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指輪という愛の証を
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「お姉さま!ようこそいらっしゃいました!もうお怪我は大丈夫ですか?」
港に着くと、撫子さんが出迎えてくれた。
「ありがとう、撫子さん、大丈夫だよ。ご心配おかけしました。こちら、ソルマーレ国の伯爵、ボールドウィンさんです」
ボールドウィン伯爵は一礼すると、
「ロイド・ボールドウィンと申します。玄武州知事の奥様にお出迎えいただけるとは、恐悦至極でございます」
さすが悪魔とは違う。当の悪魔はペコリ、としたのみだった。他国の皇族にまでこの態度。
「ご丁寧にありがとうございます。夫が、伯爵にお会いするのを楽しみにしておりまして…玄武州では、翡翠がとれるのですが、我が国はあまり装飾品が出回っていないのと、どのような形にするとより美しさを活かせるか知識がないので…是非にもお知恵を拝借したいと申しておりますの」
「私でお役にたてれば幸いです」
…特別区のことと言い、蘇芳さんて結構遣り手のビジネスマンなんだな。今までは朱雀州が税収も高くて当たり前、どうせ他の州の知事に選ばれたら皇帝にはなれない、という諦念から領地経営に力を入れない州知事ばかりだったみたいだけど、玄武州出身の妻・撫子さんのサポートで玄武州の特産品を活かした商品も開発して他州にバンバン売り込んでるみたいだし。
城に着くと、英樹さんと早苗さんが出迎えてくれ、懐かしさが込み上げる。
「ご無沙汰しております、陛下。たくさんお世話になりながらキチンとご挨拶もせず、」
「ソフィアさん、いらっしゃい。そんなこと気にしないで。…ギデオン、殿、も、ようこそ…」
「お世話になります」
…英樹さんと啓一郎さんを私のケガで脅した悪魔のことをかなり恐れているらしく英樹さんはビクビクした感じだが、悪魔はどこ吹く風でしれっとしている。まったく…。
ボールドウィン伯爵も紹介し、応接室に通される。
「今夜から貴賓室にお泊まりください。一応、三部屋ご用意してますが、」
「わたくしはフィーと同室ですので、二部屋で構いません」
不敬悪魔の言葉に苦笑いした英樹さんは、「みんなを呼んで」と撫子さんに声をかけた。
「ソフィアさん、いらっしゃい!元気だった?」
「朝霧さん、こんにちは!…あれ?伽藍さんは?」
ニヤリとした朝霧さんの後ろから来た蘇芳さんが、
「ソフィアさん、こんにちは。朝霧はね、白虎州に移動したその日から伽藍を寝室から出さなかったみたいでね。早々に妊娠しちゃったの。まだ不安定だから、大事をとって今回はお留守番なんだよ。まったく、せっかくのお祝い事でわかってたことなのに」
「だって、ずっと我慢してたんだよ、僕。伽藍さんだって許してくれたもん。可愛い伽藍さんの話をしたら早く帰りたくなっちゃった。帰っていい?」
「駄目に決まってんだろ、阿呆」
後ろから朝霧さんを叩くのは羅刹さん。その隣にクスクス笑う芙蓉さんもいる。
「ソフィア様、伽藍様がお会いできず残念がっていましたわ。わたくしたちもお手紙でしかやり取りできていないのですが、機会があれば白虎州にも来て欲しいそうです」
みんな仲良さそうで何より…ほっこり嬉しくなる。
「ソフィアさん、いらっしゃい」
藤乃さんの手を繋いで現れた織部さんを見た悪魔はなぜか私の手を握った。離そうにもまったく離さない。なんなの。対抗意識なの。
「こんにちは、織部さん、藤乃さん。このたびはおめでとうございます。ええと、伽藍さんはいなくて残念なんだけど。実は皆様に贈り物がありまして」
私の言葉を聞いたボールドウィン伯爵が、紙袋を5つ応接室のテーブルに出してくれた。ボールドウィン伯爵家の家紋が押されている紙袋。せっかくなので、こういう包装紙などにもこだわって新たに作ってみてもらった。使うのは今日が初めてだ。
「これは、陛下と早苗さんに…ボールドウィン伯爵からです。あとは、私から皆さんに。良かったら、開けてみてください」
みんな一様に首を傾げながらも紙袋から包装された箱を取り出してくれた。
「…お姉さま、これは」
「指輪です。ソルマーレ国では、婚約者に贈ったり、結婚式の時にお互いの指に嵌めて愛を誓ったりするんです。撫子さんに協力してもらって、サイズは大丈夫だと思うんですが…一応、嵌めてみてもらえますか?」
旦那様方が揃って奥様の指に嵌めてくれた。朝霧さんは自業自得なのでひとり落ち込んでいたまえ。
「わあ…素敵ねえ。この石は、ダイヤモンドですか?」
早苗さんが目をキラキラさせながら英樹さんの指に着けている。
「そうです。私の領地ではダイヤモンドが産出できるため、それを活かしたアクセサリーを特産品のひとつにしています。陛下と奥様には、ダイヤモンドを五つずつちりばめてみました。皇帝陛下と、治める4州を模してみました」
「ありがとうございます。なんだか、今まで着けたこともないから落ち着かない感触ですが、目に入ると妻とお揃いのものを身につけているという嬉しさがありますね」
英樹さんは顔を綻ばせ、「でも、お高いのでしょう。こんな、」とキュッと眉をしかめた。
「それは、その…今後のジャポン皇国での販売権などについての交渉代として受け取っていただければ…イヤらしい話で申し訳ないんですが」
ボールドウィン伯爵の言葉を聞いて、英樹さんはニコリとし、
「いや、それなら是非にもお願いします」
「それは僕が交渉させていただきます」
割って入ってきた蘇芳さんに、
「兄上、ズルいですよ!」
「そうですよ、さっさと特別区なんて作ってしまって…」
「朱雀州からも移住者が出ています。独り占めはズルいです」
「僕のとこは、もう具体的に翡翠を使うって決めてるの。すぐに交渉に入れるの。事前準備した僕の勝ち。いや、アドバイスをくれた撫子のお陰だね、さすが撫子だ」
撫子さんを引き寄せチュッとする蘇芳さんのイチャイチャっぷりも健在だった。
港に着くと、撫子さんが出迎えてくれた。
「ありがとう、撫子さん、大丈夫だよ。ご心配おかけしました。こちら、ソルマーレ国の伯爵、ボールドウィンさんです」
ボールドウィン伯爵は一礼すると、
「ロイド・ボールドウィンと申します。玄武州知事の奥様にお出迎えいただけるとは、恐悦至極でございます」
さすが悪魔とは違う。当の悪魔はペコリ、としたのみだった。他国の皇族にまでこの態度。
「ご丁寧にありがとうございます。夫が、伯爵にお会いするのを楽しみにしておりまして…玄武州では、翡翠がとれるのですが、我が国はあまり装飾品が出回っていないのと、どのような形にするとより美しさを活かせるか知識がないので…是非にもお知恵を拝借したいと申しておりますの」
「私でお役にたてれば幸いです」
…特別区のことと言い、蘇芳さんて結構遣り手のビジネスマンなんだな。今までは朱雀州が税収も高くて当たり前、どうせ他の州の知事に選ばれたら皇帝にはなれない、という諦念から領地経営に力を入れない州知事ばかりだったみたいだけど、玄武州出身の妻・撫子さんのサポートで玄武州の特産品を活かした商品も開発して他州にバンバン売り込んでるみたいだし。
城に着くと、英樹さんと早苗さんが出迎えてくれ、懐かしさが込み上げる。
「ご無沙汰しております、陛下。たくさんお世話になりながらキチンとご挨拶もせず、」
「ソフィアさん、いらっしゃい。そんなこと気にしないで。…ギデオン、殿、も、ようこそ…」
「お世話になります」
…英樹さんと啓一郎さんを私のケガで脅した悪魔のことをかなり恐れているらしく英樹さんはビクビクした感じだが、悪魔はどこ吹く風でしれっとしている。まったく…。
ボールドウィン伯爵も紹介し、応接室に通される。
「今夜から貴賓室にお泊まりください。一応、三部屋ご用意してますが、」
「わたくしはフィーと同室ですので、二部屋で構いません」
不敬悪魔の言葉に苦笑いした英樹さんは、「みんなを呼んで」と撫子さんに声をかけた。
「ソフィアさん、いらっしゃい!元気だった?」
「朝霧さん、こんにちは!…あれ?伽藍さんは?」
ニヤリとした朝霧さんの後ろから来た蘇芳さんが、
「ソフィアさん、こんにちは。朝霧はね、白虎州に移動したその日から伽藍を寝室から出さなかったみたいでね。早々に妊娠しちゃったの。まだ不安定だから、大事をとって今回はお留守番なんだよ。まったく、せっかくのお祝い事でわかってたことなのに」
「だって、ずっと我慢してたんだよ、僕。伽藍さんだって許してくれたもん。可愛い伽藍さんの話をしたら早く帰りたくなっちゃった。帰っていい?」
「駄目に決まってんだろ、阿呆」
後ろから朝霧さんを叩くのは羅刹さん。その隣にクスクス笑う芙蓉さんもいる。
「ソフィア様、伽藍様がお会いできず残念がっていましたわ。わたくしたちもお手紙でしかやり取りできていないのですが、機会があれば白虎州にも来て欲しいそうです」
みんな仲良さそうで何より…ほっこり嬉しくなる。
「ソフィアさん、いらっしゃい」
藤乃さんの手を繋いで現れた織部さんを見た悪魔はなぜか私の手を握った。離そうにもまったく離さない。なんなの。対抗意識なの。
「こんにちは、織部さん、藤乃さん。このたびはおめでとうございます。ええと、伽藍さんはいなくて残念なんだけど。実は皆様に贈り物がありまして」
私の言葉を聞いたボールドウィン伯爵が、紙袋を5つ応接室のテーブルに出してくれた。ボールドウィン伯爵家の家紋が押されている紙袋。せっかくなので、こういう包装紙などにもこだわって新たに作ってみてもらった。使うのは今日が初めてだ。
「これは、陛下と早苗さんに…ボールドウィン伯爵からです。あとは、私から皆さんに。良かったら、開けてみてください」
みんな一様に首を傾げながらも紙袋から包装された箱を取り出してくれた。
「…お姉さま、これは」
「指輪です。ソルマーレ国では、婚約者に贈ったり、結婚式の時にお互いの指に嵌めて愛を誓ったりするんです。撫子さんに協力してもらって、サイズは大丈夫だと思うんですが…一応、嵌めてみてもらえますか?」
旦那様方が揃って奥様の指に嵌めてくれた。朝霧さんは自業自得なのでひとり落ち込んでいたまえ。
「わあ…素敵ねえ。この石は、ダイヤモンドですか?」
早苗さんが目をキラキラさせながら英樹さんの指に着けている。
「そうです。私の領地ではダイヤモンドが産出できるため、それを活かしたアクセサリーを特産品のひとつにしています。陛下と奥様には、ダイヤモンドを五つずつちりばめてみました。皇帝陛下と、治める4州を模してみました」
「ありがとうございます。なんだか、今まで着けたこともないから落ち着かない感触ですが、目に入ると妻とお揃いのものを身につけているという嬉しさがありますね」
英樹さんは顔を綻ばせ、「でも、お高いのでしょう。こんな、」とキュッと眉をしかめた。
「それは、その…今後のジャポン皇国での販売権などについての交渉代として受け取っていただければ…イヤらしい話で申し訳ないんですが」
ボールドウィン伯爵の言葉を聞いて、英樹さんはニコリとし、
「いや、それなら是非にもお願いします」
「それは僕が交渉させていただきます」
割って入ってきた蘇芳さんに、
「兄上、ズルいですよ!」
「そうですよ、さっさと特別区なんて作ってしまって…」
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