88 / 161
トゥランクメント族の呪【シュ】
1
しおりを挟む
織部さんと藤乃さんの結婚式は、皇族だけが参加する、しかしとても温かい式だった。みんながニコニコしていて、二人を祝福してくれていることがよくわかる。
式が終わると、藤乃さんがやってきた。
「藤乃さん、おめでとうございます。すごくキレイで感動したよ」
和装の藤乃さんは輝くばかりの美しさだ。
「あ、ありがとうございます、ソフィア様、…あの、ご報告が、ありまして」
藤乃さんはモジモジすると、「実は、…妊娠したようなのです、わたくし」
「え!?」
あれ?あの鬼畜のせいで、
「わたくしも、信じられなくて…見てくださったお医者様が、子宮を取り出すなら腹に傷痕を残さず処置できるはずがない、貴女の処置をした者にはまだ良識が残っていたのでしょう、と。まだ、織部様には内緒なんです。安定期に入ってからお伝えしようかと、」
「ダメだよ、早く教えてあげなよ!織部さん、すごく喜ぶよ。藤乃さん、夫婦に隠し事はないほうがいいよ、たとえおめでたいことでも」
「…そうでしょうか。織部様は、喜んでくださるでしょうか」
やっぱり、まだ負い目みたいなものがあるんだろうなあ…。そう簡単に癒える傷ではないだろうし。
「喜んでくれるに決まってるよ。織部さんは、藤乃さんのことがだいだいだいすきなんだから」
「わたくしもフィーがだいだいだいすきです」
悪魔よ…勝手に話に混ざってくるのはやめるべきだとわからないのか。
「そして、織部さんが藤乃さんを大切に思っていることは痛いほどわかります。織部さんは男の中の男です。藤乃さん、安心して、織部さんにすべてを預けていいとわたくしは思います」
「…ありがとうございます」
悪魔の言葉を聞いて、藤乃さんは瞳を潤ませた。
「今のは聞かなかったことにするから、一番に報告してあげて。織部さん、いいお父さんになるよ、きっと。あんなに伸びやかで、しなやかな心を持っている人だから」
藤乃さんはペコリ、とすると、織部さんを探しに戻っていった。
「いいですね、織部さん。わたくしも早くフィーを孕ませたいです」
「ギデオンさん、孕ませるって…」
「この前読んだマンガで、女性が『孕ませてぇっ』と絶頂するシーンがあり、すごく下半身が熱くなりました。フィー、わたくしと性交する時もそう言ってください。興奮します」
やっぱりムッツリなんだ、悪魔。まあでも、楽しそうだからいいか。
「あのさ、ギデオンさん。マンガ通りにはいかないんだよ。私は私だし、ギデオンさんはギデオンさんだし」
「そうですよ、もちろんです。ただ、わたくしが興奮したとフィーに言っただけです。妊娠させてくれ、なんて、最高に求められている感じがするじゃありませんか。わたくしはいつでもフィーを孕ませる準備はありますが、なにせあの腐れ皇太子と離縁が成立するまでは待つしかありませんので…なので、言葉だけでもわたくしにください。お願いします。種付けして、でも構いません。赤ちゃんできちゃう、でも」
孕ませる準備が万端だとキリッとした顔で言われても…美形は得だよね。何を言っても許される気がするもん。
しかしながらうちの悪魔はムッツリだけど可愛いな、と頭を撫でていると、「お姉さま!」と声がした。
「お姉さま、ちょうど良かった。ギデオン様もご一緒で」
振り向くと、撫子さんがボールドウィン伯爵を伴ってこちらに向かってくるところだった。
「荷物はもう送りましたので、玄武州に参りましょう」
「…え?」
するとさらに後ろから「撫子!待って、ごめん、僕が軽率だった!」と蘇芳さんが走ってくるのが見える。
「私、しばらく実家に帰ります。蘇芳様、ご機嫌よう」
そう言った撫子さんの足元に淡い光が発生する。
「お姉さま、ギデオン様、さあ、この中に」
「撫子、待って!」
蘇芳さんが手を伸ばしたところで、周りの風景がスッと切り替わった。
「お姉さま、ここは私の実家です。トゥランクメント族の部落の中なので、私と同じ容姿の者ばかりです。部族と言っても、頑なに余所者は入れない!なんてことはありませんから。どうぞゆっくり滞在してくださいね。ギデオン様も、伯爵様も、お部屋は準備してございます。蘇芳様のことは、お義父様に一週間ほど足止めをお願いしてきましたので、その間に佐々木に会いに参りましょう。まったく、バカなことを…ギデオン様、申し訳ありませんでした」
頭を下げる撫子さんに珍しく悪魔が焦ったようになる。
「いえ、わたくしがフィーを信じていなかったのが悪いので、わたくしにも責任がありますから」
それを聞いてボールドウィン伯爵はウンウン、と頷いている。
「では、これで手打ちにしてくださいませ。蘇芳様にはキツく仕置きをいたしますから。私の家族を紹介いたしますね。皆様の話をしていたので、お会いできるのを楽しみに待っていたのです」
ニッコリする撫子さん、かなり成長したなあ…。蘇芳さんが掌の上で転がされるのも時間の問題かもしれない。かかあ天下のほうがうまくいく、っても言うからね。
式が終わると、藤乃さんがやってきた。
「藤乃さん、おめでとうございます。すごくキレイで感動したよ」
和装の藤乃さんは輝くばかりの美しさだ。
「あ、ありがとうございます、ソフィア様、…あの、ご報告が、ありまして」
藤乃さんはモジモジすると、「実は、…妊娠したようなのです、わたくし」
「え!?」
あれ?あの鬼畜のせいで、
「わたくしも、信じられなくて…見てくださったお医者様が、子宮を取り出すなら腹に傷痕を残さず処置できるはずがない、貴女の処置をした者にはまだ良識が残っていたのでしょう、と。まだ、織部様には内緒なんです。安定期に入ってからお伝えしようかと、」
「ダメだよ、早く教えてあげなよ!織部さん、すごく喜ぶよ。藤乃さん、夫婦に隠し事はないほうがいいよ、たとえおめでたいことでも」
「…そうでしょうか。織部様は、喜んでくださるでしょうか」
やっぱり、まだ負い目みたいなものがあるんだろうなあ…。そう簡単に癒える傷ではないだろうし。
「喜んでくれるに決まってるよ。織部さんは、藤乃さんのことがだいだいだいすきなんだから」
「わたくしもフィーがだいだいだいすきです」
悪魔よ…勝手に話に混ざってくるのはやめるべきだとわからないのか。
「そして、織部さんが藤乃さんを大切に思っていることは痛いほどわかります。織部さんは男の中の男です。藤乃さん、安心して、織部さんにすべてを預けていいとわたくしは思います」
「…ありがとうございます」
悪魔の言葉を聞いて、藤乃さんは瞳を潤ませた。
「今のは聞かなかったことにするから、一番に報告してあげて。織部さん、いいお父さんになるよ、きっと。あんなに伸びやかで、しなやかな心を持っている人だから」
藤乃さんはペコリ、とすると、織部さんを探しに戻っていった。
「いいですね、織部さん。わたくしも早くフィーを孕ませたいです」
「ギデオンさん、孕ませるって…」
「この前読んだマンガで、女性が『孕ませてぇっ』と絶頂するシーンがあり、すごく下半身が熱くなりました。フィー、わたくしと性交する時もそう言ってください。興奮します」
やっぱりムッツリなんだ、悪魔。まあでも、楽しそうだからいいか。
「あのさ、ギデオンさん。マンガ通りにはいかないんだよ。私は私だし、ギデオンさんはギデオンさんだし」
「そうですよ、もちろんです。ただ、わたくしが興奮したとフィーに言っただけです。妊娠させてくれ、なんて、最高に求められている感じがするじゃありませんか。わたくしはいつでもフィーを孕ませる準備はありますが、なにせあの腐れ皇太子と離縁が成立するまでは待つしかありませんので…なので、言葉だけでもわたくしにください。お願いします。種付けして、でも構いません。赤ちゃんできちゃう、でも」
孕ませる準備が万端だとキリッとした顔で言われても…美形は得だよね。何を言っても許される気がするもん。
しかしながらうちの悪魔はムッツリだけど可愛いな、と頭を撫でていると、「お姉さま!」と声がした。
「お姉さま、ちょうど良かった。ギデオン様もご一緒で」
振り向くと、撫子さんがボールドウィン伯爵を伴ってこちらに向かってくるところだった。
「荷物はもう送りましたので、玄武州に参りましょう」
「…え?」
するとさらに後ろから「撫子!待って、ごめん、僕が軽率だった!」と蘇芳さんが走ってくるのが見える。
「私、しばらく実家に帰ります。蘇芳様、ご機嫌よう」
そう言った撫子さんの足元に淡い光が発生する。
「お姉さま、ギデオン様、さあ、この中に」
「撫子、待って!」
蘇芳さんが手を伸ばしたところで、周りの風景がスッと切り替わった。
「お姉さま、ここは私の実家です。トゥランクメント族の部落の中なので、私と同じ容姿の者ばかりです。部族と言っても、頑なに余所者は入れない!なんてことはありませんから。どうぞゆっくり滞在してくださいね。ギデオン様も、伯爵様も、お部屋は準備してございます。蘇芳様のことは、お義父様に一週間ほど足止めをお願いしてきましたので、その間に佐々木に会いに参りましょう。まったく、バカなことを…ギデオン様、申し訳ありませんでした」
頭を下げる撫子さんに珍しく悪魔が焦ったようになる。
「いえ、わたくしがフィーを信じていなかったのが悪いので、わたくしにも責任がありますから」
それを聞いてボールドウィン伯爵はウンウン、と頷いている。
「では、これで手打ちにしてくださいませ。蘇芳様にはキツく仕置きをいたしますから。私の家族を紹介いたしますね。皆様の話をしていたので、お会いできるのを楽しみに待っていたのです」
ニッコリする撫子さん、かなり成長したなあ…。蘇芳さんが掌の上で転がされるのも時間の問題かもしれない。かかあ天下のほうがうまくいく、っても言うからね。
37
お気に入りに追加
5,689
あなたにおすすめの小説

妹に婚約者を奪われたので妹の服を全部売りさばくことに決めました
常野夏子
恋愛
婚約者フレデリックを妹ジェシカに奪われたクラリッサ。
裏切りに打ちひしがれるも、やがて復讐を決意する。
ジェシカが莫大な資金を投じて集めた高級服の数々――それを全て売りさばき、彼女の誇りを粉々に砕くのだ。

お姉さまが家を出て行き、婚約者を譲られました
さこの
恋愛
姉は優しく美しい。姉の名前はアリシア私の名前はフェリシア
姉の婚約者は第三王子
お茶会をすると一緒に来てと言われる
アリシアは何かとフェリシアと第三王子を二人にしたがる
ある日姉が父に言った。
アリシアでもフェリシアでも婚約者がクリスタル伯爵家の娘ならどちらでも良いですよね?
バカな事を言うなと怒る父、次の日に姉が家を、出た
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~
Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。
「俺はお前を愛することはない!」
初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。
(この家も長くはもたないわね)
貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。
ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。
6話と7話の間が抜けてしまいました…
7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる