お飾り王太子妃になりました~三年後に離縁だそうです

蜜柑マル

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指輪という愛の証を

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皇太子がミューズを市井に追放してから2ヶ月。彼女の行方はわからなくなってしまったらしい。

「ミューズ…大丈夫かな…」

私の呟きを拾ったアネットさんは、じっとこちらを見ると、「大丈夫ですよ」と言った。

「…そうかな」

「ええ、大丈夫ですよ、ソフィア様」

なんとはない罪悪感に押し潰されそうになっている私をなんとか慰めようとしてくれているのだろうか。心配をかけて申し訳ない。ただ、毎日鬱々とする気持ちはどうしようもなかった。あんな腐れ皇太子のために、落ち込んでいるのはバカらしい。だけど、どうしようもなく気分が沈む。

痛い思いや、ツラい思いをせずに生活してくれていればいいな…。

はー、とため息が思わず出た私を見て、アネットさんは

「そういえばソフィア様。ボールドウィン伯爵とのお話は進んでいるのですか」

と話題を変えてきた。力業だけど、ありがたい。

「うん、まあ…なんか、まだうまくいったわけでもなんでもないのに、ボールドウィン伯爵の私への感謝感激雨霰!みたいなのがすごくて…。それが怖い。うまくいかなかったら、私、張りつけとかにされちゃうのかな。それとも馬で引き摺りの刑かな。どうしよう」

「なぜご自分を処刑させようとしているのかわかりませんが…。陛下は、ボールドウィン伯爵がいたく喜んでいたと仰ってましたよ。いいですか、ソフィア様。今まで指輪をつけるという習慣がないジャポン皇国で、確かにすぐに受け入れられるかはわかりません。ですが、新しい物を好む方々もたくさんいるんですよ。まったくのゼロから始まり、マイナスになることはないのです。別に大成功だ、なんてならなくていいじゃないですか。そもそも、お飾り皇太子妃に誰も期待なんてしてないんですから。言葉が悪いですが、自惚れが強いと言われてもおかしくないですよ、そんなに気負ってると」

そっけなさすぎるくらいにそっけなく、しかし、その言葉がスッと胸に染みた。

「…ありがとうございます。アネットさん」

そうだよな。私が、自分の離縁のために何か実績を作れれば、って考えたことで、いつの間にかチンピラには離縁を認められてたし…私の、ジャポン皇国の皆様への贈り物として考えればいい。

ボールドウィン伯爵の領地では採掘したダイヤモンドを加工し指輪やネックレスを作っていて、数は多くないもののルビーやサファイア、エメラルド、アメジスト等を一緒にちりばめている指輪もある。

手紙で撫子さんにだけ事情を話して、新知事夫妻…織部さんと藤乃さんはまだ夫婦にはなっていないけど、その4組の左手薬指のサイズを測ってもらい、織部さんの結婚式の時にプレゼントすることにした。普段の生活でつけてほしいので、ダイヤモンドが埋め込まれた形のデザインにしてもらい、知事夫婦ごとにペアで埋め込む宝石の色を変えてみた。

気に入ってもらえるといいな。

午後から離宮に来たボールドウィン伯爵は、チンピラにお願いして自分も織部さんの結婚式に参加させてもらうことにしたと言った。

「ソフィア様にせっかくアイディアをいただいたのです。売り込むのはぜひ私にやらせてください。あちらの皇帝陛下ご夫妻には、私が自費で指輪を献上させていただきます」

ニコニコしながら言うボールドウィン伯爵は、あの離縁誓約書の調印式の時に見た険しさがなくなってきている。しかしながら、

「ボールドウィン伯爵、あの、娘さんのこと、」

「ソフィア様。何度も申し上げていますが、今回のことにソフィア様はなんの関係もないのです。謝られても困りますからやめてください」

「でも…」

知らず項垂れてしまう。

「ソフィア様」

呼ばれて顔を上げると、真っ直ぐにこちらを見るボールドウィン伯爵と目が合った。

「たぶん貴女は、お優しいのでしょうね。でもそれは、同時に貴女の欠点でもある」

「欠点、」

「ええ。貴女は皇太子妃でいらっしゃる。しかしながら国民全員の意見に耳を傾け、誰もが不満のない国を作れるとお考えですか?貧しさに喘ぐ人間がひとりもいない国を作ることができるとお思いですか?それは確かに理想でしょう。しかし、ソフィア様。不満がないことが不満だと思う人間もいるのですよ。どれだけ自分が恵まれているのか自覚もできず、足りない足りないと足りないことばかりを連ねて文句ばかり言う人間もいるのです。大義のためには、小事には目を瞑らなくてはならないこともあるのです」

「はあ…」

でも私、離縁したら皇太子妃じゃなくなるんだけど…。

「何を申し上げたいか、たぶん今はご理解いただけないと思います。ただ、優しさだけでは国は成り立たないのです。ソフィア様、私の秘密をお教えします」

「お断りします」

なんで私に自分の秘密とやらを告白しようとするのか。変態近衛の秘密だけで腹がいっぱいなのだ。

しかしボールドウィン伯爵は私の食いぎみに答えた言葉を無視して爆弾を破裂させた。

「皇太子殿下が追放したライラは、私の娘ではないのです」

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