやめるべきだとわからないのか。
「そして、織部さんが藤乃さんを大切に思っていることは痛いほどわかります。織部さんは男の中の男です。藤乃さん、安心して、織部さんにすべてを預けていいとわたくしは思います」
「…ありがとうございます」
悪魔の言葉を聞いて、藤乃さんは瞳を潤ませた。
「今のは聞かなかったことにするから、一番に報告してあげて。織部さん、いいお父さんになるよ、きっと。あんなに伸びやかで、しなやかな心を持っている人だから」
藤乃さんはペコリ、とすると、織部さんを探しに戻っていった。
「いいですね、織部さん。わたくしも早くフィーを孕ませたいです」
「ギデオンさん、孕ませるって…」
「この前読んだマンガで、女性が『孕ませてぇっ』と絶頂するシーンがあり、すごく下半身が熱くなりました。フィー、わたくしと性交する時もそう言ってください。興奮します」
やっぱりムッツリなんだ、悪魔。まあでも、楽しそうだからいいか。
「あのさ、ギデオンさん。マンガ通りにはいかないんだよ。私は私だし、ギデオンさんはギデオンさんだし」
「そうですよ、もちろんです。ただ、わたくしが興奮したとフィーに言っただけです。妊娠させてくれ、なんて、最高に求められている感じがするじゃありませんか。わたくしはいつでもフィーを孕ませる準備はありますが、なにせあの腐れ皇太子と離縁が成立するまでは待つしかありませんので…なので、言葉だけでもわたくしにください。お願いします。種付けして、でも構いません。赤ちゃんできちゃう、でも」
孕ませる準備が万端だとキリッとした顔で言われても…美形は得だよね。何を言っても許される気がするもん。
しかしながらうちの悪魔はムッツリだけど可愛いな、と頭を撫でていると、「お姉さま!」と声がした。
「お姉さま、ちょうど良かった。ギデオン様もご一緒で」
振り向くと、撫子さんがボールドウィン伯爵を伴ってこちらに向かってくるところだった。
「荷物はもう送りましたので、玄武州に参りましょう」
「…え?」
するとさらに後ろから「撫子!待って、ごめん、僕が軽率だった!」と蘇芳さんが走ってくるのが見える。
「私、しばらく実家に帰ります。蘇芳様、ご機嫌よう」
そう言った撫子さんの足元に淡い光が発生する。
「お姉さま、ギデオン様、さあ、この中に」
「撫子、待って!」
蘇芳さんが手を伸ばしたところで、周りの風景がスッと切り替わった。
「お姉さま、ここは私の実家です。トゥランクメント族の部落の中なので、私と同じ容姿の者ばかりです。部族と言っても、頑なに余所者は入れない!なんてことはありませんから。どうぞゆっくり滞在してくださいね。ギデオン様も、伯爵様も、お部屋は準備してございます。蘇芳様のことは、お義父様に一週間ほど足止めをお願いしてきましたので、その間に佐々木に会いに参りましょう。まったく、バカなことを…ギデオン様、申し訳ありませんでした」
頭を下げる撫子さんに珍しく悪魔が焦ったようになる。
「いえ、わたくしがフィーを信じていなかったのが悪いので、わたくしにも責任がありますから」
それを聞いてボールドウィン伯爵はウンウン、と頷いている。
「では、これで手打ちにしてくださいませ。蘇芳様にはキツく仕置きをいたしますから。私の家族を紹介いたしますね。皆様の話をしていたので、お会いできるのを楽しみに待っていたのです」
ニッコリする撫子さん、かなり成長したなあ…。蘇芳さんが掌の上で転がされるのも時間の問題かもしれない。かかあ天下のほうがうまくいく、っても言うからね。
式が終わると、藤乃さんがやってきた。
「藤乃さん、おめでとうございます。すごくキレイで感動したよ」
和装の藤乃さんは輝くばかりの美しさだ。
「あ、ありがとうございます、ソフィア様、…あの、ご報告が、ありまして」
藤乃さんはモジモジすると、「実は、…妊娠したようなのです、わたくし」
「え!?」
あれ?あの鬼畜のせいで、
「わたくしも、信じられなくて…見てくださったお医者様が、子宮を取り出すなら腹に傷痕を残さず処置できるはずがない、貴女の処置をした者にはまだ良識が残っていたのでしょう、と。まだ、織部様には内緒なんです。安定期に入ってからお伝えしようかと、」
「ダメだよ、早く教えてあげなよ!織部さん、すごく喜ぶよ。藤乃さん、夫婦に隠し事はないほうがいいよ、たとえおめでたいことでも」
「…そうでしょうか。織部様は、喜んでくださるでしょうか」
やっぱり、まだ負い目みたいなものがあるんだろうなあ…。そう簡単に癒える傷ではないだろうし。
「喜んでくれるに決まってるよ。織部さんは、藤乃さんのことがだいだいだいすきなんだから」
「わたくしもフィーがだいだいだいすきです」
悪魔よ…勝手に話に混ざってくるのはやめるべきだとわからないのか。
「そして、織部さんが藤乃さんを大切に思っていることは痛いほどわかります。織部さんは男の中の男です。藤乃さん、安心して、織部さんにすべてを預けていいとわたくしは思います」
「…ありがとうございます」
悪魔の言葉を聞いて、藤乃さんは瞳を潤ませた。
「今のは聞かなかったことにするから、一番に報告してあげて。織部さん、いいお父さんになるよ、きっと。あんなに伸びやかで、しなやかな心を持っている人だから」
藤乃さんはペコリ、とすると、織部さんを探しに戻っていった。
「いいですね、織部さん。わたくしも早くフィーを孕ませたいです」
「ギデオンさん、孕ませるって…」
「この前読んだマンガで、女性が『孕ませてぇっ』と絶頂するシーンがあり、すごく下半身が熱くなりました。フィー、わたくしと性交する時もそう言ってください。興奮します」
やっぱりムッツリなんだ、悪魔。まあでも、楽しそうだからいいか。
「あのさ、ギデオンさん。マンガ通りにはいかないんだよ。私は私だし、ギデオンさんはギデオンさんだし」
「そうですよ、もちろんです。ただ、わたくしが興奮したとフィーに言っただけです。妊娠させてくれ、なんて、最高に求められている感じがするじゃありませんか。わたくしはいつでもフィーを孕ませる準備はありますが、なにせあの腐れ皇太子と離縁が成立するまでは待つしかありませんので…なので、言葉だけでもわたくしにください。お願いします。種付けして、でも構いません。赤ちゃんできちゃう、でも」
孕ませる準備が万端だとキリッとした顔で言われても…美形は得だよね。何を言っても許される気がするもん。
しかしながらうちの悪魔はムッツリだけど可愛いな、と頭を撫でていると、「お姉さま!」と声がした。
「お姉さま、ちょうど良かった。ギデオン様もご一緒で」
振り向くと、撫子さんがボールドウィン伯爵を伴ってこちらに向かってくるところだった。
「荷物はもう送りましたので、玄武州に参りましょう」
「…え?」
するとさらに後ろから「撫子!待って、ごめん、僕が軽率だった!」と蘇芳さんが走ってくるのが見える。
「私、しばらく実家に帰ります。蘇芳様、ご機嫌よう」
そう言った撫子さんの足元に淡い光が発生する。
「お姉さま、ギデオン様、さあ、この中に」
「撫子、待って!」
蘇芳さんが手を伸ばしたところで、周りの風景がスッと切り替わった。
「お姉さま、ここは私の実家です。トゥランクメント族の部落の中なので、私と同じ容姿の者ばかりです。部族と言っても、頑なに余所者は入れない!なんてことはありませんから。どうぞゆっくり滞在してくださいね。ギデオン様も、伯爵様も、お部屋は準備してございます。蘇芳様のことは、お義父様に一週間ほど足止めをお願いしてきましたので、その間に佐々木に会いに参りましょう。まったく、バカなことを…ギデオン様、申し訳ありませんでした」
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「いえ、わたくしがフィーを信じていなかったのが悪いので、わたくしにも責任がありますから」
それを聞いてボールドウィン伯爵はウンウン、と頷いている。
「では、これで手打ちにしてくださいませ。蘇芳様にはキツく仕置きをいたしますから。私の家族を紹介いたしますね。皆様の話をしていたので、お会いできるのを楽しみに待っていたのです」
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