お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

文字の大きさ
上 下
84 / 161
指輪という愛の証を

しおりを挟む
「お姉さま!ようこそいらっしゃいました!もうお怪我は大丈夫ですか?」

港に着くと、撫子さんが出迎えてくれた。

「ありがとう、撫子さん、大丈夫だよ。ご心配おかけしました。こちら、ソルマーレ国の伯爵、ボールドウィンさんです」

ボールドウィン伯爵は一礼すると、

「ロイド・ボールドウィンと申します。玄武州知事の奥様にお出迎えいただけるとは、恐悦至極でございます」

さすが悪魔とは違う。当の悪魔はペコリ、としたのみだった。他国の皇族にまでこの態度。

「ご丁寧にありがとうございます。夫が、伯爵にお会いするのを楽しみにしておりまして…玄武州では、翡翠がとれるのですが、我が国はあまり装飾品が出回っていないのと、どのような形にするとより美しさを活かせるか知識がないので…是非にもお知恵を拝借したいと申しておりますの」

「私でお役にたてれば幸いです」

…特別区のことと言い、蘇芳さんて結構遣り手のビジネスマンなんだな。今までは朱雀州が税収も高くて当たり前、どうせ他の州の知事に選ばれたら皇帝にはなれない、という諦念から領地経営に力を入れない州知事ばかりだったみたいだけど、玄武州出身の妻・撫子さんのサポートで玄武州の特産品を活かした商品も開発して他州にバンバン売り込んでるみたいだし。

城に着くと、英樹さんと早苗さんが出迎えてくれ、懐かしさが込み上げる。

「ご無沙汰しております、陛下。たくさんお世話になりながらキチンとご挨拶もせず、」

「ソフィアさん、いらっしゃい。そんなこと気にしないで。…ギデオン、殿、も、ようこそ…」

「お世話になります」

…英樹さんと啓一郎さんを私のケガで脅した悪魔のことをかなり恐れているらしく英樹さんはビクビクした感じだが、悪魔はどこ吹く風でしれっとしている。まったく…。

ボールドウィン伯爵も紹介し、応接室に通される。

「今夜から貴賓室にお泊まりください。一応、三部屋ご用意してますが、」

「わたくしはフィーと同室ですので、二部屋で構いません」

不敬悪魔の言葉に苦笑いした英樹さんは、「みんなを呼んで」と撫子さんに声をかけた。

「ソフィアさん、いらっしゃい!元気だった?」

「朝霧さん、こんにちは!…あれ?伽藍さんは?」

ニヤリとした朝霧さんの後ろから来た蘇芳さんが、

「ソフィアさん、こんにちは。朝霧はね、白虎州に移動したその日から伽藍を寝室から出さなかったみたいでね。早々に妊娠しちゃったの。まだ不安定だから、大事をとって今回はお留守番なんだよ。まったく、せっかくのお祝い事でわかってたことなのに」

「だって、ずっと我慢してたんだよ、僕。伽藍さんだって許してくれたもん。可愛い伽藍さんの話をしたら早く帰りたくなっちゃった。帰っていい?」

「駄目に決まってんだろ、阿呆」

後ろから朝霧さんを叩くのは羅刹さん。その隣にクスクス笑う芙蓉さんもいる。

「ソフィア様、伽藍様がお会いできず残念がっていましたわ。わたくしたちもお手紙でしかやり取りできていないのですが、機会があれば白虎州にも来て欲しいそうです」

みんな仲良さそうで何より…ほっこり嬉しくなる。

「ソフィアさん、いらっしゃい」

藤乃さんの手を繋いで現れた織部さんを見た悪魔はなぜか私の手を握った。離そうにもまったく離さない。なんなの。対抗意識なの。

「こんにちは、織部さん、藤乃さん。このたびはおめでとうございます。ええと、伽藍さんはいなくて残念なんだけど。実は皆様に贈り物がありまして」

私の言葉を聞いたボールドウィン伯爵が、紙袋を5つ応接室のテーブルに出してくれた。ボールドウィン伯爵家の家紋が押されている紙袋。せっかくなので、こういう包装紙などにもこだわって新たに作ってみてもらった。使うのは今日が初めてだ。

「これは、陛下と早苗さんに…ボールドウィン伯爵からです。あとは、私から皆さんに。良かったら、開けてみてください」

みんな一様に首を傾げながらも紙袋から包装された箱を取り出してくれた。

「…お姉さま、これは」

「指輪です。ソルマーレ国では、婚約者に贈ったり、結婚式の時にお互いの指に嵌めて愛を誓ったりするんです。撫子さんに協力してもらって、サイズは大丈夫だと思うんですが…一応、嵌めてみてもらえますか?」

旦那様方が揃って奥様の指に嵌めてくれた。朝霧さんは自業自得なのでひとり落ち込んでいたまえ。

「わあ…素敵ねえ。この石は、ダイヤモンドですか?」

早苗さんが目をキラキラさせながら英樹さんの指に着けている。

「そうです。私の領地ではダイヤモンドが産出できるため、それを活かしたアクセサリーを特産品のひとつにしています。陛下と奥様には、ダイヤモンドを五つずつちりばめてみました。皇帝陛下と、治める4州を模してみました」

「ありがとうございます。なんだか、今まで着けたこともないから落ち着かない感触ですが、目に入ると妻とお揃いのものを身につけているという嬉しさがありますね」

英樹さんは顔を綻ばせ、「でも、お高いのでしょう。こんな、」とキュッと眉をしかめた。

「それは、その…今後のジャポン皇国での販売権などについての交渉代として受け取っていただければ…イヤらしい話で申し訳ないんですが」

ボールドウィン伯爵の言葉を聞いて、英樹さんはニコリとし、

「いや、それなら是非にもお願いします」

「それは僕が交渉させていただきます」

割って入ってきた蘇芳さんに、

「兄上、ズルいですよ!」

「そうですよ、さっさと特別区なんて作ってしまって…」

「朱雀州からも移住者が出ています。独り占めはズルいです」

「僕のとこは、もう具体的に翡翠を使うって決めてるの。すぐに交渉に入れるの。事前準備した僕の勝ち。いや、アドバイスをくれた撫子のお陰だね、さすが撫子だ」

撫子さんを引き寄せチュッとする蘇芳さんのイチャイチャっぷりも健在だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

出世のために結婚した夫から「好きな人ができたから別れてほしい」と言われたのですが~その好きな人って変装したわたしでは?

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
古代魔法を専門とする魔法研究者のアンヌッカは、家族と研究所を守るために軍人のライオネルと結婚をする。 ライオネルもまた昇進のために結婚をしなければならず、国王からの命令ということもあり結婚を渋々と引き受ける。 しかし、愛のない結婚をした二人は結婚式当日すら顔を合わせることなく、そのまま離れて暮らすこととなった。 ある日、アンヌッカの父が所長を務める魔法研究所に軍から古代文字で書かれた魔導書の解読依頼が届く。 それは禁帯本で持ち出し不可のため、軍施設に研究者を派遣してほしいという依頼だ。 この依頼に対応できるのは研究所のなかでもアンヌッカしかいない。 しかし軍人の妻が軍に派遣されて働くというのは体裁が悪いし何よりも会ったことのない夫が反対するかもしれない。 そう思ったアンヌッカたちは、アンヌッカを親戚の娘のカタリーナとして軍に送り込んだ――。 素性を隠したまま働く妻に、知らぬ間に惹かれていく(恋愛にはぽんこつ)夫とのラブコメディ。

お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】 私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。 その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。 ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない 自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。 そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが―― ※ 他サイトでも投稿中   途中まで鬱展開続きます(注意)

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

処理中です...