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指輪という愛の証を
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え…。
「ですから、ソフィア様が私に謝る必要はありません」
「いや、いくら離縁したからと言って、」
「ああ、そういう意味ではなくてですね…血縁関係が、ないのです」
「え!?」
ボールドウィン伯爵はイタズラっぽく笑うと、
「私の元妻は、子爵家の娘だったのですが、まあ、身持ちの悪い女でして。ライラのように男と遊び歩くのが常だったのです。私は興味もなかったのですが、あちらからすると我が領地は魅力的だったのでしょうね。何しろ大好きな宝石が出ますから。ある日の夜会で給仕を買収し、私に渡す飲み物に睡眠薬を入れさせ空き部屋に連れ込み、いかにも一晩過ごしたように細工をして、数ヵ月後に『妊娠したから結婚しろ』とやってきたのです」
「…え」
「ふふ、驚きますでしょう。この女は何を言っているのかと思いましたが、まあ誰の子どもでも跡取りができるならいいかと思いましてね。それで結婚することにしたのです」
穏やかに笑いながら言う内容ではないような…。
「ええと…そもそも、なんですけど。なぜ未遂だとわかったのですか、その、していないと」
「私は、女性相手には勃たないのです」
…勃たない。勃たない!?
「私は、どうも幼い時より男性にしか興味がなくて。家を継ぐことも決まってしまいどうしようか困りきっていたので。でもやはり、そのような気持ちで決めてはいけませんでしたね。出てきた赤ん坊は、私にも妻にも見当たらない色味で、私の父母は怒り狂いましてね。元妻にもですが、私にも浮気されるようなへたれ男に領地は継がせられんと、もうひとり子どもを作りまして。素晴らしい情熱です」
「…はあ、」
「その弟が成人するまでは私が領地を経営することになりまして。ソフィア様のおかげで、我が領のアクセサリーが新たな販路を拡大できるかもしれず、弟にも良い状態で引き継げそうです。ありがたいことです」
「あの、弟さんに家督を渡したあとはどうされるつもりなのですか」
「…私はね、ソフィア様。先ほど言ったように、男性が好きなんです。でも今までそれはずっと我慢してきました。伯爵家の名を汚すわけにはいきませんし、それは仕方ないと。でも、2ヶ月前の宰相閣下のお話を聞いて、羨ましくて…私も、恋愛がしたくなったのです。だから、この国を出ようと思っております。伯爵家の名前も捨てて、ひとりの男として今後は生きていこうかと。幸い弟もまもなく成人ですし、婚約者もおりますし」
そうなんだ…まさか宰相様とスティーブさんのことまで知っていたとは…。
「ええと…ボールドウィン伯爵、それでしたら、今回行くジャポン皇国もその候補地に挙げてもいいかと思います。新しく、というか…今、この国に恋人はいらっしゃらなくて、これから恋人をお探しになるんですよね」
「さようですが…」
私がソルマーレ国に帰ってきた1ヶ月後佐々木さんから手紙が送られてきたのだが、私という自分の性癖を吐き出せる相手が急にいなくなりストレスが溜まった彼は、自分がゲイであることを蘇芳さんに告白したらしい。なぜ蘇芳さんだったのか。理由は単純、「ご長男が一番そういうことに耐性がありそうだから」と。何か匂いでもするのか、その嗅ぎ付けた匂いは確かだったらしく。
「だったら、玄武州に同性同士が恋愛のきっかけを掴めたり、まあ、割りきった性交を楽しめるような場所を作ろうよ」
と言ったそうだ。
あの上総を男娼にする、という州の知事だからなのか、「まあ聞いてみると男性が好き、女性が好き、って同性に惹かれる方々もいるからねえ。何よりそういう目玉を作れば、玄武州に遊びに来たり、それこそ定住してくれる人間がいるかもしれないし。佐々木、ありがとう。新規事業として貴方に任せます」
そんなわけで佐々木さんも玄武州に共に行き、日本で言えば新宿二丁目みたいなエリアを作っているそうだ。始まったばかりだけど何軒か出会うためのバーが開店し、お客さんもちらほら集まりつつあるらしい。
当の佐々木さんは「忙しすぎてまだ相手を見つけられないことが唯一の悩み」だが、やりがいがあって楽しい、と先日来た手紙に書いてあった。
ちなみにその新区画は蘇芳さんがさっさと「玄武州のみの特別区」と英樹さんに承認させたらしく、佐々木さんは他の3州知事から「なぜ俺に(僕に)相談しなかった!」とかなりしつこくなじられたと嘆いていた。ご愁傷様です…。
そんなことを話すと、ボールドウィン伯爵は「そんな場所が…」と少し困惑気味に呟いた。
「まあ、一番の目的は結婚式出席、プラス販路拡大のための商談だと思いますけど、私も骨折で行けなかった玄武州にお邪魔するつもりなので、良かったら一緒に行きませんか?宿なんかも整備されているらしいですから、その…ワンナイトラブなんかも可能かもしれないです」
「ワンナイトラブ、ですか?」
「ええと、一晩だけと割り切ったセックスとか」
私の言葉を聞いたボールドウィン伯爵は顔を真っ赤にすると、
「ソフィア様、あまりにも直接的すぎます」
と小さく呟いた。すみません…。
「ですから、ソフィア様が私に謝る必要はありません」
「いや、いくら離縁したからと言って、」
「ああ、そういう意味ではなくてですね…血縁関係が、ないのです」
「え!?」
ボールドウィン伯爵はイタズラっぽく笑うと、
「私の元妻は、子爵家の娘だったのですが、まあ、身持ちの悪い女でして。ライラのように男と遊び歩くのが常だったのです。私は興味もなかったのですが、あちらからすると我が領地は魅力的だったのでしょうね。何しろ大好きな宝石が出ますから。ある日の夜会で給仕を買収し、私に渡す飲み物に睡眠薬を入れさせ空き部屋に連れ込み、いかにも一晩過ごしたように細工をして、数ヵ月後に『妊娠したから結婚しろ』とやってきたのです」
「…え」
「ふふ、驚きますでしょう。この女は何を言っているのかと思いましたが、まあ誰の子どもでも跡取りができるならいいかと思いましてね。それで結婚することにしたのです」
穏やかに笑いながら言う内容ではないような…。
「ええと…そもそも、なんですけど。なぜ未遂だとわかったのですか、その、していないと」
「私は、女性相手には勃たないのです」
…勃たない。勃たない!?
「私は、どうも幼い時より男性にしか興味がなくて。家を継ぐことも決まってしまいどうしようか困りきっていたので。でもやはり、そのような気持ちで決めてはいけませんでしたね。出てきた赤ん坊は、私にも妻にも見当たらない色味で、私の父母は怒り狂いましてね。元妻にもですが、私にも浮気されるようなへたれ男に領地は継がせられんと、もうひとり子どもを作りまして。素晴らしい情熱です」
「…はあ、」
「その弟が成人するまでは私が領地を経営することになりまして。ソフィア様のおかげで、我が領のアクセサリーが新たな販路を拡大できるかもしれず、弟にも良い状態で引き継げそうです。ありがたいことです」
「あの、弟さんに家督を渡したあとはどうされるつもりなのですか」
「…私はね、ソフィア様。先ほど言ったように、男性が好きなんです。でも今までそれはずっと我慢してきました。伯爵家の名を汚すわけにはいきませんし、それは仕方ないと。でも、2ヶ月前の宰相閣下のお話を聞いて、羨ましくて…私も、恋愛がしたくなったのです。だから、この国を出ようと思っております。伯爵家の名前も捨てて、ひとりの男として今後は生きていこうかと。幸い弟もまもなく成人ですし、婚約者もおりますし」
そうなんだ…まさか宰相様とスティーブさんのことまで知っていたとは…。
「ええと…ボールドウィン伯爵、それでしたら、今回行くジャポン皇国もその候補地に挙げてもいいかと思います。新しく、というか…今、この国に恋人はいらっしゃらなくて、これから恋人をお探しになるんですよね」
「さようですが…」
私がソルマーレ国に帰ってきた1ヶ月後佐々木さんから手紙が送られてきたのだが、私という自分の性癖を吐き出せる相手が急にいなくなりストレスが溜まった彼は、自分がゲイであることを蘇芳さんに告白したらしい。なぜ蘇芳さんだったのか。理由は単純、「ご長男が一番そういうことに耐性がありそうだから」と。何か匂いでもするのか、その嗅ぎ付けた匂いは確かだったらしく。
「だったら、玄武州に同性同士が恋愛のきっかけを掴めたり、まあ、割りきった性交を楽しめるような場所を作ろうよ」
と言ったそうだ。
あの上総を男娼にする、という州の知事だからなのか、「まあ聞いてみると男性が好き、女性が好き、って同性に惹かれる方々もいるからねえ。何よりそういう目玉を作れば、玄武州に遊びに来たり、それこそ定住してくれる人間がいるかもしれないし。佐々木、ありがとう。新規事業として貴方に任せます」
そんなわけで佐々木さんも玄武州に共に行き、日本で言えば新宿二丁目みたいなエリアを作っているそうだ。始まったばかりだけど何軒か出会うためのバーが開店し、お客さんもちらほら集まりつつあるらしい。
当の佐々木さんは「忙しすぎてまだ相手を見つけられないことが唯一の悩み」だが、やりがいがあって楽しい、と先日来た手紙に書いてあった。
ちなみにその新区画は蘇芳さんがさっさと「玄武州のみの特別区」と英樹さんに承認させたらしく、佐々木さんは他の3州知事から「なぜ俺に(僕に)相談しなかった!」とかなりしつこくなじられたと嘆いていた。ご愁傷様です…。
そんなことを話すと、ボールドウィン伯爵は「そんな場所が…」と少し困惑気味に呟いた。
「まあ、一番の目的は結婚式出席、プラス販路拡大のための商談だと思いますけど、私も骨折で行けなかった玄武州にお邪魔するつもりなので、良かったら一緒に行きませんか?宿なんかも整備されているらしいですから、その…ワンナイトラブなんかも可能かもしれないです」
「ワンナイトラブ、ですか?」
「ええと、一晩だけと割り切ったセックスとか」
私の言葉を聞いたボールドウィン伯爵は顔を真っ赤にすると、
「ソフィア様、あまりにも直接的すぎます」
と小さく呟いた。すみません…。
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